「一日三交代の待機。なんか軍人っていうよりライン工にでもなった気がするな」

 

ここは、イギリス南部にある空軍基地。

今は、飛行ユニットを持つオーギュメント使い〜デバイスレイン達〜の

基地となっている。

 

基礎訓練を終えた彼らは、今実戦待機へとうつっていた。

員数を３つにわけた、一日３交代制。

人間工学の関係で、一日を２５時間として使っている。

出撃待機が８時間、訓練が８時間、睡眠時間と自由時間が９時間だ。

 

とはいえ、ここ最近、ヨーロッパを覆ったSC空間からのディゾナントは

地中海方面にばかり現れている。

彼らの出撃の機会は、未だ無い。

 

「柊、状況は良くなるってP-8は言ってるよ。

　能力者が見つかれば、それだけあたしらの負担も減るって」

「けどさ、その能力者ってのは一体どこにいるんだ名城。

　第一、能力者なんてどうやって見つけるんだよ」

「先輩ならかんたんに見つけてくれますよ、柊先輩」

「立香は二言目には先輩だな」

「…あまり、P-7やP-8に負担を掛けないであげて」

「カスミ、それどういう事?」

「P-7は弱音を吐かないし、P-8は私たちに心配を掛けないように

　何も言わないけど、２人とも疲労の限界に近づいてきてる。

　私たちが戦力にならないと、いずれ、限界を超えてしまうわ」

「…だからこそのローテーションか」

 

ローテーションは、戦力の平準化と相互の相性を考えて組まれている。

 

第一班が、十夜とカスミとマナ。

第二班が、名城と柊と立香。

第三班が、由佳里ちゃんに壬生パパにシルフィだ。

 

「今は俺達の待機時間だな、今敵が現れたら、俺達が

　初陣ってことになるな、悪く思うなよ十夜」

「…無事に帰ってこいよ、相手はあのP-8やP-7がやっと勝てる相手だぜ」

「わかってるって。…二度と、J.B.に一杯食わされたようなことはしないさ」

「頼むぜ」

「ていうか、カスミも十夜もそろそろ寝ろよ」

「待機時間に仮眠をとってたから、あんまり眠たくないんだ」

「そっか。じゃあまあ好きにしろ」

「そうさせてもらう。…けど、カスミ、カスミは寝てもいいんじゃないか」

「私も、今はちょっと眠る気にならないから」

「そうか」

「…先輩が一杯一杯になる相手に、私たちで本当に勝てるんでしょうか」

「勝てなければ、世界中がSC空間に飲み込まれてしまう。

　そうなったら、俺達だってどうなるかわかったものじゃない」

「…トーヤくんも、カスミも、必ず私が守るの」

「…ありがとう、P-3」

 

待機室にまったりと流れている時間は、突然の警報で打ちきられた。

 

「な、スクランブル？」

「どうしたの柊、驚いたの?」

「いや、武者震いがするだけだ」

「俺達も手助けしようか?」

「いや、とりあえず俺と名城と立香ででる。

　予備に入るのは、壬生さん達の役割のはずだぜ」

「俺達も待機はしておくからな」

「ああ、けど、俺達だけで決着をつけてくるよ」

「とにかく急いで飛行ユニットを！」

「そうだな」

 

もう飛行ユニットの使い方にも慣れている。

量産型オーギュメントと違って、小型化はされてないが

普通の靴のように履けば、まるで足と一体化したかのごとくだ。

 

「こちらはケンリーのレーダーサイト。電波の乱れを観測した。

　敵はそちらから見て南南東、距離３００km」

「了解、すぐにそちらへ向かう。P-8への連絡はこっちの

　基地司令に依頼を」

「了解した。バルバロス・ジーザス・リボン…幸運を祈る」

「サンキュー、CIC」

「ラジャー」

 

誠志郎、瞳、立香の３人は高度を上げてディゾナントへと接近する。

 

「…基本手順通りにやれば、あいつら学習能力あんまりない

　みたいだし、安全にやれるはず」

「けど、油断は禁物だって。特に柊のオーギュメントは出力が低めなんだから」

「わかってる。俺が後方で全体の動きをみる。交互襲撃は

　名城と立香で頼むぞ」

「了解、柊先輩」

「まかせなさいって」

 

そういう会話をしているうちに、飛行ユニットの存在波確認装置が

敵を確実に捕捉した。

 

こんどの敵機は２００ｍ級。

 

「バトル・オブ・ブリテンじゃこいつも主役だったよな」

「なにそれ、柊」

「戦闘機より速い爆撃機、He-111のお出ましだぜ」

「けど、戦闘機より速かったのは当時の戦闘機が複葉機だったからで

　単葉機が登場してからは、戦闘機より全然速くない爆撃機だったんですよね」

「だけど油断するなよ。俺達が複葉機止まりってことも、十分ありうるんだからな」

「有効射程圏に接近、SC空間展開開始！」

 

対ディゾナント戦の定石通り、SC空間を展開する。

出力の点ではP-7達に劣るため、かなり接近しなければSC空間が展開できない。

付け加えて言うなら、出力が低いためにSC空間もそれほど大きなものに出来ない。

条件から言えば、P-8やP-7より、不利な状況で戦わなければならない、ということだ。

 

「由佳里ちゃんや第三世代オーギュメントなら、もっと大きな空間が作れるのに…」

「立香、与えられた条件でベストを…と、撃ってきたよ！」

「こ、これが、P-7でも手こずるっていうディゾナントの攻撃かよ…」

 

レーザー状のカレイドフェノムが、次々３人に襲いかかる。

どの一発が直撃しても、そのままシールドを破壊されそうな威力で

あることを肌で感じる。

だが、敵は巨大であるが故に遅い。

それはP-8から聞いているとおりのこと。

 

「あたしが一番槍をつけるから、立香は援護を」

「は、はい！」

 

名城はSC空間と通常空間との境界すれすれを、ロールしながら

上昇していく。

ロールすることで、動きを読ませない。

一方の立香は、中距離を保ってカレイドフェノムを撃つ。

何も手応えは感じないが、ディゾナントの注意を引きつける程度の

役には立っているようだ。敵の放つフェノムは立香に集中してきている。

 

「よし、じゃあ行きますか！」

 

斜め上方より降下しながらディゾナントに名城が接近していく。

その接近に気づいたHe-111型ディゾナントがカレイドフェノムで

迎撃しようとする、が…。

 

「遅い！訓練の時のP-8とは比較にならないよっ！」

 

至近距離からコクピットめがけて、ジーザスシュラウドの

全力のカレイドフェノムをたたき込む。

 

「手応えなし？ここじゃないんだ…」

 

それでも、深追いはさけて距離を開ける。

 

「立香、お願い」

「了解っ…当て物だったら私が得意なんだから…

　He-111だとすると…うん、コクピットでなければ…」

「立香、早めに頼む、バルバロスの反応が正しければ

　SC空間自体が移動してるんだ。あと１０分もすれば

　奴はイギリス南部を飲み込むSC空間を展開しやがるぜ」

「！…わかりました」

「立香、無理しないで。落とされたらなんにもならないよ」

「ええ、わかってます…けど、先輩からカード当てを

　ずっと練習させられたのは、伊達じゃないんですよ」

 

そういうと、立香はディゾナントの背後に回り込んだ。

 

「ちょ、そっちは…」

「黙ってみててください」

 

後ろから追撃すると、カレイドフェノムに狙われやすくなる。

相対速度が小さくなってしまうからだ。

 

「…先輩直伝…フレアバースト！」

 

立香の全力のカレイドフェノムは、ディゾナントの爆弾倉部分に命中した。

次の瞬間、ディゾナントは爆発した。

…SC空間全体を巻き込む巨大なカレイドフェノムを発生させながら。

 

「うわぁ」

「ちょ、シールドが削れる」

「ねらいは間違ってなかったはずなのに〜」

 

３人の持つオーギュメントのシールドが削れていく。

これでは相打ち…

 

「…まったく、無茶をする」

「P-8？」

「俺達…助かったのか」

「ええと…一体何が起きたんでしょう？」

「おまえ達が出撃したと聞いて量子跳躍で外から見ていた。

　確かにあそこが弱点だったみたいだが、誘爆の可能性は

　考えておくべきだったな」

「すいません、私の責任ですね」

「いや、敵が進化することを予測出来なかった私のミスでもある」

「で、俺達はどうして助かったんだ？SC空間に飲まれたような気がしたぜ」

「おまえたちは３人ともディスコネクト状態には落とし込まれていた。

　だが、SC空間内のエネルギー密度が低下したときに、飛行ユニットが

　自動的におまえ達を通常空間で定位させたのだ」

「そんな機能まであるのかよ」

「先生は、パラシュート機能と呼んでいたな」

「ともかく…まずは、実戦経験…だよね」

「ああ、…実戦経験ではある」

 

そう、確かにこれは実戦経験の一つだった。

だが、敵のディゾナントも、徐々に進化しているということ。

だとするなら、デバイスレイン達も、それ以上の速さで

進歩しなければならない、ということである。

 

戦いはまだ、始まったばかりだ。

 

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