「さてさゆりくん、肝試しだな」

「ええ、肝試しですね」

「何をしよう」

「なんにも考えてなかったんですか」

「いや、カップルを脅かしても、仲をよくするだけだというのに気づいたのだ」

「会長の思考パターンはそれしかないんですか」

「ない」

「断言しないでください。……まあ、生徒会の方で、脅かし役はそろえるそうですよ」

「そうか。なら、今回は我々の出番はないな」

「その、脅かし役に、我々も員数として入ってるそうです」

「なぜだ」

「目を離すと何をやるかわからないから、メンバーとして入っていてほしいそうです」

「なんだか、恐ろしく信用されてないな」

「普段の行いが行いなんじゃありませんか？」

「そんなに信用できない行動をしてるかな？」

「自覚がないんですか……」

 

とまあ、サバイバル同好会はこんな調子で、あまり乗り気でもなく準備を始めるのだった。

 

一方、のりのりで準備をしているのはB.S.E。

 

「姫様、肝試しの用意が整ってゴザル。」

「肝試しの準備というのはわかるのですが、B.S.E様、これだけ花火をそろえてどうされるおつもりですか。

 

B.S.Eが用意したものは、打ち上げ花火に連発花火、ねずみ花火に爆竹、ロケット花火など

とにかく色々な種類の市販の花火であった。

B.S.E自身はといえば、ひょっとこの面を斜めに頭につけ、扇子を持った

勘違い浴衣を来た勘違い外人といった風情だ。

 

「肝試しというのは、互いに火の付いた花火を投げ合って逃げた方が負けという競技ではないのでゴザルか？」

「そんな危険な協議ではありませんよ、B.S.E様、この花火は没収です」

 

結局、脅かされる側に回るB.S.Eであった。

 

さて、勘違い忍者はほっとくとして、脅かす側の方は着々と準備が進んでいた。

 

「ほう会長お前の顔のメイクが上手いな」

 

そういって、サバイバル同好会の会長に声を掛けたのは無月である。

 

「待てこの顔は素だ！！」

 

会長の名誉のために言っておくと、別にこの会長、不細工というわけではない。

いや、むしろ黙って座ってればそれなりに顔の造作は整っている方なのだが

なにぶん、普段の行動が行動だけに、３枚目キャラが板についてるのは致し方あるまい。

 

さて、こんな調子で準備も終わり、いよいよ肝試し大会の開始である。

 

「どうして私があなたとコンビを組まなければならないのですか」

「どうしてと言われても、コオルがスタッフに回った空じゃないかmy honey」

「クリスからハニーなんて言われる覚えはありませんわ」

「そうつれないことを言わなくてもいいじゃないか、アスレイ」

 

肝試しというので、校舎内を歩いているのは、アスレイとクリスのコンビである。

クリスと組みたがっている女の子はたくさんいたはずなのに、なんでよりによって

アスレイと組んでいるのかというのは、ちょっとした謎である。

単に、女の子達が張り合っていて、収拾がつかなくなったので、ビルギエッタ師匠が

介入したというのが真相なのだが。

 

「ともかく、僕がいれば大丈夫だよ」

「あなたがいるから不安なんですわ」

 

そりゃそうだろう。ともかく、肝試しゾーンの校舎内へと入る二人であった。

 

「にゃ〜ん」

 

暗闇から浴衣に猫耳と尻尾を装備した勇姫が現れた

 

「残念……簡単には驚かないか」

 

「……か、かわいい」

「あなたには節操というものがないのですか」

 

そうかと思えば、肝試しの定番、暗闇から襲いかかるこんにゃく、なんてのもある。

 

「うわ、な、何か今顔に触ったぞ」

「ぬれたタオルかなにかでしょう、驚くこともないでしょうに」

「いや、もっと弾力のある何かだった、い、今のはいったい……」

「こんな情けない男の何がいいのかしら」

 

いや、まあ、人それぞれと申します。

 

こんな調子で進んでいき、いよいよ最深部、ここを抜ければ

ゴールと言うところで、後の方から鈴の音が聞こえ

後ろを向くと今度は前から、気が付くと四方から聞えてきた

 

「な、何かしら、今の鈴の音は」

「だ、大丈夫、き、危害を加えるような何かはないはずだし」

「こ、ここ、声が震えてますわ」

「そういうアスレイだって……」

 

そういいながら振り返ると、そこには

赤く染まった鎌と鈴を持った人が立っていた

古めかしいローブを纏った人が鈴を鳴らしながら近づいてくる。

 

「う、うわあ、出たー」

「な、なんで一人で逃げ出すんですの。

　ま、魔法的な何かは感じませんけど、これは少しやり過ぎではないですの。

　か、顔を見せなさいよ、顔を」

 

黙ってフードをあげる。

そのとき、フードから覗いた顔は髑髏だった

 

「きゃーっ」

 

完全に腰を抜かしてしまうアスレイ。

３段構えの陣で、ここまで完全撃墜を記録している修吾であった。

 

さて、かとおもえばこんなペアもある。

 

「虫除けスプレー、虫に刺された時の薬と絆創膏、懐中電灯、必要な物はこれで全部かな。」

「とても肝試しに出かけるとは思えない」

 

意外とのほほんと準備をしているのは、京介である。

パートナーになっているのは晶だ。肝試し大会の後のパーティの料理を

一緒に作っていたから、というのが、ペアで出かけている理由である。……公式には。

 

さすがにのほほんとしている京介に、食材については詳しい

始まってから途中で京介がこんなはなしを始めた。

 

「そうだ･･･ここって出るんだよね。」

「何が出るというのだ」

「何がって･･･幽霊。」

「そんなはなしは聞いたことがない」

「ここは昔、キャンプ場だったんだけどある事故があってから一時期閉鎖されていたんだって。

　その事故というのが･･･こう、僕たちみたいに肝試しをしていた時の話なんだけど。

　幽霊役で隠れていた男の子がクマに襲われて大怪我んだ。

　少年は大きな叫びを上げて助けを呼んだんだけど、みんな肝試しで脅かされた誰かの叫びだと思って

　助けに行かなかったんだって。少年は誰にも助けてもらえずにそのまま死んじゃったんだって。」

「確かに、この学校のそばには森があるが、それと関係あるのか」

「それからというもの、ここで肝試しをしていると肝試しをすると、血まみれになった短髪の白い髪の少年の幽霊が助けてくれ････って森の中からやってくるって話なんだけど。」

「ただの噂だろう、たいした問題じゃない」

 

そんな、他愛のないはなしをしながら近づいていくと……

 

たすけてくれ……

 

たすけてくれ……

 

遠くから呼ぶような声がする。

 

「！　何かいる、気をつけろ」

 

警戒態勢にはいる晶。このあたり、召喚されてるときにモンスター相手に

してきただけのことはある。愛用の包丁、には手を伸ばさないが

それでも戦闘態勢に入った形はさまになっていた。

 

「助けてくれ……」

「う、うわ、ほ、ほんとにでた……」

 

そこに現れたのは、赤く染まった服を着た、短髪の白い髪をした少年の姿であった。

 

「う、う、う、うわぁ……」

 

まさか、京介がぐるになってるとは思っていなかった晶は、京介にしがみつく。

 

まあ、幽霊の正体は、玲奈なんですけどね。

 

とまあ、こんな調子で肝試しは進んでいった。

最後まで完走したペアはほとんどいなかったが

それはご愛敬という物であろう。

 

「脅かし役ご苦労だったなほら冷たい飲み物を用意したぞ」

 

そういって、気の利いたことをするのは無月である。

 

「ああ、冷たい飲み物が一人分足りなかったからよく冷えたハバネロを混ぜて置いた」

 

それを引き当てる会長

 

「くぉおお……水、水……」

 

のたうち回る会長、まあ、普段の行いからいえば当然であろうか。

 

こうして、肝試し大会は終わった。

肝試しの後は、B.S.Eから取り上げた花火での花火大会と

京介に晶が作った料理を食べながらの七夕パーティが開かれた。

幸いにもよく晴れた、夜空。星はそんなみんなの姿を見つめているようだった。

 

「なんか、今回は一方的にひどい目にあった気がするぞ」

「まあ、気を取り直してフライドチキンでも食べてください」

「唐辛子はいらんぞ」

「はいはい、ところで、どんな願いを短冊に書いたんですか」

「すべてのカップルが不幸になりますように」

「……会長らしいですね」

「そういうさゆりくんは、なんと書いたんだ」

「会長の願いが叶いませんように」

「なんというひどい願いを」

「どうせ会長だからろくなことを書かないと思ったんです」

「そんなことはないだろう、すべての非モテはそう考えてるに決まってる」

「自分も幸せになればいいじゃないですか、他人の不幸なんて考えずに」

「そうかもしれんが、他人の不幸は蜜の味というだろう」

「結局、自分のためなんですね」

「……」

 

これじゃ、会長も同情には値しないわけである。