ここは、サバイバル同好会作戦会議室。

 

「と書いて、剣道部部室なんですよね。
　なんで、向こうも気付かないんですか」
「気付かないのではない。許可はちゃんととってある」
「…そこまでなれ合っていいんですか」
「いーんだよ」
「…ぼけてもあげないし、つっこんでもあげませんからね」
「寂しいことを言うな」
「ぐりーんだよ、なんて言ったら寒いんです」
「結局やってくれるんだな」
「やらなきゃ、話が前に進みそうにありませんでしたからね」
「その通りだ。よく私のことを知ってるではないか」
「短くないつきあいですからね。それくらいはわかります」
「そうかそうか。…さて、では、本日、作戦を決行するぞ」
「はあ…いいかげん、あきらめません？なんか生徒会側も
　しっかり迎撃態勢を整えてるみたいですよ」
「男が女の写真を撮るから警戒される。君なら大丈夫だ」
「そういう問題なんですか？」
「そういう問題ではないのかね？だもやらしい写真を撮れとはいってないだろう？」
「会長には、プライバシーとか、そういうことは考えないんですか」
「誰も私の写真などほしがらないし、誰も私のプライバシーなど知りたくもないからな」
「…つまり、完全に人ごとだからどうでもいいや、と」
「その通りだ」
「なんていう自己中心主義的な…」
「とにかく、この作戦に失敗したら私は購買部に何をされるかわからんのだ。
　君も一蓮托生だぞ。がんばってくれたまえ」
「だれのせいでこういう状況に追い込まれたと思ってるんですかっ！」
「…………」
「黙るな！」
「…そ、そんな言い方をしなくてもいいではないか。
　私は私なりに…」
「…わかりましたよ。わかりましたって。あーもう、今回だけですからね。
　二度目はありませんよ」
「やーありがとうさゆりくん。君ならきっとやってくれると思っていたよ」
「ったく調子いいんだから…ではまあ、やれるところまでやってみますって」
「うむ。頼んだぞ。販売その他の手続きについては、購買部がやってくれるから
　安心して写真撮影だけしてくれればいい」
「…生徒の写真を売りさばこうだなんて、なんて購買部なんですか…」

 

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などというさゆりのぼやきとは全く無関係に
プールサイドは別な意味でカオスと化していた。

 

 

「紅葉ちゃんラーメン３つお願い。こっちはちょっと手が離せないから。」
「うぉぉい玲奈ぁぁ、幸せそうにメロンパン食べていないでこっちでちゃんと働きぃや、時給下げるで。」

「ちょっと、みねあ、なんで私がシスターの格好をしなくちゃならないの！！」
「観月様・・・いくら何でもローラーブレードは危険すぎます。」
「モダン・タイムズでは、チャールズ・チャップリンが目隠しして、ローラースケートをしてましたよ」
「それとこれとは別問題では…」
「はい、かき氷をどうぞ」
「ありがとう、観月さん…でも、本当に危なそうです」
「AI搭載で、プールサイドに記載されているラインを読み取る能力がありますから
　むしろ普通に歩くより安全なんです」
（ぽかーん）

 

本当は目が見えてるんじゃないか、と思わせる観月ちゃんの姿も
いつも通りである。

 

「観月様、せめてお手を」
「廉也、廉也は遊んできていていいのですよ」
「でしたら、僕も一緒に走らせてください」
「ええ、廉也がそうしたいのでしたら」
「はい、観月様」

 

ちなみに、京介はプールサイド下の特設厨房で料理を作っている。
これまた特設のエレベーター（食材専用）を使って注文書と料理とが行ったり来たり。

商売繁盛で大忙しだ。

みそおでんは上州下仁田の自家製こんにゃくを使ったみそおでん。

焼きそばは蒸したジャガイモが具に入ってボリュームたっぷりな、太田焼きそば

ラーメンは醤油味であっさり系の澄んだスープが基本。鰹だしをベースにした東京風。

カレーは日本のカレーの原点、海軍カレーと今回は関東地方ベースの料理で出展します。

かき氷は予算の都合で普通のものなので京介的にはちょっと不満です。

 

「埼玉県は長瀞（ながとろ）の宝登山山麓で作られる天然氷を使いたかったな」
「無茶言わないで欲しいでござる。そんなもの運んでくるのは拙者にも無理でござるよ」
「誰も持ってきてくれなんていうてへんわ。それよりきりきりエレベーター動かしや」
「これも拙者のしゅぎょうのうち…」

 

エレベーターが手動なのは、予算の関係である。

 

「水を使うさかいな。配電すると経費が掛かりすぎるんよ。安全第一や」

 

水による電気の事故は怖いのだ。

 

さて、簡略にリゾート気分を味わってる人ばかりではなく
プールでまじめに泳いでいる人もちゃんといる。

 

「そこの２人跳びこみなんてすなよー。」

監視塔に乗って危険行為を注意しているのは、風峰狛呂だ。
このプール、プールの短辺方向２カ所に監視塔がある。
ちなみに、みねあの出店は更衣室の反対側の長辺側プールサイドを
完全に占領して配置されていて、もう反対側、更衣室側は
普通の状態が保たれている。

 

今のところ、盗撮組はいないようだ。
なにぶん、生徒会が厳戒態勢を敷いているのは
周知の事実。こんなところにカメラを持ち込むなんていうのは
フルフェイスのヘルメットを被ったまま銀行に入るようなものだ。

 

だが、さすがにさゆりは根性が座っている。
平然と首から防水カメラをぶら下げてプールに入ってくる。
そして、…すこし辺りを見回してから、狛呂の反対側の
監視台に陣取る、無月の方へと歩いていった。

 

その無月、水着に上にシャツを着ている。

 

「あれ、監視員なのに水着じゃないのね。それじゃ泳ぐのにじゃまにならないかしら」

「………泳げるが俺の背に目を向ける奴が多くてな説明が面倒だから入らないだけだ」
「あ、そう。でも、黒のシャツじゃ暑いでしょう」
「ほら水分を取っておけ」

 

そういうと、さゆりにスポーツドリンクを投げて渡す。

 

「ありがとう。遠慮せずにもらっておくわ。あ、そうそう
　聞かれる前に答えておくけど、他の会員はたぶん来ないわよ。
　会長、今回は幽霊会員の動員は掛けてないわ…カメラでも
　壊された日には、赤字幅広げるだけだって…はぁ…」

 

この場には、どうも会長すら姿を見せていない。
幽霊会員達の姿もちらほら見えるが、みんな
自分たちが遊ぶのに専念していて、他の人のことには
全く気を遣ってない。

 

まあ、それでも、生徒会メンバーが彼らのことも
気に掛けてくれているようだから、すこしは
陽動として役に立ってるのかもしれない。
その程度の事を考えて、さゆりはみねあ達の方へと歩いていった。

 

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さて、その頃、修吾は、防犯装置に異常がないかどうかのチェックを
楓に依頼していた。

 

「用心するに越した事は無いから更衣室の外側にちょいとした物を仕掛けてあるんだ
　…なに簡単な警報装置だよ」
「仕掛けたって、何を仕掛けたってのよ」
「ん、どんな物かって、意外なものだよ
　ワイヤーを三つ使ってな一本は囮に本命の二本に色をつけて見えなくして
　囮の上下に設置しておく物だよ…そうすると意外と引っかかるものなんだよ」
「でも、ここまでなんにも掛かってないみたいね」

 

そりゃ、生徒会組がこれだけ入念に警戒している中で
何かできたら忍者になれるだろう。
特に、更衣室の中に忍び込むなど、自殺的冗談だ。

 

「ついでに、盗撮機械がないかどうか調べてきてあげるわ」

 

そういうと、楓はさっさと更衣室へ入っていった。

 

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さて、その頃、みねあ達はといえば…

 

「テーブル席はお一人様三十分までやぁ、写真撮影は禁止やでぇ」
「ちょっと、みねあさん、いいですか？」
「なんやさゆりやないか、どないしたん？」

（…何考えてるんですか。写真撮れっていってみたり撮影禁止だと言ってみたり…）
（ばかやなぁ。撮影を禁止しとかな、売り物にならへんやろ）
（…で、盗撮させられるわけですね…）
（まあ、そこらは知恵と勇気でのりきってや。うちは、とりあえず
　そのデジカメの売り上げがあればええねん）
（………鬼ですか）
（うちをだれやおもうてるねん。みねあちゃんやで）
（それと、みあ、どうしたんです？）
（みあはしばらく休暇や）
（！…大丈夫なんですかっ！）
（大丈夫や。休暇いうても、休眠状態にして、うちが肌身離さず持ってるさかい）
（…それを聞いて安心しました）
（…と、そろそろぼそぼそ話も終わりや、普通にしてぇな）
「すいません、かき氷ひとつお願いします」
「はい、かき氷ひとつ！…」
「と、撮影禁止なのは、ウェイトレスさんだけですよね」
「せや」
「……（きょろきょろ）…あ、こんにちは、美沙さん」
「やっほー。さゆり先輩、どうしたんですか？」
「ちょっとね」
「あー、カメラ持ってる。これ防水なんです？いーなー、私もこういう
　いいデジカメ欲しいなあ。私が廉也くん撮るのに使ってるのは
　いっつも携帯のカメラだから画質悪くって。ね、ちょっと貸して」
「え、ええまあ…すこしぐらいなら、いいですけど」
「わーい、はい廉也くんこっち向いて〜はいピース」
「な、なんでいきなり撮るんですか」
「もー、べつに恥ずかしがらなくても」
「あ、いーな、廉也だけ撮ってもらって。私のも撮ってよ」
「うん、いいよ」

 

……………ここまで、計算通りなのだろうか、と
ふと思うさゆりであった。
生徒会も、美沙が相手じゃ止めようがないだろう。
第一、阻止が求められてるのは、「盗撮」であって
普通の記念撮影ではないのだ。

 

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さて、こちらはプールサイド。

 

「やぁ楓、そのな…水着似合っているよ」
「似合ってるのは当たり前。サイズ合わせしてるんだから。
　それより、あんたらちゃんと盗撮してるやつら捕まえなさいよ」

 

何をどう間違えたのか、楓は、水泳の授業に使う
スクール水着から、修吾が目のやり場に困るような水着に
着替えてきていた。

 

「何も間違えてないわよ。盗撮されやすい水着を着て
　盗撮野郎をいぶり出すって作戦なんでしょ。
　ったく。何が悲しくてこんな格好…」

 

どんな格好かは、ご想像にお任せします。
少なくともへそが隠れるようなたぐいの水着でないことだけは保証します。

 

「べつにそういう表現ごまかさなくていいわよ。
　ビキニの水着としては、当たり前に近いんじゃない。
　ま、生地が薄くて、見えそうで見えないぎりぎり感が
　盗撮者の視線を集める…って、静は言ってたけど」

 

…ノーコメントでお願いします。

 

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戦いすんで日が暮れて。

 

「おつかれさま〜。先輩達、今日はありがとう」
「明日も頼みますね。プールをやってる時はずっと必要なことですから」

 

そう、今日は無事に終わったが、明日がそうである保証はない。

 

「こんなの今日一日だけで十分よ。二度とやってたまるものですか」

 

…明日も明後日も明明後日もそのまた次も、安心らしい。

 

「で、デジカメ代を稼ぐのに別なバイトを探さなきゃならないわけですか…はぁ…」
「べつに、そういう問題やないんよ」
「え？」
「さっき、生徒会組の許可もろうてきたからな。
　…廉也の写真、とっくに予約が入って前金ももろうてるねん。
　美沙がいろいろいじくってくれたおかげで、いろんな先に売れるわぁ。
　ああ、ちゃんと観月には話を通してるから問題なしや。
　これで２学期以降の生徒会の活動費も出せるし、同好会の軍資金も用意できるで」
「……もしかして、最初から狙いは…」
「さあ、なんのことや？」

 

言われてみれば、みんな、女子生徒の心配しかしてなかったのだった。