「さて、まずは台本作りからですね」

「そうだね、紅葉。それで、どうやって作るのがいいとおもう？」

「それならコオルの両親に聞くか、ルテジアさんに聞いてみたらどうだろうか?」

 

修吾がまず提案する。

 

「だが、コオル殿の両親には、まず歪みの調査をお願いした方が良いだろう。

 

与一が突っ込みを入れる。

 

「台本に関しては皆で考えて作る方がいいと思いますが。」

 

それに対して、狛呂が提案する。

 

「コオル殿、ルテジア殿、エイミィ殿、アレクサンドラ殿などに

　あちらの世界の物語をリサーチをしたなら、かなりの箇所で内容に齟齬があるのではなかろうか」

 

B.S.Eが、珍しく正論を吐く。

 

「平家から見た源平合戦と、源氏から見た源平合戦では

　ずいぶんと違いが出てくるでしょうね」

「観月様、ですが、私たちでは向こうの世界の話はわかりませんし

　向こうの世界の話をつくるのに、両方の手助けを受けようというのですから

　どちらかに偏ることも避けねばならないでしょう」

「うーん、…難しいよね」

 

物語を作る台本の時点で、何か煮詰まりそうになる。

 

「まぁ、取り合えず決まってことだし…話を通しに行こうか、役場に」

 

修吾が、台本より先に、公園の使用許可を得ることを先にするように提案する。

 

「市役所には自分もついていってもよろしいですか。」

 

狛呂も同行を提案する。

 

「そうですね、公園を借りるにも、昨日の今日というわけにもいかないでしょう。

　では、私が生徒会を代表して参りましょう」

「うん、台本のことについては、残ってるメンバーで何とかやってみるよ」

「あれ、そういえば無月はどこへ行ったんだ?」

「無月殿なら、会うべき人がいると言って出て行ったぞ」

「なんだ、敵前逃亡か?」

「玲奈、そういうことを言うものじゃないよ」

「はーぁい」

「では、九羅香様、皆様、行って参ります」

「ああ、頼むよ紅葉」

 

---

 

当の無月がどこへ行っていたかというと、なぜか彼は市長室にいた。

 

「久しぶりだな……市長」

「きっ……貴様は！！」

「そう構えるな……アレを公表しようっていう訳じゃない」

「今度は何だ！？」

「真剣な話……例の公園に誰も近づけないようにしてくれ」

「……何故だ？」

「簡単に言えば剣と魔法のファンタジーだ……リアルのな」

「……何だそれはと言いたいがお前が言うからには本当なんだろうな」

「理解が早く助かる」

「手は打って置こう……だがあの事は内密にな」

「俺としてはお前がアキバ系などどうでも良いんだがな」

 

市長と知り合いだったようだ。

市長がアキバ系だろうがハゲだろうが、市民はあまり気にしないだろうが

当人はかなり気にしているらしい。

 

ちなみに、この市長、決して禿げてはないが

さすがに白髪は目立つようになっている。

あえて染めてないらしい。

 

---

 

さて、市役所に向かった紅葉達である。

 

「すみません、公園の使用許可を取りたいんですが。」

 

狛呂が受付から公園の管理担当課を聞いている。

こういう面倒ごとは、お役所仕事でたらい回しと

相場は決まっているが、それでも手順は踏まなければならない。

とりあえず、最初の担当課にたどり着く。

 

「こちらが施設課になりんでしょうか？」

「ええ、ここが施設課ですけど、あなたは？」

「自分は同行者みたいなものなので。」

 

ひとまず紅葉に振ってみる。

 

「ええ、私たちの学校で、公園を利用して劇を取りたいとおもっているんです。

　それで、終日、私たちに貸してもらえたらと思うんですが…」」

「そうなんですか、ですが、あの公園は危険だということで

　市長より使用禁止の通達が出てるんですよ」

「そうなんですか？一体誰がそんなことを？どういう理由なんでしょう」

「さあ、私も理由までは聞いてませんから…」

 

無月の打った手は、半分正解であったが、”じぶんたちが使えるようにする”と

言う意味では、薬の効きすぎであった。

担当課で押し問答をしても、話は前に進まないだろう。

だが…

 

「これは余談なんですが、公園の遊具、色落や錆の箇所が有るようですから

　しっかりと確かめた方が良いですよ…けが人が出る前にね」

 

狛呂が軽く指摘してみる。

 

「ええ、それもわかってるんですが、なにぶん予算がなくて…」

「そのことでしたら、私たちがボランティアでなんとかしますから」

「…そうですね、市長の通達も、遊具が危険だということから

　来てるのかもしれませんし、一旦問い合わせてみます」

 

お役所仕事と言っても、なかなか人当たりのいい担当者に当たったようである。

 

「…ええ、はい…はい…誰にも使わせるなということですけど…

　・・・あ、あの学校なら大丈夫？わかりました」

 

どうやら、話は前に進んだようである。

 

「お待たせしました。ボランティア活動もしてくださるということでしたら

　大丈夫だそうです」

 

市長はそう言わなかったが、この辺は市の担当課として儲けたというところであろうか。

ともかく、公園を一日使用する許可はもらった。

 

「ですけれど、すぐには無理ですよ。私たちも安全を確認するために行かせてもらいますから

　日程を調整しないといけません」

「ええ、それはかまいません。ですが、学園祭に間に合わせたいので

　出来るだけ早めにお願いします」

「わかりました。連絡先はこちらでよろしいですね。では」

「はい、ではよろしくお願いします」

 

台本を作るのに、ある程度日数が掛かる方が有利ではある。

そして、公園の歪みを調べるのにも。

 

「さすがに今回は無理かと思いました。」

 

狛呂が紅葉に話しかける。

 

「ええ、私も、市長から禁止と言われてると聞いたときには

　不安になりました。ですけれど、借りられてよかったですね」

「さて、それでは戻り次第対策と台本等の製作ってところですかな。」

「そうですね、狛呂様。」

 

---

 

それから、数日が経った。

ここは、例の公園である。

 

「では、ボランティア組の方は、市の担当者の指示に従って

　遊具の塗装をお願いします。遊具の補修については

　専門の業者の方が来られますから、邪魔にならないよう

　指示に従ってください」

「へーい」

「弁慶、これも大事な仕事だ、がんばってやれ」

「しかし、源平合戦の話なのに、俺達じゃなくて

　なんで王国軍と魔族達が演じるんだよ」

「あら〜弁慶さんは〜不満なんですか〜」

「しょうがないよ。このプロジェクトは、王国軍と

　魔族達とで、いがみあって大事なところを吹っ飛ばさない

　っていう意味もあるんだから」

「それはわかってるんだけどさ、そういえば玲奈の奴はどこへ？」

「玲奈なら、メガホン持って監督やってるわよ」

「なんで玲奈が監督やってるんだよ」

「それは、玲奈殿が脚本を書いたからだろう」

「…」

 

---

 

「それでは、これから平家物語異聞・少女義経伝の撮影を開始します。

　まずはじめに･･･」

 

公園の中心で・王国／魔族軍の兵士相手に今日の予定を伝えるのは

咄嗟の思いつきで言った事とはいえ、発起人であるため慣れない準備と進行を努める京介だった。

 

「玲奈殿が京介殿に語っていた平家物語が大変面白いというトキの一声があり

　皆もそれは面白いと、意見が一致したために　このような仕儀とあいなり申した。

　本日は合戦の部分の撮影のみとし、姫様達の部分は後日撮影となり候。」

 

ちょうどタイミング良く紅葉に向かって説明しているのは、【超・雑用（劇場版）】と書かれた腕章をしているB.S.E.だった。

 

「どんな物語だ？」

 

そうつぶやくのは、コオルの父、アデルバート・リアロである。

公園を貸し切るのは、公園の補修のためでもなければ劇をとるためでもない。

目的はあくまで、公園の中にある空間の歪みを調べることなのだ。

 

「コオル、おまえは歪みが見えるか?」

「見えるかって言われたら…確かに歪んでるとは思うけど、場所までよくわからない」

「おまえ、これだけ空間にひびが入ってたら気がつくだろ、本当に召喚術師か?」

「アデル、言い過ぎですよ」

「悪かったよ。…けど、これはかなり酷いな。…と、コオル、嬢ちゃん達は

　召喚しておきな」

「この格好じゃ危ないって事?」

「そうだな、卯月。この歪みの向こうからは邪気が流れ込んできてる。

　何が起きるか本気でわからんぞ」

「おっかないですね」

「お、おねえちゃん…」

「召喚獣の状態なら、今までモンスターを蹴散らしてきた。問題無い」

「じゃあ、５人とも今から召喚するよ」

「コオル、大丈夫?」

「へーきへーき、…この公園には、魔力が十分にあるから」

「それがわかってなんで…と、まあいいや」

 

召喚少女を現地で召喚する。

 

「けど、この格好はあんまり他人には見せたくないね」

「クラスメートに見られたら、なに言われるかわかんない」

「コスプレの一種と思えばいい。向こうでやっている

　劇の撮影に出るよりはまし」

「おねえちゃんみたいに割り切りたい…」

「あら〜こっちの方がかわいいわよ〜」

「…とにかく、これで、ちょっと歪みをひらいてみても大丈夫…うわっ」

「出たわね、モンスターが」

「うわ…」

「リザードを一撃…」

「ま、この程度の相手ならこんなものね」

「腕は鈍ってないな、綾子も」

「こっちに来てからも、鍛錬は怠らなかったから」

「そ、そうなんですか」

 

綾子が一撃で現れたモンスターを片付ける。

あっけにとられているのは召喚少女達一同だ。

 

「…これじゃ、ボク達の出番、ないかもしれないね」

「卯月、油断しない方がいいよ」

「コオルの言うとおりだな。…こりゃ、魔力が多すぎるし

　中の空間も歪みすぎてる。

　ここを通ってリドラスヘイドに帰還するなんて、考えるだけ無駄だろうな」

「じゃ、戻ることは出来ないの?」

「いや、対策はある。あるんだが、かなり大がかりになるな」

「どうするのかしら〜」

「多すぎる魔力を一旦吹き出させる。その上で、あぶれ出た化け物を退治して

　その後で、安定した魔力の供給を受け、帰還のためのゲートを開く。

　ただ、吹き出す魔力の量によっては、この町全体にモンスターをばらまく

　結果にならんとも限らん」

「それじゃだめじゃない…」

「この町から全員疎開してください、っていうのは、公園を借りるようには行かないよ」

「だが、この歪みを放置しておくと、いつ自然決壊して同じ結末になるかわからん。

　それが今日起きるか、それとも一年後か、十年後か、そこまでの予言は無理だな」

「…やらなきゃいけないことだってことね」

「そうなる…正直、この百年に一度の天才、アデルバート様でも

　こんな事は初めてで、予測はつけられないな」

「…どうすればいいのかしら…」

「考えてみても始まらない。疎開が必要なら、疎開してもらう方法を考えねばならない」

「お姉ちゃん…出来るかな…」

「方法は今から考える」

 

そう、公園を借りて歪みを調べるのがゴールではないのだ。

この歪みを取り除き、王国軍と魔族達がリドラスヘイドに帰還する。

そこまでやって、初めて、ゴールと言えるのだから。