結局、犯人を捕まえるしかない、という結論になった生徒会。
女性陣が昼間対応し、夜からは男性陣が張り込むことに決まった。

 

そんなこととは関係なく、無月は、屋上で源九郎と戯れていた。

「源九朗か………お前も食うか？」

 

そう言って、購買部特性油揚げパンを源九朗に渡した。
油揚げパンといっても、普通の揚げパンとは違う。
いなり寿司のスシの代わりに、五穀ブドウパンが入っているパンだ。
作った奴が何を考えてこんな物を作ったのか想像を絶する。

 

「うまいか？」

 

おいしそうに食う源九郎。

 

「あんた、何えさやってるのよ。あー、パンなんか渡して。
　それどこで手に入れたの！」

 

心臓に悪い登場の仕方をしたのは源九郎の主、佐藤楓。
いや、パンぐらい普通に購買部で買うだろ。

 

「菓子パンだけねらいって万引きされてんのよね。
　みねあを出し抜けるぐらいの凄腕の持ち主なんてざらにはいないわ。
　あんた、なんか知ってるでしょ」
「………万引き？そんな事するかよ…嘘だと思うなら購買部の主に聞いてみろ」
「その購買部の主が、犯人を捜してるのよ」
「あの〜べつに〜 神城さんが〜犯人というわけではないです〜」
「なんでそんなことわかんのよ」
「買うところを〜見てましたから〜」
「あ、そ。静が見てたの。ならいいわ」
「はい〜、この学校には〜まだまだ使い手が〜いますから〜気をつけませんと〜」

 

何に気をつけるのかは謎である。
ともかく、女性陣は全くの手がかりなしで引き上げることになってしまった。
勝負は夜戦の男性陣の働き次第である。

 

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「それでどう？大きなネズミはみつかりそう？
　やっぱり大きなネズミというからには源九郎ちゃんみたいに大きいのかな？」

 

夜戦組に差し入れの焼きそばを持ってきたのは京介だ。
ちなみに、油揚げパンを開発したのは京介ではない。
謎な食品を開発するのも、京介一人ではないのだ。
この学校、変なところで奥が深い。

 

「源九郎がそういう事をするとも思えないな」
「源九郎より、手袋をしたねずみがあやしいやろ。
　ちゅうか、弁慶はん、あとは頼むで。今朝と今とでちゃんと帳簿がおうてるさかい。
　…これでみつからへんかったら、おおごとや」
「大丈夫。じゃ、俺は周辺を固めておくから、あとはバイトのみんなに頼むよ」
「せやたら、また明日朝な」

 

こういうと、みねあは帰ってしまった。
帰ってしまうって、みねあにしては珍しいが…

 

「…あの、…みなさん。遅くなりましてすいません…」

 

みねあが帰った後で、倉庫の中から現れたのは、妙におどおどした美少女だった。
え？倉庫の中からって？さっきみねあが誰もいないのを確認してたはずなのに？

 

「ええと、あんた、誰だ？」
「…弁慶さん、はじめまして…橘さんとは前にお会いしましたね…」

 

だれだっけ？修吾にもこの人物には見覚えがない。

 

「…私は、みあですよ…」
「え〜と･･･みあさんでいいんですよね」
「…あ、はい…みあでいいです…」

 

みあって、確かみねあの使ってた台帳じゃなかったっけ？
魔法って…ああ、そういえば式神の例もあるな。

 

「修吾、そっちは何か収穫があったか？」

 

これがきっかけで、各自自分の知っていることを話し合う。

 

「結局、中で待つしかないってことか」
「…無くなる時期から言えば今日が妖しいです…」
「了解。じゃ、俺は逃がさないよう見張ってるよ」

 

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「さてここにでも潜むかな。」

 

狛呂は、とりあえず購買の掃除道具入れに潜んでみる。

 

ここなら、たぶん誰も気がつかないだろう。

 

「さてここにでも潜むかな。」

 

一方の修吾はといえば…

 

「さて、さらば張って見るか

　みあはとりあえず壁のあたりに貼り付けて見ていてくれるか？

　うちは天井にでも張付いているよ」
「…壁に張り付くのは得意です…」

 

こうして、夜はだんだんと更けていく、などというような時間帯では全くない７時過ぎ。
ちょうど部活の連中が帰っていく頃、人の気配がこのそばにやってきた。

 

「ふっふっふ。よくぞ来た我が精鋭達よ」
「会長、そんな声を上げたら思い切り怪しまれますよ」
「なに、心配ない。謎の人物から受け取ったこの購買部の鍵さえあれば
　この中から何を持ち出そうと自由自在だ」
「在庫が減ってれば間違いなく気づかれると思うんですけど」
「なに、今まで気づかれたことはなかったではないか。
　万が一待ち伏せされていたとしても、だ。
　この鍵が有る限り、正義は我にあり、さあ行くぞ」

 

そういうと、サバイバル同好会、別名しっと団の会長は
普通の人間には間違っても開けられないはずの鍵〜鍵穴すらないのだから〜を開けた。

 

「…そういうからくりだったんですね、私があなたたちの所行に気づかなかったのは…」

 

壁から急に声を掛けられてびっくりする会長。

 

「だ、誰だっ！」

 

言ってから、気づく。
すでに天井から降りてきた修吾に退路を断たれていることに。

 

「やっぱりおまえ達か。泥棒とは許せないな、観念しろ」
「なんの、この鍵の能力、防犯機能作動！」

 

防犯機能が作動すると、中に張り込んでいたメンバーが全員倉庫の外に排除されてしまった。

 

「…私以外誰もいなくなりました…」

 

当たり前である。鍵による防犯機能を司ってるのがみあなのに
盗人当人の会長が無事なんてことがあるわけがない。

 

「…あとはみなさんで大丈夫ですね…」

 

大丈夫以前の問題であろう。

 

「ま、また逃げるんですか会長」
「逃げる以外にすることあるか」
「逃がすか、こんどという今度は絶対にゆるさん！」
「はわわ、弁慶が現れました」

 

ぱにくってももう遅い。

 

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翌日。

 

「それで、結局サバイバル同好会はどうなったんですか？」
「…それが問題なんや。あの鍵、どこでどうやって手に入れたかさっぱりわからへんねん」
「謎の人物から受け取ったって言ってたわね」
「おかしいなあ。この鍵の合い鍵なんて、普通の人間には作れへんはずなのに」
「…確かにその鍵には、魔力を感じます」
「さすが観月は勘がええな。その通りや、うちの魔法で作った鍵や。
　いくつか合い鍵を作ったさかい、それをやられたんかな。
　せやけど後で合い鍵の数を数えてもおうてるし、わからんことだらけや」
「つまり、あの鍵を作れる奴がいるってことね」
「そういうことになるな」
「あの、それで、サバイバル同好会はどうしましょう？」
「・・・・うちは、被害届ださん事にするわ。
　なんか万引きより大きなことが起きてる気ぃしてやれんのや。
　今捕まえるより、泳がせて大きな魚捕まえたほうがええんちゃうか」
「それって、みねあさんにとっての大事なんですか？」
「いや、むしろ、そっちの問題や思うけどな」
「私たちの、問題…」
「せや、なんでしっと団をつこうたか、って考えた方がええで」

 

こうして、謎は謎のまま残されたのである。

 

謎と言えば、この日から、購買部の店員が、部長のみねあから
今まで見たことのない少女のアルバイトに変わった事も 謎であろう。
絶対に勘定を間違えない（みねあですらたまには間違える）そのアルバイトの
名札には「みあ」と書かれているのだが。