神機を巡る、長い戦いも、教で終わりを告げるはずだ。
巴御前、すっかり忘れてるかもしれないが、鈴木の体を乗っ取っている
義仲、ちょっとした間違いで同好会会長の体に乗り移っている兼平。
そして、ある意味ではもっとも予想通りな、最悪の敵、能登先生に乗り移っている
教経の４人を相手に、今まで準備してきたこと、自分たちの力、そのすべてを
ぶつけて、雌雄を決するべき時である。

 

「なに弁慶かっこつけてるんだよ」
「…あれ？なんだ、さゆりからメール？なんで…
　！…教経の奴が出やがった。俺を捜して校内をさまよってるって…」
「今かえるといっても〜被害が出る前に間に合うかどうか〜微妙ですね〜」
「それでも、弁慶が戻らなければなるまい。最大の切り札として、四天王最後の１人と
　引き替えにして出してきたのだ。
　おそらくは、…神機を抜きにすれば、義仲殿や巴御前を超えているはず」
「しょうがねえな。 こんな事もあろうかと用意しておいた忍法を使うときだぜ」
「忍法？」
「忍法っていうか、これ、普通に犯罪じゃない」
「法の抜け道通るのが忍者だぜ。…よし、おいでなすった」
「おいでなすったって…パトカーじゃないか、どうすんだよ？」
「決まってるじゃない。盗むのよ」
「…本気で犯罪だろ、それは…」
「だけど、考え得る限り、これが一番早いんだ。
　謝るのは後で私たちがやる。
　弁慶と…後一人…」
「九羅香様しかおられませんでしょう？」
「そうですよ〜」
「問答してる時間はないぜ、急げ！」
「うん…わかった。行こう、弁慶」
「…ああ、俺も、覚悟決めるぜ！」

 

ったく、これで俺も犯罪者の仲間入りか。
それでも、やるべき時にはやらなきゃな…。

 

だが、逃げようとする俺たちの前に、ここにいるはずのない人物の姿が現れた。

 

「何やってるんや？」
「みねあ？！一体…」
「話は後。こっちも全力で行くことにしたんよ。
　神機に出来ることなら、みあにも出来るわ。
　今すぐ、１人だけなら、学校に転送で戻せるで」
「わかった。ここは私たちで何とかするから、弁慶、すぐに」
「わかった。九羅香…みんな、後は頼んだぞ」
「せやたら、またな〜みんな無事に帰ってくるんやで」

 

弁慶とみねあの姿が消えた。
残る九羅香達は、警備員どころか、警察相手にも手を打たなければならない。
そして、神機が生み出した妖魔に対しても。

「おっと……ここは通さん……俺を討たん限りな」

 

なんとか、脱出路を探そうとする九羅香達の背後から、全力で妖魔が襲いかかる。
それを阻止するために、無月は体を張って妖魔を食い止める。

 

「…これだけの妖力をこっちに残してるんだから、まだ
　巴御前達は、総力を挙げてないってことだよね」
「そういうことですね〜。こちらの妖魔に手が回らなくなったときが〜
　つまり〜…」
「…妖気が、消えたわね」
「こちら側での戦いは、山を越えたということだな」
「はい〜あとは逃げるだけです〜」
「それが大変なんだろ」
「…もっと大変なのは、学校にいる人達だよ」

 

---

 

その、「大変な」学校にある、生徒会室では、のんびりと

大森と美沙と日嗣と狛呂のお茶会が開かれていた。

 

「なあ、外で何が起きてるんだ？」
「大森が気にする事じゃないわよ。
　それより、…両先輩、そんな張り詰めなくても大丈夫だって。
　ここは、神機があるわけじゃないし、人質にするほどの重要人物もいないよ。
　手の内向こうに全部見られてるってことは、重要度のない所は
　襲われないってこと。
　むしろ、ここを守るより、危ないところを助けに来てくれって言われる方がありそうだよ」

 

そうは言われても、日嗣も狛呂も納得はしていない。
あらゆる出入り口、いや、相手の事を考えれば、壁すら信用できない。
全神経を張り詰めて、警戒を続けていた。

 

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警戒では済まないのが、屋上で、兼平と対峙している徹である。
弱い弱いといわれても、どこから先が実力で、どこから先が
不真面目さによるのか判断つかない会長である。
油断は出来ない。特に、兼平の霊に支配されている今は。

 

「ふふ。屋上までごくろうさん。
　けど、私の仕事はここであなたと戦うことじゃありませんからね。
　ちょっとおさらばさせていただきますよ」

 

学校の屋上には非常用スロープが用意されている。
これを使って校庭に逃げだそうというわけだ。
だが、…

 

「くぅおぉの馬鹿会長がぁあ！。何やってるかっ！」
「おお、さゆり君ではないか。一体どうやって屋上まで来た？
　ていうか、教経はどうした教経は。
　教経を無視して来たのか？」

「なんでかしらないけど、あんたの 保護者があたしってことになってるらしいのよ。
　あーったく、なんでこんなことになったかなぁ」
「来てくれましたか。
    酷だとも思ったのですが、手段を選んでられなかったのです。申し訳ありません。
    本当に助かりました、ありがとうございます。」
「感謝なら、あの馬鹿片付けてからゆっくり聞くわよ。
　中の人がどうあろうと、体はあの会長なんだから、たいしたことは出来ないはずよ」
「私の任務は、戦う事じゃないんですよ。ではさらば…」
「ふふ。あたしたちの方も、戦うのが任務じゃないのよね」

 

そういうと、さゆりは非常用スロープを手裏剣で切り裂く。

 

「これで、使い物にならなくなったわね。
　階段から逃げる？逃げられると思う？
　２：１って、こういうとき不便よね」
「…覚悟を決める時ですか」
「そういうことよ。で、どっちを相手にするのかしら？」
「…どっちも」
「？」
「二人引きつけていれば十分でしょう。
　雑魚は教経がやっつけてくれますし…」
「その教経を倒す秘策があるんですよ。それは…」

 

そういうと、徹は、全力で給水塔の柱を切り落とした。
普通なら、この隙に兼平は逃げることが出来るはずなのだが
さゆりが全力で間合いを詰めてきていては逃げる訳にもいかない。

 

さて、切り落とされた給水塔がどこへ行ったかというと…

 

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その頃、中庭では、誠士が必死に教経を防いでいた。
源平合戦最強の豪傑として名高い教経相手に１人である。
受けに専念しても、長くは持たない。
いや、瞬殺されてないだけでがんばった部類である。

 

「ご大層なのは口だけだな」
「そっちこそ、大振りな攻撃じゃ、当たらないな。もっとよく狙いな！　のろま野郎！」
「俺の敵は弁慶のみ。雑兵相手に酷いことをする気はない」
「…」

 

誠士は天を見あげる。
教経には、それが絶望のまなざしにも見えたかもしれない。
くるりと背を向ける。弁慶を捜しに行くかのごとく。

 

天から給水塔が降ってきた。

 

がこん。

 

想像以上の結果が起きた。直撃である。
これではいくら教経でも確実に死んだだろう。ていうか
これじゃ徹は殺人犯…あれ？

 

「なるほど、これがおまえ達の切り札か…さすがの俺ももう少しで死ぬところだったな」

 

いや、普通死んでます。死んでなければおかしいんですが…。

 

「きさまらは、ただの雑兵ではなかったということか。
　心に名を刻み、敵と認めてやろう。名を名乗れ」
「俺は…」
「教経、またせたな！」
「おお、来たか弁慶。さあ、勝負だ」
「ああ、勝負だ教経…こんな形でなきゃよかったんだけどな」
「何を言うか。俺は貴様と戦えてうれしい…うぬっ」
「そりゃあんなものの直撃受ければ 無事じゃ済まないだろ…」

 

弁慶に出会ったことで、教経の気持ちが切れたようだった。
今まで支えてきた何かが失われたと同時に、教経の霊を呼び戻していた力が
教経をつなぎ止めておけなくなってくる。

 

「…教経、どうした？」
「……すまんな、弁慶…どうやら、これが、俺の限界のようだ」
「………おまえ、一体何しに来たんだよ」
「弁慶…一つだけ、聞きたいことが…ある……」
「なんだ？」
「…おまえは…俺より強い男に会ったか？…」
「………いや、おまえより強い男はまだ見てないよ」
「…そうか…では、おまえとの決着をつけるまでもないな………」
「ああ、男の勝負は、一度切りだ。」
「……そうか………決着はついているということか……」
「ああ、決着はついている、そうだろ？」
「……………」

 

もう、教経は返事をしなかった。
給水塔の打撃のすべてを、教経の霊が受けたらしく
能登先生自身の肉体には打撃が行っていないようだ。

 

「さてと、教経が片づいたら、あとは巴御前に鈴木だけだな。
　とっとと決着をつけに行くぜ」

 

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いえ、その前にまだ残ってるんですが、兼平が。

 

「…教経が一撃で？…そうか、こういう計略か。
　では、時間を稼ぐために、あなた方に恨みはないが、正面から勝負するしかないということですね」
「猿渡流忍法霞隠れの術！」
「姿を消した？」

 

次の瞬間、さゆりは馬鹿会長を正面から抱き留める。

 

「いい加減目を覚ませっての！…はぁ…兼平！いい加減には成仏しなさい」
「さゆりくん、一体なにをやっているのかね。
　何かわるい物でも食べたのではないか？
　相撲の練習なら、牛とでもしてくれればよいのだよ」
「…誰が相撲の練習をしとるかっ！」
「むぅ…柔道の練習であったか…」

 

まともに投げ飛ばされる会長であった。
兼平の霊は、こんな事もあろうかと用意してあった楓の護符で
会長から切り離されたようだ。
元々、鎌田に乗り移る予定で準備されていた兼平の霊である。
体に霊が合わなかったのだ。

 

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「たぶん、これで多少の時間は稼げるんじゃないかな？

　それでこっちのお菓子なんだけど、ポテトチップスにチョコレートソースをコーティングしたものなんだ。

　試しに自分で作ってみたんだけどどうかな･･･」

京介は、購買部の中でのんびりとしていた。

表に看板を出して、これで時間稼ぎをするつもりのようだ。
看板には『ただいま留守にしています。ご用の方は生徒会室までお願いします。　みねあ＆みあ』

 

これで一体どの程度の時間稼ぎになるのかは、わからない。

 

どっか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん☆

 

「うふふ〜テレポート能力があるんだから、いきなりのりこんで一撃粉砕♪」
「教経が目を外に引きつけてくれたろう。ここは全くの手薄なはず…なにっ！」
「どうやら、もらい物の護符が役だったようですね」
「ごくろうさんやなあ…わざわざ、神機を持ってきてくれたんやな。
　みあ、リミッター解除。出力全開…神機の力を封じるんや」
「は、はい…リミッター解除！対神機封印結界全力展開」
「神機が無ければ勝てるつもりか、いざ尋常に勝負しろ」
「…みあ、式神展開。一気に決着つけるで」
「あ、は、はい！」

 

龍騎からのもらい物の式神を展開する。
神機の力が使えれば、十分すぎる勝ち目が巴御前達にあっただろう。
ほとんど詐欺みたいな能力を備えた式神相手に
神機を完全に封じられた状態でなにをやれというのか。

 

「…終わりましたね」
「終わったなぁ…みあ、封印解除から封印解除レベル０に移行」
「あ、は、はい……封印解除から封印解除レベルOに移行………」
「……しばらく、ゆっくり休み。つかれたやろ。
　神機の方は、まあ…恨みっこなしや。三つとも元の姿に戻りや。
　…さてと、一個は…やっぱ、観月がもたなしゃあないやろ」
「あの、ですが…天照大神からの依頼で……」
「その話は聞いてる。けどな、……
　なんで、うちがみあの管理人なんか。…今ここにいる人にだけは教えておくわ。
　………うちの得物、これなんよ」

 

そういって、みねあは、長い槍を見せた。

 

「神機には、それぞれ対になる、神殺しがあるねん。
　神機には、弁慶の槍。
　嘆きの壁には、十戒の石。
　リバティベルには、ジ・オーディナンス。
　…そして、聖杯の対になる神殺しが、これ…ロンギヌス・スピアや。
　まあ、そういうわけでな。
　神機も、今つかえへんからいうて、いつまでもつかわへんのもおかしいやろ。
　まともに使えず滅ぶなら、それはそれで一つの選択や。
　けど、…滅ぶも滅ばぬも、自分で運命を選択してこその人間や。
　神の手は、そんなことで煩わせるべきことでもないんよ」

 

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その頃、警備会社では、B.S.Eが最後の仕上げに取りかかっていた。

 

「忍びという者は潜入することよりも逃げる事を重視するのでござる。

　証拠の隠滅など初歩の初歩でござる。あとは騒ぎを起こして皆が逃げやすくするだけでござるな。

････しかし、日本の発煙装置というのは使いにくいでござるな。」

 

と、いう事で防犯カメラのビデオを抜き取った後は火災報知器の下でサンマを焼いてます。

火災報知器が反応するのは何時になることやら･･･

 

「あー君君、なにをしてるのかね？」

 

いや、見ればサンマを焼いていることぐらいわかりそうなものだが。

 

「！…君、早まってはいけない。密閉された室内で七輪なんて使うんじゃない！」

 

どうやら、練炭自殺と間違われたようだった。
こうして、B.S.Eは警察に、斜め上な理由で連行されていった。

 

警備員達？…彼らは、神機の支配から解放されるとともに、支配されていた
時の記憶もそのまま失ってしまっていた。
室内の破壊も、修吾が修復しておいたので、警備会社側が
九羅香達と、事件とを結びつける手がかりは、何一つ残っていなかった。

 

…ひとまず、この事件は、終わりを告げたと言っていいだろう。