さて、釣りの開始である。

各自思い思いの方法で釣りを開始していた。

 

たとえば、修吾の場合である。

 

「ん、この辺でいいか」

 

釣り人は修吾、船頭は弁慶、どうやら、船釣りで大物を狙うつもりのようだ。

修吾は得物に内蔵しているワイヤーに餌をつけて、手の感触だけを頼りにする糸釣りをしていた。

 

「･･･!。よし、来た」

 

　ワイヤーを引き当てて

 

「ん、まぁまぁだな」

「大物はそう簡単にはつれないさ」

「よーし、こっちも大物を狙うぜ」

「玲奈、お前後からこっちに来るなよ」

「うっせーな、湖は独占物じゃないだろ。まってろよ忍ねこども。

　今においしい魚を食わせてやるからな」

「にゃー」

「ねこ用の魚釣りが目的かよ」

「まあな、大物はねらわず小物をたくさんで行くぜ」

「そっか、まあ、がんばれ。ところで九羅香たちはどうしてる？」

「紅葉は晶と一緒に料理の準備中。九羅香と与一は陸釣りをやってるみたいだな。

　静の奴は、何考えてるかわからねぇ。廉也と観月だったら、船釣りするって

　言ってたから、もしかしたら出会うかもな」

「そうか、まあ、あったらよろしく伝えてくれよ」

「そっちもな」

 

気持ちのいい風が吹く湖上、釣りをするには最適の時間が流れていく。

 

一方、こちらは陸釣り組である。

 

「さて、さゆりくん、大物を釣り上げる競争なのだが」

「はい、なんですか会長」

「船釣りでも悪くないが、船より大きな魚を釣るわけにはいかないからな、

　やはりここは陸釣りで行くとしよう」

「はいはい、それで、えさはどうするんです」

「えさなどいらん。私が銛を持って湖に潜って魚を探す。銛を突き立てたら

　あとはさゆりくんが引き上げてくれたまえ」

「なんで私が引き上げる係なんですか」

「誰もさゆりくんの水着とか見たくないだろう」

「会長の水着姿に需要があるとも思いませんけどね」

「気にするな。この水中銃で確実に大物をとらえてみせるわ」

「はいはい、がんばってくださいね」

 

どっぱ〜ん。

 

「……む？会長が湖に落ちたか」

 

人ごとのように見ているのは、同じように陸釣りをしている無月である。

実際、あの会長のことだから死ぬことはあるまい。

 

さて、召喚少女達が何をやっているかというと……。

 

「結、大物を捜す」

「は、はいおねえちゃん……」

「晶、結に大物をさがさせてどうするの」

「結に誘導させて、卯月の怪力で引き上げる」

「怪力いうな」

「引き上げるのはいいけど、どのくらいの大きさを想定してるの」

「クジラより小さいぐらい」

「比較対象が大きすぎてどのくらいを想定してるのか全然想像がつかないよ」

「空からのサーチが私の仕事ですね」

「おねーさんの鞭が釣り糸代わり〜」

「とにかく、釣りを成功させる。私はつり上げた後の料理の準備にかかっておく」

「わかった、とにかくまかせて」

 

一方の魔族側は、作戦でもめていた。

 

「グレネードフィッシングをやればよいでしょう。これが一番合理的です」

「だが、船を沈めかねないぞ、危険だ、とても承認できない」

「ほーほっほっほ、釣りなど無用、水中に潜って捕まえてくればいいのです」

「……まじめに釣るのが一番……」

「しまったでござる、水中でも使える爆薬を持ってきていないでゴザル！！」

「あんた誰」

 

魔族軍側の会議に紛れ込んできたのは、B.S.Eであった。

 

「日本では爆弾を投げ入れて魚を釣ると聞いたでゴザルが、拙者、うっかりして爆弾を用意してこなかったでござる。」

 

「さっき、湖に飛び込んだ者がいるのを確認した、グレネードフィッシングはやはり禁止だな」

「魚取りには合理的なのですが、仕方ありませんね。

　では、まずは小魚を釣るとしましょうか」

「小魚をつってどうするんですの。ねらうなら大物ですわ、おおもの」

「小魚をえさにより大きな魚をねらうんですよ、それが合理的です」

 

魔族軍は、陸釣りを選択した。その中に、なぜかちゃっかりB.S.Eも

まじっているのはご愛敬であろう。

 

さて、場面を再び陸釣りの無月のところへ移そう。

 

「これはでかいな……手伝ってくれ！」

「こちらも大物がかかりましたよ、すごい引き……何が釣れたのかしら」

「卯月、無月を手伝ってあげてよ」

「了解、こっちはまだあたりがこないし、手伝いに行きますか」

 

数分後

 

「よし！一気に引き上げるぞ！！」

 

釣り上げたのは

 

「会長か……よし湖にリリースするか」

「会長、何やってるんですか」

「おお、さゆりくんではないか、大物を発見したと思ったのだが

　水中銃が外れてしまってな」

「いいわけになってないでしょうが、また探してこーい」

「はいはい」

 

再び会長は水中へと消えた。

しかし、アクアラングもなしに、水中で数分も活動できるとは

会長って、実は海女さんなみの能力を持っているのかもしれない。

 

「……まどかさん……こっちの方に……大物がいる予感が……します……」

「大物って、どのくらい」

「えと……その……鯨よりは小さいぐらい……」

「どのくらい大きいのか……って、ええっ！」

 

突然湖が沸き立つと、ちょうど釣りをしていた修吾と弁慶を

巨大な魚が飲み込んだ。

 

次の瞬間。

 

ブレードを使い内側から突き破り外へ脱出する修吾と

今まで櫓の格好をしていた薙刀を振るって抜け出した

弁慶の姿があった。

 

「あーびっくりした。だけど、あれをしとめた二人が優勝で問題ないんじゃない？」

「……あ、……はい……あれより大きな……魚は……反応を……感じません……から……」

 

こうして、魚釣り大会は幕を閉じた。

優勝は、もちろん、人食い巨大魚をしとめた修吾と弁慶である。

 

さて、勝負がついたあとは、楽しい食事会である。

京介と晶、そして紅葉は

みんなが魚釣りをしている間に、兵士さんに協力してもらって魚を調理できる環境を用意していた。

 

「みんな結構たくさん釣ってきたね。

　小さい魚は後でまとめてフライにするからこっちの水張った桶の中にいれてもらえるかな？

　大きいのは直ぐにハラワタとって串焼きに出来るように準備するから･･･

　あと･･･会長さん、こっちの世界の魚は生で食べても大丈夫かどうか解らないから危ないよ。」

「大丈夫、寄生虫は顕微鏡でより分けた」

「嘘をつかないでくださいっ」

「……しかし、この人食い魚、どうやって調理するの？」

「さあ？」

「大きい魚だと、大味になるから、そこをなんとかするのが腕の見せ所」

「ていうか、こんな魚が住んでる湖だったかな」

「細かいことは気にしない。とにかく料理する」

「頼むよ、晶」

 

さて、調理が終わって。

 

「お待たせしました。

　普通に焼き魚だけじゃ飽きると思って燻製と唐揚げ、あとあら汁も作ってみたよ。

　ボウズだったら野菜だけになるところだったから、みんなが頑張って釣ってくれて本当に助かったよ。」

「いただきまーす」

「食べきれないぐらいありますから、みなさん落ち着いて食べてくださいね」

 

こうして、魚釣り大会は幕を閉じた。

なごやかなムードだったかどうかはまた別の話であるが、

少なくとも、無月の言うとおり「のんびりできた」ことは間違いないだろう。

 

セルディアーシュは、平和であった。