インターミッド女子部門、ミッドチルダ予選の決勝戦。そのファイナルラウンドがこれから始まるの。

開始のゴングが鳴ると、ジークさんとヴィヴィオがリングの中央へとゆっくり迫るの。

「ジークさん、使ってもいいですよ、エレミアの神髄。
　いえ、むしろ見せてください。それがどんな力が合って、どんな技なのか」
「あれは格闘の外道や、スポーツで使うものやあらへん」
「ジークさんがそう思ってるのは知ってます。エレミアの神髄を試合で使った唯一の事例のビデオも見ました」
「なら、あれは封印してる理由も分かるやろ」
「分かります。でも、使ってください」
「どうしてそんなに神髄にこだわるんや？」
「強くなるためです。十代最強を目指すだけじゃなくて、誰よりも強く……大切な人の背中を守れるぐらいまでに」
「格闘はスポーツや、殺し合いやあらへん。エレミアの神髄は殺し合いで使うものや。これは格闘いうスポーツや」
「分かってます、インターミッドがスポーツなのは。
　だけど、私が目指している最強は、スポーツだけじゃないんです」
「スポーツだけやない、か。けど、これがスポーツなのは理解してるんやろ？
　なら、スポーツの範囲で決着つけような。
　勝っても負けてもルールの範囲、スポーツの範囲でや」
「でも、エレミアの神髄はルール違反じゃないですよ。
　それに、いつまでも、過去のことを引きずるのは、よくないんじゃないかとおもいます。
　偉そうな差し出口ですけど」
「覚悟、出来てるんやな」
「そのつもりです」

ジークさんはちょっと笑顔になるの。

「分かった、なら、この試合、神髄つこうて決着つけるわ。
　それが何をもたらすか理解して、なおかつエレミアの神髄を見たいいうんやな」
「そのつもりです。その上で、勝つための練習をしてきました」
「よし、なら怪我せえへんようにしてや。エレミアの神髄は手加減きかへんからな」

そう言うと、ジークさんはちょっと深呼吸するの。
ヴィヴィオの方は真剣なまなざしで構えるの。
次の瞬間、ジークさんはエレミアの神髄を放つの。
ヴィヴィオは、いつも通り、引きつけてからエレミアの神髄をかわすの。

「一撃目はかわしたな」
「練習はしてしてきましたから」
「なら、連射してもええな」
「そのつもりです」
「なら、恨みっこなしや。本気でいくで」

エレミアの神髄、ミウラさんの抜剣を超える威力を、チャージなしで速射出来る破壊技。
次々とその神髄がヴィヴィオを襲うの。
だけど、ヴィヴィオは、舞うようにそれをかわし続けるの。
放たれるエレミアの神髄で、リングの地面が次々と破壊されていくの。

「練習してきた、ちゅうんは間違いやないな」
「連射にも耐えられるよう練習しました」
「なら、これはどうや」

ジークさんの目の色も変わったの。
こんどは、間合いを開いて神髄を連射するのではなく
ヴィヴィオの間合いに入って神髄を放つの。
ヴィヴィオは防御一辺倒、飛び込みを迎撃することもなく
間合いが詰まりすぎないようリングをぐるぐると回りながら
神髄をかわしていくの。
だけど、このままじゃ、まぐれでも一発当たればヴィヴィオのサドンデスなの。

「すごい……あのエレミアの神髄の威力もですけど、それをかわし続けるヴィヴィオさんもすごい……」
「でも、かわしてるだけじゃじり貧なの。４分間かわしきったとしても、判定でヴィヴィオの負けなの」
「神髄を使う以上、ジークさんも判定なんて考えてないと思うんですけど」

いくら撃っても威力が落ちない連続攻撃。でも、考え無しに連射するほどジークさんは素人じゃないの。
普通の打撃技の中にエレミアの神髄を混ぜて攻撃してるの。
ヴィヴィオはクロスカウンターなんか考えたら確実にエレミアの神髄に持って行かれるの。
だから、決めるときがあるとすれば、完全にエレミアの神髄をかわした上で、何か必殺の一撃を入れないといけないの。
それはジークさんも想定してるみたいで、決定的な間合いには飛び込まずに間合いを空けたり詰めたりしながら
神髄を織り交ぜての攻撃を加えてるの。

「踏み込めば当たると思うんだけど、ジークさん踏み込まないね」
「ヴィヴィオのカウンターが何かあると思ってるみたいなの」
「神髄が当たらなくても、焦る気配がないのはさすがです」
「言われてみれば……」

確かに、ジークさんは、焦らず、あくまで冷静にヴィヴィオを追い詰めるよう神髄を繰り出してるの。
ヴィヴィオは確実にかわしてるけど、運動量はジークさんより上、ジークさんはヴィヴィオを疲れさせて当てる作戦みたいなの。

「ヴィヴィオにはなにか作戦があるのかな」
「練習では、ヴィヴィオさんは連続した攻撃をかわしてカウンターを入れるようにしてたはずです。
　でも、ジークさんは一枚上手ですね。絶対にカウンターを受けないよう決定的には踏み込んでないです」
「練習以上のことは出来ないの」
「でも、練習より上が出来ないとヴィヴィオには勝機がないよ。どうするんだろう？」
「ヴィヴィオさんの事ですから、すでに考えはあるんだと思います」
「でも、あと２分弱しかないよ、どうするんだろう？」

そう、最終ラウンドも、半分を回ったの。
LP差がなければ、審判によってどちらが優勢だったかで勝負が決まるの。
ここまでの戦い、たとえ３ラウンド目まで五分だったとしても、最終ラウンドでジークさん優位は動かないの。

観客は、ジークさんが神髄を使うたびにどよめいてるの。
一つには、その威力のすごさに、一つには、それをかわし続けるヴィヴィオさんに。

「それでもまだ、防護システムが観客を守れる程度には威力が抑えられてます。
　エレミアの神髄も、そこまでむちゃくちゃな威力で撃ってるわけじゃないみたいです」
「けど、魔力密度は……あっ！」
「どうしたんです、霧子さん」
「ヴィヴィオの勝機が見えたの」
「勝機って……」
「たぶん、もうすぐヴィヴィオは……」

私の言葉はそこで途切れたの。
なぜなら、ヴィヴィオ自身が、足を止めて私の言葉を先回りして、行動に出たから。

「防御は任せたよ、クリス。これが私の全力全開、なのはママ譲りのスターライト・ブレイカー！」

スターライト・ブレイカー。周りにある魔力を回収して放つ魔法なの。
エレミアの神髄と、それから観客を保護するために放たれる魔力を集約して
それをジークさんにたたきつけるの。
それがヴィヴィオの切り札。連射は効かないけど、威力は抜群……あたりさえすれば。

そして、それを当てるためにヴィヴィオは一つ無茶をしたの。
それは、エレミアの神髄を自ら受けること。
それはジークさんも想定外だったみたいなの。

だから、ジークさんはスターライト・ブレイカーをまともに受けるの。
だけど、スターライト・ブレイカーを当てるための無茶で、ヴィヴィオの方もエレミアの神髄をまともに受けるの。

結果は、両者場外へ吹き飛ばされてしまうことになったの。

「お互い、起き上がれませんね」
「ダブルノックアウトなのかな」
「あ、エレミアさんが起き上がった」
「ヴィヴィオも動き出したの」
「しかし、もうカウント１０です。２０まであといくらもないですよ」

ジークさん、ヴィヴィオ、お互いが足をふらつかせながらリングを目指すの。
ジークさん、なんとかカウント１８でリング復帰。
だけどヴィヴィオは、リングに戻る前に２０カウントの宣告を受けてしまうの。

「あー、惜しかったぁ」
「作戦は当たったの。だけど、作戦が無茶に過ぎたの」

ジークさんはヴィヴィオに近寄っていくの。
ヴィヴィオは、カウントが続いてれば、多分２４カウント程度の時間で
リングに戻って立つの。

「さすがですね、ジークさん。作戦は図に当たったと思うんですけど」
「図に当たった言うても、作戦自体が無茶や。
　エレミアの神髄をまともに受けるなんて」
「クリスとセイクリッド・ディフェインスがあればなんとかなるかと思ったんですけどね。
　だけど、全力のスターライト・ブレイカーを受けて１８カウントで戻ることが出来るとは思いませんでした」
「とっさにガードできたからな。けど、ヴィヴィオはノーガードで神髄受けたやろ」
「ええ、……まあ、ガードに気を遣ったら、スターライト・ブレイカーは当たってないと思います」
「そうかもしれへん。けど、無茶や」
「ですが、私はまだ立ってます。立ってリングを去ります。
　そのことで、ジークさんがエレミアの神髄について、違った考えが出来るといいんですけど」
「違った考えって、なんや？」
「神髄も普通の技です。ルールの枠内で使える技なんです。
　初見殺しではあるかもしれませんけど、ちゃんと対策もとれる、技なんです」
「技……か、けど、格闘の外道や」
「外道じゃないですよ。だって、私はまだ立ってますから……」
「そういうて、足がふらついてるやないか、医務室には行った方がええで。
　ま、私もそうするつもりやけど」
「あはは、じゃあ、今日の所は私の負けですけど、次はもっとうまくやりますね」
「うまくやらせへんわ。こんどこそ神髄抜きで決めるさかいな」

レフリーが正式にジークさんの勝利を宣言。
ジークさんとヴィヴィオ、二人は握手してからリングを降りるの。

「この馬鹿！　無茶すんなって言ったろ」
「ノーヴェ、だけど他に手の打ちようがなかったから……」
「判定でもいいっていったろ、ノックアウト狙いに行くな、カウンターをきっちり当てて
　相手の攻撃を受けるんじゃない」
「こんどはそうします……」
「まあ、早く医務室に行け。
　歩いてリングを降りたが、ほとんど根性でやってるんだろ」
「……ノーヴェには嘘つかない約束したから正直に言うけど
　立ってるだけでつらい……」
「しょうがない奴だな。肩を貸してやるよ。ほら、行くぞ」
「はーい」

こうして、インターミッド女子部門、ミッドチルダ予選が終わりを告げたの。
無敗の女王は、無敗の記録を伸ばしたの。
そしてヴィヴィオは、そういえば、インターミッドでは初めての敗北を喫したの。
ここまでなら、ヴィヴィオも、無敗だったの。

「みんなで、おみまいにいきましょうか」
「うん、そうするの」

私達はヴィヴィオのお見舞いのために医務室へ向かうことにしたの。
多分、私達が思ってる以上にヴィヴィオの体には負担が掛かったと思うの。

　

 

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