「それじゃ、行ってくるよ」
「弁慶、狛呂、無月、修吾、気をつけてね」
「大丈夫だよ九羅香。コオルからの紹介状があるから
　最低限、話だけは聞いてもらえると思う」
「万が一の場合に備えた修吾殿の策もある、我々の危険は、そう恐れるほどでもない」
「心配してるのは、弁慶達より、オズワルド達なんだ。」
「…確かに、それは危険だな」

 

ここで、狛呂が口をはさむ。
「とにかく、将軍たちが戦闘を止めてくれるよう頼むしかないか。」
　（魔動機の心臓･･･そういやサバ部長が綺麗な何かを拾ったてきいたけどまさかな。）

 

「どうした狛呂、心配事でもあるのか？」
「いえ、とにもかくにも将軍の説得へ向かいましょう」

「成功するにも失敗しても、安全は確保するのに多少腕の立つ奴が隣に必要だろ？」

 

無月の言葉で、話は決まった。
一行は将軍の説得のため、コオルから聞いた”軍使の旗”を持って将軍の
立てこもる旧温泉宿へと向かう。

 

---

 

「それで、あなた方は何のために来たのですか？」

 

応対に現れたのは、副官のヒルデガードだった。
将軍と直接対話したいところであったが、これはある意味仕方あるまい。
むしろ、強硬派の将軍との対話でないぶん、話を聞いてもらえる可能性は高いかもしれない。

 

「では単刀直入に、こちらの世界での戦闘行為は止めてもらいたいのです。」

 

話の口火を切ったのは、狛呂だった。

 

「そもそも、こちらでその魔族の方々と戦っても何の得もないとおもいますが。」
「損得の話をしているのではないのですよ。私たちの任務は、リドラスヘイドの防衛。
　リドラスヘイドを守る最良の方法は、魔族の頭脳がこちらに集まっており、かつ
　何ら援護のない今、それを切り落としてしまうことなのです」

 

「お久しぶりと言ってよろしいでしょうか?
　以前コオルと供に居た者で橘という者ですが…」

 

ここで、修吾が話に加わった。

 

「納得が行かないでしょうから説明しましょう…
　まず一に戦力と言うか装備の違いですね…
　ハッキリ言って彼方の装備は今に比べて数百、千年前の装備に該当しています
　よっていくら魔術があろうと本気で来られればものの10分であなた方の負けです
　次に彼方方の探している物についてですが、仮に手に入れたところで確実に勝てると
　本気で思っているのですか?」

「勝ち負けの話をしている訳ではありません。
　この世界で戦うなら、我々は、リドラスヘイドを守る事が出来るのです」
「もしここで関係の無いこちら側の人を大勢巻き込んで勝ったとしても
　彼方方はテロリストのレッテルを張られることになるんだ、それでもいいのか」

「それにその魔族の方々がこちらで何かしたというのも聞きませんし。」

 

狛呂が付け加える。
確かに、この状況、この世界で、事を起こし民間人を危険にさらそうとしているのは
王国軍であって、魔族でははいのだ。

 

「将軍なら、こうおっしゃるでしょうね。
　『自分たちがどう呼ばれるかは問題ではない。我々がリドラスヘイド王国を
　守れたかどうか、それが問題なのだ』と」

「なぜ判ろうとしないんですか彼方は！」

 

修吾が感情をあらわにした。

「親方様より将軍殿と参謀どのに学校を案内せよとの事でござる。

　軍を派遣するのはその後でもよいではござらぬか。

　学校という所は関係者しか入れぬ故、将軍殿は外国から仕事で来た拙者の叔父上、

　参謀殿はその部下、甥の通う学校を見に来たという事になっているでござる。」

 

！

 

その場にいた全員が、びっくりして弁慶…いや、弁慶だと思っていた人物の方を見る。
そこにいたのは、弁慶ではなく、B.S.Eだったのだ。

 

「そう驚くことはないでござる。親方様のご命令で弁慶殿に変装して付いてきたでござるよ。
　似てない部分は、コオル殿の魔法で補正下でござる。」

 

「…安全は誰が保証するというのです？魔族達だって、我々と同じことを考えるでしょう？」
「安全ならうちが保証するで」

 

さらにもう一つのびっくり。…だと本人だけが思っていた。
みねあが急に姿を現しても、誰も驚きはしないのだ。

 

「正直な、王国軍に協力するのも商売や。
　けど、もし、うちのお客に手ぇ出すっちゅうんやったら、うちも
　商売続けるわけにいかんのよ。
　…それに、な。面白い情報、あるんよ」
「また有料なのでしょう」
「いや、ただや。うちが教えるわけやないからな」
「それは一体？」

 

「そういえば、将軍は魔動機の心臓を探しているとか。
　それでどうでしょうか、動きづらい貴方達に代わって自分たちがそれを探す。
　そのかわり貴方達はこちらの世界での戦いを止めるというのは。」

 

まず、狛呂が切り札を切った。これでだめなら…

 

「もしうちならこの力を逆に利用して力をつけ元の世界に戻ろうとするでしょう

　それとも彼方方は確実に無いと言い切れますか…」

 

次に、修吾が追い打ちを掛ける。
そうだ、この二つのファクターに、みねあの存在と
魔族達が既に学園にとけ込んでいるという要素を掛け合わせると
出てくる結論は、一つしかない。

 

「…………わかりました。…あなた方の言おうとしていることは。
　あなた方が魔族達と協力して、セルディーアーシュへ、三魔将達を
　帰還させる方法を見つけ出したとしたなら、我々は、逆に
　この世界で孤立し、リドラスヘイドは滅びる、というわけですね。
　いいでしょう。将軍は私が説得します。
　ですが、条件があります」
「条件？」
「魔道機の魔力でセルディアーシュに帰還する方法が見つかったならば
　我々に、帰還の優先権を与える。
　魔力の量の都合で、魔族達が先に帰り、我々が取り残される、というのでは
　我々としても、受け入れられるものではありませんからね。
　あと、学校への招待は、今受けることは出来ませんが、いずれ
　案内してください。我々は、この世界についてあまりにも情報が少なすぎます」

 

「納得してもらえてこちらとしてもうれしい限りです。」
「ふぅ…判ってくれてうれしいです」

 

ひとまず、戦闘そのものは回避された。

 

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「だが、狛呂殿、あの場面であのような話をする必要はあったのか？」

「あのまま、戦うよりはマシだったと思いますけど、形等は教えてもらったし、
　心当たりがないともいえないから。」
「そうだな。…あのまま戦って王国軍を壊滅させたとすれば」
「…学園が無くなったら、僕が卒業できないよっ！」
「あんたね、何心配してるのよ」
「卒業できないとボク達のねが・・・と、何でもないっ！」

 

どうやら、コオル達も心配で迎えに来たらしい。

ひとまず、危機は回避されたので、コオルも一安心だろう。

 

代わりに、何かひどいやっかいごとを抱えてしまったことには
まだ、説得に向かった誰１人、気づいてはいなかったが。