New War to END WARS
World in Flames
【第八章】
〜War without mercy〜
ここは、先生と、P-4、P-6、そして立香がいる。
場所は、新宿外地会。フレイアの襲撃から、まだ1時間と経ってない。
「ねえ、先生。先輩達、もうイラクに向けて出発したでしょうか」
「どうだろうな。P-4、何か感じないか？」
「いえ、私には特に・・・・」
「心配はいりませんよ。立香さん。P-7は、ああ見えて、ちゃんと約束は守りますから」
「はい。・・・だけど、なんだか、別な意味で胸騒ぎがするんです」
「一体何があるというんだ？」
「…先輩が、私のオーギュメントを、わざわざ借りに来たんです。
いつもの先輩なら、忘れ物をしたって、忘れるようなものならはじめから要らないんだって
笑い飛ばすはずなのに」
「…確かに、今度の敵は、霰にとっても強敵だ。
だけど、私は安心しているよ。計算上、由佳里くんが第3世代を起動しさえすれば
それだけで勝てる相手だとも」
「…それだと、いいんですけど…」
「まだ不安なのかね？」
「…本当に、第三世代が、使えるんでしょうか？」
「…その心配は…根拠が…あります…」
「おいおい、P-4。ちゃんと実験はしてあるだろう」
「それは、先生を使って、だけでしょう。
P-7が、間違いなく起動するかどうかは、まだ試してませんよ」
「そうか…万が一、その場合があったか。
だが、それも心配はないだろう。…最悪、P-8が私を目的地に運べば、それで済む。
むしろ心配なのは、こちらが出向く前に、またこっちを攻撃してこないかということだけだ」
「…その点については…心配要らないでしょう…」
「？どういうことだ？」
「こちらが、万が一を考えているように…向こうも…万が一は考えているかと…」
「…実験は一応してあるのではないかね？」
「…まだ…すべてを揃えての試験は…していないかと…」
「P-4さん。実験を終えてないって…フレイアって、いきなり襲ってきたよ」
「立香さん。それは、計算されたリスクっていうのよ」
「計算されたリスク？」
「ええ、向こうはそれだけ追い込まれていて、こうでもしなければ勝機がなかったということ。
今は、時間が向こうの味方になっているわ。…いえ、なってると思ってるわ。
これで、気兼ねなく、カスミも第3世代を起動できるようになるとまで
考えが及ばないほどに」
「…ですけれど、そのために、先輩が来るのを、のんびりと待ってるとも、思わないです」
「そうだな…だが、我々に出来ることは、あまりない。
こちらで待っていては、いつ反撃できるかもわからない。
由佳里くんは戦闘力こそ高いが、量子跳躍となると、また別な能力が必要になる」
「いろいろあるんですね」
「ああ、そうだよ」
「…先輩、イラクに、いつまでにつくでしょうか」
「…ステルスで移動中ですから…普通に向かうのと…同程度の時間かと…」
「…それまで、じっと、待ってなければいけないんですね」
「…祈るぐらいは出来るだろう」
「はい、そうですね」
時として、大きな事が、些細なきっかけから生じることがある。
いや、どんな大きな事でも、きっかけは些細なことだ。
それが、そのまま小さな事で終わるか、それとも
巨大な事件に発展するかは、むしろ、きっかけの性質より
潜在的に蓄えられている、エネルギーの量と質による。
今回も、まさにそういうことだった。
ここは、イラクに駐留する某国の司令部。
テロリストを監視するため、今日も数多くの無人偵察機がパトロールを続けている。
その中の一機が、イラクの片田舎を飛んでいる最中に、消息を絶った。
「大尉殿、ディキシー・３。ロストしました」
「なに？一体何が起きた？」
「わかりません。今墜落時の映像を再生します」
ディスプレイに、無人偵察機から送られてきた墜落前の映像が映し出される。
片隅には、ディキシー・３の飛行経路が地図と重ね合わされて表示される。
画像に映し出されるのは、何の変哲もない砂漠の風景。そして、小さな集落。
その集落に向かって偵察機が旋回したとたん、映像が消滅した。
「他のセンサー類のデータは？」
「これです」
「・・・・直ちに、ディキシー・５とチャーリー・２をこの集落の偵察に回せ」
「はい、わかりました」
大尉殿、は、無人偵察機墜落の報告をすぐに上級司令部に回す。
電波状態の変化などでは、こんな消滅をするとは思えない。
ここには、どうやら、何かがあるようだ。それも、無人偵察機を撃ち落とせるほどの
すごい何かが。
「・・・テロリストの幹部でもいるのか？」
司令部は徐々に活気づいてくる。
ひたすら、何の変化も示さない砂漠の風景を映したモニターを眺める
毎日から解放されそうなのだ。
久しぶりに、何か大物が掛かった。少なくとも、無人偵察機を落とすほどの相手だ。
それなら、携帯用地対空ぐらいは装備した、本物の戦闘員だ。
「…ディキシー・５。ロスト」
「チャーリー・２。ロスト」
「馬鹿な、まだ１０kmは離れていたはずだ」
一般的にテロリストが入手できる携帯用対空ミサイルなら、射程は８km前後。
「レーダーに捕捉されたという信号は入っていません」
「つまり、少なくとも周囲２ｋｍにわたって何らかの陣地がある、ということか」
「どうされます？」
「…………本部に報告する。３機を、これほど短期間に撃墜できるなら
強力な基地があるとみて間違いない」
「わかりました」
１時間後、こんどは有人偵察機が同じ集落の上空へとさしかかった。
成層圏まで届くような携帯ミサイルなど存在しない。
いや、この高度なら、本格的な地対空ミサイルでもない限り、決して命中しないだろう。
そして、搭載されているカメラなら、地上の様子をはっきりと映すことが出来る。
各種センサーのおかげで、地下の様子もある程度なら把握できる。
絶対安全な偵察任務のはずだった。
「……なんだ、あれは？」
偵察機の偵察員がつぶやく。
地上で、何かが光ったような気がしたのだ。
対空砲？いや、カメラにはそんな巨大なものは映ってない。
ロックオンシーカーにも、何一つ反応はない。
次の瞬間、僚機が墜落していった。
「コクピット直撃だと！馬鹿な！一体…」
ウィングリーダーも、それ以上何かを語るわけにはいかなかった。
こんどは、自分が直撃を受ける番だったのだから。
「…偵察機２機か…一体あそこには何があるのだ？」
「わかりません。少なくとも、偵察機を迎撃できる何かがあることは確実であります」
「…これ以上無駄な犠牲を出したくないな」
「同感です」
「…直ちに、長距離ミサイルで周辺を叩け。半径２０km以内を念入りにだ。
ワイルド・ウィーゼル隊も出動準備。
第４師団に出動準備命令」
「閣下、さすがにそれは大げさなのでは？」
「偵察機２機を一瞬で撃墜する相手だ。何者かはわからないが、油断しないに越したことはない」
「わかりました」
ある意味、その判断は適切だった。
可能な限り全力を発揮しなければならない、という意味で。
命令後、３０分と経たずに、その集落に向けてミサイルが発射される。
搭載弾頭はクラスター爆弾。何者が相手であれ、まずは機動を封じるのが目的だ。
念入りに１時間掛けてミサイル攻撃を加えたなら、次に襲いかかるのは師団砲兵。
地図から集落を抹殺し、砂漠に次々と穴を開けていく。
もし、そこが、テロリストの準備された秘密基地であったとしても、もはや
何も残っていまいと思えるほどの砲弾が降り注ぐ。
だが、某国の誰１人、これで安心したりはしない。
文字通り山の形が変わるほどの砲撃を加えたところで
地の底に潜む敵兵をつぶすには不十分だったのだ。
さらに念入りに攻撃を加えるべく、ステルス爆撃機が出動する。
成層圏からの絨毯爆撃だ。何が存在していようと、これだけ叩けば
少なくとも地上には何も存在していないだろう。こちらは確実だ。
「OK。俺たちの出番だ。悪魔どもの正体を捕まえに行くぞ」
「ウォー！」
空中機動歩兵の出番である。まるで地獄の黙示録だ。
ヘリコプター部隊が、威風堂々と、かつてちっぽけな集落であった
荒れ地へと接近する。ヘリコプター２０機。まるまる一個中隊。
上空からはガンシップとサンダーボルト２が支援する。さらに後方には、ハイテク一個師団。
テロリストどころか、正規軍一個師団が相手でも、圧倒的に勝利するだろう。
「…ひゅー。ひどいもんですね。この辺り、本当に集落があったんですか？」
「あったんだろうな。地図には書いてある」
「今じゃなんにも残ってない。スナネズミだって生きちゃないでしょ」
「油断するな。…ヴェトコンは、これぐらい叩いた所からでも攻撃を加えてきたんだぞ」
「はい、隊長殿」
とはいえ、物見遊山になるのも無理はない。ここまで何の反撃も受けてないのだ。
たとえ何かいたとしても、とっくに逃げ出したか、さもなければ
ここまでの爆撃で、本当に壊滅したのか。そう考える方が自然だ。
「…人影が見えます」
「人影？…なんだ」
「よう、近づいてみるかい？」
「いや、…戦闘ヘリに任せよう。一旦離脱してくれ」
「了解」
機動歩兵部隊は一旦後退、戦闘ヘリに人影の確認を任せるつもりのようだ。
賢明な判断である。相手がルシフェルでなければ。
その人影が、杖を大きく振り上げ、そして、振り下ろす。
突如として空が黒く曇ると、幾筋もの雷が天空から降り注ぐ。
空中機動歩兵部隊…ヘリコプター部隊が、それだけですべて墜落する。
この高度から落ちれば誰も助かるまい。
続いて、フレイアの杖はガンシップに照準される。
巨大な爆発音が、まるで４０cm砲弾を撃ち出したかのごとく響く。
次の瞬間、まるで４０ｃｍ砲弾が直撃したかのように、ガンシップが空中で爆発した。
「馬鹿な、一体あそこには何があるんだ？」
ガンシップの墜落を見守る砲兵の１人がつぶやく。
現実にこんな事が起きるはずがない。
まっすぐ地上から吹き上げる火球や、天から雷がヘリコプターを撃ち落とすなどあり得ない。
物理法則をまるきり無視している。
「ポイントロメオ７に砲撃を集中しろ、全力射撃だ」
「ラジャー！」
砲兵部隊に再び砲撃命令が下る。
どうやら、その地点に、強力なミサイル陣地でもあるというのだろう。
ヘリコプターを撃った雷は、もしかしたら、上から下へ打ち下ろすタイプの
対空ミサイルなのかもしれない。
そう考えればつじつまはあう。
「ファイア！」
砲兵隊が砲身も焼けよと撃ちまくる。
砲弾が着実に目標地点を焼く。
少なくとも、着弾している最中は安心だろう。
撃って撃って撃ちまくる。
「…なんだろう？」
全力砲撃中、ふと、誰かが空を見上げる。
空から巨大な何かが次々とこちらに向かってくる。
まるで、巨大な隕石が降ってくるようだ。
「総員待避！」
誰かの声が響いた。だが、それは全くの手遅れだった。
散開して砲撃していたはずの砲兵隊を覆い尽くすように、火球が
次々と落下して、地表にあるものすべてを焼き尽くす。
どごーん。
弾薬車が誘爆したようだ。
もはや誰にも手のつけようがない。
何一つ動くものがなくなるまで、火球が降り注ぐことが止むことはなかった。
「…空中機動大隊。全滅！」
「砲兵連隊、報告ありません。全滅かと思われます」
「救援隊、敵の連続する砲撃のため、救助に向かうことが出来ません！」
「偵察隊より、目標地区の画像が届いてます」
「すぐにスクリーンに映せ」
ここは、某国の、イラク西部地区統合司令部。
ここで、某国の陸・海・空・海兵隊の４軍の作戦をすべて統括して行っている。
今回の軍事行動もまた、この司令部で４軍すべてが調整されているのだ。
「…これです」
「…人影が見えるな」
「拡大します」
さすがは某国の軍事技術である。３０km先にいる人物の表情まで読み取れる。
「…なんだ？女の子？」
「杖を持っているようにも見えますね」
「背中に見えるのは羽か？…４対か。奇妙な生き物だな」
「ルシフェルでも、３対ですからね」
「…何者だろう？」
「そんな荒い画像を見て楽しいのかしら？」
「誰だね？」
「あなたがたが今写真で見ている、当人よ」
・・・・・
「悪い冗談だな」
「冗談ではないわ」
その場にいる全員が、まるで夢でも見ているかのように、ルシフェル…
…つまり、第３世代オーギュメントを手にしたカナを…見つめる。
見た目は、東洋系の少女。ただし、背中からは、地水風火を象徴する
黄・青・緑・赤の色をした４対の羽が生え、頭には、アイテールを表すリングが輝く。
纏っているのは純白の衣。まるで宗教画に現れる天使のようだ。
もし、その瞳に宿っている光が、狂気を湛えているのでなければ。
「…一体、君は何者かね？」
この部屋の最高責任者である、先ほどまでディスプレイをのぞき込んでいた人物が
カナ＝ルシフェルに、問いかける。
「私？私は、光と破壊をもたらすもの。最後の審判の始まりを告げるラッパを吹き鳴らすもの」
「そうかね。・・・衛兵諸君、彼女を拘束したまえ、丁重にな」
「信じないのね。かわいそうに」
ルシフェルは、杖で、目の前の将軍を直接叩く。
それほど強く打ったとも見えないのに、将軍は声も立てずに崩れ落ち、そのまま動かなくなった。
「だれが私に鈴をつけにくるかしら？」
あえて、誰も動こうとするものはない。
いや、１人空気が読めずに逃げ出そうとする。
「１人だけ助かろうとするのね」
床から炎が立ち上り、逃げようとしたものを人間バーベキューへと変える。
「…もうしばらく、あなたたちと遊んであげるわ。人待ちをしてるの」
そういうと、ルシフェルは、唐突に姿を消した。
夢？いや、違う。床には絶命した将軍が横たわっているし
出口そばには、かつて人間だった、消し炭がある。
「…一体、我々に、何をしろというのだ…」
とりあえず、上級司令部に報告する。
他に何も出来ることがない。気が狂っていると思われるかもしれないが
いや、自分自身、気が狂っているとしか思えないが
それでも、事実は、事実なのだ。
「…司令部全員、気が狂ってるようだな」
ここは、某国の、中東方面軍総司令部だ。
イラク西部方面司令部からの情報を分析している最中である。
上がってくる報告は、あまりに非常識きわまりない。
しかし、それが単なるだぼらではない証拠に、すさまじい損害が出ている。
某国がイラクに介入して以来の全死者数に匹敵する損害を
３時間のうちにも出そうとしているのだ。
「…状況がまったくわからん」
「全力で空爆を加えてはいかがでしょう？」
「幻覚に、爆撃が効くかね？」
「私もそうは思いませんが…」
司令部も、一体なにをしていいのかさっぱりわからない。
とにかく、必要なのは情報だ。
「情報部は何かこういった現象について知らないかね？」
「さすがに、こういった事象については」
「こうなると、インディジョーンズの出番だな」
司令部内に笑い声が広がる。
もちろん、イラクからの情報は、オカルトめいた冗談でしかあり得ない。
「司令、大統領からです」
「大統領からだと？」
半信半疑で電話をとる。
それが、この司令部内にいた全員にとって、最後の瞬間となった。
司令部の中にトラックがつっこんできたのだ。それも３台連続で。
その３台のトラックが同時に爆発する。
たちまち、司令部は壊滅した。
そのトラックがどこから現れたのかは、全くの謎である。
まるでどこでもドアが空中に現れたかのように、トラックがつっこんできたのだから。
だが、某国の指揮系統は、これでどうしようもなく混乱してしまったのである。
「…ひどい有様になっているようだな。P-8くん」
「そのようですね」
「某国の軍には、行動しないように警告しておいたはずなんですけどねえ」
ここは、Old Eagleの執務室だ。
P-8,OE、そして、真端の３人が、世界の命運を賭けた戦いに気を揉んでいる。
もはや、彼らにも、何一つ出来ることはない。
DICEの情報網から、ここへもたらされる情報と、P-8が存在波を感知して得られる
情報を整理し、分析する以外、何も出来ることがない。
いや、多少、彼らにも出来ることはあった。
某国への工作が出来るのは、彼らだけなのだから。
「大統領には、事実を隠さず説明を送った。たぶん、これ以上無益な殺生は起きないと思う」
「…いやなものですね。ただ待つ時間というのは」
「君たちは、まだ若いのだな。年をとると、待つこと以外、何もすることがなくなるものだ」
「あなたは、待つのがお好きなのですか？」
「待つ事の必要性が理解できるようになるのだよ」
「……まだ、あと５時間は、待たねばならないかと」
「世界は広いですね」
「ああ、本当だ。まだ地球を一周するのに、１日では足りないのだから」
「宇宙を行けば、９０分ですよ」
「…それは間違いないが、まず宇宙に出かけるのに、手間が掛かりすぎるな」
「まったくだ。…私でも、月まで飛んでいくわけにいかない」
「そうかね。では、私が君に狙われるようなことがあれば、真っ先に月に行くとしよう」
「…あと５時間、どう時間をつぶします」
「そうだな…某国軍に活躍してもらうか、彼らが到着するまで」
「本気を出されては、時間つぶしにもならない」
「そうか。そんな気はしたが、そうなのか・・・」
「司令部、応答せよ、応答せよ…だめか」
「一体何が？」
「考えてもはじまるまい。…現有戦力でがんばるしかないか」
現場の司令部は、総司令部の壊滅も知らず、ひたすらルシフェルへの攻撃を
ある意味、愚直に続けていた。
P-8も、真端も、Old Eagleも、あえてそれを止めるために何かをしようとは、しなかった。
時は血なり。 彼らは、今何よりも貴重な、時間を、血で購っている。