ここは、生徒会室。今やっているのは、リンクス先生歓迎会の準備である。
リンクス先生について、正面から話を聞こうという目的でひらくのだが
元々、楽しいことは大好きな、弁慶の学校の生徒達である。
たちまち、体育館を使ってのパーティへと発展していた。

「飲物はこのぐらいでいいですかね。」

　歓迎会の準備のため飲物を購入して来たのは、狛呂である。

 

「それぐらいあればええやろ。 料理の方も準備は出来てるみたいや」
「さて、先生を迎えに行きます？」
「そうやな、せやたら、狛呂、悪いけど呼んできてや」

 

パーティの準備は整った様だ。

 

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「おや、皆さん、これは一体どういう事なんですか？」
「いえ、せっかくこちらに来られたのですから、歓迎会を開こうと思いまして」
「うん、普通の先生だったら、担任のクラスで歓迎会をやるんだけど
　保健の先生だったら、担任とかないから」
「それで、生徒会でやることになったんだよな」
「……あ、あの……こ、ここの……学校の……人は……そ、その……ええと……
　…あの………パーティとか……大好き……です………から………そ、その……
　………ええと……あの……気に……しなくて………大丈夫……です………
　……あ、あの………遠慮……なさらずに………り、リラックス……して……えと……」
「みあさんでしたか。そんなに緊張されなくてもよろしいですよ。
　私も、皆さんと一緒にいるのは、楽しいのですから」
「あ……ありがとう……ござい……ます……」

 

体育館には、三々五々生徒達も集まってきている。
生徒会メンバーの九羅香達が今はリンクス先生を取り囲んでいるが
他の生徒達も、リンクス先生と話をしたがっているような雰囲気が高まる。
どうやら、そろそろ、頃合いであるようだ。
体育館の館内放送から、勇姫の声が、歓迎会の開始を告げた。

 

「新しく来た先生の歓迎会を始めるよ」

 

…どうやら、エイミィは、欠席のようだ。

 

「それじゃ自己紹介をお願いしようかな？」
「そうだね。仮にも主賓だし、ちょっと自己紹介をお願いしてもいいかな、リンクス先生」

 

すっかり忘れられているかもしれないが、九羅香の”お願い”は
言葉では表現出来ない、逆らいがたい魅力がある。
その魅力がどれくらいかというと、あのみねあ相手に値切れるほどであることから、想像がつくであろう。
このお願いが断れれば、鋼の意志の持ち主と呼んで過言ではあるまい。
さすが、義経軍団の長である。

 

「…なんか全然ほめられてる気がしない…」
「九羅香、あんまりナレーションは気にするなよ」
「自己紹介ですか…自己紹介といっても、あまり語るべき事もありませんよ。
　私の名前はリンクス。 医者をやっています。…それぐらいですかね」
「先生！前はどこの学校だったんですか？」
「学校じゃなくて、町医者だったんですよ。ホートウィッシュっていう外国の街でしてね」
「ホートウィッシュって、どこの国にあるんですか？」
「どこ…と言われても、どこなんでしょうね。辺境地で、国境が定かじゃない所ですから」
「じゃ、どこの大陸にあるんですか？」
「そうですね…ヨーロッパと言えばヨーロッパ、アジアといえばアジア…そんなところですね」
「中東の近くなんです？」
「そうそう、大体そんなところです」
「へー、だったら、リンクス先生って…」

 

生徒達の質問は続いている。リンクス先生は、付け焼き刃ながら
校医として採用されるために作った設定を使って、ややぼろを出しながらも
なんとか怪しまれない程度には、受け答えを続けている。

 

「果たして敵か味方か……見極めないとな」

 

そんな様子を、すこし離れたところで見つめているのは、無月である。

 

「まぁ……敵ではなさそうだな」

 

確かに、リンクスにとって、この世界の住人は、敵ではない。
問題はリドラスヘイドに魔族の生存圏を確保することであって
この世界の人間を排除することではないのだ。

 

「まったく、もう少し楽しんだらどうだ？ほら、飲物。」
「 楽しいわけがあるか。…おかしい、計算が狂った」

 

狛呂に首根っこを捕まれたかのごとく、〜実際、手首は捕まれているが〜会場内で

うろうろしているのは、サバイバルゲーム同好会の会長である。
襲撃計画を立てたまでは良かったが、玲奈の忍ねこに準備を一切合切観察されたあげく
何食わぬ顔で、襲撃作戦に取りかかる前に、狛呂に捕まって、普通に会場内へ
連れ込まれたというわけだ。

 

「まったく、いつもながらがんばる人だな。」

 

仕掛けを解除しながらつぶやいているのは、無月の方だ。
下らないことではこまめな会長であった。が、もはや
襲撃計画以前の問題だろう。第一、リンクス先生の回りにいるのは
女子生徒より男子生徒の方が多い。これでは襲撃する意味すら存在しなかった。

 

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さて、同じ頃。公園では、BSEがさゆりとエイミィの、インスタント連合に縛り上げられていた。

 

「訳のわからない騒ぎなんて起こさないで欲しいわ。
　…はぁ…こんな馬鹿会長だけで余ってるっていうのに…」
「うちにも１人、似たようなのがいる。どこも同じ」

 

アレクサンドラが聞いたらまた怒るだろうが、幸い、ここにはアレクサンドラはいなかった。
BSEにはBSEで、何か考えがあったようだが、さゆりとエイミィの方が、一枚上手だったようである。

 

「…（くすくす）…それで…何か用事かしら…」
「ま、用事っていえば用事かも。
　あんたの歓迎会もかねて、リンクス先生の歓迎会やってるのに
　なんで、出席しないのかなって」
「…向かえに来たの？」
「ま、そう理解するなら、そうしてもらってもかまわないわ。
　私としては、単に理由が知りたいだけなんだけど」
「…気が向かないから」
「けど、みんな、楽しみにしてるのに」
「あなたの所の会長が、へまをするのを見るのがかしら？」
「あれはあなたがいないからって、なんかやらかすわよ、たぶん」
「（くすくす）…私が行かなければ、何も起きないんじゃないかしら」
「………あんた、一体何者？」
「エイミィは、エイミィ、あなたは、あなた」
「………それで、あなたは一体なにものなの？」
「人に聞くときには、まず自分が名乗る物」
「………………」

 

さゆりは、ここで言葉に詰まった。
さゆり自身、神機争奪戦が終わったとはいえ、今だ
すべてを語れる立場ではないのだ。

 

「……まあいいわ。私自身が調べなくても、たぶん、他の人が
　あなたのことについて、調べるでしょうから」
「…言えないことがあるんだ」
「ま、お互い様よね。じゃ、あたしは、会長のへまのアフターフォローでもしてくるわ」
「ついでに、あそこの二人も引き取って」
「あそこの二人って？」
「…気づかないの？」
「………気づかないわけじゃないけど、あたしの管轄じゃないわよ」
「…けど、あてにしてるでしょ」
「！…あなた、一体…」
「エイミィは、エイミィ。ただ、それだけ」

 

そういうと、エイミィは、公園の奥へと姿を消した。

 

「ここかい玲奈、ねこ忍が巻かれたと言う場所は」

「ああ、そうだぜ。…てか、さゆりの奴と会話してたみたいだな。
　大体の会話の内容も聞き取れたし、これは結構な収穫かもな」

「どうやら見に来て正解だったようだな…」
「まあな。…けど、結局小隊については手がかりなしかよ。
　おまけに、つけてたの気づかれたみたいだし、こりゃ本格的に
　場所を変えられるかもしれないぜ」
「恐らくだが普通の人には判らないように結界が張られている様だ…
　で、その中に入ったもんで猫達が見失ったんだと思うぞ」
「みたいだな。楓の奴でも連れてくりゃ、正確なことがわかったんだろうけどな」

 

結界を破ってその先へ、というのは、やめておいた。
そこまで相手を追い詰める段階でもないのだ。…今は、まだ。

 

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さて、舞台を、歓迎会会場へと移そう。

 

「いーのかなぁ。私たちまで参加してて」
「大丈夫よ、ルテジア。生徒会経由で先生に話を通せば、ルテジアやこの子だって
　聴講生ってことで、学校に来れると思うし」
「そーそー。この学校って、かなりゆるゆるだから」
「おねーさんまで呼んでもらって感激〜」
「ていうか、おまえ達もすこしは手伝う。結１人ではかなり不安だ」
「お、お姉ちゃん…その…」
「え、ええと………あの………人数が………多い……です…………から………その………」
「…悪かった。みあに結、この二人では不安が大きすぎる。
　この人数に料理を適時供給するにも、京介だけが手伝いでは手がまわらない。
　すこしは手伝え」
「いいわよ、お姉さんが手伝ってあげるから。
　コオル、あんた、出来た先から持ってきなさい」
「ルテジア、何もそこまでしなくても」
「そうねぇ〜おねーさんも、てつだっちゃお〜」
「わかったよ、じゃあ、僕も手伝うよ」
「そうこなくっちゃね」
「じゃ、まどか、…お約束だけど」
「…:お約束だけど」
「あ、あの…何も、こんなところまで張り合わなくたって…」
「キミは、公正に判定すればいいの」
「そういうこと」
「私は、皿を割らなければなんでもいい」
「え、えと……」
「READY-GO!」

 

まどかと卯月は、配膳勝負を始めてしまった。

 

「まあ、こうなるとほっとくしかないやろなぁ」
「お、お姉ちゃん…」
「不安材料がまた増えた…」
「え、ええと……あの……そんな……言い方を……ええと……」
「晶ちゃんはツンドラさんですから、口ではイヤそうに言っていますけど、
　実際は全然そんなことないです。
　本当は頑張って作った料理をきちん食べて欲しいんですよ。」
「……ええと……あの……それなら……その……」
「みあも話をしてる暇があったら働く。結、皿を下げてきて」
「あ、はい…お姉ちゃん……」
「人使い荒い毒舌家とつきあうんも、大変やなぁ」

 

みねあ、おまえが言うなおまえが。

 

「何と言うか……弁慶や俺達と同じ女難の気配がするな」

 

ぼそっと無月がつぶやく。
ていうか、平成義経伝の続きのこのお話では、コオルの方が弁慶より
よっぽど女難だろう。…廉也との比較に耐えるぐらいに。

 

そうつぶやいた後で、無月はコオルのそばへ近づいていった。

 

「一応俺のアドレスを教える。困った時にでも呼び出せ」
「え、ええと…教えてもらっても、パワーが足りないから、いいよ」
「…ちょ、キミ、そういう意味じゃなくて、電話を掛けろっていう意味だから」
「あ、普通に話をしてって意味…わかった、ありがとう。僕の番号も教えるからね」

「それじゃコウル君　私のアドレスを教えるね」
「あ、勇姫、勇姫もこの子とアドレス交換するんだ」

 

二人とも、何かを感じ取ったようである。
もっとも、コオルの方は、教えてもらっても、無月や勇姫に電話を掛ける段ではないようだったが。

 

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ステージでは、今静御前のダンスが終わったところだ。

 

次は、徹の水芸の番である。

 

黙って一礼、そして、教科書通りというか、普通のというか、扇から
水を出したり、帽子から水を出したり、さもなければ靴から水を出したりと
形通りな水芸を披露する。

 

正直、静御前のダンスの後では、やや見た目は見劣りすると言っていい。

 

「…ほぉ…この世界にも、ああいう人がいるんですね」

 

リンクス先生がつぶやく。その次の瞬間。

 

ざっぱーん。

 

リンクス先生の頭にばっさりと水がかかった。

「申し訳ありません、あの馬鹿を妨害する為に仕掛けておいた罠だったのですが、
　うっかり撤去するのを失念しておりました」
「いえいえ、いいんですよ。中々面白い出し物でしたからね。
　ですが、私もさすがにぬれたままというわけにはいきませんから、すこし着替え来ますね」

 

よけもせずに、リンクス先生は水をかぶったわけだ。
これで、たいていの人は、リンクス先生がただの人だと思っただろう。

 

「…ふむ…水がかかる前に、身構えていた…どういうことだ？」
「与一様、何かおっしゃいましたか？」
「いや、気のせいだろう。…まるで、避けようと思えば楽に避けられたにもかかわらず
　わざと、あの水をかぶったように見えたのだが」
「与一様も、そう感じられましたか？」
「観月様？」
「私が水の気配を感じるのと同時に、リンクス様の気配が変わりました。
　リンクス様も、私と同じように、何かを感じ取られたようですね」
「………ただ者じゃないってことね」
「ま、それは前からわかってたことだろ。謎は全然解けてないけど
　…少なくとも、敵じゃなさそうだよな」
「油断しないことよ弁慶。本当のスパイは、犬に噛まれても蹴飛ばさないものなんだから」
「楓も疑いすぎだと思うけど…」
「ですが九羅香様。リンクス様お話は、ほぼすべてでたらめではありました」
「玲奈さんが〜戻られたら〜情報を〜つきあわせて〜みましょう〜」

 

いや、そんなことより、水で濡れた床をなんとかする方が先だろう。
というわけで、九羅香達は、モップで床をふく作業に取りかかった。
徹は小さくなって謝っている。さすがに、ちょっとやり過ぎたかな、とは思っているようだ。

 

（…あの人、人間じゃ…ない…）

 

何か、そう確信させるものを、見つけたのも、事実のようだが。

 

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（…ふむ、あの少年…そして、あの少年のつれていた召喚獣そっくりの少女達…
　……意外な発見ですね。これは、私の方からも、調べてみる必要があるのかもしれません）

 

保健室で、びしょ濡れの服を着替えるリンクス先生もまた、何かを見つけたようだった。
それが次に何をもたらすのか。それは、まだ、リンクス先生にも、わからない。