P-７と、如月さんは、新聞部の部室を出て行った。
残されたのは、橘さんと忍、そして、僕の3人だ。

「……完敗ね」
「証拠がなしじゃどうしようもなかったね、忍。状況証拠じゃ霰さんが犯人のはずなんだけどなあ」
「状況証拠だけじゃ、犯人を追い詰められないわよ。なにか物証でもないと」
「物証を見つけるには、犯行現場だけでも特定できないといけないですよ。
　まず、その犯行現場がわからないんですから」
「……たしかに、あの時の霰さんは、何か隠してるようには見えたわ。
　だけど、何を隠してるのかまでは、ね」
「状況証拠だけじゃね……」
「それで、これからどうするの」
「いったん帰りましょうか。時間も遅いですし」
「そうね、そうするのがいいと思うわ」

こうして、僕らは藍仙高校を後にした。

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そのまた翌日の放課後の新聞部。

「さて、恵くん、今日も元気に11人失踪事件の取材に行くわよ」
「橘さん、行くわよ、はいいですけど、何か調査のあてはあるんですか」
「あてはないわよ。恵くん、なにかない？」
「何かって……とりあえず、アインハルト先生のところにでも行ってみましょうか」
「それはまたどうして？」
「SC空間で何かが消えたとき、手がかりになるものが残るかどうか聞いてみたいんです。
　もし、手がかりになるものが残るとしたら、犯行現場を特定したときに、物証が見つかるかもしれない」
「あ、なーるほど、いい着眼点ねワトソン君、じゃ、早速行ってみましょ」

そういうわけで、僕たちは今日も藍仙高校へとでかけていった。

昨日の今日なので、新聞部には寄らずに、僕らはまっすぐ第二科学部の部室を目指した。

「こんにちは、此花高校の新聞部の橘美亜子です」

返事がない。

「こんにちは、……」
「留守なんでしょうか」
「でも、鍵はかかってないみたいですよ」
「ちょっとあけてみようか」
「うん」

扉を開けたその先には、P-7そっくりの女の人と、今にも首をつろうとしているアインハルト先生の姿があった。

「先生、何を……」

止める暇もなく、アインハルト先生は、台にしているいすを蹴って首をつる、その瞬間アインハルト先生の姿が消えた。

「……あら、お客さんですか……」
「なんで止めなかったんです？」
「……実験中です……」
「実験って？　なんの？」
「……量産型オーギュメントの……」
「量産型オーギュメントの実験と、先生の首つりと何か関連があるんですか？」
「……あらゆる危険から所有者を保護する能力があるかどうかの実験です……」
「……」

理解しがたいことだらけだが、オーギュメントやSC空間のこと自体、僕らには理解できてない。
理解できてないから聞きに来たわけで、無理に僕らの常識を当てはめようとしてはいけないんだろう。

消えてしまった先生から、まずは説明を聞いてみるのが先だろうな。

「それで、あなたは？」
「……私はP-4……先生の助手を務めております……」
「P-4さん、それで、先生はどこに行ったんですか？」
「……SC空間の中に……すぐ戻ってくるはずです……」

P-4さんの言うとおり、先生はSC空間の中から現れた、ロープはいつの間にか消滅している。

「実験は成功のようだね。SC空間内にとりこんだロープを消去して、SC空間内で高度を調整して降りればダメージを受けることなく
　着地することもできる。これで高い場所からの落下も、SC空間外からの関節をねらった攻撃からも、量産型オーギュメントは防御
　できることがはっきりとした。直接的な火力打撃その他についての実験は、P-8に依頼してやってもらってるが、そちらも順調な
　ようだし、この分なら、思っていたよりも早く、実用段階に達するかもしれないな」
「……先生……お客さんです……」
「お客さん？……ああ、橘さんに桃井くんだね、いらっしゃい、今日はどういう用件かね」
「ええと……いったい、今何をされてたんですか？」
「量産型オーギュメントの実験だよ」
「それはP-4さんからお聞きしました。どうしてそんな危険な実験を自分でされるんです？」
「科学者なら、危険を伴う実験の被験者には、自分を選ぶものだよ。
　それより、何か利きたいことがあるからここに来たんだろう。なんでも遠慮なく聞いていいよ」
「SC空間で消されたもののことでお聞きしたいんですけど、SC空間で消去されたものは、SC空間外に、何か痕跡を残すものなんでしょうか」
「基本的には、残らないね。SC空間で消去されたものは、いわば存在を”やめてしまう”んだ。いったん存在をやめてしまったものは
　はじめから存在をしなかったのと同じことになる。そうなったら、SC空間を解除しても、まったくそれは存在しなかったのと同様に消えてしまう。
　そのときに生じる質量欠損分のエネルギーがどこへ消えてるのか？　については未だ謎だけれどもね」
「質量欠損？」
「高校じゃならわないかな。　エネルギー保存則があるから、SC空間で消去された存在の持つエネルギーもどこかで保存されてはいるはずなんだよ。
　そのエネルギーがどこかで保存されてるはずなんだが、どこに保存されてるのかがわからない。SC空間を保持するためのエネルギーに
　消えているという仮説もあるにはあるが、それだとオーギュメントの起動に必要なエネルギー量とつりあいがとれないからね」
「そうなんですか……」
「聞きたいことはそれだけかね」
「ええ、……11人失踪事件の物証が見つかったら、と思ったんですが……」
「SC空間を用いて物証を消してるなら、君たちどころか、私たちでも見つけようがないよ。
　物証を探そうというのはあきらめた方がいい。状況証拠の積み重ねで犯人には迫れなかったかね」
「迫ったつもりではあるんですが、物証がなければどうしようもないんです」
「そうか……だが、君たちは警察ではないんだろう。犯人らしき誰かを見つけただけで満足できないかね？」
「……そうはいかないですよ、疑いでとめたんじゃ、ただのえん罪かもしれないじゃないですか」
「……えん罪かもしれない、か。君たちは潔癖なんだね」
「……？」
「ほかに聞きたいことはないかい？」
「いえ、今のところは別に……」
「じゃあ、実験に戻っていいかな」
「ええ、どうぞ、では、私たちは失礼します」

こうして僕らは、アインハルト先生のところを後にした。
しかし、潔癖とはどういう意味なんだろう。
そういえば、アインハルト先生は、P-７……霰さんのお父さんだったっけ。
なら、霰さんを犯人扱いしたことも、もう知ってるはずなんだ。
犯人扱いしたことを知っていて、その答えと言うことは？
もしかして、僕らは正解を引き当ててるってことで、それをアインハルト先生も知っている？

なら、どうして……謎はかえって増えてしまったかもしれない。

 

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