お客様番号０１４：ナッツ　ティアンズ
　　　　　　０１５：ラディ　セレナ

　「・・・・また無駄足か」
　「あきらめたらだめじゃないの、きっと方法が見つかるから」
　「でも、魔道ギルドも司教様も診療所の先生もお手上げだって・・・」

　そう、ナッツがアンリに、ある日突然現れた池にたたき落とされてから
　はや３ヶ月が過ぎ去ろうとしていた
　最初のうちはノイローゼ気味だったナッツも
　ラディの愛情の元、多少は精神の安定を取り戻しつつあったのだが
　どうにもならないことは、どうにもならないのである

　「古代人だって、私たちと同じ人間です
　　古代人にできて私たちにできないという道理はないはずよ」
　「確かに、そうかもしれないね」
　「そうよ、あなたは私が選んだ人なんだから
　　いつでも胸を張っていてちょうだい」

　（にこっ）

　すこし、ぎこちなく、それでいて何か幸せそうな
　そんな笑顔を、「美少女」ナッツは浮かべる

　「あの、困っていることがあるんだったら・・・ここに相談してみてよ」

　ふと、二人が気が付くと、ピンクの髪と、その中から飛び出したうさみみが
　印象的な少女が、二人を見上げていた
　手には、なにかチラシのようなものがある

　そのチラシには次のようにかかれていた
　 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

                           ちょっとした悩みがあるとき
                         ほんの少しの手助けが必要なとき
                   そんなとき、私たちのことを思い出して下さい

    Ｍｙｓｔｉｃａｌ　Ｍｉｒａｃｌｏｕｓ　Ｍａｇｉｃｉａｎｓ　Ｃｏｍｐａｎｙ

             ・・・・・・・いつでも、あなたのそばに・・・・・・・・

  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

　「どうやら、魔法使いの会社みたいだけど大丈夫なの？
　　無免許じゃないでしょうね？」
　「え、めりっちゃがちゃんと免許の更新ができたって言っていたから大丈夫だよ
　　それに、特別査察だって乗り切ったんだから（はあと）」

　そう、この街にある冒険者養成学校はＳ＆Ｗではない
　もし、Ｓ＆Ｗを知っていたなら、めりっちゃという名前だけで
　警戒することもできたであろう

　残念ながら、彼女たちに許されていたのは、
　うさみみ少女が真実を告げているかどうか
　それを正しく知ることだけであった

　そして、彼女の瞳に嘘はないのである

　（からんからん）

　「いらっしゃいませ」
　「きゃは☆いらっしゃいませぇ」
　「さて、新装開店のＭＭＭＣ魔法商会、本日は特別サービスといたしまして
　　無料相談会を開いておりますが、どのようなご用件でしょうか？」
　「その前に聞いておきたいんだけど、この店は本当に免許があるんでしょうね？」
　「もちろんや、免許状ならそこにきちんと掲示してあるんや」

　みねあが指し示す場所には、紛れもない魔法ギルドの魔法営業免許状
　ラディが知らないわけはない

　「あの・・それで、はなせば長くなるんだけど・・・」
　「なんや、そういう事情なんか、せやたらたぶんあれが使えると思うんやけどな」
　「ちょっと、なんで私たちが話をしていないうちに決めることができるんです
　　プライバシーを侵害する魔法を使ってはいけないと定められているんです」
　「別にこれは魔法でも何でもない」
　「きゃは☆そうだって、魔法って言うのは・・・・」

　どっか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん☆

　「きゃは☆大成功」

　成功なんかい、今回は

　「攻撃魔法をやたらに使ってはいけません！」
　「まあまあラディ、誰もけがをしてないみたいだし」
　「ナッツ君は甘すぎるんです」
　「でも、あれだけの爆発を起こして誰もけがさせてないのは才能だと思うけど」
　「それは認める必要がありそうね」

　私もそう思う

　「なになになにぃ今の爆発は何だったのっていうかぁ」
　「何や店長、いままでなにしてたんや」
　「ちょっと、お客さんのために魔法人の準備とかぁ」
　「だから、どうしてわかるんですか」
　「せやけど、その話は有名やからな
　　名前を聞いただけでだいたい検討がつくんよ」
　「まだ名前も名乗ってないじゃありませんか」

　ラディ、細かいことは気にしないでくれ
　ラディが話をしている間にナッツが受け付け用紙に名前を記入していたんだ

　「本当ですか？」

　ほんとほんと、いまそういう設定を付け加えた

　「なにいい加減なことを！」
　「まあまあ、喧嘩せえへんでもええやないか
　　幸い、第一回の時のでいる先輩の魔法がそのまま使えるやろうから
　　さっそく三人の力を合わせていくで」
　「まりあ☆ひとりでやってみたい」
　「あかんで、あのでいる先輩の魔法や
　　慎重の上にも慎重をかさねへんと、なにが起こるやらわからへんやないか」

　デイルもおまえらには言われたくないだろう

　「だったらぁ、さっそく魔法陣を描くって言うかぁ」
　「せやな、魔法圧をかなりかけへんと、
　　古代魔法にはたいこうできへんやろうからなぁ」
　「いったいなにを始めるつもりなんですか？」
　「簡単や、魔法が解除できへんのなら、逆に魔法を上掛けするんよ
　　男になる魔法を使えば別段なにももんだいあらへんやろ」
　「でも、魔道ギルドじゃそんなことできないって・・・」
　「あいつらは根性がないんや
　　魔法学の進歩のためには多少の犠牲はやむをえないんよ」
　「恐ろしいことをさらっと言わないでください！
　　ナッツ君、帰りますよ」
　「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
　「ナッツ君？」
　「・・・・・・・・それって、成功率はどのくらい？」
　「成功率自体の正確な見積もりはようわからへん
　　はっきりしてるのは、１回やって、１回成功したっちゅうことだけや
　　ただ、この魔法自体は全部教科書にのってることやから
　　中に入るもんにはさほど危ないことはない
　　問題なのは、魔法圧の高さだけやな
　　これだけの魔法圧をかける場合、魔法陣にちょっとでも破れがあったら
　　街一つぐらい軽く吹き飛ぶやろ」
　「・・・・・・・・・わかった、頼むよ」
　「ナッツ君！やめて、危険すぎるわよ」

　私もそう思う

　「ラディ・・・俺の話も聞いてくれ
　　ラディ、ラディは俺がずっとこのままでいいと思うか？」
　「それとこれとは全然別問題です」
　「魔法陣に破れがあったら危ないってことは
　　魔法陣に破れがなければ問題ないってことなんだろ？」
　「確かに、その通りみたいね」

　用意されている魔法陣と、「いんふぉーむど・こんせんと」に基づく
　事前説明を聴いて、ラディもめりっちゃ達のやろうとしていることが
　無理なことではないと、理解できた

　無理なのではなくて、リスクが高いだけなのだ
　あとは、結果がリスクに見合うかどうか？
　それだけの問題なのだ

　「あの、・・その、・・・ラディ？」
　「なに？」
　「・・・・俺は、どうしても元に戻りたい
　　元に戻って・・・その、ラディと・・・普通の恋人みたいなことがしてみたい
　　一緒に公園に行ったりとか、一緒に喫茶店に行ったりとか
　　一緒に遊園地で遊んだりとか・・・・・」
　「ナッツ君、言葉が間違ってるわよ」
　「え？」
　「『恋人みたいな』じゃなくて、『恋人として』でしょ」

　おまえら、書いてるこっちが恥ずかしくなるようなせりふをよく言えるな・・・

　「らう゛シーンはそのくらいでもうええか？
　　準備はできたで」
　「さっそく始めるって言う感じかな？」
　「やっとまりあの出番だね☆」
　「じゃ、ささっと終わらせてよ」
　「任せとき！」

　こいつらに任せて安全だった試しがあるのだろうか？
　何はともあれ、サイは投げられたのだ

　”魔法圧ブーストスタート”
　”魔法圧第一臨界点まであと５０”

　「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
　「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
　「・・・・大丈夫だって、まだなにも起きてないよ」
　「・・そ、そんなことは心配してないわよ
　　みればわかるから」
　「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

　”魔法圧第一臨界点に到達”
　”ハッピンパラリコズンパラリン”

　★どむっ☆

　「・・・・・どうなったの・・・・・・」
　「失敗や・・・思うてたより魔法の強度が高いんや・・・」
　「じゃあ、だめだったってこと？」
　「そんなことはあらへん、まだまだ魔法圧は高めれるで」

　”魔法圧第二臨界点に到達”
　”ハッピンパラリコズンパラリン”

　☆どごん★

　「・・・・・・・・・・どう？」
　「あかん、まだや・・・せやけど、まだまだこれからが本番やで
　　なんぼ古代魔法いうても、こうやって揺さぶりをかけていけば
　　必ずほころびがでるはずや」

　”魔法圧第三臨界点に到達”
　”ハッピンパラリコズンパラリン”

★どっか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん☆

　「も、もうやめて・・・お願いだから」
　「大丈夫だって、ラディ」
　「ナッツ君、平気なの？」
　「あ、ああ何とかね・・・でも次で最後なんだろ、大丈夫だよ」
　「お〜い、生きてるかぁ・・・」
　「ナッツ君、大丈夫なの？？？」
　「あ、ああ・・・ちょっとびっくりしたけど大丈夫、まだ生きてるよ」
　「・・・どうや、ちゃんと戻れたか？」

（ぺたぺた）

　「いや、まだだめだけど・・・」
　「せやたら、さすがに中止やな・・・次はお互い危なすぎるわ」
　「いや、やってくれよ、せっかくここまで来たんだからさ」
　「ナッツ君・・・そんな、無理をしてナッツ君に何かあったら
　　私・・・私・・・」
　「まあ、ナッツはんがええちゅうんなら、最終いくで・・・」
　「・・・・ナッツ君、もうやめて・・・」
　「大丈夫だって、大丈夫・・・・」

　だが、ナッツが全然大丈夫でないことはみればわかる
　魔法の衝撃は、古代魔法を揺さぶるよりもむしろナッツの肉体を揺さぶっている
　そういうほうが正確であるかもしれない

　次の魔法にナッツの方が耐えられるか？
　それは、決して確約できることではなかった

　しかし、魔法圧は確実に高まっていく・・・あと、もう少しで
　最後の魔法は発動させられるであろう
　それで、古代魔法をうち破れたとしても、その魔法圧にナッツが耐えられるか？
　それは・・・・・

　”魔法圧最終臨界点に到達、隔壁崩壊まであと１００ポイント」
　”ハッピンパラリコズンパラリン”

　どっか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん☆

　「あ、あかん・・いままでの魔法が全部はじかれてもうた
　　このままやと魔法圧に魔法陣が耐え切れへん」
　「ということは・・・・」
　「みんなこれでお別れや、短い間やけど世話になったなぁ・・・」
　「ちょ、ちょっとちょっと」

　『同じ最期を遂げるなら・・・』
　ラディが魔法陣の中へと飛び込む！

　「冗談や、いまから魔法陣の魔法圧を店の外へ急速・・・・・」

　・・・・・・・・一瞬、店の中が巨大な光に包まれた・・・・・・・・

　「・・・・・・お〜い、みんな無事かぁ・・・」
　「めりっちゃはなんともないっていうかぁ」
　「まりあも☆なんともないよ」

　だれもおまえらの心配はしてない
　第一、彼女たちに異常がでてはシリーズが終わってしまうではないか

　「ナッツ君・・大丈夫」
　「あ、ああ・・・大丈夫、でも結局無駄骨だったね・・・・」
　「でも本当によかった・・・あなたに何かあったら、どうしようかと思って」
　「大げさなんだって、それより、ラディは大丈夫なの」
　「え、ええ私は平気・・・・きゃあ」
　「なにごとや？」

　何事もなにも、お約束であった
　男になる魔法が逆流して、ラディに集中したということは
　・・・・そういうことなのである

　「・・・・今回ばかりは・・・・なんともお詫びのしようがないっちゅうか・・・」
　「ごめん、俺のわがままのせいで・・・」

　（くすっ）

　「ナッツちゃん、なにぼけっとしてるの、さっそく出かけるよ」
　「え？出かけるって・・・どこへ」
　「これで普通の恋人同士でしょ？そうじゃないの」

　（にこっ）

　少しぎこちないかもしれない、でも、何か幸せそうな
　そんな笑顔をラディは浮かべたのだった

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おしまい