ここは、京介がアルバイトしている晶の喫茶店である。

「あ、あの……ご注文は……」
「ん、チョコレートパフェ。当然そっちが誘ってきたんだからそっちのおごりだろ」
「それでかまわないよ。晶ちゃん、バイト代からひいといてね」
「わかった。それで、マミさんは？」
「私はケーキセットを、紅茶でお願いするわ」
「コーヒーを、ブラックでお願いします」
「えと、あたしはプリン・ア・ラ・モード」
「じゃあ、私はチョコレートサンデー」
「わかった」

厨房から晶の声が響く、結の注文聞きがあまり役に立ってない。
だがまあともかく、料理が出てくるまでの間、会話といっても
普通に女の子の会話、ではなく、すぐに本題である。

「それで、あたしの提案は受け入れてくれる気になったかい。
　あたしも話のわからない奴ってわけじゃないつもりなんだ。
　ただ、グリーフシードなしってんじゃ、魔法少女やってくわけに
　いかないからさ。狩り場を少し分けてもらえないかな〜ってね」
「それなんだけど、佐倉さん。やっぱり、あなたの提案は受けられないわ。
　使い魔も狩らないと、一般の人も危険に巻き込まれてしまうのよ」
「だからって、グリーフシードがなくなっちまったら、あたしらが
　ひあがっちまうんだぜ。グリーフシードがなくなって、魔法が
　ソウルジェムが濁りきったら、魔法少女廃業じゃねえか。
　そうなったら、誰を守るっていうんだよ。大の虫を生かすって
　言葉もあるじゃねぇか。魔法少女は魔女だけ狩ってればいいんだよ。
　そういう風にできてんのさ、世の中は」
「でも、それじゃ、次に犠牲になるのは杏子の家族かもしれないじゃない。
　杏子はそれでも平気なの」
「……家族は、しんだよ。とっくの昔に」
「……悪いこと、言っちゃったかな」
「いいよ、あんたが殺した訳じゃない」
「ごめん」
「いいっていってんだろ。ともかくさ、弱い奴、運の悪い奴は使い魔にくわれちまう。
　仕方ないんだよそれは。あたしらにできることは、グリーフシードを持ってる
　魔女を狩ることだけなんだから、それで満足しなきゃだめだろ。
　それ以上のことは、神様にでも任せておくしかないんだよ」
「だけど、効率よく狩っていけば、使い魔を退治してもグリーフシードが
　不足することはないはずよ。現に私たちはグリーフシードはかつかつでも
　回していけているわ」
「あたしんところは不足したぜ。ここが良好な狩り場だからいえることだってだけだ。
　それもいつまで続くかわかったもんじゃねぇ。悪いことはいわねえ。
　あたしの言うことを聞いた方がいいぜ、あたしは経験からいってんだ。
　狩尽くしてからじゃ、遅いんだぜ」
「はい、お待たせ、ブラックコーヒーに、ケーキセット、チョコレートサンデーに
　チョコレートパフェに、プリン・ア・ラ・モードでよかったよね」
「ありがと」
「ありがとう」
「いただきます」
「ありがとね」
「ありがとう」
「あれ、ボクのは」

ここまで、沈黙を守っていたキュゥべえが初めて口を開く。

「キュゥべえは注文してなかったじゃない」
「私のを分けて上げる、はい」
「ありがとう、まどか」
「ところで、担当地区の魔女を狩りつくしたら仕事が終わりじゃないんだね。
　でも。それじゃあいつ契約満了になるのキュウちゃん？
　次の魔女が現れるまでその街で待機しているというのはダメなの？」
「もちろん、終わりじゃないよ。だけど、魔女はいつ現れるかわからないし
　ソウルジェムは普通に生活しても濁ってくる。
　定期的に魔女を狩ってグリーフシードを手に入れないといけないんだ。
　だからこそ、魔法少女は魔女と戦う義務を課せられる、って言うんだけどね」
「そうだよ。だから狩尽くしたら新しい狩り場が必要になる。
　今良好な狩り場なここだからこそ、狩尽くす前に狩尽くさない知恵が
　必要だって言ってるんじゃないか」
「狩り場って……ソウルジェムって、人間の命から生まれてくるのよ」
「仕方ないじゃん。魔法少女はそうやって生きてるんだからさ」

そのとき、無月は独り言をつぶやきながら喫茶店に入ってきた。

「考えてみたら妖魔やら会長やら管理局に魔法少女と……ここの土地は何かに呪われてるんだろうか？」
「個人的に一般人に被害を出したくないがな」

からんからん。

「……いらっしゃい……ませ……」

この喫茶店はそう広くない。
目当ての人だかりはすぐに見つかった。

「……あの……無月さん……ご注文は？……」

氷水を差し出しながら結が注文を聞く。

無月は水だけでいい、と結に返す。

「魔女の出現場所については楓や観月に占って貰え……あの二人の占いの的中率は高いぞ」
「出現場所は、特に問題はないんだよ。問題なのは出現数なんだからさ」
「そうね。だけど、正確なポイントがわかるのは助かるわね」
「……え、えと……キュゥべえ……さん……」
「なんだい、ほむら」
「魔女を世界中で、すべて、狩尽くされたら……その……魔法少女って……どうなるんでしょう……」
「そんなことはあり得ないよ、世界中の魔女が狩尽くされるなんてことはね」
「あり得ない……ですか……」
「じゃあ、杏子さんの狩り場も一時的に魔女が枯渇してるだけで、またすぐに魔女がわくってこと？」
「たぶん、そうなるだろうね。だけど、今あけてたら、ほかの魔法少女が空白を埋めるんじゃないかな」
「なら、問題ないわね。使い魔を狩る私たちのやり方でも、きっと」
「だけど、十分なグリーフシードがあつまんなきゃ、あたしらが魔法少女やっていけなくなるんだぞ、おい」
「それは、きっとなんとかできるわ。あなたのための狩り場はまた調整しましょう」
「……きっと後悔するからな。……けど、狩り場のための話し合いにはのっとく」

こうして、杏子は、不満足ながら魔法少女グループの一員になった。
この小さな魔法少女グループの敵は、決して小さくはなかったのだが、それはまた別の話。