「あー暇だ…けど、なんで夏休みに入院なんだよ…」「

 

ぼんやりと病室の外を眺めているのは、ずっと木曽義仲の霊に
取り憑かれていた、鈴木である。
式神にぼこられた打撃は、義仲が受けきれるようなものではなく、鈴木の
体にもしっかりとダメージを与えていたのだ。
おまけに、義仲にとりつかれていたせいで、鈴木自身の精神にも
多少の影響は入っている。それが抜けるのを待つという意味もある。

 

「あいつ等はまだ来てないのか……ほら受け取れ」

 

そんな、ひまそうにしている鈴木の病室に現れたのは、無月であった。

 

「あ、神城先輩、リンゴですか？頂きます」

「しかし、災難だったな……まぁ……あまり手をかかせるな」
「好きこのんでやった訳じゃないですよ。
　長野先生に単位でおどされなきゃこんな目に遭ってないのに…」

 

脅されるような成績しか上げてないのがわるい。

 

「俺はバイトがあるからな……そろそろ帰る」
「お見舞いありがとうございました」

 

仮にも先輩である、さすがの鈴木もお礼ぐらいは言える。

 

「…はー、長野先生は頑丈だなぁ。もう退院してるもんな…」

 

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その頃、修吾はというと、実家に帰る前に、紅葉のいる生徒会室に寄っていた。

 

「お、どうやら間に合ったみたいだな、紅葉君に渡さなきゃならない物だあってな」
「橘様、わたさなければならないものとは、何でしょうか？」

 

渡さなければならない物とは、結構分厚い封筒だった。

「その中身はこの前の海で会長が隠し撮りした写真がていて
　それを無許可で売り捌く寸前で手入れを入れたから平気だと思うよ」
「相変わらず懲りない人ですね…ですが、どのようにして入手されたのですか？」

「ああ、このことはさゆりからのタレコミでね、さゆりは会長を追ってお灸をすえるとか言っていたな…」
「 さゆり様も大変ですね」

 

そうは言いつつ、紅葉も決して怒ってはないようだ。
あの会長のやることぐらい、さゆりには思いつく前にお見通しだからだろう。

「お見舞いは…さっさと戻って来い…と伝い解いてくれるか
　うちは届けなければならない物があって行けないものでたのむよ」
「ええ、わかりました、伝えておきましょう」

 

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そんな会話が為されていた頃、鈴木は別な見舞客を迎えていた。

 

 

「鈴木氏、今回は災難でしたね。
　その怪我の原因となった件には、私も一枚噛んでまして、せめてものお詫びです。
　つまらないものですが、お納め下さい。」
「清流院か、ありがとな。漫画を持ってくるなんて、ほんと気が利いてるぜ」

 

あらかじめ弁慶から、どんな漫画が好きか聞いた上で持ってきているのだ。
暇をもてあましている鈴木にとっては、ありがたい見舞いだったろう。
しばらく、夏休みの様子について他愛のない会話が続く。

 

「入院生活は、何かと不便でしょう。

　色々溜まるものもありますし、せめもの慰めです。
　……心ゆくまで堪能してくださいね。」
「ああ、堪能させてもらうよ、ありがとな」

 

欲しかったコミックの新刊、入院生活で買いに行けなかっただけに
持ってきてくれた徹に感謝する鈴木であった。
ちょっと引っかかるのは、去り際の笑顔が、妙にどす黒かった気がすることだが
鈴木は自分の気のせいだということにしたらしい。

 

・・・・・・

 

「…うううぅぅぅぅつあああああああああー」

 

ここは病院である。どれほどショックを受けようと、泣き叫ぶわけにはいかない。

 

「……な、何考えてるんだ清流院」

 

なに良くあるパターンじゃないか、エロ本を偽装するのに
カバー部分だけ他の本に変えておくというのは。

 

「…ううぅ…期待してただけにショックがでかい……ていうか
　市販のエロ本ですらねぇ…」

 

中身は、自他共に認める日本最大のイベントで売られていたエロ同人誌だったのだ。
それも、鈴木が楽しみにしてた漫画の。凝るべき所は妙に凝る徹であった。

 

…ていうか、食い入るように読むな鈴木。
その鈴木、ふと人の気配を感じてベッドわきに目をやる。

 

そこには、坊主姿のBSEがいた。

 

「安心めされよ、拙者の任務は親方様の命により、貴殿を護衛するだけでござる。
　他意はござらん。」
「いや、他意ありすぎだろ…おまえオレを殺したいのかよ」

 

はっ！…そういえば、こいつ、俺がエロ同人を読んでたのも、しっかり見てるよな。

 

「い、いいか、ここで見たことは他言無用だぞ、いいな」

 

黙ってうなずくBSE。ほっと安堵する鈴木。

 

だが、鈴木はまだ知らない、BSEの他言無用は、親方様以外の人には、という限定があることを…。