「…また失敗ですわね」
「おかしいなぁ…どうしてなんだろう？何が間違ってるかわかる？アスレイ」
「呪文詠唱も正しいし、精霊力の集中もおきてますし、精霊波動も間違っておりませんわ。
　 一体どうやったら間違えるのかしら。ここまで来ると一種の才能ですわ」
「そんな才能なんていらないよ」
「そう思うのでしたら、原因をみつけて、取り除くことですわね。
　 精霊の存在安定度の低さは、精霊反応を読み取れてないのが原因かもしれませんわ。
　すこし、私の召喚する精霊を見て、精霊反応を感じ取る練習でもされることですわね」
「うん、お願いするよアスレイ」

 

ここは、 学園の修練場だ。いろいろと召喚魔法を練習できる場所を探したんだけど
最近魔族との戦争が激しくなっているせいで、僕以外の普通の召喚術師でも
召喚事故を起こすことが多くなってきてるんだよ。
魔族の遊撃隊に遭遇する可能性も高まってきて、普通の人が正門から出かけるには
軍の護衛隊に同行するか、ギルドで護衛を雇うか、それともパーティを組んで
身を守るか、どれかでなければならなくなっている。
そうでもなければ、門番さんが外に出してくれないんだ。

 

その点、この学園の修練場なら、行き来は学園の他の練習生とパーティを組めば大丈夫だし
練習場について悩むこともない。教官に聞けば、訓練に適した部屋も教えてもらえる。

 

今僕は、アスレイと一緒に、召喚の練習場で召喚練習をやってる最中だ。
万が一精霊が暴走しても外に逃げ出さないよう、部屋全体が封印魔法陣になっている。
ここなら、大精霊召喚だって不可能じゃないだろう。…アスレイみたいに能力があればね。

 

「…わざと精霊を不安定な状態にしてありますわ。
　炎の精霊は、破壊を司りますけど、不安定な状態を観察するには適してます」
「ありがとうアスレイ」
「精霊力の流れと、揺らぎが感じ取られるでしょう」
「うーん。感じ取られるでしょうって言われても…」
「精霊力を弱めますわ。…これが、精霊力を押さえつけて精霊力が消滅しかけてる状態ですわね」
「……なんだか苦しんでる感じがするよ」
「どの精霊も、魔法力を集めて大精霊へと進化しようとする衝動をもっておりますもの。
　正しい手順で召喚しないかぎり、大精霊にはなれないですけれども」
「そんな衝動があるんだ」
「一体、講義をまじめにきいてるのですか」
「あはは〜」
「笑ってごまかさない…ですけれど、精霊が苦しむ感じがわかるのですね」
「う、うん…それはわかる」
「…そして、精霊力が暴走しかけると、こんな感じになりますわ」
「…………これが、暴走…。そうだ、これはたしか覚えてるぞ。
　父さんと実験してる時、一度起きたことがある。封印結界の第一層を破壊して
　第二層で食い止めたんだっけ。
　通常の封印結界だと、2層構造でしかないけど、父さんがやったときは確か
　3層構造の封印を使ってたんだった」
「三層結界で召喚？封印の厚みを増せばそれだけ安全性は高まりますが
　制御も難しくなるはずですわ」
「そうだよ。…って、アスレイ、危ないっ！」
「あぶな…くっ！いでよ水精！クラーケン」
「水の中級精霊！？」
「…もう少しで暴走させるところでしたわ。わざと不安定な状況を作って
　いじするのは難しいですわね」
「…余計なことを言って悪かった？」
「いいえ。…注意してくださらなければ、あのまま暴走させてたところですわ。礼を言います」
「お礼なんていいよ。僕だって、父さんが暴走させるのを見てなければ気づかなかったから」
「………私は、暴走するまで気づきませんでしたわ。
　どうして、これで召喚できないのかしら」
「どうしてって言われても…」
「…あら、もうこんな時間ですのね」
「そうだね。もうお昼なんだ」
「なにか食べる物でも用意してありますの？」
「いや、何にも持ってきてないよ。とりあえず、調理室にでも行こうか」
「そうですの。…あの、よろしければ、私のお弁当がありますから、わけてさしあげますわ」
「アスレイのお弁当って、1人分しかないんでしょ。それをもらうのは悪いよ」
「いえ、こんな事もあろうかと、あなたの分も用意してありますの。
　余らせてはもったいないですから」
「え？ほんと？ありがとうアスレイ………こんなこともあろうかとって
　それじゃ僕が忘れるのを見越してたみたい…」
「あなたとは、短いつきあいではありませんわ」
「うん、そうだね。いただきまーす」

 

…………

 

「どうですの、味は？」
「…意外においしいよ。アスレイって、魔法だけじゃなくて料理にも才能があるんだね」
「練習しましたもの。当然の結果ですわ」
「練習したって、わざわざお弁当を作るために練習したの？」
「当然ですわ。人に食べさせるつもりで作ったんですから」
「……ええと…それって…もしかして…このお弁当を作るために？」
「ええ。そうです……あ、あの、誤解が無いように付け加えておきますけど
　誰のためにであれ、お弁当を作るなら、練習してから持ってきますわ。
　あなただから練習したとか、そういうことでは、ありませんから」
「…アスレイは、完璧主義なんだね」
「あなたがずぼら過ぎるんですわ。
　すこしは先の心配をしたらどうですの。
　特待生は落第すればそれで奨学金をうちきられますのよ。
　もう転科するゆとりもないですわ」
「大丈夫だよ…たぶん。アスレイと練習してるしね」
「…」
「どしたのアスレイ？」
「なんでもありませんわ。さあ、食べ終わったら練習の再開ですわ。
　日のあるうちに帰るつもりでしたら、時間は無駄に出来ませんもの」
「うん、そうだねアスレイ。…それで、どんな練習をしようか」
「こんどは、自分で考えられることですわね」
「それじゃ、アスレイ、対精霊力結界を張ってよ。
　その中で精霊力の流れを見る練習をするから」

 

………

 

「結局、なにも呼べなかったね」
「……精霊力の流れを見るだけなら、私よりあなたのほうがよくできてるようですわ。
　自分の魔法力供給を制御する訓練をされるようがよろしいのではなくて」
「うーん。そうなのかな。でも、もう時間だよ。それはまたこんどにしようよ」
「そうですわね。またこんど、時間がとれたなら」
「うん、いつになるかわからないけど」

 

…時間がとれたなら。か
アスレイって、主席で料理も出来て外見だって……

？なにを考えてるんだろう。
僕がしなければならないことは、卒業のための勉強のはずなのに。

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