【リアクション０３】応援団
応援団を作ると決めたものの、何をすればいいかわからないのが急造の悲しさである。
とりあえず、応援団の旗と、太鼓は必要だろうということになる。
「えっと、応援団といえば太鼓だけどもしあるならやってみたいんだけど」
そういって、太鼓を買って出たのが橘だ。
誰も反対するものがなく〜反対するにも応援について知らなさすぎる〜すんなり決まる。
旗持ちも風峰であっさり決まり。
後は、藻柚の提案した、応援歌を作って応援する、ということと
みんなでその歌を考えよう、ということを決めたぐらいである。
もちろん、団長の弁慶は、応援団長らしい格好が決まるよう
剣道部の練習の合間を縫って練習をしていたし
ほかのメンバーも折り合いをつけて参加はしていた。
あと、静さんに、何か奇策があるらしいのだが…それが
どんな作戦なのかは当日まで秘密、ということになっていた。
こうして訪れた試合開始の当日。
決勝戦のスタジアムに集まった一同は
あり得ない物を目にして驚くことになる。
「ねえ、あれ、泉水くんじゃない？」
「あ、ほんとだ。どうしてあんな所にいるんだろう」
「応援団には気がないっていってたのは、このためだったんだな」
「まったく、情けないサッカー部よね。なんで素人の緋原なんか使うのよ」
「…それだけ、緋原様の能力が優れていると言うことなのでしょう」
「観月様。さすがに本職の方を上回ることはないと思いますが」
「おーい、緋原！なにやってんだおまえ」
「いや、ちょっとなりゆきでねぃ」
「成り行きでキーパーか。まあがんばれよ」
「成り行きで団長やってる人もいるぐらいだからねぃ。
怪我をしない程度にやりましょ」
実は、キーパーが一番怪我をしやすいポジションであることを
緋原は全く自覚していないようだった。
「ま、カラテキーパーってのは古典だからな」
「弁慶、なにそのカラテキーパーって」
「手刀や正拳突きでボールをはじき飛ばすんだろ？」
「全くその通りだ。なんで知ってるんだ玲奈」
「え？本当にそうなのか。冗談のつもりだったのに」
「…みなさま、そろそろキックオフです」
「よし！弁慶！こっちも応援開始だ！」
「おう！…じゃ、みんなに応援歌の歌詞カード配ってみんな」
「よしきた、伊勢忍軍全員集合。みんなにこれを配ってくれよな」
「にゃー」
玲奈の忍ねこ軍団も、雰囲気作りということで
観月と紅葉が作った応援団服を着せられている。
当人達には迷惑みたいだし、何か昔そういうマスコットキャラが
あったような気もするが、気にしないことにしておく。
♪みーやじーまさんのーかーんぬーしがー♪
♪おーみくーじひーてーもーすにはー♪
メロディは花咲じいさんの歌（♪うーらーのはーたけーでぽーちがーなくー♪）と同じである。
今は応援歌を歌って、スタンド全体で応援しているところだ。
「なんで宮島さんなんだ？」
「観月様がりーどぼーかるなので平家の宮島さんになるそうです。
九羅香さんがりーどぼーかるだと八幡様になるんでしょうか」
「なあ廉也」
「何でしょう弁慶さん」
「なんで、リードボーカルをひらがなで発音するんだ？」
「僕にはりーどぼーかるが何を意味するのかよくわからないですから」
「無知だなおまえ。リードボーカルって言うのは
ボーカルがリードなんだぜ」
「玲奈、それ説明になってないし、何か間違ってるし…」
そんな中、必死で応援団の旗を振り続けているのが
狛呂である。
自ら、一番辛い役回りの旗持ちを買って出ただけあって
その応援ぶりには気合いが入っている。
♪オーレーオレオレオレー♪You are the Champ.♪
試合自体は、決勝戦らしく双方気合いの乗った激突を繰り広げている。
応援合戦も、今のところ、奇策もなにもなく、互角のぶつかり合いである。
もっとも、応援団員全員〜つまり、九羅香や玲奈までが〜学ランを着ているのを
奇策と呼ばないのであれば、という条件付きなのだが。
一方、応援に欠かせない太鼓を担当しているのが修吾である。
ハーフタイムを超えてくると、だんだん応援する方も声が出なくなってくる。
相手に先制されて流れが悪くなってきてるならなおさらだ。
急造キーパーではやはり限界があるのである。
こういう時に気合いを入れるのが太鼓の役目だ。
こちらは独りで大音量が出せる。
リズムをとればそれなりに勝負出来るのも当然である。
あ、またインターセプトされた。
「そろそろ〜奇策が必要でしょうね〜」
「よし、わかった静さん。…第一作戦、いくぞ！」
♪ぷわ〜♪
突然、吹奏楽部が雅楽のような音楽を流し始める。
スタンドでは静さんの舞だ。
思わずピッチの選手がそちらを見てしまう。
「ぼんやりするな！まだ点差は一点だぞ！速攻だ！」
相手チームの監督が叫んだ時にはもう遅い。
動きが単調になってしまったせいでうちのディフェンダーが戻っていた。
これではこじ開けるわけには・・・。
「緋原さん！左！来ます！」
切り崩せないと見るや素早くミドルシュートに切り替えてくる当たりは
さすがに決勝に来る実力高。
観月の指示がなければ緋原はこのボールに反応出来なかったろう。
「よーし、残り１５分。みんな！気合い入れて応援しよう〜っ！」
「おーっ！」
目端が変わったことで、再び応援に来ている生徒も気合いを入れ直した。
ピッチの選手達も残り時間をきいて最後の力を振り絞る。
…もっとも、これは相手チームも同じであった。
サッカーの失点は最後の５分に多いのである。
これからの時間帯が双方にとってきわめて重要なのだ。
「…残念な結果に終わりましたね。弁慶さん」
「あのシュートが入ってればなあ。惜しかったよ」
「惜しいも惜しくないも、負けは負けでしょ。負け惜しみがひどいわよ」
「勝敗は時の運だよ。結果は残念だったけど、それだけが目的じゃないでしょ」
「九羅香様の言うとおりです。…みなさん、応援、ありがとうございました」
「お礼を言われるようなことはしてないよ。…あれ？どうしたんだ狛呂」
「応援で頑張りすぎたかなのどが変だな。誰かのど飴だか持っていますか？」
「のど飴？あ、弁慶からもらったのがあるよ。これでいい？」
「ありがとう」
結局、サッカー部にとって、花園は遠かった。
それでも、この急造応援団の団員にとって
本当に大切な結果は、そのことではなかったろう。
残念な結果には、変わりないのだけれども。