【リアクション３６】ホワイトバレンタイン狂詩曲
「ヒルダくん、状況はどうなってるかね？」
「はっ。三魔将もおとなしくリドラスヘイド帰還の鍵を探すことに専念し
我が軍への攻撃準備と見られる行動は、むしろ慎んでいるようです」
「だが、所詮は魔族だ。いつ気が変わるかもしれん、奇襲の可能性は
常にあたまにおいておかねばな」
「わかりました」
「むろん、君が人質に取られる事態を避けるための保険もひつようだ。」
「それについてはすでに、一定の手はうってあります」
「一定の手だと？」
「は、まずは情で結びつきをつくるのが基本かと」
「それで、ホワイトデーか」
「２月１４日に、特定の個人が極度の不幸に見舞われるのを
回避する手伝いをすることで、我々に敵意が無いことを
理解していただこうと」
「そうか。…こうをそうするとよいが」
「それは、最後まで見てみなければわかりません。
ホワイトデー前日のとある日
「････それでは、これよりホワイトデーに向けた男子生徒の為のお菓子の製作講義を開始致します。」
料理の事になると普段は必要以上に明るい京介が異常に暗い、視線も微妙に焦点が合っていない。
というのも･･･
「ホワイトデーのお菓子製作禁止令（仕事以外）」
が出された為だったりする。
理由はバレンタインデーの時に作り親しい人に配った、チョコレートケーキが乙女達の誇りを打ち砕いた為だという。
本人には全く自覚が無いがそういう事情な為に禁止されているのであった。
一応、みねあの購買部分は許可されたが商品として作るには原価率などの制限があるため
思い通りに作れるというわけではない。
そういう訳で禁断症状が貯まってきているのであった。
一つだけ抜け道があった。
それが、みねあの購買部主催という名目でもお菓子作り講座である。
自分の思い通りというわけではないが、少なくとも、男の手料理である。
予算はそれほど気にせずに作ることが出来る。
「卵にバターに小麦粉と……後は未だ処理しきれないこのチョコだな」
こんな事を言いながら、熱心に京介の講義につきあってるのが無月である。
彼もまた、２月１４日に不幸な男の一人、食いきれないチョコレートの持ち主だ。
「チョコクキーにしようと思うがどうだ？」
どうだ、と言って京介に聞くが、そのできばえは
京介本人には劣るとしても、素人の作とすれば出色である。
「一応、自炊してるからな……ある程度の腕はある」
ある程度、とはいえ、この腕前、伊達ではない。
だが、こんな生徒ばかりではない。
「おい京介、なんか真っ黒になったぞ」
重曹とベーキングパウダーの区別ぐらいつけろ。
「おい京介、なんか焦げたぞ」
言われたとおりに火加減しろ。
「あちちち」
熱いのは常識でわかるだろ馬鹿！
…がんばれ京介、負けるな京介、ホワイトデーはあと３日後だ。
てなわけで、当日がやってくる。
「廉也聞えるかい?うちだ、修吾だよ」
「あ、はい、弁慶さんから借りた携帯ですけど、ちゃんと入ってます」
「手短に言うから聞いてくれ
一階にある教室に来てくれ追っ手を引き受けるよ」
「わ、わかりました」
とはいえ、一階の教室にたどり着くまでがまず難しい。
すべての階段、すべての曲がり角に、美少女化した廉也ねらいの男子生徒と
バレンタインを逃した女子生徒が待ち構えているのだ。
「………そっちに隠れてろ 匿ってやる」
こちらは、ホワイトデーなら無事な無月である。
大量のチョコクッキーを抱えて、何か秘策があるようだ。
「よう、無月、廉也見なかったか？」
「西に行った」
「そうか、ありがとよ」
無月なら、むしろ廉也を犠牲にするだろう、という
この男子生徒の読みは、もちろん外れていた。
そして、一人が廉也を追うことで、鉄壁の包囲陣だった
対廉也の陣に、ほころびが出来たのである。
「………もう行ったぞ廉也」
「ありがとうございます無月さん」
廉也は、指定の教室を目指す。
「さてと……このクッキーを渡しに行くか」
無月の方は、いつでもマイペース、かつ律儀ではった。
「こっちだ…この窓から出て逃げてくれただし…」
修吾のいる教室に逃げ込んだ廉也を、かご抜け同然のやりかたで
窓から逃がす。
「僕は囮で隠れてますよ。はぁ…楓様のご命令とはいえ
損な役回りですねぇ」
ぼやいてるのは源九郎。彼が廉也の身代わり、というわけだ。
スタンピードよろしく、頭に血の上ってる追っかけ達には
廉也と変装した水原＝源九郎との違いも見分けが付かないらしい。
さて、男子たちが教室に大まかは言ったろ頃を見計らい
修吾は仕掛けを発動させてドアにロックをかけた
「…さて、言いたい事は有るだろうけど……
少し頭を…ヒヤソウカイ…
ナニ今回貰エナカッタト言ッテ怒ッテ居ナイカラナ…ククククク･･･」
「なんでおまえが廉也の味方をする。というかさゆり君の情報では
確かにこの教室に廉也が逃げ込んだはずだが」
「そういえば会長…さゆりさんにはお返ししてんだすか?」
「私は部下からもらったものは３倍返しにすることにしているのだよ」
それって普通にホワイトデーのお返しじゃないんですか？
修吾のお仕置きより、この会長の台詞で、男子生徒達の頭が冷えた。
その後、会長の身に起きたことについては、書くのに忍びない。
修吾が目をそらすレベルだった、とだけ記述しておこう。
さて、戦い済んで日が暮れて、B.S.Eはお館様こと、紅葉に報告していた。
「お館様、依頼にあったホワイトデーのお返しの代理発送はすべて終了したでござる。
後で問題が無い様にとの依頼で御座ったので、すべて後日埋め合わせの約束をして来たで御座る。
キャンセル待ちが１４件、デートは６ヶ月待ちの状態、最終回Aパートが危ないが気をつければ大丈夫とは
会計殿の言葉でござるがどういう意味で御座ろうか？」
「良い船だという意味と、京介様からお聞きいたしました」
どんな関連があるのか、B.S.Eにも紅葉にも、当然わかるはずはなかった。
ただ、ナイスなボートに乗っている男と、廉也とでは、性格が
全然違うだろうとだけは、指摘できる。
「結局渡せなかったな楓に…」
「あんた、なにやってるのよ。源九郎は役に立った？」
「え、楓…お疲れ様、大変じゃなかったかい?」
「あたしは、廉也の魔法を解く手伝いをしただけだから特に何もしてないわよ。
けどま、気持ちはつかれたかな」
「なら食べるかい?中身はチョコクッキーだけど…」
「あ、そ。まあ、あんたには先月何も上げてないし、そういう意味でならもらってあげてもいいわよ。
「改めて今後ともよろしくな楓」
「…変な修吾。ま、これからもよろしく」