この試合で、アインハルトさんが、チャンピオンの地位を奪取したの。

「エーデルハルトさんが立ち上がってきましたね」

マイクが二人に向けられるの。

「さすがね。私はもうU-15は卒業だから、当分リベンジは先ね」
「こんどは、出来れば、インターミッドでお会いしましょう」
「そうね。インターミッドならお互い対戦することがあるかもね」
「はい」

割とサバサバした感じで、エーデルハルトさんはリングを後にするの。
まるで、この結果も楽しんでるみたいなの。

「新チャンピオン、アインハルトさん、喜びの声を一言……」

アインハルトさんへのインタビューが始まったの。
私達はノーヴェとアインハルトさんを待つために、控え室前の廊下へ向かうの。

「あら、新チャンピオンの友達ね」
「エーデルハルト、残念だったわね」
「いいえ、私に油断があって、実力は足りなかっただけね」
「あそこで立ってれば、判定は確実にあなただったはずよ」
「そこで立てないのが私の限界ね。断空拳対応の練習もしてたんですが」
「そうみたいね」

エーデルハルトさんと、ジルコーチの会話中に、こんどはアインハルトさんが通りかかるの。

「アインハルトさん、おめでとうございます」
「ありがとう。……ええと……」
「エーデルハルトね」
「エーデルハルトさん。ありがとうございます」
「御礼はいいね。私があなたに勝つまで、負けないで欲しいね」
「努力します」
「胸を張るね、あなたが今チャンピオンね」
「はい」

エーデルハルトさんはそれだけ言うと控え室へ向かうの。

「ノーヴェ、一つ聞いていい？」
「なんだい？　ジル」
「あの戦い方は作戦だったの？」
「あんな無茶、作戦で立ててたらコーチ失格だろ。
　いや、実際、断空拳の隙を無くす方向で練習したのが間違いだったな。
　アインハルトが最後に切り替えてくれなきゃ普通に負けてたよ。
　断空拳は一撃必殺の拳だってことを忘れてたな、コーチ失格だな」
「そうですね」
「肯定すんのかよ」
「ええ、でも、断空拳の威力は、ビデオで見た時より上がってましたよ」
「そりゃ基礎体力も鍛えてるからな、多少はは上がってるかもしれないさ。
　ただ、断空拳を一撃必殺の拳として練習はしなかったな」
「それであの威力ですか、大したものですね」
「前はクロスカウンター一撃で勝てました。一撃必殺を狙った断空拳を複数回必要としたのでは、一撃必殺の拳とはいえないですね」
「そこはまた磨きを掛けるさ、そうだろ、アインハルト」
「そうですね」
「アインハルトさん、おめでとうございます」
「おめでとうございます」
「ありがとうございます、みんな」
「よし、とりあえず控え室行ってクールダウンだ。
　話は色々あるだろうけど、それはまた後日な」
「はい」
「後日って？」
「新チャンピオンになったら、インタビューとか色々あるんだよ。
　それで、明日またな」
「わかりました」
「じゃ、行きましょうか」
「はい」

ジルコーチに連れられて、私達は帰り道につくの。

「アインハルトさんの試合、すごかったね」
「そうだね」
「でも、１０回やったら７回はエーデルハルトが勝ってたと思うわ」
「のこりの３回をきっちり本戦で引き当てるのも力だと思うの」
「もちろんその通り」
「そだ、霧子、泪、次はいつ試合する？」
「いつでも良いよ、だけど、もういいかな」
「私もそう思うの」
「どういうこと？」
「んー、なんて言って良いかわからないけど、あの試合を見たら、ヴィヴィオに勝つってことだけにこだわるのもどうかなって」
「ヴィヴィオに勝ちたい気持ちが消えたわけじゃないの。だけど、ヴィヴィオに勝つのが目的じゃいけないって思うの」
「そうなの？」
「そうなの。ヴィヴィオが目指す、その先を私も……私達も目指すべきかなって」
「なのはママの背中を守れるようになるその先って、ものすごく遠いよ」
「最終目標は高く、ステップは着実に」
「あはは、なのはママと同じこと言ってる」
「正しいことは万国共通なのｋ」
「というわけで、明日からまた練習だね」
「今日は？」
「宿題が残ってる〜」
「そうだったの」
「あはは、そういえばそうだね。じゃ、一緒に宿題をやろうか」
「そうだね」

私達は、帰ってから宿題に取りかかるの。
そして、もうすぐ来年が来るの。
来年の３月末には留学も終わり。
それまでに、なにを学んで帰れるかな。


 

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