「よう十夜、今日暇か？」
「ああ、毎日が暇だが、どうかしたか誠志郎」
「ん、いや、新しい食い放題の店を見つけたんでな」
「金ならかさんぞ」
「そういうなよ、今月ちょっとピンチなんだよな」
「誠志郎君は、毎日がピンチじゃないかな」
「カスミぃ、んなこと言わなくてもいいだろ、いくら本当のことでもさ」
「やっぱり、毎日がピンチだったんだ…」
「おまえは金の使いすぎだ」
「成長期だからな。お腹が減るんだよ」
「そんなことだと、すぐにぶくぶくになっちゃうよ」
「あ、それ大丈夫。俺いくら食っても太らない質だから…って、名城、おまえいつ来たんだよ」
「いつっていうか、同じクラスでしょ」
「けど、今はもう放課後だぜ。部活とかあるんじゃねぇの？」
「今日は練習休み、っていうか部活も辞めちゃったし」
「なんでだよ」
「…無断休部、長かったからね」
「…あ、そうか…悪いことしちまったな」
「柊の責任じゃないよ」

 

そろそろ、状況の説明をしたほうがいいいか。
あの事件〜カスミがJ.Bにさらわれてから、ダイスビルが崩壊するまでの一件だ〜の記憶も
まだ新しい、俺たちが藍仙高校２年生の２学期も終わろうかという時期の、２−A、つまり
俺たちの教室の放課後の様子。これが今の状況だ。

 

「ところで、カスミはもう進路決めた？」
「ええと…まだ、何も考えてないよ」
「カスミは早めに決めた方がいいよ。できれば、雲野とかと違った方向で」
「えらい言われようだな」
「カスミは雲野や柊と違って優等生なんだから、相応の大学に進学しないとね。
　何もあいつらのレベルに合わせて、偏差値低い学校行くことないよ」
「名城、そういうおまえはどうするんだよ」
「ん？べつに？あたしは進学志望だし、ちょっとでも上の大学目指そうかとおもってるけど」
「偏差値上ならどこでもいいのかよ…」
「どの学校に行きたいっていうほど、まだ大学の情報を集めてないから。
　それに、カスミと一緒に勉強すれば、あたしの学力で行ける学校の勉強には、十分でしょ」
「今からもう受験のはなしかよ、嫌みだね、優等生ってさ」
「誠志郎、それはおまえが悠長すぎだろ。もうすこしは先のことを考えろ」
「そういう十夜は、進路どうするんだ？」
「ん？そんなことは三年になってから、三者面談で考えればいいさ」
「お気楽ぶりは俺以上だな」
「だけど、みんな、同じ学校に行けるといいね」
「無理無理、雲野や柊じゃ、カスミと同じ学校なんてとてもとても」
「そういう名城はどうなんだよ」
「…あはは、やっぱカスミと同じ学校は無理かも」
「おいおい…」
「あ、あの…私だって、そんなに成績…良くないし…」
「カスミで良くなきゃ、俺なんてどうすればいいんだ？」
「猿と大差ないってところかな」
「…十夜、いよいよ、おまえと決着をつける日が来たようだな」
「そうみたいだな。…それで、今日はなんで勝負する？」
「…ウィッキッド・ディザイアのロケテスト破りなんてどうだ？」
「悪くないな、…名城、カスミ、一緒に行かないか？」
「うん、…たまには、息抜きもいいよね」
「あの二人は毎日が息抜きみたいなもんだけどね。…けど、あたしも一緒にいこっか」
「どうした名城、進学じゃなかったのか？」
「ま、それはそれ、これはこれ、もうじきクリスマスだし」
「だし？」
「頭を空っぽに遊べる高校時代の最後の日々を楽しまないと、一生の損じゃないかなって」
「なんかとげのある言葉だな」
「…だけど、瞳さんのことばも、わかるような気がする」
「なんで？」
「…今しか出来ないことって、大切にしたいから…」
「つまり、今を楽しもうってことだろ。話が決まったら、さっと出かけようぜ」
「出かけるのはいいが、一体どこでロケテストしてるか知ってるのか？」
「それはカスミが見つけてくれるさ。な、カスミ」
「え、えと…私、そんなの詳しくないし…」
「大丈夫、ゲーセン巡って”ここ”って言ってくれればそれでいいって。
　たとえ外れてたって、なんかゲームはあるだろ」
「カスミの好きなゲームセンターに案内してくれればそれでいい」
「う、うん。…十夜君がそういうなら…」
「決まりだな」
「けど、カスミの直感って結構当たるよね。マークシートなんてほとんど満点でしょ」
「え、あの…瞳さん…一応は、ちゃんと考えて答えを書いてるから…
　２択まで絞り込んでから、鉛筆を転がすことは…ないとはいわないけど…」
「あ、カスミでもそういうことあるんだ。なんだか安心した」
「え、えと…けど、やっぱり、ちゃんと自分で考えて答えまで出した方がいいと思うよ」
「おーい、カスミ、急がないと置いていくぞ」
「あ、まって誠志郎君」
「おまえ、カスミの気に入ったゲーセンに行くって言っていただろ」
「ま、そうなんだけど、けど、ずっと教室でだべってても、ゲームは出来ないぜ」
「カスミ、あんまあいつらに流されることないからね。マイペースマイペース」
「う、うん…」
「それも名城に流されてるだろ」
「誠志郎もあんまりせかすなよ。カスミ、行こうか」
「うん、十夜君」
「もうじき、クリスマスだな」
「そうだね、十夜君」
「なんか贈ろうか？」
「え、えと…いいの？」
「まあ、……いろいろ、あったからな」
「雲野、あたしには？」
「あー、ちゃんとプレゼントは贈るって」
「何かカスミと言い方が違う〜」
「…そうか？」
「ぜったいそう。やっぱ雲野も差別するんだ」
「そういうこととは違うだろ」
「なーんてね。ねえ、みんなでクリスマス会やろうよ。
　由佳里ちゃんや、空木さんや、みんなを集めてさ」
「お、そりゃ悪くない考えだな。で、誰が幹事やるんだ？」
「そりゃ、決まってるでしょ」

 

視線が１人の人物に集まる。

 

「…なんで俺なんだ」
「うーん、なんとなく、かな」
「そりゃ、おまえのアパートが一番集まりやすいもんな」
「雲野、こういうのも人徳だって」
「…わかった。連絡を取っておくよ」

 

当たり前の高校生活が戻ってきた、はずだった。
確かに、３年生になるまでの数ヶ月、俺たちは普通の高校生活を楽しんでいた。
そう…あの日、あの喫茶店に行くまでは…

 

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