お客様番号０１０：アースト・バルディース

　「きゃー、アーストさま〜」
　ずどどどどどどどどどどどどどどど
　「アーストさま〜、こっち向いて〜」
　どどどどどどどどどどどどどどどどどど
　「な、なんで毎日こうなる！」

　そう、追っかけの女の子から逃げ回るのが
　アーストの日課になって、もうどれくらいになるだろうか

　「アースト様、つっかまぇた！」
　物陰から、急に追っかけ隊の一人が飛び出す
　「あれ？アースト様？」
　が、さすがに、アーストは鍛え方が違う
　殺気を感じた瞬間、スライディングでかわしていたのだった
　そこから更にダッシュで逃げるアースト

　「まって〜、アーストさまぁ〜」
　「・・・・・誰が待つか」

　そう、これはアーストと追っかけ隊の死力を尽くした戦いなのだ
　もっとも、これまでの所、勝者は常にアーストであった
　アーストを追っかけていれば幸せな追っかけ隊と
　捕まったら最後のアーストとの、気構えの差かもしれない

　「あ〜ん、今日もまた見うしなっちゃったぁ」
　「もう、アースト様ったら照れ屋なんだから」
　・・・・・・・・・・・・・
　結局彼女たちは、今日もまたアーストに逃げられたのだった
　もっとも、彼女たちは充実したひとときを過ごせたのだから
　それはそれで良いのかもしれない

　不幸なのは、あくまで彼の方である
　だが、彼もまたひとときのやすらぎが与えられたわけだ
　ひとまず、文句を言えば罰が当たるだろう

　「ねえ、どうしたの？誰に追いかけられてるの？」
　「うわっ！」

　だが、彼に安息の時を与えるほど、作者は甘くないのである

　「・・・おまえ、なにものだ？」
　「ボクねぇ、ビラ配りのアルバイトをしてるんだ（はあと）」
　「ビラ配り？」

　彼女が差し出したチラシには、次のように書かれてあった

  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

                           ちょっとした悩みがあるとき
                         ほんの少しの手助けが必要なとき
                   そんなとき、私たちのことを思い出して下さい

    Ｍｙｓｔｉｃａｌ　Ｍｉｒａｃｌｏｕｓ　Ｍａｇｉｃｉａｎｓ　Ｃｏｍｐａｎｙ

             ・・・・・・・いつでも、あなたのそばに・・・・・・・・

  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

　「ふん、・・・興味ないな」
　「でも、誰かに追いかれているんでしょ？
　　きっと、力になってくれると思うんだ」
　「どうだか」
　「大丈夫だよ、前回は大成功だったんだから」

　澄んだ瞳で、まっすぐとアーストの瞳を見つめるうさみみ少女
　思えば、一体何人が、この澄んだ瞳の餌食になったことか・・・
　もちろん、アーストも例外ではあり得ないのである

　（からんからん）

　「いらっしゃいませ・・・なんや、アースト先輩やないの
　　一体どないしたんや？」
　「・・・・・みねあか、何をしているんだ」
　「バイトやバイト
　　所で、アースト先輩どないな悩みがあるんや
　　なんでもこのみねあちゃんが相談に乗るさかいいうてみてや」
　「・・・・・・・・・」
　「え？そうなの？だったらまりあの魔法で・・・・・」

　ちょっとまて、まだアーストは何も言ってないぞ・・・って
　まりあに言ってもしょうがないか

☆どっか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん☆

　正真正銘、最大文字数の大爆発である
　それにしても、前回の分をここで埋め合わせてどうする、まりあ・・・

　「やっぱり、おやくそくはお約束って言う感じかな？」
　「なんや店長、いてたんかいな
　　おるんやったら止めてくれればえかったんや」
　「だってぇ、たまにはうまく行くかもしれないしぃ」
　「ぶう☆ときどきは成功してるもん」

　・・・まりあ、それって「しょっちゅう失敗している」と同義語だが・・・

　「それはそうと、またお客さんがのびてるやないの」
　「だったらぁ、また気付けを使うって感じかな」
　「まだ新しいブランデーこうてへんのや」
　「だったらまりあの魔法で・・・」

　こらぁ！おまえは懲りるってことがないんかい！

　「やったあ☆大成功」

　め、めずらしい・・・ちゃんとまともに回復している

　「・・なんだったんだ、今のは・・」
　「世の中、しらへんほうがましっちゅうこともあるんや
　　さてと、悩みがなにかまだ聞いてへんかったなぁ、アースト先輩」

　少しだけ、シオンがどんな目に遭っていたのか、実感できたアーストであった
　すすむも地獄、止まるも地獄、逃げるという選択肢は始めから与えられない

　「・・追っかけ隊はどうにかならないか？」
　「なんや、彼女を作る気になったんか？」
　「違う！ああ毎日毎日追いかけられてはかなわない、といっているだけだ」
　「そうなんか？せやけどＳ＆Ｗの男子の半分以上はうらやましがってるで」
　「だったら、いつでも代わってやる」
　「せやたら、人格交換の魔法でも使ってみるか？
　　効果はてきめんやと思うんやけどなぁ」
　「断る」
　「なんや、贅沢やなぁ、絶対確実な効果が見込めるのに」
　「・・・俺は、いつでも俺でありたいからな」
　「なんだかぁ、アーストくんってレジー先輩って感じかなっ☆」
　「レジー先輩？誰だ、それは」
　「めりっちゃがぁ１ｓｔの頃の３ｒｄでぇ
　　ニヒルなナンパ師って感じでぇ」
　「俺はナンパ師じゃない」
　「でもぉ、エンフィールドのナンパ師と同じって言うかぁ☆」
　「声が似ているだけで一緒にするな」

　まあ、一理ある主張である
　声が似ていれば同じなら、ティーファは名ピアニストで
　クレアには手のかかる兄がいて、まりあは後先考えない魔法少女だろう・・って、
　あれ？声が似ていれば結構同じかもしれない

　「・・無理矢理同じ例を探すからだ」
　「やっぱり、ここは人格交換やろ、それが一番や」
　「でもぉ、めりっちゃにはもっといい考えがあるって言う感じかな」
　「そんなええ方法でもあるんか？」

　”ハッピンパラリコズンパラリン”

　めりっちゃは、答えるかわりに魔法のステッキを振り回す

　「ぷっ、た、確かにこれはええ考えやわ」
　腹を抱えて笑い転げるみねあ
　「でも☆結構似合ってるよ」
　「やっぱりぃめりっちゃって天才って感じかなぁ」
　「・・・・何が起きている？」
　「あはは、そこの鏡をみてみいや」

　言われたとおり、アーストが鏡を見つめると・・・

　鏡の中に、エプロンドレスを着た妙な人物がいる
　肩まである緑色の髪がかわいらしさを演出している
　少し小柄なその人物、結構似合っているが・・・男であることは一目で分かる

　「・・・・なにがしたい」
　「これで一回街をあるいたらぁ、みんな引くからぁ
　　一人きりになれるっていうかぁ☆」
　「・・・・・・・・・嫌だ」

　それは、誰だってそうだろう

　「せやたら、やっぱり人格交換やな、アースト先輩は
　　誰が好みやの？」
　「ぶう☆まりあ、今度はうまくやるんだから」

　だが、その他の選択肢はこの二つだけだぞ、アースト
　さあ特別に選ばせてやる、好きなものを選べ

　「一つ聞いていいか？おまえ・・何をするつもりだ？」
　「まりあ☆おまえって名前じゃないもん」
　「だったら、まりあ、一体何の魔法を使うつもりだ？」
　「この間作った、ラヴ★ポーションの改良版」
　「・・・・・・・・・・・・わかった、やはりこの格好で帰る」
　「ほら、めりっちゃって超天才魔法少女でしょ」
　「なんや、おもろうないなぁ・・・せっかく新しい魔法開発したのに」
　「そうよそうよ☆」

　ま、我慢してくれ二人とも、いずれ使うこともあるだろうし

　「じゃあな」

　（からんからん）

　こうして、アーストはとりあえず家路を急ぐことにした
　ともかく、家にたどり着きさえすれば着替えることが出来るのだ
　あのまま魔法少女どもに絡まれるぐらいなら、その方が遥かに
　安全な選択肢、おまけに、めりっちゃの主張も一理あるのだ
　これで追っかけ隊が幻滅してくれれば、万事解決ではないか

　「きゃ〜、アースト様かわいい〜！！！！」

　だが、アーストの願いはあっさりと却下された
　追っかけ隊に見つかったのだ、それも、アーストの希望とは正反対のリアクションで

　「アーストさまぁ、一緒に帰りましょ〜」
　どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど
　「な、なんでこうなる！？」
　エプロンドレスの裾を摘んで走るアースト
　案外器用に走っているのは、多分持って生まれた運動神経であろう

　「アースト様、つっかまえった！」
　物陰から急に飛び出す追っかけ隊の一人
　だが、今回はエプロンドレスだからスライディングでかわすわけには行かない！

　「あ〜ん、また逃げられちゃったぁ」

　そう、アーストはフェイントをかけて、彼女の後ろを通り過ぎたのだ
　なんで、エプロンドレスを着てこれだけ動けるのかは謎である

　「・・ねえねえ、あの子、ちょっとかわいくない？」
　「うんうん、あれが噂のアーストくんね」
　「今まで、なんであんなつっけんどんな子がいいのかな？って思っていたけど
　　こうしてみると、結構お茶目なところがあるのね」
　「うんうん、あたしも、アーストくんのファンクラブに入ろうかな」

　・・・・・・・・こうして、アーストはファン層の拡大に成功したのだった
　きっと、明日はおね〜さんな追っかけ隊も現れることだろう

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おしまい
　おまけ：ＭＭＭＣ魔法商会にて

　「しもた、お代もらうの忘れてしもた」
　「きゃは☆めずらし〜」
　「もお、せっかくめりっちゃが問題を解決したのにぃ」