さて、ここは弁慶たちが通う学校である。
「真尋さん、生徒会に相談しても、紅葉先輩からして当惑してましたよ」
「さすがに無理がある相談だからなあ。生徒会長にも連絡してみるとは言ってたけど……」
「……ここの生徒会長って、誰なのかな」
「さあ」
ここの生徒会長が誰なのかは、弁慶の本名同様の謎であった。
そこへ、美沙が〜正しくは、美沙の体を借りているメビウス星人が〜現れる。
「おはようございますですよ」
「おはよう、てか、人格交換銃の充電は終わったですか」
「まだですよ。何か作戦は考えてもらえましたか」
「何も思いつかないから考え中。けど、地球のどこの誰が反体制派か分からないのに、ニャル子の周りだけ
探したってどうにもならないだろ、一人で探せる範囲には限界があるぞ。
70億の針って世界じゃないのか？」
「あ、それなら心配ないです。絶対にニャル子さんたちのそばの誰かに決まってますから」
お気楽に答える。
「なんで？」
「地球制圧の準備が整い次第、反体制派はニャル子さんたちの誰かの体を乗っ取るために
人格交換銃を持って襲いかかってくるはずだからですよ」
「え？」
「地球は、幻夢界の神によって守られてるんです。幻夢界の神を倒す力はメビウス星人にはありません」
「なら、ほっといても大丈夫じゃないか」
「ですが、ニャル子さんたち邪神の力を持ってすれば、……幻夢界の神などひとたまりもありませんからね。
邪神の力を手に入れるために、人格交換銃を使うわけですよ」
「なるほど……それで、ニャル子のそばの誰かに化けてるってわけか」
「そういうことです。逆に言えば、準備が整う前に先手を打って正体を暴きさえすれば我々の勝ちですよ」
「それなら、ニャル子たちは隠れてたほうがいいんじゃないのか？」
「隠れてて、不意を打たれたらどうするんですか、堂々と前に出てた方が不意打ちを受けなくていいですよ」
「そんなもんかなあ……まあいいや、とりあえず授業が始まるから教室に行こう」
そういうわけで、教室に向かう。
一時間目が終わった後、紅葉のいる教室に現れたのはB.S.Eである。
「姫様、御館様にに指示されたポスターの掲示が終わったでゴザる。
ところで･･･問題の宇宙人でゴザるが、捕まえて･･･皮膚が爛れ、内臓が腐れるほど劣悪な地下の地下の強制労働所に収容して、
宇宙人としての一生に終止符を打ってやるのでござるか？
それならば覇道印のワインを用意してくるでゴザるが。」
「メビウス星人は純粋な精神体なので、皮膚も内臓もないと聞いております。
存在しないのですから、皮膚も内臓もただれないのではないでしょうか」
ピントのずれた会話であった。
さて、御館様こと、生徒会長から指示されたポスターの内容はといえば……
メビウス星人語で「今週の目標 挨拶は相手の名前をしっかり呼んで「好きだ」と叫びましょう。」
である。
これが学内すべての掲示板に貼ってあるのだ。
張り紙を見た無月はため息をつきそして自身が書いた絵馬を思い出す
-今年こそ卒業できるようにby無月-
「……今年も卒業は無理そうだな」
そうつぶやく。
やがて昼休憩がやってくる。
「そういえばお弁当を忘れたですよ」
そう言ってるのは美沙の姿をしたメビウス星人である。
「僕のを分けてやるよ」
そう言っているのはニャル子の姿をした真尋である。
「ああ、真尋さん、それなら私にも分けてください〜」
「ニャル子には僕が作ったお弁当がすでにあるだろ」
「そうだけど真尋さんのお弁当がほしいです〜」
「わけわかんないこというな」
「ううぅ……」
「うう、おいしいです。こんなおいしいものがある世界が破壊されるなんて許せないですよ」
「許せないと思うんなら、反体制派を見つける方法を早く考えてくれよ」
「考えようとは思うんですけどね。何にも思いつかないんですよ。メビウス星人語で張り紙したって、引っかかるとは思えないですしね」
「けど、あれが唯一のアイディアだろ、ほかになにか考えつかない限り……」
「メビウス美沙……バルタン星人の移住先って無事見つかったのか？」
ふらりと立ち寄った無月が美沙に声をかける。
「見つかった未来もあるし、見つからなかった未来もあるですよ。地球にちょっかいを出すとネガティブな未来の確率が高いですけど
未来は常に揺らぎの中ですよ」
「それって当たるも八卦と何がちがうんだよ」
「どれも実在する未来ですよ。不確定な波として存在するですよ。観測によって波動が収束するですよ」
「わけわからん」
ぶつぶつぶつぶつ……
「ニャル子、なにつぶやいてるんだ？」
「な、なんでもないですよ真尋さん」
「いや、その顔はなんか企んでる顔だろ」
「や、やだなあ、気のせいですよ真尋さんってば」
「本当にそうか？」
「ほんとほんと。インド人嘘つかない」
「インディアンだろ、ネイティブアメリカン」
「まあ、そうともいいますけど」
「そうとしか言わないってば」
「インド人を右へ」
「それはハンドル。てかごまかそうったって……」
「真尋さん、早く食べないと昼休憩が終わってしまうですよ」
「ニャル子、目が泳いでるだろ」
「そんなことないですってばぁ。真尋さんってば疑い深いんだから」
「日頃の行いが行いだろ、ニャル子は」
「そんなに日頃の行い悪くないですってば」
「どうだか……」
「もう、真尋さんってばあ」
そんなこんなで昼休憩も終わる。
そして、5時間目と6時間目の間の休憩時間。
「ニャル子の奴、どこへ消えた？ 休憩時間になったとたんに廊下に飛び出していったけど……」
そう言って、自分も廊下へ飛び出したのはニャル子の姿をした真尋である。
すると、すぐに京介に呼び止められる。
「そういえば、さっき廊下で真尋君が『僕はニャル子が大好きだー』って叫んでいたけど何かあったの？」
「え、そうなの、別に何もないけど……」
お、落ち着け、今は僕はニャル子だ、ニャル子なんだから……。
「どこで真尋さんを見ました？」
京介は黙って指さす。
そっちに向かって真尋は走る。
走って行った先にいたのは、無月と会長は会長でもサバゲー同好会の会長だった。
「ん？あれは会長か？」
「にゃーん」
「！！！？」
「会長がネコ化？」
「なんてな、からかってみただけだよ。けしからん、実にけしからんぞ八坂真尋。
やはり地球の文化は丸ごとメビウス星人がコントロールしなければならないのだ」
「いきなり正体ばらしてるじゃないか！」
「ふっ。この千載一遇のチャンス逃してなるものか、くらえ人格交換銃！」
「そうはいかないですよ。人格交換銃ジャマー」
「なにっ。貴様、人格交換銃ジャマーを使えるとは、メビウス星人だなっ」
「その通り、反体制派メビウス星人、おびき出されたわねっ。
ニャルラトホテプ星人が単体でいると思えばのこのこと人格交換銃を持って出てくると思ったわよ」
「ちっ。……だが、人格交換銃ジャマーキャンセラーを用意しておいたのだよ。これで私の勝ちだ」
「甘いわね、人格交換銃ジャマーキャンセラーキラーがあるのよ」
「なんの、人格交換銃ジャマーキャンセラーキラーバスターがある、これで勝負ありだ」
「人格交換銃ジャマーキャンセラーキラーバスターイレイザー発動」
「子供の口げんかかよ……」
「ええい、人格交換銃ジャマーキャンセラーキラーバスターイレイ……」
「こんなもの、物理的に破壊してしまえばいい……」
「クー子！」
「大丈夫？ 真尋くん」
「ハス太」
「背後に逃げようったってそうは行かないですよ」
「ニャル子」
「つまり、囲まれたというわけだな」
「そういうこと。おとなしく降参すればよし、さもなくば……」
「……ふふふふふふ、はーはっはっはっは」
「何がおかしい」
「まだ私には切り札が残っているのだよ」
「この状況で何が切り札ですか」
「こんな事もあろうかと、密かにパワードスーツを開発しておいたのだよ。パワードスーツ装着」
「パワードスーツを装着しても所詮は会長……」
クー子が射撃を加えるが、会長は華麗にかわす。
「なっ」
「無駄無駄無駄無駄〜」
「クー子、危ないっ！」
「少年っ！」
バールのようなものでニャルこの体をした真尋が会長のからをした反体制派のメビウス星人を食い止める。
「さすがニャル子の体だぜ。全然切れがちがう」
「真尋さん」
「ニャル子、すまんな。勝手に使わせてもらって」
「いいんです、真尋さんなら……思い切りぶん殴ってやってください」
「行くぜ会長！」
「慣れない体でうまくいくと思うなっ！」
「その分は私がカバーする。ニャル子には指一本ふれさせない」
「真尋くんは僕が守るっ！」
どう評価するべきだろうか。パワードスーツ相手に3人がかりで五分の戦いを繰り広げている。
邪神3人相手に五分の会長を褒めるべきなのか、パワードスーツ装着の会長相手に五分の3人を褒めるべきなのか。
だが……。
「夢想の一矢」
「滅殺！ 神風陣」
「竜樹萌芽！」
「一騎刀千！」
「神舞！ まほろば」
「九尾の狐！
「千成猫箪！」
「盛者必衰！
「滅私斧撃！」
「きゅ、九人がかりとは卑怯すぎるだろ……ぱったり」
「間に合ったみたいだね」
「あ、部長に先輩たち……ありがとうございます」
「遅くなってすまなかった、けど、なんとか間に合ったのかな」
「申し訳ありません。もっと早くこれれば、ここまで苦労させずにすみましたけど」
「ご協力ありがとうございます、あとは、人格交換銃でニャル子さんたちを元に戻してから、会長さんと私は
いったんメビウス星に戻って、それからちゃんと人格を戻して帰ってくるですよ」
「名残おしいけど、仕事が終わったんなら仕方ないか。じゃあね」
「はい、では、みなさんお元気で」
こうして、ニャル子と真尋の人格は元に戻り、会長と美沙はメビウス星に向かったのであった。
翌日から、元の日常が戻ってきた……
「なあ、八坂くん。ニャル子に告白したって本当か？」
「ちょっとまて、一体どこからそんな噂が流れてるんだよ」
「いや、学校中に触れて回ったって聞いたんだけど」
「あれはその……どう言っていいか……」
八坂真尋の平穏な日常は、遠いようである。