【リアクション５５】１０１匹トナカイ大作戦
クリスマス・イヴの前日は天皇誕生日でお休みである。
学校はお休みだが、みねあ達はクリスマス・イヴの準備で忙しい。
そんな中、修吾はみねあと打ち合わせをしていた。
「あ、みねあさんちょっと良いかな？」
「ん？ なんかあるん、べつにいいけど」
「実は、ちょっと試したいことが有るんだけど良いかな」
「面白いことか？ 面白い仕掛けなら一口のるで」
ある意味面白い仕掛けであったが、それがどんな仕掛けなのか、わかるのは翌日であった。
同じ頃、B.S.Eもまた、クリスマスイベントに向けて準備を整えつつあった。
「クリスマスパーティの時にコオル殿が狙われているという噂があるでゴザル。
そこで、お館様の命により、コオル殿を護衛する事になったでゴザル。
まずは、身の安全を図る為の装束と影武者を用意したでゴザル。いそいでこちらに着替えられよ。」
「身の安全って、僕が襲われるおぼえなんてないんだけどなぁ」
「あ、コオルは知らなくても無理ないか。毎年、クリスマスには、サバゲー同好会の
会長が妨害イベントを用意してるんだよ」
「なんでまた……」
「理由はわからないわね。ただ、毎年のイベントだから、みんな慣れてるみたい」
「今年は、アスレイが会長と組んでるという噂を聞いた、油断は危険」
「アスレイが？ なにを始めるんだろ、アスレイ」
「え、えと……あの……別に……何か……悪いことでも……ないんじゃ……ない……かと……」
「結は甘過ぎ、アスレイと組んでるなら、何か魔法でよからぬことを企んでるはず」
「魔法で企んでるっていっても、何を始めるかまではわかったものじゃないよ」
「なんにせよ、用心するに越したことはない」
結局、B.S.Eの提案を受け入れることにしたコオル達であった。
さて、B.S.Eが用意した対策とは何かというと……
狐耳と巫女風の着物やカツラなどの女装セットをB.S.Eは取り出した。
「来年の流行は狐耳の巫女でゴザル（◯木県足◯市調査（嘘))
コオル殿は新たな召喚少女として、まどか殿達と一緒に行動するでゴザル。
そうすれば、守りも完璧でゴザル。名付けでNBC（Nice Boat Christmas）計画でゴザル。」
「何かやばそうな名前……」
「お……お姉ちゃん……別に……悪気は……なさそうですから……」
「あ、面白そう、着付けはボクに任せて」
「うふふ〜それをやるのはおねえさんの役目よ〜」
「それ以前に、コオルを召喚少女に仕立てたら、誰がコオルの影武者になるの？」
それは確かに重大な問題であった。
が、それについても、心当たりがあると断言するB.S.E。
それが誰であるかは、当日明らかになる。
というわけで、クリスマス・イヴのイベント当日である。
すでに、伝説の木の準備も、体育館でのイベントの準備も終了していて
あとはクリスマス・イヴを楽しむ生徒達、そして教師達を待つばかりとなっていた。
そして、今日を生き甲斐にしている、あの会長も、作戦の最後の仕上げを準備している最中だった。
「――！？クリスマスに会長がアスレイと行動を一緒にしてるだと！？」
無月は見た、ありえない何かを。
「馬鹿な……世界が滅びると言うのか！？」
同じ情景を、勇姫も見ていた。
「そんな！？会長さんが女の人と親しそうに話してるなんて」
親しそうかどうかは別として、友好的な会話であることは間違いなさそうだった。
「もしかして今年はブラッククリスマス？」
二人の懸念も、ある意味正しいといえた。
あの会長に限って、クリスマスを楽しくしようなどと考えているはずはないのだから。
「寒い夜空を舞台に今年もやって来ました聖なる夜」
とまあ、そんな懸念を抱きつつも、勇姫はいつもの勇姫であった。
「クリスマスパーティーの始まりです！恋人が居る人も居ない人も楽しみましょう！」
「ふっふっふ、恋人のいない人も、今夜はすばらしく楽しめる一日になるのだよ」
「会長、アスレイと組んで一体なにを始めるつもりなんです？」
「いや、なに、クリスマス・イブを楽しくする趣向を凝らしてみただけだよ」
「そういえば、今年はサンタクロースの扮装なんですね。何を企んですか」
「なにさゆりくん。私もクリスマスを楽しむことにしただけだよ。
……ああ、独り身のさゆりくんにはプレゼントはいいな」
「……またカップル相手によからぬことを考えてるんですね……」
「まあ、カップルには、私からささやかな贈り物をしようと思ってるだけだ」
「どうせろくでもない贈り物なんでしょう」
「はっはっは」
「図星なんですね」
会長も、いつもの会長であるらしかった。
もっとも、一体どこのどんなカップルが、あの会長からのプレゼントを受け取るというのだろうか。
案の定、まったく相手にされてない会長であった。
いや、カップルではない誰かは、ちゃんと反応しているみたいであった。
「え、えと……ありがとう」
「キミ、それ、受け取って大丈夫なの？」
「べつに害はないみたいだよ」
「害がなくても、あの会長の贈り物なんてあやしいに決まってるし」
「そんな、人を差別するのはよくないんじゃないかな」
狐耳の召喚少女と、まどかが言い争いをしてるうちにも、会長は別のカップルを目指して
去っていった。
そんな会長に声を掛けたのは、女の子達からプレゼント攻めにされてる無月である。
「会長何やってるんだ？」
「カップルの為にプレゼントを配っているのだよ」
「嘘だ」
「嘘ではない、ちゃんとしたポプリのプレゼントをしているだけじゃないか」
確かに、ポプリには間違いなさそうであった。
害もなさそうである。
無月は、怪しいとは思いながらも、つっこむ余地がなかった。
さて、宴たけなわな時間を見計らって、校庭に魔法陣を描いているのはアスレイである。
「さて、イベントの準備は整いましたわ。あとは会長さんに頼まれたとおりに……？」
おかしい、集まるはずの魔力が魔法陣に集まってこない。
「残念だったね。みねあさんに手伝ってもらってこの会場に魔術無効陣を引かせてもらったんだ。
よってこの空間では魔術は使えないよ」
「この私が、対魔法陣を感知出来ないなんて、どれだけ高度な魔法を使ったのかしら」
それには答えず、ほほえむだけの修吾であった。
いや、実際修吾は忙しかった。会場で生徒会の手伝いとして
忙しく料理を出したり、料理作りをしたりしなければならなかったのだから。
なにしろ、今年は、本来の戦力が一人欠けているのである。
その、欠けてる戦力が誰かというと……
「学校に来たらいきなり連れて来られて、この格好をさせられて、
コオル君を助けてやってくれと言われたんだけど、一体どういう事なの？」
「なにをきょどっている」
「え、えと……」
「ほら、もっと自然に振る舞わないと、会長にだって怪しいと思われちゃうよ」
「そうは言われても……」
小声で、召喚少女と会話してるのは、金髪のかつらをかぶった京介であった。
コオルの身代わりに立てられたのは、京介だったのである。
とはいえ、女の子5人（うち一人はコオルだから実質4人で、マキさんは夜勤であったが）に
囲まれて、自然に振る舞うというのは、京介には荷の重い仕事であるようであった。
「うーむ、おかしい、101匹トナカイ大作戦は、そろそろ発動しても良い頃なのだが」
「なんですか、その101匹トナカイ大作戦というのは」
「いやなに、ポプリの香りに突進するよう訓練したトナカイを、アスレイくんの
召喚魔法で召喚するという、実に高度な計画なのだよ」
「……それ、一番に襲われるの、会長じゃないんですか？」
「そうとも言うなさゆりくん。だが、それは貴い犠牲なのだよ」
「自分を犠牲にしてどうするんですか」
「だが、発動が遅い……やむを得ん、こうなったら例年通り……」
「天誅！」
エアガンを取り出した瞬間、九羅香に退治される会長であった。
「あれ？ さゆりはじゃましなかったね」
「自業自得ですから」
「ふーん、アスレイと仲良くしてるからほっといたんだと思った」
「……べ、べつに、会長が誰の手を借りようと、私の知ったことじゃないですから」
「あ、そ、じゃそういうことにしておいてあげる」
「さて、と。これで私の予想は完璧に当たったってことでいいよね」
「予想って？」
『今年のしっと団のクリスマス蜂起は １秒 で鎮圧されました』
勇姫のアナウンスが構内に響く。
『完全に当たったのは二年の九羅香さん景品として学園から鏡餅と炬燵が送られますおめでとうございます』
「トトカルチョをやってたんですか」
「うん、だから瞬殺出来るように弁慶達にも手伝ってもらって、待機してたんだよ」
哀れなのは会長であった。はじめから予測されても仕方ないといえば、その通りなのであるが。
さて、戦い済んで日が暮れて……って、イヴだから日が暮れてるのは当然であるが
パーティも無事に終わった後であった。
「今年のクリスマスはブラッククリスマスになるかと思ったけど無事に終ったね」
「そうだな……俺はあの男がさゆり以外の女性と行動を共にするなど世界滅亡の序曲かと思ったぞ」
「そんな事よりメリークリスマス」
同じ頃、京介はというと……
「メリークリスマス、今年も色々あって楽しかったね、来年も宜しく。
･･････こ、これは僕からのクリスマスプレゼント。よ、良かったら使ってくだしいっ。」
晶にプレゼントを髪飾りの贈り物をしたのはよいが……噛んでいた。