お客様番号０１３：隊長さん

　（かりかりかりかり）
　今日は、クリスマスの夜、クリスマス・イヴ
　（かりかりかりかりかりかりかり）
　今日は特別な夜、サンタクロースがみんなの所に来る夜
　（かりかりかりかりかりかりかりかりかり）
　サンタクロースはいるのかって？そりゃもちろ・・・
　「やかましい！」

　こらこら、クリスマス・イヴなんだから楽しくやろうよ
　「何が楽しくだ、こっちは残業なんだぞ」
　・・・まあ、ちゃっちゃっとおわさせてだな
　「・・・・今、何時か知っているか？」
　そりゃ、作者だから作中の時間ぐらいは正確に把握しているとも
　今は１０時を３０分以上回ったところだな
　もうすぐテレホタイムが来るよ
　「まったく、なんでクリスマス・イヴに残業なんだ」
　こらこら、うそはいかんぞ
　クリスマス・イヴ『も』残業っていうのが正しいんだ
　「なお悪いじゃないか」

　そう、自警団第三部隊が存続と決まって彼も正式に隊長に任命された
　年齢を理由に彼を副隊長として別に隊長をおくという案も検討されたが
　前隊長カール・ノイマン亡き後の奮闘ぶりが評価されて
　異例の隊長就任となったのである
　・・・もっとも、くちさがない連中に言わせると、仮免隊長なのであるが

　「はあ・・・別に仮免はかまわないんだけどなぁ・・
　　正規の隊員をせめて後一人ぐらいは入れて欲しいよ」
　そりゃそうだろうな、正規の隊員が隊長一人じゃ辛いだろうよ
　「そう思うなら入れてくれ、作者なんだろ？」
　却下だ、話の都合というものがあるんでな

　そう、自警団第三部隊は存続と決まっても、隊員まで入れてくれたわけじゃない
　存続を賭けて働いていた一年間と同様、
　　アルバイトを雇って仕事をこなしているのが現状なのである
　だから、アルバイトが帰った後の報告書の作成や
　アルバイト達の作った書類の整理、文書管理等はすべて彼の仕事になる
　言うまでもなく、第三部隊の仕事への苦情処理も彼の仕事である上に
　事務専門にアルバイトを雇うほどのゆとりがあるわけがない
　結果、毎日こういう時間まで残業となるのである

　「・・・・まあ、不景気だからしょうがないんだけどさあ」
　普通、不景気なら仕事が減ると思うんだが？
　「不景気になれば、犯罪が増える
　　犯罪が増えれば、自警団の仕事は増えるんだよ」
　たしかに、言われてみればそうかもな・・・・

　「だあ、なんで俺はこんな訳の分からない会話をしているんだ？
　　第一、作者って言うのは誰なんだ？
　　・・・はあ、疲れがたまっているのかなぁ」

　ふと、窓の外を見てみる
　窓の外はクリスマス一色に塗りつぶされている
　・・・自分だけが取り残された、そんな気分にさせられる・・・・・

　「こんばんは（はあと）」

　ふと気がつくと、窓の外からピンクの髪とその中から飛び出した
　うさみみが印象的な少女がこちらをのぞき込んでいた

　「き、きみは一体・・・・」
　「ボクね、こういうチラシを配るお仕事をしているんだよ」

　その、うさみみ少女が差し出したチラシには、次のように書かれてあった

  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

                           ちょっとした悩みがあるとき
                         ほんの少しの手助けが必要なとき
                   そんなとき、私たちのことを思い出して下さい

    Ｍｙｓｔｉｃａｌ　Ｍｉｒａｃｌｏｕｓ　Ｍａｇｉｃｉａｎｓ　Ｃｏｍｐａｎｙ

             ・・・・・・・いつでも、あなたのそばに・・・・・・・・

  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

　「あのね、俺はここを離れるわけに行かないんだよ」
　「そうなの？でも、問題ないよ」
　「問題ないって・・・・」

　「こんばんわ♪きゃはっ☆まだ仕事なの？」
　「うわっ」
　「なによぉ☆そんなに驚くことないじゃない」

　そう、突然窓をよじ登ってまりあが部屋の中に入ってきたのだ
　多分、サンタクロースのつもりなのであろう
　真っ赤な服に真っ白な起毛の袖口
　赤いとんがり帽子がそれなりにお茶目かもしれない

　「・・・で、一体何のようだ」
　「だから☆まりあが手伝って上げる」
　「い、いやその・・・すぐに終わるよ、うん」
　「うそをついたら駄目やないか
　　徹夜しても終わるかどうがか怪しいのは見れば分かるんや」
　「へ？」

　そう言って振り返ると、扉を開けてみねあが入ってくるところだった
　彼女もまた、サンタクロース張りの扮装をしている

　「どうやって入ってきたんだ？」
　「どうやってもこうやっても、普通に鍵を開けて入ってきたにきまってるやないの」

　たしかに、普通に開けて入ってきたのは事実である
　魔法で鍵を開けるのを「普通に」と表現するなら、だが

　「で、でも別に手伝ってもらうほどじゃないんだよ、うん」
　「ほんまかいな、それにしてはやけに書類が山積みになってるで
　「い、いや、それはその・・明日でもいいんだから、うん」
　「なんやそのあからさまに嫌そうな顔は」

　そう、あからさまに警戒しまくる隊長さん
　ＭＭＭＣの実績が実績だけに当然の行動であろう
　だが・・・

　「あら？手伝う必要はなかったのかしら？」
　「ふん・・・・相変わらず不手際だな」
　「イヴにルー？？？一体どういうこと」
　「臨時のアルバイトをやとったんや」
　「雇ったって・・・」

　”ハッピンパラリコズンパラリン”

　奇妙な呪文と共に、部屋の真ん中へ一人の女性が現れる
　もちろん、こんな奇妙な登場の仕方をするのはめりっちゃ以外にはいない

　「やっぱり〜、誰もやらないプレゼントをおくらないとぉ
　　インパクトがないって感じかなっ☆」
　「まあ、良い子にプレゼントするのはみんなしてることやさかいな
　　サクタクロース役の方へプレゼントすることにしたんよ」
　「話をするより、はやく仕事を終わらせた方がよろしいんではなくて？」
　「同感だな」
　「せやな、そしたら二人ともあんじょうたのんだで」
　「え〜☆もう終わりなのぉ」
　「うちらは、他にも行くところがあるさかいしゃあないんや」
　「ぶう☆」
　「さあ、次の人にプレゼントしに行くっていうかぁ」
　「・・・お仕事、早く終わると良いね（はあと）」

　こうして、ＭＭＭＣ魔法商会の面々は、トナカイのそりに乗って去っていった
　そりの下に車輪があったように見えたのは、多分気のせいではないだろう

　「それで、まだ決済の終わっていない書類はどれかしら？」
　「・・・それより、全体の整理をしておく必要があるな」
　「あ、ああ・・・計算の終わっていない帳簿がこれとこれで・・・」

　こうして、イヴとルーの手助けにより１時間で
　いままで手つかずだった分を含めて
　すべての作業を終わらせることが出来たのであった

　「ありがとう」
　「私は仕事をしただけよ
　　お礼ならあの人達に言うべきだわ」
　「おまえも、もう少しは段取りよく仕事をしろ
　　戸棚を見ればおまえの仕事のやり方が分かる」
　「あ、ああ・・・」

　たしかに、ルーが整理した書類棚は、隊長さんが使っていたときとは
　全く違って、何がどこにあるか分かりやすい上に
　何をどこへ戻すべきかもきちんと分かるようになっている
　たしかに、このような戸棚なら能率は上がるに違いない

　・・・・何はともあれ、彼の仕事は終わった
　ルーはイヴを送っていく
　隊長さんは、一人寮へと向かう・・・・わけではなかった

　本当は、もっと早く仕事を終わらせるはずだった
　約束したのだ、今日だけは特別だと

　クリスマスイヴを祝う人達の流れも、今はない
　ガス灯だけが、一人さみしく歩く男の姿を照らし出す
　彼の足は、教会へと向かっていた

　すべての明かりが消えた教会
　まるで人気がない中庭
　多分、５時間早く来ていれば、まったく違った光景があったろう

　明々と照らし出されるクリスマス・ツリー
　笑いさざめく子供たち
　神父様は優しく子供たちにクリスマスの話を語って聞かせ
　サンタクロースに扮した班長さんが子供たちに
　アリサさんの作ったお人形やお菓子を配って上げ
　保母さん達は、子供たちに料理を作って出して上げている・・・

　そんな光景が見られたろう

　そして、本当は約束したのだ
　彼もまたそこの場にいることを
　必ず、ここに来ると・・・・そして、たしかに今ここに来た
　だが、来たところでこれでは約束を破ったのと同じではないか・・・

　「あ ら
　　た い ち ょ う さ ん じ ゃ あ り ま せ ん か」
　「わっ」
　「な に を そ ん な に お ど ろ い て い る の で し ょ う か ？」
　「あ、セリーヌ・・・・・まさか、待っていたの？」
　「は い
　　や く そ く し ま し た か ら」
　「ごめん・・・もっと早く来る約束をしたのに」
　「あ ら
　　も う そ ん な じ か ん な の で す か」
　「もうそんな時間って・・２４時回っているよ」
　「そ う な の で す か
　　わ た く し た い ち ょ う さ ん と あ う の が た の し み で
　　じ か ん が す ぎ る の に き が つ き ま せ ん で し た」
　「時間が過ぎるのに気がつかなかったって・・・寒くなかった？」
　「い わ れ て み れ ば す こ し さ む い か も し れ ま せ ん ね ぇ」
　「・・・・・・これを羽織ると良いよ」

　そういうと、隊長さんは自分が来ていたコートをセリーヌに着せる

　「で も
　  そ れ で は た い ち ょ う さ ん が
　  さ む い の で は な い で し ょ う か」
　「え？まあ俺は少々寒くても平気だから」
　「そ れ は い け ま せ ん
　　か ぜ を ひ い て し ま い ま す」
　「だからって・・・」
　「そ う で す ね ぇ ・ ・ ・ ・
　　こ う す れ ば ふ た り と も あ た た か い で す ね ぇ」

　そう言うと、セリーヌは自分が来せてもらったコートの左袖に腕を通すと
　隊長さんの右腕に右袖を通そうとする

　「え・・・と・・・」
　「う ご か な い で く だ さ い」

　たしかに、隊長さんのコートは、下に鎧を着込むことを考慮しているため
　かなりゆとりがある
　だから、二人で一枚を着ることも出来るのである
　・・・かなり無理をすれば、であるが

　だから、今、二人は重なり合うようにして一着のコートを着ている

　「や っ ぱ り
　　こ の ほ う が あ た た か い で す ・ ・ ・ ・ ・」
　「・・・・・・・・そうだね・・・・・・・・・・・」
　「・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・」
　「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
　「・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・」
　「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
　「そ う い え ば た い ち ょ う さ ん に
　  く り す ま す ぷ れ ぜ ん と が あ る ん で し た」
　「クリスマスプレゼント？」
　「は い
　　ク リ ス マ ス で す か ら」
　「・・・ありがとう」
　「た い ち ょ う さ ん
　　ち ょ っ と め を と じ て く れ ま す か」
　「え、なにか準備があるの？」
　「そ ん な と こ ろ で す」

　言われたとおりに目を閉じる・・・

　（えっ？）

　一瞬、コートを引っ張られたような気がした瞬間
　顔の前に人の息を感じる
　そして・・・唇に何かが当たる感触が

　思わず目を開ける
　セリーヌのアップが目の前にある

　「・・・いまのが、クリスマスプレゼント？」
　「は い
　　そ の と お り で す け れ ど も ・ ・ ・
　  き に い っ て い た だ け な か っ た の で し ょ う か ？」
　「セリーヌ？」
　「な ん で し ょ う か ？」
　「俺からもクリスマスプレゼントがあるんだけど・・目を閉じてくれるかな？」
　「は い い い で す よ」

　セリーヌが目を閉じる
　隊長さんは、そっと肩に手を回すと、ゆっくりと唇を重ね合わせる・・・

　「メリークリスマス、セリーヌ」
　「は い ・ ・ ・ ・
　　す て き な プ レ ゼ ン ト を あ り が と う ご ざ い ま す」
　「それは、俺のセリフだよ」


　今日は、クリスマスの夜、クリスマス・イヴ
　今日は特別な夜、サンタクロースがみんなの所に来る夜
　サンタクロースはいるのかって？
　そりゃもちろんいるに決まっている
　そして、きみのところにも必ず訪れるだろう

　みんな、一人一人がサンタクロースなのだから

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おしまい