「さゆりくん、これは一体どういうことかね？」
「会長、何か問題でも？」
「問題でもだと。大ありだ。なぜこの大切な、一年でもっとも大切な
　限りなく大切な最大のイベントに、わが同好会の同志が誰も来ないのだ」
「会長はおりますが」
「いや、そういう問題じゃなくてだなぁ・・」
「我々は、しっと団だと言いたいのでしょう」
「その通りだ。だからこそ、我々は幸せなカップルと戦うのだ」
「…何のために？」
「しっと団だからだっ」
「しっと団だというのなら、当然、幸せなカップルがうらやましいのですよね」
「もちろんだとも」
「うらやましいからには、幸せなカップルになれるものなら、なりたいのですよね」
「それは…そうだろう。しっとなのだから」
「…では、幸せなカップルになるチャンスがあれば、カップルと戦うより
　自分がそのカップルの一員になれる方法を考えるのではありませんか」
「そういう可能性のない奴の集まりではなかったのかっ！わが同志はっ！」
「・・・敵の作戦勝ちかと」
「どういう事だ？」
「伝説のクリスマスツリーがありますよね」
「ああ、あそこに集まる連中を襲撃する予定なのだが」
「あのツリーの下に、クリスマス用プレゼントの売店が出るらしいです」
「それがどうした？」
「特別アルバイトとして、いわゆる、九羅香組が勢揃いするそうです」
「それってつまり・・・どういう事だ」
「つまり、伝説のツリーの下には、すでにフリーの女の子が集まってる、ということです」
「・・・・ちょっと待て、それではカップルの襲撃が出来ないではないか」
「出来ませんね。カップルは、あんな所行かないでしょう」
「・・・・・・どうする？」
「…中止してはどうですか」
「今更中止できるか。我らが先人達の苦労を無にしないためにも
　ここは断固として襲撃は実行されねばならんのだ」
「そうでしょうね。では、せめて出来そうなカップルを襲撃する、ということで」
「弁慶を襲ってもおもしろみがないぞ」
「あれは出来てるカップルですが」
「・・・・では、何を狙う」
「一人いるでしょう。なんとなく押しだけで承諾しそうな女の子が」
「・・・・みあの事か？」
「・・・・・ええ」
「…よかろう。告白しようとする輩はかたっぱしから我がAK-74の餌食にしてくれるわ。
　ふははははははははははは、来た、来たぞ。今年も狩りの季節が」
「どちらが狩られる側なのかわかったものではありませんが」
「気にするな。その場が混乱すれば告白どころではあるまい」
「やられキャラの自覚はあるんですね・・・」

 

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そんな、サバイバル同好会の事情など全くお構いなく
みんなが待ち望んだクリスマスパーティ（正しくはイブなのだが）が始まる。
もちろん、イベントは、この人がいなければ始まらない。
氷室　勇姫その人だ。

サンタの格好を模した上着とスカートを着た勇姫がパーティーの始まりを告げる

「メリークリスマス！今年も学園主催のパーティーがやってきました。
　成績の悪かった人も忘れてパーティーを楽しみましょうではパーティーの始まりです」

 

追い打ちかけてどうするよ・・・。

 

とまあ、そんな事も忘れて楽しいパーティの始まりである。
会場には所狭しと料理が並べられている。
もちろん、主要な製作者は京介だ。

 

「これで料理の準備は大方終わったから後は一人で大丈夫だよ。
　源九郎ちゃん･･･、ごめん、旭良君はみあちゃんとパーティ会場の方に運んでくれるかな。」
「……あ、あの……」
「みあさん、気にしないでいいです。なんとなく、みんなに正体ばればれみたいですから」
「…え、ええと……そうなんですか……その……あの…」
「源九郎がいないときに必ずいて、楓様に絶対に頭が上がらないで
　様付けで呼んでいますから、うすうすみんな感づいてるんです」

 

いや、普通狐が化けてるとは思わないと思うが・・・・。

 

そこへ現れたのが、開会宣言をやって手持ちぶさたになった勇姫。

 

「はいみあちゃんこれ私からのプレゼントだよ大事にしてね？」

中身は髪飾り

「あ、はい・・その・・・ありがとうございます・・・その・・・
　・・・あの・・・これは・・・あの・・・お返し・・・です・・
　・・・・あ、あの・・・たいした・・ものじゃ・・ないんですけど・・・
　よかったら・・つかって・・くだ・・さい・・」

確かに、ある意味たいしたことはない。中身は石けんである。
ただ、みあが廃油で作った、手作り石けんであるという意味では、気持ちがこもってるだろう。

 

「源九郎ちゃんと忍猫ちゃんにもプレゼントだよ」

そう言って高級油揚げと高級猫缶を渡す。

「あ、はい…ありがとうございます…これは僕からのお返しです、勇姫さん」

 

普通に受け取るなっ！

 

そこへ通りすがりの修吾が現れる。

 

 

　その中…みあの見かけて

「やぁみあ楽しんでいるかい

　そうだ、みあこれをあげるよ」

　そう言ってみあにプレゼントを渡した

「え〜と、中身はエプロンなんだ

　購買部で仕事をしているときに着けるようにてねどうだろうか」
「あ、はい……その……ありがとう……ございます……
　……おかえし……は……その……一種類しか……用意……してない…ですけど…
　…その……どうぞ……」

 

プレゼント交換は、何をもらうかではなく、誰からもらうかである。

「すいませ〜ん、料理が通りま〜す。」
狛呂が通り過ぎていった。見なかったことにしよう。

 

「…あの…無視するの…よく…ないです……」

 

それもそうだ。悪かったよみあ。
狛呂は懸命にバイトで働いていた、まるでパーティに興味がないかのごとく。

 

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さて、無用はといえば、パーティ会場で静とプレゼント交換を普通にやっていた。

「静さんこれを受け取ってくれ」
「はい〜いいですよ〜。ありがとうございます〜。
　どうぞ〜これは〜私からの〜プレゼントです〜」

 

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さて、パーティが適当に盛り上がってくると
いよいよパーティのメインイベント、伝説のツリーである。

 

「賑やかになってきましたね、観月様」
「そうですね廉也。ホワイトクリスマスは無理だったようですが」
「霜月では雪も降るまい」
「あれ？今は師走って聞いたよ」
「九羅香様。新暦では12月ですが、太陰太陽暦ではまだ11月なのです」
「何それ？暦が違うの？」
「ああもう、九羅香はいい加減覚えろよな。
　現代じゃ暦が違うんだよ」
「よく覚えられたな玲奈」
「当たり前だろ、月と日付が一致しなけりゃ誰でもわかる」
「さすが〜夜行性の〜ネコまたですね〜」
「ねこまたじゃねえ！」
「いい加減マンネリです静様」
「そうかも〜しれませんね〜」
「・・・あ、あの・・・い、いらっしゃい・・ませ・・・」
「すいません。そ、その・・・ここに来れば…」
「ちゃんとわかってるわ。プレゼント内容の相談やろ。
　あと、身だしなみは重要やからな。…委細面談や。
　ええと……美沙、頼むわ、とーたるこーでぃねーと一式な」
「はい合点。こっち来て、すぐに衣装合わせするから…制服でも
　ちょっと着こなしを良くするだけでずいぶんと見違えるよ。
　自分に自信が出ること請け合いだからね。…廉也くんも手伝って」
「あ、はい…」

 

廉也がいれば、廉也ファンの女の子も集まる道理である。
もちろん、ステディのいる女の子はおっかけよりステディと過ごしてるわけで
彼女たちがフリーなのは当たり前である。
万が一のチャンスはあるわけだ。

 

みねあの商売戦術である。

 

「よいしょっと。よし、みねあさんここはこんなもんでいいですか。」
「ああ、そこでええで」

 

狛呂は、やはり、パーティに興味がないかのごとくひたすらアルバイトに励んでいた。

 

そんな中、ついに、彼らが動くべき時が来た。

 

「赤野…皆が入ったとこで気付かれずに張ってくれたのんだぞ」

修吾の言葉に、黙って龍騎がうなずく。
すでに二人は麒麟や四聖獣を使って結界を張っていたのだ。
これでは普通の人間…いや、少々異常な人間でもツリーの襲撃は不可能だろう。
それでも、極めて異常な人間である、会長はあきらめることがなかった。

 

「これしきのことであきらめてはしっと団の名が廃る。
　ええい、廉也親衛隊はじゃまだ。みあを出せみあを・・うむ、よしいいぞその調子…
　……つまらん、だれもみあ告白しようとしないではないか。
　仕方がない、気が変わった。誰でもいいから手当たり次第告白してるやつを襲撃だ
　あーひゃひゃひゃひゃ」
「会長、それだと持つべき銃が違いますが」
「ったく奴らはしっと団か？」

 

現れたのは、無月である。
こんな事もあろうかと待機していたのだ。

 

「間違いなくしっと団だ」
「胸を張って言わないでください」
「では、仕方がない、死んでもらおう」
「では私は長ネギを回しましょう」
「すでにわけがわからんわっ！」
「わかる人だけわかるネタです」
「もっと一般性のあるネタをやらんかっ！」
「問答無用！」
「やらせはせん、やらせはせんぞ〜っ！」

 

会長は無月を相手の銃撃戦を始めたのだった。
まあ、女生徒に人気がある無月相手だから、しっと団の活動としては
必ずしも的外れと言うわけではないのだが。

 

---

 

「まったく、よくもここまで厳重な警戒をするものだわ。
　あれに対しては、こっちは徒手空拳もいいところね。
　…源九郎は体育館だし、みあにアプローチする人がいるかと思ったのに…何も起きないわね」

 

確かに、伝説のツリーの下では何も起きていなかった。
会長が無月と交代した修吾相手に逃げ回りながら射撃している事は
確かに何かであるが、ツリーとはかけ離れた場所で起きていることである。
廉也は、無月にかくまわれている。
まあ、無月だって、廉也に劣るという程度には人気があるので
みねあ的には問題ないらしい。

 

---

 

「なかなか順調に商売がいってるなあ」

 

宴たけなわで、パーティはお開きみたいな形になっている。
学校主催のクリスマスパーティに明確な終わりはなく
だんだんと夜が更けていくにつれてみんなが帰って行くのが例年のパターンだ。
結果、先生方は徹夜での警備になる。先生にとっては、このイベントは大変なのだ。

「そうみたいですね、みねあ様」

 

そう言って答えたのは観月である。
ちなみに、九羅香達はすでにつぶれ荘へと帰っている。
観月はまだ帰れない、変装して逃げるのでなければ、女の子の
警戒網を突破して帰るのは難しいだろう。
そして、まだ、変装するだけの余裕はないのだ。

 

「こういう盛り上がった雰囲気の中やと、断りづらいおぅらが出る物や。
　当てつけるみたいなラヴラヴカップルがいたら、一人やと寂しいものやしな」

 

胸を張って答えるみねあ。
周りを見れば、なるほどそういうだけの実績が上がっている。
下手な合コンよりはよっぽどカップル成立率が高いだろう。

「みねあ様は、どうなのですか？」

 

観月のつっこみに、きょとん、と、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をする。

 

「それは観月はんの方が問題やろ」
「私には、べつに何も問題はありませんが」

 

どういう意味なのか、みねあが聞く機会はなかった。

 

「えっと･･･その･･･自分と付き合ってくださいませんか。」

 

狛呂がみねあにそういって話しかけてきたから。

 

「つきあうって、何につきあうねん？なんか儲け話でも見つけたんかいな？」
「みねあ様、そういう意味ではないと思いますが…」
「そういう意味やなかったら、どういう意味なん？」
「人の世話をしても、自分の事には全く鈍感なんですね」
「…鈍感いうて……まさか、なあ。
　狛呂はん、回り見てぇな。フリーの女の子がいくらでもおるんやで。
　何も好きこのんで万年15歳に、こんな場面で告白せえへんでもええんよ。
　たちまちこのツリー魔力込めてあるんやし」

 

さらっと魔力だの万年15歳だのと言ってしまう当たり、何か動転してるらしい。

 

「自分はあなたの支えとなり、あなたを守っていきたいから」
「………あんなぁ…このツリーの伝説、ただの冗談やおもうてるやろ。
　うちが商売で吹いたほらやとおもうてるんちゃうか？
　冗談やないねん。ほらでもないねん。ツリーには魔力込めてあるから
　明日になったら冗談でしたではすまへんねんで……」

 

みねあ、そういうのを、自業自得というのだ。
策士策におぼれる、でもいいかもしれない。

 

「ひょうたんから出た駒、かもしれませんね、みねあ様」

 

あえてノーコメントである。

 

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どんな祭りも、いつかは終わりが来る。
いくら夜通しのパーティとはいえ、ツリーの下にはもう誰もいなくなった。
みあは店じまいをしてしまったし、みねあは仕事どころではない。
いや、みねあが仕事どころでなくなったから、みあが店じまいしたというべきか。

 

そんな中、修吾は木の根元に来ていた

 

「ふぅ…終わってもうたな、仕方ないか…」

　そして懐から１つの箱を取り出した

「今年は渡せなかったな……ん」

 

　するとふと足音がした

 

「源九郎！源九郎ってば…ったく、みあと一緒かと思ったら急に姿を隠すんだから。
　どこ行っちゃったのかしら。一緒に帰ったと思ったのに」

 

現れたのは楓である。どうやら源九郎を探しに来たらしい。
そして、それは、今日、このツリーの最後の魔法。

 

「楓、これ受け取ってくれないか…中身はリングなんだ」

 

　そのリングには青玉がはめられていた

 

「その石はサファイアなんだ、確か９月が誕生日だろ

　いわゆるそれが９月の誕生石なんだ」

 

　そして楓の前に立ち

 

「楓うちはな…楓が九羅香に抱いている思いを君に抱いているんだ…
　去年も似たことを言ったかもしれないがもう一度聞いてくれるか
　…楓、君を愛している。うちと付き合ってくれないか…」
「・・・・・・去年？そんな昔の事は忘れたわよ。
　それに、あたしは、お姉さまを800年間待ったの。
　800年間ずっとずっとずーっと待ち続けたの。
　もし、お姉さまに会えなければ、そのまま死んでもいいって決意して。
　本当にお姉さまに抱いてる思いと同じだっていうのなら
　あたしが、もし、…急にいなくなって、それが８００年未来に行っちゃったって
　事だったら……800年先に、来てくれるの？」

 

答えは、聞くまでもないだろう。

 

「O.K.じゃ、クリスマスソングリクエストに答えちゃおう」

 

まるで、見計らったかのように、校内放送が響く。

 

「まだ学内にいるあなたの為に贈るわね、曲名は：　See you〜小さな永遠〜」