コロナは無事勝ち上がったの。
そして、早いものでもう私とリンネさんの試合の番が回ってくるの。

「作戦とかなんとか考えても仕方ないが、壊されるなよ」
「インターミッドなら遠距離戦とか考えるところだけど、格闘のU-15じゃ考えても仕方ないの」
「戦い方は分かってるな」
「そのつもりなの」
「よし、じゃあ行け！」

ハリーさんに送り出されて、リングに私は向かうの。
リンネさんが続いてリングに上がるの。

「さあ、始めるの」
「そうね、始めましょう」

私の力はリオに劣るの、殴り合いに持ち込まれたら確実にリンネさんの勝利なの。
それを見越して、リンネさんは間合いを詰めてくるの。

私の基本作戦は、掴まれないように間合いを開いてのヒットエンドアウェイ戦なの。
だから、間合いを開いて、リンネさんが踏み込んで来るのを待ってるの。
だけど、リンネさんは何かを待つように飛び込みはしてこないの。
私が判定を気にして焦れるのを待ってるのかも。

だけど、最初に焦れたのはリンネさんだったの。
リンネさんが打撃距離に近づいてくるの。
私はそれに対して遠距離のパンチで迎撃するの。
リンネさんはガードして強引に近づいてくるの。
私はリングを回るように下がりながら、パンチを繰り出すの。

「来ないのね」
「作戦なの」

リンネさんはそれをどういう意味に取ったのか、一気に踏み込んで来るの。
私は間合いを大きく開いてそれをかわすの。
あくまで間合いを取っての遠距離打撃戦を挑むの。
大人モードだから、間合いはリンネさんに負けてないの。
リンネさんがあせるかな。あせってくれれば私に勝機があるの。

「リンネ！　落ち着いて」

セコンドから声が飛ぶの。
どうやら、セコンドは私の狙いに気づいたみたいなの。
なら、私は基本に忠実にやるだけなの。
つまり、遠距離戦に徹してポイントを稼ぐ手なの。

リンネさんは接近戦に持込たいみたいなの。だけど、私はそれに乗らないの。

「そんなんじゃ、判定でも私有利ですよ」

リンネさんが挑発してくるの。

「怪我するよりましなの」

軽く私が答えるの。それがリンネさんへどういう効果をもたらすかは考えずに。

「勝つ気がないなら、なぜリングに上がってるの」
「勝つ作戦はあるよ、だけど、試合中にばらす気はないの」
「判定では勝てない、でも、ロンギヌス・スピアで突く訳にいかないあなたにはフィニッシュブローもない。
　このままだと負けるとしか思えない」
「果報は寝て待てだよ」

リンネさんが冷静さを欠いて、一気に飛び込もうとするの、よし、それなら……

「リンネ！　挑発に乗らないで！」

リンネさんが動き出すより先に、セコンドがリンネさんを落ち着かせるの。
リンネさんはその声を聞いて、一気に飛び込むのを辞めるの。

その結果、また多分観客からはブーイングでも飛びそうな面白みのない展開。
つまり、リンネさんがゆっくり近づいたら、私がパンチで迎撃して間合いを維持する流れなの。

そのまま第1ラウンド終了のゴングが鳴るの。

「10−9でこのラウンドはリンネだろうな、とはいえ、リンネの奴が焦れてるのは分かった。
　最終ラウンドまでに逆転する手は考えてるか？」
「うん、これでリンネさんの動きはだいぶ分かったの」
「よし、じゃあ次のラウンドも10−9までにとどめておけよ」
「分かったの」

相手は相手で、リンネさんにセコンドが何か注意を与えてるの。
だけど、相手がどんな作戦だろうと、私のやることは変わらないの。

第2ラウンドのゴングが鳴るの。
私は前のラウンドと同じ手でリンネさんを迎え打つの。
リンネさんも、前のラウンドと同じようにじわじわガードしながら前に出るの。
うん、これなら……

私は足を止めるの。
そして、リンネさんのガードを狙ってパンチを放つの。

リンネさんの足が止まるの。ちょっと驚いたみたいに。
そして、遠距離の殴り合いを選択するの。
私にはそれは意外な展開なの。
だって、リンネさんには強力な投げ技があるの。私を強引に投げに掛かると思ったの。
でも、遠距離での殴り合いなら私に分があるはずなの。
手数なら私が有利なの。

ガードで私のパンチを防ぐリンネさんに対して、私はリンネさん相手に体へは触れさせないの。
かわしながら手数多くパンチを繰り出していくの。
これで、リンネさんが焦れてくれたら、焦って決めに来てくれたら……

でも、それは多分期待出来ないこと。だから、ここは足を止めての殴り合い。
このラウンド判定で有利になれればそれで問題ないの。

「踏み込んでこないのね」
「リンネさんの有利な間合いで戦う気はないの。
　それより、どうして自分有利の間合いに来ないの？」
「勝つためよ」
「私もそうだよ」

リンネさんは再び、間合いを詰めてくるの。
私は間合いを保ったまま下がりつつ殴るのを繰り返すの。
有効打がなければ、多分、このラウンドも10−9でリンネさんの物。
だけど、私が焦れたらそれで試合は終わっちゃうの。

「このラウンドも、判定でも前に出続けてる私の物よ。ラウンドは4ラウンドしかない。
　このままなら私の勝ちね」
「そうかも。だけど、このラウンドで負ける気もないよ」
「どんな手を隠してるというのかしらね」
「さあね、秘密だよ」
「そんな秘密があるのかしらね」

釣れたかな？

「私はあなたが嫌い……その余裕ぶった戦い方も、余裕ぶった態度も。
　この試合は絶対に私が勝つ！」

リンネさんは一気に間合いを詰めてくるの。私にそれに対応する手がないみたいに。

「リンネ！　落ち着いて！　判定でも勝ちは……」

リンネさんに、もうセコンドの声は届かない
私が後ずさりするのを見て間合いをどんどん詰めてくる。
そして、私をつかんで投げようと……

「発勁！」

リオから学んだ奥義発勁！　こぶし一つの間合いがあれば相手を吹き飛ばせる必殺パンチ。
打撃ではなく、剄で相手を打ち抜く技なの。

リンネさんの勢いと私の剄の合力で打撃も行ったはず。
リンネさんはさすがにこれには耐えられず吹き飛ばされるの。
そして、場外へ。

カウントが始まるの、私は自分のコーナーに戻ってリンネさんを待つの。

リンネさんは、カウント12でリングに戻るの。

「それがあなたの奥義って訳ね、でも、私はまだ立ってる」
「そうだね。でも、今度詰んだのはリンネさんだと思うの」
「どうかしら」

リンネさんは再び大きく間合いを詰めようとするの。
対する私は遠距離で叩くの。
リンネさんは足を止めて殴りに応じるの。踏み込めば発勁があると分かったから。
だけど、これなら私とリンネさんは五分か、若干私が有利なの。

第2ラウンド終了のゴングが鳴るの。

「ふう……よくあそこで発勁なんて使えたな」
「最初からの計画通りなの」
「このラウンドは10−8でおまえだろうな。
　だが、あと2ラウンド、どう戦うつもりだ」
「ここからは五分にやる積もりなの。だけど、発勁封じに何か考えられたらやっかいかも」
「そうだな。だが、2ラウンド終わってここまではおまえのペースだ、崩すんじゃないぞ」
「分かったの」

第3ラウンドのゴングが鳴るの。

リンネさんは今は落ち着いてるみたいなの。
私は今までのラウンドと同じように回って下がりながら、パンチで間合いを維持するの。
リンネさんの方もパンチを放ちながら、私を追い込もうとするの。
いたずらごころが湧くけど、ここは我慢なの。
勝負は最終ラウンド、それまでは相手の挑発に乗ったらだめなの。

「あなたは判定勝ちで満足？」
「勝ちは勝ちなの」
「私は、……違うわ。私はかならず最強を証明する」
「別に最強でなくてもいいんだけどね。ただ、目の前の相手に負けたくない。それだけだよ」
「やっぱり、私はあなたが好きになれない」
「別に好かれるためにやってるわけでもないの」

発勁対策が近づかない事なら、私に勝機があるの。
積極的に前に出るのは、最終ラウンドで十分。
ここは完全に互角の勝負でいいの。

リンネさんも同じ思いみたいだったんだけど、今の一言で何かが切れたみたいなの。
こちらの拳にひるまずどんどん前に出てくるの、ガードもいい加減にして殴られながら。
こちらは間合いを維持するためにひたすら離れていくの。
勝負はあくまで最終ラウンド……

タックル？
私は大きくそれをかわすの。

次の瞬間、私はリングに横たわってたの。
油断したかも。リンネさんの狙いは、タックルじゃなくて足払いだったの。

カウント7で私は立ち上がるの。
でも、なんだかふらつく。どうやら足を怪我したらしいの。

「タオルは投げないで！」

まず最初に出た声はそれなの。
足は怪我したけど、リンネさんは個々で止めるの。
最終ラウンドなんて言ってられなくなっただけ。

ハリーさんはタオルを握ったままなの。
次、何かあったらタオルを投げられる。
だから、次で決めないと。

リンネさんが近づいてくる。
勝利を確信したかのように。
私はそれを引き込まないと。……次は、ない。

動きが必要以上に鈍ったふりをして、私はコーナーへと向かうの。
リンネさんは、満足した顔をしてるの。
油断してて……そして、発勁がないと信じて欲しいの。

でも、そっちは期待出来なかったみたいなの。
発勁を警戒して、ゆっくり間合いを詰めてくるの。
私は遠距離のパンチでリンネさんを迎撃するけど、足の踏ん張りが利かない分威力が落ちてるの。
リンネさんは私を投げで決めるべく私をつかんで……

「ゴッド・スレイヤー！」

投げに入る瞬間、私はこれまで用意してた切り札をたたきつけるの。
これはチャージが必要な分、一試合では一度しか使えない切り札中の切り札。
できれば最終ラウンドで切りたかったけど、贅沢は言ってられないの。

リンネさんは私をつかんでるから、まともにゴッドスレイヤーを受けるの。
顔をゆがめて私を投げようとするけど、さすがに力が入ってない。
私をつかんだまま、仰向けに倒れこむの。

レフリーが私達を引き離すの。
そしてカウント。
カウント8で立ち上がろうとするけど、リンネさんは結局10カウントまで立てなかったの。

「はぁ……なんとか勝てたの」

リンネさんは、気力で立ち上がるの。
そして、挨拶もそこそこに、歩いてリングを降りようとして、崩れ落ちるの。
担架が呼ばれて、リンネさんは担架に乗ってリングを後にするの。

「そういうおまえも担架だな」
「え、私は歩けるの？」
「怪我した足に負担をこれ以上掛けるな。
　セコンドの言うことを聞いておとなしく医務室に運ばれろ」
「分かったの」

こうして、試合は終わったの。
勝者は私、でも、多分次の試合に出られる状態じゃないの。

 

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