タイトルは例によって大仰です。でも、書くことは自分として思ってる事を書き連ねるだけです。
昔々、まだソ連という国があった頃、ウォーゲームブームは確かにありました。あの頃にはホビーショップやプラモデル屋にはウォーゲームの箱が並んでいたものです。普通に手に取ることが出来れば、興味を持つ人がそれだけ出てきます。
多分、ここを読んでる人の大半が、その時代を知ってる人だと思います。その頃にはウォーゲームの入り口とか考える必要はありませんでした。入り口はそこにあって、後は手に取るかどうかだけの問題だったのです。
その頃は、入門用ゲームなんていうものも考える必要はありませんでした。興味あるテーマのゲームのルールを、必死に覚えてプレイしてたものです。
そういう時代はもう二度と来ないでしょう。まずウォーゲームがホビーショップに当たり前に並んでる状況が起きないでしょうし、そもそもホビーショップ自体が減少傾向です。通販を使わないと欲しい物が手に入らない時代では、ぶらっと目的もなく見るという形でたまたま出会う、という可能性はまずありません。ウォーゲームを見ることがなければ、興味を持つことはあり得ません。ほっといたら先細りするのは、ウォーゲームブームが去った後多くの人が懸念したことです。
で、本題に入ります。そんな時代のウォーゲームの入り口としてなにが必要だろうかという話です。
まず存在を認知してもらう、というのが第一なのはその通りです。なにが面白いのかわからないが、とにかくやってる人がいることを知っている、ウォーゲームの存在自体は知っている、という人がいないと先には進めません。
そこからまたハードルがあるのがウォーゲームの辛い所です。とにかく独特の概念を持つルールが多い、さらにルール量自体も多いと来ます。世の中にはもっと単純でゲーム性の高いものがあるのに、なんでウォーゲームをやるのか、単純にゲームとして見ればもっと面白いゲームがあるんじゃないか。そういうのはもっともです。
じゃあウォーゲームの魅力とはなんぞや？ なぜそれ以外のゲームではなくウォーゲームをやってるのか？ という問いかけは、誰かにウォーゲームを勧めたいと思う人なら、常に自分自身に投げかけるべきものでしょう。「そこにウォーゲームがあるから」では答えになってないのです。
でも、ここでは自分なりの答えがそこにあるとして話を進めます。次に来る言葉は「じゃあとりあえずやってみようよ」となると思います。となると、「ではなにをやるか」が次に来るはずです。
で、やっと本題です。このときやるゲームはどんなのがいいのか？ です。戦術級、作戦級、戦略級、海戦、空戦、ウォーゲームの世界も広いので、まずはなにをやってみたいか、が第一に来ます。ルンガ沖海戦に興味がある、と言ってる人に、いくら傑作だからといって、Victory in the Pacificを勧めてもしょうがありません。
ただ、第二次世界大戦の空中戦がやりたいといってる初心者に、撃墜王（ツクダ）を薦めてもやっぱりどうしようもないでしょう。そう考えていくと、次のような条件は満たしてる必要があることがわかります
・やりたいこととゲームが提供してるものが一致してること
・その場の口頭説明で初心者にもルールが理解出来ること
前者の条件は理解してもらえると思います。興味の無いテーマのゲームでは、どんな良作を提示しても「これは自分の求めてるものとは違う」となります。
後者の条件は、相手が入門者であるという前提だと必須です。今時のボードゲーマーは、全員がルールを読んできてることはまずありません。所有者以外は口頭説明でルールを頭に入れてプレイする方が一般的です。よほどウォーゲームに入れ込んでない限り、口頭説明で即プレイできないゲームなら、そもそもプレイ対象としてもらえないのです。
その上で、「なにか自分で判断してる気持ちになれる」という条件も加わると思います。これはゲームとしてのおもしろさとは別です。自分で説明を受けたルールに従って、自分なりの決断が出来てるという実感が必要なのです。
これらの条件を全部満たしてるゲームがあれば入門用ゲームとして完璧でしょう。しかしながら、テーマに一致したゲームを持ってこれたとして（それは見た目ほど難しくない）そのゲームが「口頭説明でプレイ出来るか？」というと、こちらが非常に難しいのが現状だと思います。なにしろ、通常のウォーゲームは、出来ることがやたら多いのです。将棋の駒の動かし方を覚えても将棋が指せることにはならないのと同じで、ウォーゲームの基本ルールを口頭説明で理解できたところで、じゃあ適切に自分のやりたいことができるようユニットが動かせるかというと、それはまた別問題なのです。
だからといって、「あれはああやればいいよ、これはこうすればいいよ」と言ってたのでは、自分で何かやったという感想は得られません。これではルール説明者のソロプレイの延長です。入門者は言われたとおりにユニットを動かしてダイスを振っただけになってしまいます。
となると、入門用ゲームが持つべき条件は次のようなものになると思います・
・ルールが入門者でも口頭説明で理解出来るぐらいに簡単であること。
・ユニット数が極限まで少ないこと
・プレイヤーの選択肢が限られてること
最初の条件は理解してもらえると思います。口頭説明でわからないルールは読んでもやっぱり理解してもらえません。
ユニット数の条件は、入門者の立場に立てばわかってもらえるでしょう。１ユニットを動かすにも、そのユニットの移動力で動ける場所は少なくないので、選択肢は多数出来るのです。入門者に多数のユニットの選択肢をすべて考えるように、というのは酷です。
で、最後の条件が出てきます。選択肢が２つしかなくても、どちらを選ぶか選択出来れば、それは自分による選択です。選択肢が無数にあっても、正解が１個しかなくて、他は間違いとして捨てられるものなら、それはもう自分で選んだ選択肢じゃないのです。サイコロ振って偶数か奇数か当てる、だけでもゲームとして成立するのですから、選択肢が２つあればそれはゲームとして成り立ちえますが、選択肢を１つに限られてしまえば、それはもはやすごろくですらない何かです。
その条件を全部満たしたゲームは未だ見たことがありません。
入門用と銘打たれたゲームでも、選択肢が多すぎて入門者にはなにをしていいかわからないものなのです。……これは、ドイツ戦車軍団のエル・アラメインを初心者がやってるのを見て思ったことです。エル・アラメインでもユニット数が多すぎ、選択肢が多岐にわたりすぎてプレイ困難でした。
ウォーゲームハンドブック（ＨＪが日本語版を出してた）の付録でもあったDrive on Metzは、ユニット数が少なくてプレイしやすいものでした。私もウォーゲーム入門者だったときには自作して何十回とやったものです。それでも、ユニット数はともかく、選択肢はまだ多いと思ってます。入門用ゲームだと、１フェイズの選択肢なんて２つか３つあれば十分で、１０も２０もあったら混乱するだけです。
手前味噌ですけど、「師団級マーケットガーデン作戦」はそういう考えから作ったたたき台なんですよね。ユニット数は１０個程度、選択肢は極限まで削りました。対戦ゲームとしてのおもしろさは捨てて、入門者が迷いにくいことを優先してます。
そうはいっても、これは私の個人的な考えで、正しいかどうかはわかりません。ただ、こういう観点からのアプローチをしてる人は見たことがありません。車輪の再発明なのか、それとも先行してやってみてダメという結論が出てるのかは判断つかない状態です。
閑話休題。世にウォーゲームは星の数ほどもあり、入門用を目指したゲームも多数あります。その入門用を目指したゲームが、一体どこまで「本当の入門者」を見て作られてるかはまた別問題だと思います。私も実際に見て作ったとはいいません。ただ、ウォーゲーマーの独りよがりな「入門用」ゲームでは本当の入門者には響かないとは言えると思うのです。