ここは、お国を何百里。

 

「いきなり間違ってるわね」
「これが、新たな日本の都か」
「はい、そうです義仲様」
「なんという人の多さだ。都が１００も集まったようだ」
「はい、この東京だけで、平安時代の2倍の人口があるんです」
「…これだけで二倍か。我が手勢は、…」
「あら〜義仲様と、私と、それに妖魔ども、十分です〜」
「…うむ。そうだな。ではまず何をするべきだろう」
「それはもちろん、義仲様の力を見せつけることです」
「よかろう、混乱に乗じて一気に敵の中枢を叩くのは、戦の常套手段だ」
「はい、そうです、義仲様…」

 

バカップルは放置…とも言っていられない。
巴御前と源義仲の会話はあまりに物騒だった。
要するに、関東大震災の後の戒厳令の再現を狙っているのである。
そのためには、まず帝都壊滅の巨大地震を引き起こすこと。

 

そして、それを実現するため、密かに、作戦は実施されつつあったのだ。

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さて、それを阻止すべく行動しているのが、観月達の一団である。
そのうち、サバイバル同好会の手を借りようとしているのが
橘修吾だ。

 

「まぁとりあえずこれをもって戻るよ…ん、おや…

　さゆりついでにコレ借りていくから…よし行こうか玲奈」
「そうだな、あんまり観月を待たせても、わるいもんな」
「…私、今回はついていかないわ。くれぐれも壊さないようにね」

 

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さて、いよいよ、観月達の捜索団が出発である。

 

　「おまたせ〜必要分の地図を持ってきました。」

　捜索前に必要な地図を持って戻って来たのは、狛呂である。
十数枚のコピーを、図書室から借りたバインダーにとじて持ってきたようだ。

 

「今戻ったよボートのおまけ付でな」
続いて、玲奈と一緒に、修吾も帰ってきたようだ。

「それとオールなんだが…どうやら別々になっていたらしいが何とか代わりを準備してあるから」
「悪いけど、そのボートは修吾が持って行ってくれな」

玲奈はあっさり言い切ってしまう。

 

「････こっちがおかずで、こっちがおにぎり、お稲荷さんはこっちのお重ね。

　一応、救急箱も持っていった方がいいよね。無月さんこれを運ぶの手伝ってくれないかな？」

京介は、にこやかに、無月に荷物を押しつけてしまった。
もっとも、当の京介だってあふれるばかりの荷物を持っているのだから
誰かが手伝ってやる必要はあるだろう。

 

「じゃ、みんな、気をつけて行ってね」
「はい、では、皆様、そろそろ出かけましょう」
「観月様、お手を」

 

かくて、観月達は出発した。

だが、その一行の中に、玲奈の姿が見あたらなかった。
一体玲奈はどこへ消えたのだろう？

 

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その玲奈は、BS-Eに呼び出されたさゆりと一緒に、先行捜索に出かけていた。

 

「常道としては、自分が安全でかつ、テロを実行できる場所でござる。

　災害を起こしても自分が安全でかつ、妨害を受けにくい陣をはれる場所

　そういう、条件に見合う場所はあるでござろうか？さゆり殿。

　観月姫達の負担を減らす為に我々が先行して調査するでござる。」

「ったく、あたしも救いようのないお人好しね。あんたらの道楽につきあうなんて」
「いやなら来なくてもいいんだぜ」

「ところで、お二方の流儀と術は？

　拙者は独学故、あまり大した術はできないのでござるが･･･

　やはり、腕が伸びたり全身から血を吹き出したりできるのでござるか？」
「あんた、一体忍者がなんだって思ってるのよ」
「腕が伸びるように見える忍術ならあるぜ、ほら」
「…なに袖口に細工を入れてるのよ」
「ちょっと漫画を見て工夫してみたんだよ。
　ほら、左手で右腕の袖口が固定 出来るんだ、その状態で腕を振ると
　腕が伸びるように見えるんだぜ」
「それ、一体何の役にたつってのよ…」
「接近戦じゃ、一瞬の判断ミスを誘うのも作戦のうちだぜ」
「それなら、むしろ腕が縮むように見せるほうが効果的ね。
　間合いを見きったつもりの攻撃が当たるわよ」
「お、そりゃいい考えだな、でも、この仕掛けだって、上手くやれば出来るんだぜ。
　おい、右助」
「にゃー」
「袖口の中のねこに袖を引っ張らせるの？」
「ああ、いいかんがえだろ」
「ねこが入れるほど巨大な袖口なんて用意するのね」
「ちょっと動きにくいかな？」
「ちょっとじゃないでしょ…！」
「どうしたんだ？」
「感じないの、…鬼門よ」
「…あたしにもわかったぜ。さ、退治退治」
「来て正解だったかもしれないわ」

 

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さて、観月達本隊に話を移そう。

 

「ここをまっすぐ進んでください…」
「はい、こっちですね」

 

観月の指示を廉也が確認し、その後ろを一行が付いて歩く。
狛呂は、方角を確認しながら、地図に地脈を書き入れていく。

 

「廉也、みなさん、すこしつかれているようです、休憩にしましょう」
「はい、観月様」

 

河原のそばにたどり着いたところで、観月が休憩を提案する。

 

    「ほら受け取れ」

    そう言って自動販売機から買った飲み物（非炭酸）を
みんなに投げ渡してるのは、無月である。
その間に、観月は、京介のお弁当を広げている。
ござは、お弁当と一緒に京介が用意していたようだ。
そして、修吾はといえば、ゴムボートがいつでも使えるよう準備の最中。
どうやら、観月の話では、地脈は本当に川を横断しているようなのだ。

 

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「またよくもまぁこんな川に橋が架かってないんだか…

　しかない…ボートを膨らませるの手伝ってくれるか」
「観月様…」
「廉也、手伝ってあげなさい」
「はい、観月様」

 

仕方がないだろう。ここまで、手ぶらだったのは廉也だけなのだ。
それに、無月も京介も、休憩の後片付けの最中である。
狛呂はといえば、今まで書いた地脈図の清書をしている。
手が空いているのは廉也しかいない。

「さてとこの距離かならコレにするか」

 

どうやら、ボートの準備も終わったようだ。
全員がゴムボートに乗り込んで、向こう岸へと出発。

修吾が用意した、得物に付いているファンを利用して勢いを推進力として移動する。

 

「…みなさん、気をつけてください、何か来ます」
「観月様、それは一体…」
「…みなさん、ゴムボートに捕まってください…
　栄枯盛衰！」

 

水中に向けて、観月が術を打ち込む。
ボートの真下に向かってだ。
普通の攻撃ならボートのそこを貫通するはずだが、そこは妖術。
突き抜けるのではなく、狙った場所でエネルギーを解放する。
だが、一旦解放されたエネルギーは、水の一部を水蒸気に変えた。
つまり、ゴムボートの真下で爆発が起きたわけだ。

 

ゴムボートは爆発の衝撃で激しく揺れる。

 

修吾は、得物を預けて　ひみつ基地から拝借してきたスナイパーライフルを取り出し

「拝借してきて正解だな…」

 

確かにその通りだ、ボートの上では近接戦闘など出来ない。

妖魔が泳ぎながらゴムボートを襲おうとするのを、飛び道具で押さえるのが一番確実である。

 

「廉也！早く岸にボートを」
「はい、わかりました」

 

廉也はひっしでボートを漕ぐ。
ここでの戦いは不利だ。いくら妖魔も
泳いでいるからかなり不利とはいえ
妖魔の攻撃で、川の真ん中でボートが沈んだら
それきりではないか。

 

「・・・傷が疼くな」

 

ボートに取りつこうとした妖魔を、無月が排除する。
距離が離れたところへ、観月の栄枯盛衰が追い打ちを掛ける。
ボートの上で戦う不利は、泳ぎながら戦う相手を攻撃する利点で
十分相殺できているようだ。

 

やがて、ボートは岸へとたどり着いた。

 

「大丈夫ですか、観月様」
「私は大丈夫です、他の方の心配をしてください」
「はい、観月様」

 

どうやら、誰も怪我なく岸にたどり着けたようだ。

 

「…あーあ、壊しちゃったみたいね」
「あ、さゆりさん」

 

もっとも、ゴムボートは無傷とはいかず、よく見ると何カ所かゴムが敗れている。
沈まなかったのは、穴が小さかったおかげに過ぎないようだ。

 

「よう、おまえら、遅かったな。
　一通り鬼門はつぶしておいたぜ」
「先回りしてたんですか」
「まあな、ちょっとした暇つぶしって奴。
　さてと、観月、じゃ、調査の続きを頼むぜ」
「はい、そうですね、玲奈様」

 

こうして、狛呂が借りてきた地図の範囲の地脈の捜索は終わった。
あれからは、特になにも起きない。どうやら
水中からの妖魔の攻撃が、向こうの攻撃の全部だったようだ。

 

それだけでも、十分胆が冷えたのは事実である。

 

「街の安全は守られたけど、正直今回は危険を感じました。」

狛呂の感想に、思わずうなずく。

「ったく・・・あの二人は一体どこへ消えたんだ？」

無月の感想にも、うなずく。

 

「巴様は、一体なぜ、深追いしなかったのでしょう」
「どういうこと？」
「断固として実行しようとすれば、必ずしも
　大地震作戦は不可能ではなかったはずなのに
　どうして、この程度の妖魔を送り出すだけで
　途中から引いてしまわれたのでしょうか」
「…そりゃ、鬼門をたくさん作れなかったからだろ」
「そうだとよいのですが、私には巴様の考えていることがわかりません」

 

…そうだ。確かに、今回も平和は守られた。
しかし、どことなく、源平合戦時の、神機争奪戦のような雰囲気がある。
一体何を巴達が本命で目指しているのか、まだ、誰も把握出来ていないのだ。