「コロナ、残念だったな。
　あれだけいろんな魔法を使ってて、まだ奥の手があるとは思わなかった」
「そうですね。でも、私の実力不足です」
「次は同じ手は通用させないよね」
「ヴィヴィオの言う通り、来年そういけばいいんですけど」
「そのヴィヴィオは決勝戦だ、相手は不敗の女王ジークリンデ＝エレミア。
　気合い入れて行けよ」
「うん、楽しんでくるね」
「まあ、そこがヴィヴィオか」

ヴィヴィオはまるきりリラックスしてるように見えるの。
決勝戦でも、あんまり気負ってないみたいなの。

「じゃ、ヴィヴィオ、時間だ、行くぞ」
「うん、じゃあ、みんな応援してね」
「応援するからね、ヴィヴィオ」

ヴィヴィオは、ノーヴェに連れられてリングへ向かうの。
私達は観客席なの。
会場の雰囲気は最高潮なの。
この戦いで、十代女子ミッドチルダの頂点が決まるの。

「ボクの方が緊張してきました。ヴィヴィオさんはリラックスしてるように見えますけど、すごい落ち着きですね」
「緊張してないといえば嘘になると思います。緊張をほぐすために、わざとやってるのかもしれません」
「演技でもリラックスしてるように見せられるだけすごいですよ。ボクはそういうのができないですから」
「どんな勝負になるのかな？」
「そういう霧子はどう思う？」
「ノーヴェはヴィヴィオを、格闘の天才って呼んでるけど、格闘同士じゃ向こうに一日の長があると思うの」
「確かにヴィヴィオは危なげなく勝ち進んでるよね。だけど、この勝負は……」
「ゴングが鳴るよ」

リオの言葉通り、第一ラウンドのゴングが鳴るの
ヴィヴィオは普通に構えたの。
ジークさんも、普通に構えるの。

「じゃ、行きますね」

ヴィヴィオが宣言すると、ちょっとずつ間合いを詰めていくの。
そして、遠距離砲のフリッカー。
魔法戦ではなく、格闘戦をヴィヴィオは選択したみたいなの。

「格闘戦だね」
「そうですね、魔法は通用しないという判断でしょうか」

ジークさんは、ちょっと意外な顔をして、それから笑顔になるの。

「よし、じゃあ、うちもそろそろいこか」

ジークさんは、フリッカーを軽くかわしてタックルに入るの。
ヴィヴィオはそれを予測してたみたいで、紙一重でかわすと再び構えるの。

「追撃しなかったんですね」
「かわされるのはジークさんも予測してたみたいなの。
　追撃をまって反撃するつもりだったみたいなの」

ジークさんは、こんどはヴィヴィオに付き合って遠距離の打撃戦を選択したみたいなの。

「これはヴィヴィオさん、作戦を変えないとだめかな」
「そうかもしれません。ヴィヴィオさんとジークさんでは、同じようにたたき合ってもパワーが違います」
「遠距離でのフリッカーの撃ち合いじゃヴィヴィオが不利ってこと？」
「フリッカーで間合いを取って、飛び込みを迎撃するのがヴィヴィオの作戦だと思うの。
　だけど、飛び込まずに、遠距離でのたたき合いを選択されたら、体力に勝るジークさん有利なの」
「だけど、そこはヴィヴィオも分かってるだろ、作戦を切り替えるんじゃないかな」
「とはいえ、カウンターヒットが身上のヴィヴィオだからねえ」

泪の言う通り、カウンターヒットを狙うのなら、相手が踏み込んできてくれないといけないの。
だけど、ジークさんは決して踏み込もうとはしないの。
どうやら、逆に、ジークさんがヴィヴィオを誘ってるみたいなの。

ヴィヴィオがインファイトの構えに変えるの。

「おいヴィヴィオ、間合いを維持しろ」

ノーヴェの声にヴィヴィオは耳をかさず、ジークさんへ向かって突進するの。
ジークさんはそれを待ってたみたいで、カウンターのストレートをまずヴィヴィオに放つの。
ヴィヴィオはそれを予期してたかのごとくかわすと、ヴィヴィオもそれに対するカウンターパンチを放つの。
ジークさんはこれをよけて間合いをひらき直すの。

「んー、お互い元気な内は切り札もないもんだねえ」
「泪、つまり、お互いが相手が疲れてくるのを待ってるって事？」
「あるいは、相手がじれて大技を繰り出そうとするのを待ってるか、だね」
「しびれを切らした方が不利ってことなのかな」
「そうだと思うよ」

だけど、さすがは決勝戦に残っただけのことはある二人です。
じれる、とか、じれないではなく、お互いが相手の手の内を探り合ってます。

「このラウンド、どっちかが油断すれば話は別だけど、油断がなければお互い腹の探り合いで終わるね」
「腹の探り合いって、お互いの切り札は知ってるんじゃないの？」
「そうは思うけど、ノーガードで殴り合うっていう展開にはなりそうにないよ」

ヴィヴィオも、この試合では慎重に相手の出方を探ってます。
フリッカーで間合いは維持してますが、自分からインファイトの構えをするのは止めたみたいです。
それはジークさんも同様で、落ち着いてヴィヴィオのフリッカーを捌いてます。
だけど、フリッカーをかいくぐっての飛び込みはさけているようです。

「フリッカーのタイミングを見切られたら、ヴィヴィオが不利かな。
　ヴィヴィオは間合いを維持するにフリッカーを使ってるけど
　ジークさんは、フリッカーのタイミングに合わせて飛び込めばって思ってるみたい」
「でも、ヴィヴィオがそう一筋縄でいくとも思えないの」

派手な魔法の撃ち合いとかがない分、盛り上がりにはある程度欠けるのかもしれないの。
だけど、ヴィヴィオにも、ジークさんにも、一撃必殺の技はあるの。
ヴィヴィオもジークさんも関節技があるから、それが決まればそこで試合終了なの。

それは一瞬。

気の抜けたフリッカーをヴィヴィオが放つ直前に、ジークさんが飛び込んでいくの。
だけど、その気の抜けたフリッカーがヴィヴィオの誘いだったの。
全力のストレートがジークさんに向かうの。
ジークさんはそのストレートをまともに受け、ヴィヴィオの右手をとるの。
ヴィヴィオは素早く手を引っ込めようとしたけど、ひっこめきれないの。

「これは勝負あったか？」

リオはそうつぶやくけど、ヴィヴィオはすぐに切りかえて、左手を使って至近距離での殴り合いに持ち込むの。

「左手は利き手やないやろ。威力は右ほどやない」

ジークさんも至近距離での殴り合いに応じるの。
だけど、ヴィヴィオにはまだカードがあるの。

セイクリッド・ディフェンス。見えている限り魔力で打撃を撃ち返す技なの。
魔力は消耗するけど、打撃は通らないの。
対するジークさんの方は、ちょっとずつ、だけど確実にLPが削られてるの。

「クリス、ここが正念場だからね」

クリス、ヴィヴィオのデバイスなの。
ヴィヴィオはクリスの防御を信頼してセイクリッド・ディフェンスの発動を任せて、左手での殴り合いを演じてるの。

「ヴィヴィオの右手に魔力が集まってる？」

次の瞬間、ジークさんはヴィヴィオの右手を離して間合いを開くの。

「あー、はなされちゃった〜」
「切り札はそっちやろうとは思ってたんよ」

ヴィヴィオは左手での打撃戦に注意を引きつけて、右手に魔力を集めて放つつもりだったみたいなの。
だけど、ジークさんもそれに気づいて、間合いを開いて攻撃を避けたの。

ここで第一ラウンド終了のゴングが鳴るの。

「ここまで五分かなあ？」
「たぶん、そうなの」
「でも、ヴィヴィオさんはカードを次々と切ってますけど、ジークさんにはまだ禁断のあれがありますよ」
「使わないで居てくれるに越したことはないと思います」
「でも、希望的観測だけでは勝てないです」
「ヴィヴィオも私同様、エレミアの神髄に対応する練習はしてますよ」
「そうなの。だけど、さっきみたいな状況で撃たれたら、かわしきれないの」

そう、第一ラウンドはまだお互いが相手の手を探り合っただけなの。
本番は次のラウンド以降なの。

　

 

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