さて、何はともあれ情報収拾である。

情報さえ集まれば、レベルを上げて物理で殴ることで、たいていのことは解決する。

問題は、何をいつどこでどう殴ればいいのかを見つけ出すことだ。

 

さて、そのために、生徒会室では、B.S.E主催で会議が開かれていた。

 

カーテンで外の光を遮断し暗くなった会議室で円卓のテーブルを用意し証明はロウソクのみ

参加者は体型が判らないように大きめなサイズで作られた真っ黒なK◯Kの様なローブを着て

額に1から順に番号が振ってある覆面を用意して覆面座談会である。

 

 

「さて、これで何処の誰が発言したか全く分からないでゴザる。

　コオル殿の世界の戦争について、心置きなく議論するでゴザル。」

「声でわかってしまいますよ、非合理的です」

「8番殿、発言するときはまず挙手をするでゴザル。」

「口調で誰が出てるかわかっちゃうよね」

「ですが、これも将軍のご命令です。参加はいたします」

「とにかく、原因が何かわからないんじゃ対処のしようもないよ。

　なんでもいいからちゃちゃっと始めちゃおう」

「まず、お互いがお互いを嫌いだというだけで戦争を続けられるとは思えないんだ。

　戦争が終わらない原因は、怨恨以外の別の理由があるんじゃないかな？

　過去に原因になる様な事があっても、それが理由でずっと続いているっていうのは凄くおかしな話だし。」

「戦争なんてお互いが相手を嫌うというだけで起きるものですわ。それで十分でしょう」

「そんな理由で攻めてこられたら、防戦するしかないじゃありませんか」

「歴史の授業で習った僕たちの世界の戦争って、極論すると利益を得るための経済活動じゃない。

　だから・・・たぶんだけど、リドラスヘイドの戦争もそういった理由があるんじゃないかな？」

「経済的理由ならありますよ。グレートボイドの悪影響で、魔族の居留地は軒並み壊滅しましたからね。

　今、魔族の生活を支えているのは、戦争で獲得した占領地だけです。

　我々のゲリラ部隊も、生活のための物資を手に入れることが目的の半分です。

　もちろん、それによって、王国軍を弱体化させることも出来る、合理的です」

「魔族の土地が荒廃している？　それは初めて聞きます。本来魔族の土地は

　ボイドの影響で、むしろ鉱物資源や特殊な薬草が豊かに育っていたはずではありませんか」

「それは昔の話。今は荒れ果てた大地にはぺんぺん草も生えませんわ。

　それはかえって好都合ですけれどもね。今や魔族はすべて戦士、戦う以外に

　生活のすべがないのですから」

「……魔族軍が無尽蔵に見えた理由はそれなのか。誰もが戦うしかない状況。

　だからといって、我々の街を焼き、領土を侵してよい理由にはなるまい。

　それに、あの暗殺事件は、魔族側から仕掛けてきたこと。

　許されてよいわけがない」

「そんなことを言ってる場合じゃないってなんど言わせる気なんだ。

　その、ボイドの悪影響は、魔族と人間の対立じゃすまなくなっている。

　このままじゃ、セルディアーシュも、この世界も、魔界になってしまうのに

　そう時間はかからないぜ」

「ねえ、素朴な疑問なんだけど」

「なにかな」

「なんで、魔界になってしまうってわかるの？　もしかして、魔界への扉が

　ボイドの中にあるとか、そういうことじゃないの」

「……可能性はあるな。けど、魔界には魔界なりの秩序はある。

　いまボイドからわき出しているのは、単なる破壊の魔物ばかりだ」

 

会議は巡るのであった。

だが、真相を知らないものを集めても、結論が出るはずがない。

真相を知っているもの、それは、当事者、それも、事件が起きた頃に

お互いの首脳に近かった人たちだけである。

 

たとえば、魔族の族長バローとか。

 

修吾は、そのバローへの聞き込みにやってきていた。

 

「バローさんに、お尋ねしたい

　彼らと対立する事にいたった直接的とは何だったんですか?」

「直接の原因は、王国軍がこちらを急襲してきたことだ。

　その後、我々の土地が急速に荒廃してしまったので

　我々はやむなくリドラスヘイド王国の領地を侵略している」

「彼らが言うに最高司令官が彼方方魔族に暗殺されたとしか聞いていない

　彼方方の言い分と言うものを聞いたことが無い。よろしければ教えてくれないかな?

　彼方方の言い分と言うものを･･･」

「そうか。あの事件は、王国軍側から見れば、魔族が仕掛けたことになっているのか」

「賢明な彼方が何も考えずに起こしたとは思えない。

　何かあったのではないか?それとも話せないようなことなのか?」

「いや、はなせないことではない。むしろ、はなす必要もないことだと思っていた。

　暗殺事件そのものは、魔族とはあまり関係がない。

　もし、我々が意図的に挑発するつもりなら、もっと入念に戦争準備をしていたはずだ。

　実際には、王国軍の強襲になすすべ無く我が軍は敗退してしまった。

　備えのないところへ攻撃を受けたからな。

　だが、悪意の原因なら、想像はつく。……魔道兵器、スルトーンが発掘されたのがその当時だ」

 

魔道兵器ということばに、修吾は首をかしげる。

 

「ああ、魔道兵器について説明するべきだろう。

　あれは、古代、世界を滅ぼしたと言われる巨大な……そうだな

　この世界風にいうなら、魔法で動くロボットといったところか。

　その動力である魔力も、そのほとんどが内蔵された魔石によって供給される。

　起動制御には優れた魔導師が必要だが、いったん動き出せば、それは

　自動的に何者をも破壊し尽くす」

「それってまるで……」

「……そうだな。まるでボイドの中にある悪意のように」

「どうやら、真相にたどり着いたみたいやな」

「みねあ、いつからそこに」

「さっきや。魔道兵器は、スルトーンやアウスラソクだけやない。

　ほかの魔道兵器もある。それが何らかの原因でボイドにはまりこんだ」

「その原因はなんだ」

「……それは、うちより、アデルバートはんの方が詳しいやろ、な」

「半分は俺の責任ということか、ボイドの向こう側の世界への扉を開くために

　俺が使える、最大の魔力源……魔道兵器の動力魔石を使った。

　それは触媒として失われたかと思っていたが、ボイドの中に残ってる、

　そういうことか。だが、それは原因の半分でしかないはずだ」

「そうやな……それを起動して、秘密裏に魔族を殲滅しようとした

　だれかさんの影響がなければ、ただの魔力源で終わってたはずやからな」

「魔道兵器は４体も発掘されていたというのか？」

「いや、発掘されたのは３体だけ、そのうちのいったいから

　俺は魔石だけを受け取った」

「だが、動力源の魔石は一つだけではないぞ」

「その通り……魔石がかけている分を魔法生物で補うことは出来る」

「その結果、自滅したというのが真相なのか。だが、……魔族を殲滅しようという

　悪意、そのものは生きている。……やっかいだな。

　死者の怨念をほどくというのは……」

「形無いものはこわせへん、けど、かたちのあるものなら、どうやろな」

「……なるほどな。そういうことか」

「どういうことだ、俺にはわからんぞ」

「どっかの会長が持ってる部品で、魔道兵器を再現、できへんか？」

「それは、１００年に一度の天才アデルバート様にかかれば簡単なことだ。

　その魔道兵器のガワを使って、悪意の核を、魔道兵器として完成させるんだな」

「そうや、そして、それを悪意ごと破壊する」

「……だが、魔道兵器は決戦兵器として、旧世界で完成されたもの。

　そう簡単に破壊できるともおもえん。それに、あの中には

　魔物がうじゃうじゃいる。それをどうやって排除するつもりだ」

「ゲートを開いて、王国軍と三魔将を投入し、突破口を開く」

「魔道兵器はどうする。誰が勝てる」

「俺の息子を甘くみるなよ。それに、あの娘達は、伊達じゃないぜ」

「……だといいが」

 

---

 

アデルバートの作戦は、こうして決行された。

ゲートを開けば、当然魔物があふれ出す。

公園を立ち入り禁止にして、あふれ出す魔物を退治するのは

生徒会メンバーのお仕事だ。

 

「弁慶、雑魚だからといって油断するな、とにかく数が多いぞ」

「わかってる九羅香、ここが正念場ってことだな」

「与一様、そちらに魔物が３体向かいました」

「任せておけ、……くらえ、金剛の三矢！」

「こちらは、私たちにお任せください……盛者必衰」

「私も負けてられないわね、源九郎行くわよ……九尾の狐！」

「滅私斧撃！」

「忍ねこども、陰に隠れてる魔物をきっちり捜せよ……そこか、行くぜ忍法水鏡の術！」

「うふふ〜穴が開いているように見えるかもしれませんけど〜そっちは

　キリングゾーンなんですよ〜」

 

生徒会の実戦組が待ち受けてる中へ、魔物たちは静の計略通り誘い込まれていった。

 

「さてと、こっちは調子よく言ってるみたいだが、突入部隊は大丈夫なのかな」

 

---

 

その、突入部隊は、公園の魔物とは比較にならない数の化物に襲われていた。

 

「う、うわ、うわ〜」

「ひるむな。これが最後の戦いだ」

「ほーほっほっほ、人間とはやはりか弱い生き物ですわね」

「た、助かった……」

「ふん、バロー様のご命令だから助けてあげたまでですわ。感謝されるような覚えはないですわよ」

「アレク、それツンデレフラグ」

「何がツンデレですか」

「喧嘩はやめてください、非合理的です。この戦いが終われば、また昔のように

　豊かな大地が帰ってくるのですよ。占領地を返してもおつりが来ます。

　そのほうが合理的だ」

「それも、この戦いに我々が勝利すればのはなしですね」

「その、我々とは、誰のことだ」

「この状況では、魔族も人間もないだろ。それら全部をひっくるめての、我々……

　……生きることを、殺すことよりも大切に思う、我々全員のことだ」

「生きることを、殺すことより大切に思う、か……」

「よし、突破口は開いたぜ。コオル、あとはお前達の出番だ、なんとかしろ」

「なんとかって……僕だけで大丈夫かな」

「僕だけっていう言い方はないんじゃないかな、ボクもついてるよ」

「私もいっしょだからね」

「おね〜さんをのけものにしちゃメーよ」

「私もついている、心配するな」

「あ・・あの……私も……その……」

「そう、だったね」

「……見えた、あれが悪意の核か、……まがまがしい気を感じる」

「月並みな表現だね」

「だけど、あれ、っていったい何？　まるで、死体を集めて出来てるような……」

「いやな予感が的中したぜ。吸い込まれた連中の数に比べて、出てきた奴の数が少ないと思った」

「あれを、どうやって……」

「まあ、まかせておけ。……悪く思うな、成仏しろよ。魔道兵アウスラトーン、起動！」

「アウスラトーン？」

「アウスラソクとスルトーンの混合だからアウスラトーンだ。

　って、ネーミングはどうでもいい、コオル、離れてろ、焼き払うぞ」

「い、一撃でなぎ払った……すごい……」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。キミ。これから、私たちが

　これと戦わなきゃいけないんだから」

「そ、そうだった……なんだかふるえがが止まらない」

「あーもう、ボクらを信じなさいって」

「う、うん……覚悟を決めたよ、みんな、僕に力を貸して」

「うん」

「O.K」

「いいわよ〜」

「了解した」

「……は、はい……」

 

『５つの力を一つに束ね、奏でるエレメンタルガールのシンフォニー。

　貫け、クインテット！』

 

「やった？」

「いや、まだみたいだね……」

「けど、効果は上がってるよ」

「油断するな、反撃が来る」

 

以下略。

 

「こら、省略するなナレーター」

「はぁはぁはぁ……やった、やっと……勝った……」

「けど〜正義はかならず勝ちますから〜」

「勝つまでの過程が物語り」

「……だ……だけど……魔道砲の攻撃を避けて……コオルさんに回復してもらいながら……

　……魔力がたまったら……また……クインテットを放って……その……繰り返ししか……

　やってないから……その……」

「描写されても面倒なのは認める」

「一撃でもまともに食らってたら、今頃助かってなかったと思うよ」

「……それで、ここはどこなんだろう。今までいたひとたちがみんな消えてるんだけど」

「そう、みたいだね」

「ていうか、召喚時間がもう切れかけている」

「……そっか、じゃあ、みんなともお別れか……また、電話するよ」

「ちょ、キミ、キミはどうするつもりなの」

「僕は……まあ、なんとかなるんじゃないかな」

「待て、お前にいま消えられると困る」

「あら〜それはどういう意味かな晶ちゃん〜」

「ご、誤解するな……とか、そういうことを……」

 

---

 

「いっちゃったか。このボイドの中で、僕一人ぼっちか。

　なんか、空気も薄くなってきたし、ここで死ぬのかな……」

「こら少年、なにブルー入ってる」

「あ、ルテジアか。……って、ルテジア、どうしてここに？」

「ボイドからあふれる魔物がいなくなったのに、あんたが

　帰ってこないっていうんで、みんなボイドの中に探しに来たのよ。

　なんであんた、こんなところにひっかかってるのよ」

「そんなこと僕に聞かれてもわからないよ。ていうか

　なんでルテジアはここにいるのさ」

「アデルが開いたゲートをくぐっただけ。ここはほとんどボイドの出口みたいね。

　このままいたら……」

「いたら……ボイドから転落するわよ！」

「え、ええ、飛行魔法なんて僕覚えてないのに」

「そんなのあたしだって使えないわよ」

「あ、なんか光が見える」

「落ちる〜〜」

 

『助けて、ほしいの？』

「助けてほしいのって、今すぐ助けてよ〜」

「じゃあ、すぐに短縮ダイヤルで呼び出して」

「あ、そうか、わかったよまどか！」

「二人を抱えてじゃ、落下速度を遅らせるのが精一杯だけどね」

「そんなときにはボクに任せて」

「卯月」

「十分に高度が落ちたら、ボクがジャンプして捕まえてあげるから」

「けど、それでもこの速度じゃ落ちたら死ぬよ」

「うふふ〜おねーさんにまかせなさーい」

「地面に水を張っておく」

「……は、はい……コオルさん……安心して……落ちてきてください……」

「う、うんって……落ちるのに安心とかないから〜」

 

ざぶーん。

 

「うわ……びしょ濡れ」

「大丈夫、キミ」

「大丈夫、それよりルテジアは」

「あたしなら、卯月にひろってもらったから大丈夫よ」

「先輩！」

「あ、レッジ、なんでここに？」

「なんでって、むしろ、なんで先輩がボイドから落ちてくるんだよ。

　それに、ルテジアさんも一緒だなんて」

「ボクらを無視するな」

「あ、ごめんごめん」

「あ、あの……」

「あ、アスレイ……どうしたの？」

「勝手に変な世界に行かないでくれませんか。……その……心配しましたのよ」

「ごめんってアスレイ。だけど、行きたくて行ったわけじゃないんだよ。

　それで、戦争はどうなったの」

「戦争は終わったんだ。……王国軍と魔族との間で協定が結ばれた。

　魔族は、占領地を無条件で返還して、元の土地に戻るんだってさ」

「だけど、元の土地って、ボイドの悪影響で、不毛の大地になってるってきいたよ」

「そうなんだけど、一ヶ月前、ボイドからの魔力が急に減少して

　その結果、また緑の大地が帰ってきたって聞いたぜ」

「そうか……緑の大地が帰ってきたのか……戦争も終わったんだ」

「戦争は終わっても卒業が決まった訳じゃないからね、馬鹿弟子」

「し、師匠……そんなぁ」

「……けど、話は聞いたよ。おまえ、大活躍だったんだってね」

「大活躍っていうか、みんなのおかげだよ」

「そっか、けど、召喚獣……ていうか、召喚少女を使いこなしたのは、間違いなくお前だよ。

　あたしからも、学長に掛け合って、英雄としての卒業を認めてくれるようにお願いしてやる」

「師匠、あ、ありがとうございますぅ！」

「頼むだけだよ。まだ卒業が決まった訳じゃないんだから、勘違いするんじゃないよ」

 

悪意の固まりに満ちたボイドを抜けて、緑の大地へ帰還したコオルとルテジア。

二人の冒険は、まだ始まったばかりだ。

 

「あ、勝手にフラグ立てるな」

「そ、そうですわ」

 

……そう、まだ始まったばかりである。