さて、こちらは頼まれた生徒会の会議室である。

頼まれた、といっても、あまりいいアイディアが浮かぶわけでもない。

 

「観月様、観月様から、みねあ様に、神機仕様を提案するわけにはいかないのですか」

「それは、あまりに危険すぎます。神機をどうしても使うとすれば

　この世界自体が、危機にさらされてるのでなければなりません、紅葉様」

「僕は、まず、観月様を危険にさらしたくないんです」

「廉也様の意見もわかります。ですが、あの公園の空間の歪みは

　九羅香様も危険だとおっしゃってます」

「そうだよ。僕は魔族の人から聞いたんだ。

　グレートボイドの悪影響で、魔族の暮らしていた土地は

　ネズミ一匹住まない世界になってしまったって。

　この世界に同じ事が起きない保証は、どこにもないんだよ」

「そうは言っても、今神機を…あら、BSE、どうしました？」

 

紅葉も、BSEは、佐藤家の家臣のごとく扱っているようだ。

 

「コオル殿、みねあ殿が駄目と申しておる故、説得とは別の方法も考えるべきではゴザらぬか？

　ニホンの映画に参考にできる物があるでござる、この「ジンキ無き戦い」をミルでゴザル。」

 

「神機なき戦いですか、とりあえず見てみましょう」

「そうですね、参考資料があるなら見てみるべきでしょう」

「観月様、どういたしましょう」

「何か間違っている気はするのですが、ひとまず見てみてもよいのではないでしょうか」

「……うーん、何かが間違ってる気がするけど、指摘できない…」

「ま、なんにせよ、見て悪いことはないだろうぜ」

「そうだな、玲奈殿の言うとおりだ」

「お姉さまがいいのなら、あたしもかまわないわよ」

「弁慶、どう思う」

「どう思うもこう思うも、これ、ジンキなき戦いじゃなくて

　”仁義なき戦い”じゃないか。全然関係ないぜ」

「しかし、この世界での戦いの参考資料ではあるのだろう」

「そりゃ、確かにヤクザ同士の抗争を描いた映画じゃあるんだけど…」

「なら問題ないな。こっちの世界での戦いとか研究してみようぜ」

「玲奈、それって、ボイドの中の世界との戦いに何か役に立つの?」

「それには役にたたねえだろうけどさ。コオル、何かの間違いで

　こっちの世界の非合法武装組織とやり合うことになったら

　それはそれで役に立つだろ」

「いや、全然役に立たないと思う…」

「ですけれど弁慶様、見もせずに決めつけるのはよろしくありません」

「……まあ、紅葉がそれでいいっていうんなら、仕方ないか」

「決まりでゴザルな」

 

結局、B.S.Eの勘違いをきちんと指摘できる人間は

この場に誰もいなかったのであった。

 

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「はぁ……」

「……あ、あの……なぜ、ため息を……つかれてるのですか……無月さん……」

 

購買部の前で盛大にため息をつく無月に、購買部の売り子にして

在庫管理台帳にして、神機の一つ”聖杯”である、みあが

話しかけた。

 

「俺は購買のヌシと同じで神機など使ってほしくないのだがな」

「……睦月さんの……お心遣いは……感謝……します……

　けど……私の力が……本当に必要とされてるのであれば……

　……私は……」

 

みあがそこまで話したとき、購買部の部長、みねあが

購買部の店先に顔を出した。

 

「なんや、無月はんは、神機使用の説得に来たんやないんやな」

 

その通りというように、無月は頷く。

 

「せやたら、何しにきたん？」

 

無月は、黙って指を3本立てた。

 

「今、選べる手は……」

「壱、神機を使う……だが暴走とゆう危険性を秘め最良に転ぶか最悪に転ぶかわからん」

 

そういうと、無月は薬指を折った。

 

「弐、別の方法を考える……これは時間が掛かりすぎるな」

 

そういって、無月は中指を折る。

 

「参、現状維持……この場合、徐々に最悪へ向かってゆくな」

 

最後に残った人差し指を、無月は折った。

これで全部というように、無月は拳を突き出す。

 

「タイムリミットが無いのなら弐がまだマシだと思うのだがな」

「タイムリミットが無い、ちゅうわけでもないやろうな。

　アデルバートはんの危機感は、頭から否定もできへん。

　ただ、うちの手に入れてる情報から考えて、まだ

　時間の猶予はあるはずや。

　……うちは、むしろアデルバートはんを信じてるんやで。

　たぶん、明日には、何かまた新しいアイディアを持って

　現れるはずや。……あれとは、短いつきあいやないんよ」

 

そういうと、みねあはいたずらっぽく笑って見せた。

この表情、みねあにも、何か別な考えがあるという証拠でもあるようだ。

 

「それが妥当だろう」

 

無月は、安心したように声を

「決まったみたいだな」

 

そこに、今回は傍観者であった修吾が現れる。

 

「ならば…うちが守り通そう」

「……傍観者やなかったんか？修吾はん」

「もしもの時は…うちがかたをつける」

 

修吾にも、決意がこもっていたようだった。

 

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そして、翌日。

 

「結局神機は使わせてくれないのか、みねあ」

「結論は出た。神機つかわへん方法、何か考えてみたんやろ」

「そりゃま、俺は100年に１度の天才だからな。アイディアぐらいなら

　100通りも用意できるさ。ただ、神機を使う方が危険は少ないと思ってな」

「神機なんて、普通の人間に扱えるもんやないわ」

「俺も普通の人間かよ」

「うちと同程度には普通の人間や」

「……おまえさんに比べりゃ、確かにおれも凡人の仲間だろうよ。

　けど、神機を使わない計画は、どれもこれも、神機の暴走に

　比べれば危険は少ないかもしれないが、参加する奴の

　危険度から言えば、数段上になるぜ」

「それは、覚悟の上や。それに、覚悟完了した人間だけが

　危険を被るのと、覚悟を求めること自体がお門違いの

　一般人を危険にさらすのとは、意味が違うやろ」

「……つまり、あんたも一肌脱いでくれるってことか？」

「スケベな表現やな」

「そういう意味じゃねえ！」

「わかってて言ってるんや。それで、魔法陣の設定に

　どれくらい時間が掛かる予定なんや？」

「……さすがにみねあだな。まあ、一週間もあれば

　転送魔法陣の設定ぐらいは出来る。封印結界と

　二重構造に組むから、俺がやってもそれぐらいの時間は掛かる」

「その程度の時間なら、破局もおきへんやろ。

　危険は危険や、けど、やってみる値打ちは、ある」

「……コオルまで危険にさらしたくはないんだがな」

「……けど、戦闘召喚術師としてなら、むしろ、アデルバートはんより

　上かもしれへんで、あいつ」

「……どうだろうな」

 

100年に1度の天才、アデルバートは、本当に次の計画を持っていた。

だが、それは、参加者にとっては危険な選択だと語る。

それが、どんな作戦なのか、それはまだわからない。