召喚少女別伝
【第三章】
逆療法？。死霊の森へ！
僕の名前はコオル・リアロ。マグストラタム学園召喚学科のの三年生だ。
落ちこぼれとはいえ、特待生待遇で魔法の名門学校に通う未来の士官候補生。
なんだけど、僕の志望はあくまで召喚術の研究職だ。
実を言うと、そのせいで卒業のハードルは高い。
単に卒業するだけなら転科してしまえばいい。召喚は下手だけど
普通の支援魔法なら平均以上の腕前を発揮してるんだ。
前線歩兵の支援魔導師は、…んーと、まどか達の世界でいう衛生兵みたいな
扱いで、需要はものすごく多い。
けど、僕はあくまで父さんの遺産、っていうか、研究の解読と継承
できれば発展まで結びつけたいと思ってるんだ。
そのためには、なんとしても一人前の召喚術師になることが必要だ。
だから、どうしても、召喚術師としてマグストラタム学園を卒業しなければならない。
「バカ弟子、説明的な台詞はそれぐらいでいいかい？」
「いいよ師匠。待っててくれたの？」
「なんか目の焦点合ってないみたいだからね。最近ちゃんと寝てるかい？」
「もちろん。講義の合間にぐっすりと」
「講義の最中にも寝てるみたいだね。アスレイが言ってたよ」
「アスレイもそんなところ見てなくたっていいのに…」
「あたしの講義中にも堂々と寝てるようだね」
「え、あ、そ、それはその…」
「はぁ…勉強も大切だけど、体壊したら肝心の勉強も出来なくなるんだよ。
ちったあ自分で体調管理も考えるんだね」
「うん、…わかってるよ。それで、今日は一体どうして呼び出したの？」
「ん、ああ、おまえの勉強のすすみ具合を聞こうと思ってね。
どうだ、あれからすこしでもまともに召喚出来るようになったかい？」
「まともにっていうか、全然…」
「…おまえ、まじめにやる気あんのかい！
召喚出来ない召喚術師がどこの世界にいるんだよ。
ちゃんと起きて講義聞いてりゃこんなことになるわけないだろ！」
「ちゃ、ちゃんと聞いてるよ…聞いてるときには…」
「…で、なんで召喚できないか、すこしは考えがあるんだろうね？」
「んーと、たぶん、講義中に寝てるからじゃないかって…」
「じゃ、寝るな。で、他には？」
「・・・全然わからない。見当もつかないんだよ。
魔法陣も間違ってないはずだし、精霊力の強い場所も選んでるはずだし
呪文の詠唱も間違ってないし、触媒もちゃんと用意してるのに…」
「…ちゃんと練習はしてるみたいだね」
「そりゃ練習ぐらいはしてるよ。…練習しても全然上達しないんだよ…」
「上達っていうか、一歩も前に進んでないんじゃないか」
「わかってるって」
「そっか、で、これからどうするつもりだ？」
「…正直、どうしていいかわからない」
「…あのさ、あたしはおまえの師匠なんだよ。
そりゃ、自分で調べもせずに聞きに来れば追い返すさ。
やるべき事を全部やった上で、それで壁にぶつかったんなら
師匠に聞きに来い。すこしは役に立つ助言もしてやれるよ」
「ほんと！なにか召喚が上手くなる秘訣でもあるの？」
「そんな都合のいいものがあるかっ！あったらとっくに教えてる…って
これは前にもいわなかったか？」
「どうだったっけ？」
「それはともかく、バカ弟子。おまえの召喚失敗にはパターンがあるみたいだね」
「パターンって？」
「精霊召喚自体はちゃんと成功してるんだが、その先の制御が全然出来てないんだよ」
「え？ほんと？召喚自体成功してる気がしないんだけどなあ…」
「おまえは呼び出すのに集中しすぎなんだ。
小精霊自体は瞬間的に呼び出されてるんだが、呼び出したあと
魔法陣のなかにきちんと安定せずに、直ぐ解放されて元の世界に帰ってるんだよ。
どうも、精霊力が強すぎて精霊が勝手な振る舞いをしてるね」
「勝手な振る舞いをしたら暴走しない？」
「そのための魔法陣だろ。おまえ講義ぐらいちゃんとおぼえときな。
魔法陣は精霊力を集めるだけじゃなくて、精霊が暴走しないよう
封じ込める働きもあるんだよ」
「あ、そっか。だから魔法陣は二重構造になってるんだ」
「そういうこと。で、おまえの場合なんだが、精霊力をむやみに高めても
召喚は成功しそうにないからね。
むしろ、精霊力の適度に低い場所で召喚を練習したほうがよさそうだ」
「精霊力の低いところで？」
「ああ。精霊力の低いところで、触媒と魔法陣をきちんと使って召喚すれば
召喚術師の精霊に対する支配力は高まる。
精霊への支配力が高まれば、それだけ召喚された精霊を長時間
魔法陣内に維持することは出来るだろうさ。
魔法陣内に精霊を維持して、契約を成立させれば召喚は終わりだ。
ま、こういうのは、逆上がりと同じで、一回できれば
何度でも出来るようになるけど、出来ないうちはどうやったら
出来るのかもわからないものだからね。
ま、例しにやってみな。上手く行くかどうか保証はできないが
気分ぐらいは変わるはずだよ」
「ありがとう師匠。それで、精霊力の低い所ってどんなところ？」
「それは自分で調べな。勉強の内だよ」
「はーい」
「とは言われたものの…精霊力の低い場所かあ。
どんなところがあると思う？ルテジア」
「なんでそこであたしに振るか！」
「いや、だってルテジアならいろんな所に薬草を採りにいってるし
薬草だって、精霊力の強いところを好むものもあれば、精霊力の
少ないところを好む物もあるから、精霊力の低い所を好む
薬草のありかを知ってるんじゃないかと思って…」
「んー、あんたもすこしは考えてるのね」
「いつもちゃんと召喚の事は考えてるよっ！」
「どうだか。結構さぼってること多かったでしょ」
「う、ま、まあ…筆記試験の出来に安心して実践がおろそかだったことはあるよ。
だけど、今は毎日夜も寝ずに勉強してるって」
「夜はちゃんと寝なさい！。携帯電話の充電だって、大事なときに
バッテリー切れにならないよう一日一回きちんとやる。常識でしょ」
「わかったよ…って、あれ？なんでルテジアがそういうこと知ってるの？」
「携帯電話の説明書が放り投げてあったわよ。ちゃんと整理ぐらいしなさい」
「はーい。…それで、ルテジア、精霊力の弱い場所って心当たりある？」
「心当たりがないわけじゃないけど、結構危険な場所なのよね」
「危険って、どれぐらい？」
「日中はそれほど危なくないわ。ただ、夜が来ると死霊が出るのよ」
「死霊？…それって、ものすごく危ない場所じゃないの？」
「最近戦争の影響かもしれないけど、妙なモンスターが増えてきたのよね。
特に月の綺麗な夜は危ないわ」
「それって、魔力が高まるからでしょ、死霊は関係ないんじゃないかなあ」
「死霊も月の魔力からエネルギーを受けてるから同じよ。
太陽によって大地が浄化されてるときは活動出来ないけど
太陽の光がなくなったら、闇の波動を受けて活動を始めるわ」
「うう…死霊が出るのか。…だけど、…やっぱり、行かなきゃだめかな…」
「死霊ぐらい退治してやる！って気概がなければ、召喚術師にはなれないんじゃない？」
「妖術師だったら、死霊を手足のように使えるんだけど、僕は召喚術師だし」
「召喚に成功してから名乗ろうね。今は召喚術師の弟子」
「・・・・」
「落ち込むな。てか、あの子達の助けを借りれば、死霊ぐらい一撃じゃないの？」
「あ、まどか達か。そういえばそうだった。
連絡とって出かけてくるよ」
「それがいいわね。晶石もちゃんと集めて出かけなさい。
道具も忘れずにね」
「わかってるって、じゃ、行ってきます」
「それで、ここが死霊の森なんだね」
「そうだよ卯月」
「空気が澄んでてとっても気持ちいい。本当にこんな所に死霊が出るの？」
「今は太陽の光で邪気が払われてるだけだよ」
「すばらしい。まるで妖魔の出る森のような雰囲気がある」
「あ、あの…お姉ちゃん…むしろ気味悪いっていうんじゃ…」
「あら〜こういう湿原の花って、かわいらしいものが多いのよ〜」
「うん、こういうところにしか生えない薬草もいろいろあるんだよ。
だけど、まずは召喚のための晶石集めをしようよ」
「そうだね」
そういうわけで、僕はまどか達を召喚して、ルテジアに教わった
死霊が出るっていう森に来たんだ。
森っていっても、湿原に近い森で、あちこちにわき水がある。
今は晴れてるから、幻想的な雰囲気が漂ってるっていう言い方も出来るけど
確かに、これは日が暮れたら薄気味悪いっていうしかないかもな。
「…あ、あれ？」
「どうしたのまどか？」
「なんだか、立ちくらみしちゃったみたい」
「まどか、普段からだを鍛えてないんじゃない？」
「失礼ね。毎日トレーニングしてるんだから」
「まどかのは、トレーニングって言っても歌の練習でしょ」
「歌を歌うのだって、体を鍛えないと声量が出ないのよ」
「へー、そうなんだ。それは初めて知ったよ」
「声って体全体で出さないと、ちゃんとした声にはならないの」
「まどかって、歌を歌う練習を毎日してるの？」
「まどかちゃんは〜ボーカリストを目指してるんです〜」
「ネギを振る仕事でもなければ、オレンジをもつ仕事でもない」
「おねえちゃん…そんなネタ振っても困るんじゃ…」
ネタを振られたっていうこと自体わからないよ。
「わかる人だけわかればいいネタだから気にしない。
それより、休憩にしない。なんだかボクつかれちゃった」
「卯月ってもうつかれたの？鍛え方が足りないじゃない」
「ボクは下を向いて物を探す練習なんてしてないんだから」
「うーん、それもそうか。晶石探しっていっても、何を探せばいいかわからないよね」
「精霊力のあるものを探せば…いいんですよね…」
「青晶石なら見つけるのは簡単」
「そりゃ、晶や結は水の精霊力が使えるからね。炎の精霊力の
卯月には、青晶石探しは難しいよ。赤晶石探しなら
卯月が得意だと思うんだけど」
「だが、もうお昼になった、お弁当にする」
「え、あ、そういえばもうそんな時間だ、じゃあいただきまーす」
「時間がないから、おむすびバーガーしか作らなかった。正直悪いと思ってる」
「おむすびバーガーって？」
「見たらわかるでしょ。普通のハンバーガーと違って
焼きおむすびではさんであるの」
「ハンバーガーを食べたことがないからよくわからないや」
「え？こっちの世界にはハンバーガーがないの？しんじられない」
「文化が違うから〜ハンバーガーが無くても〜不思議じゃないですよ〜」
「こんどは普通のハンバーガーを持ってこよう」
「いいよ、そこまで気を遣わなくても」
「いや、持ってくる。おまえの食生活には言いたいことがいろいろとある」
「男の子の一人暮らしなら〜あんなものですよ〜」
「あー、それボクも聞いたことあるよ。カレーを作って一週間ひたすら
カレーだけ食べ続けるんだって」
「そのカレーを食べつくしたら…どうするんでしょうか…」
「銘柄変えてまたカレーを作るんだって」
「それは食べ物ではなく餌。人間の食生活ではない」
「そ、それはさすがに極端な例じゃないかな…」
「どうしたのまどか、顔が引きつってるけど」
「え、ええと…ほら、うちはママが忙しくって家にいることが少ないから
インスタント食品ですましちゃうことが多くって」
「あー、まどかの家はしかたないよね」
「あらあら〜自分で作るのも〜楽しいわよ〜」
「料理を作ってる時間はトレーニングしたいし」
「料理を作っているときにはイメージトレーニングすればいい。
時間の無駄は省く」
「あ、そっか、晶ちゃん偉い」
「料理を作るときにおねえちゃん歌ってるから…」
「それはばらさない」
「ごちそうさま」
「あ、もう食べたの」
「楽しい時間は過ぎるのが早いよね」
「よし、じゃあ続きを行きますか」
「おー」
日がすこしかげってきたなぁ。
まだ夕方になるには時間が早いのに。
「帰る時間もちゃんと計算に入れておく。
死霊に出会ったら面倒」
「わかってるって、だけど、振られたら迷惑だなって」
「ならすぐやる」
「う、うん…」
雲行きがかなり怪しい。どうしちゃったんだろう？
今朝出るときには快晴で雲一つ無かったのに。
「山の天気は変わりやすいわよ〜」
「ここは山じゃないと思うんだけど…」
「ま、とにかく魔法陣を作ってやってみるよ。
…あれ？携帯電話が圏外になってる、ここは電波の入りが悪いのかな」
「おまえは計画がなさ過ぎる。召喚時間が尽きた」
「あら〜残念ね〜召喚するところがみれないなんて〜」
「圏外っていっても、一時的に電波状態が悪いだけみたいだね。
ボクの携帯はさっきまでちゃんと着信可能状態だったから」
「じゃ、精霊召喚が終わったら、すぐに誰か呼んでね」
「は、はい…では、またお待ちしてます…」
５人とも召喚時間が尽きてしまった。
そりゃ同時に召喚すれば同時に召喚時間が切れるのは仕方ないんだけど。
圏外だから、今モンスターに襲われたら危ないよなあ…やっぱり。
電波の状態が良くなったら、また誰か召喚した方がいいかな？
…でも、精霊力の弱い状態にしておけって師匠は言ってたっけ。
召喚獣がいると、その回りの精霊力が高まるから、その意味じゃ
むしろ今みんなが帰ったのは、好都合っていう言い方も出来るのかな？
とにかく、今は召喚の事だけ考えよう。
……
…………
・・・・・・・
おかしい、だめだ。全然召喚出来ない。
一体どういうことなんだろう？精霊力が弱いってレベルじゃないのかな？
もう一回やってみよう。
・・・・・・・・・・・
あ、出来た。水の精霊が魔法陣の中に生まれてる。
よ、よし、ここから意識を…
「きゃーっ！」
え？
あ、しまった、集中が解けて精霊が解放されちゃった。
ああもうちょっとだったのに…って、そんな場合じゃない！
声が聞こえたのはどっちだろう？
何か危険があったとしたら、野獣よりモンスターのほうが可能性たかいよな…
！魔法をあっちで使ってる。すぐ行かなきゃ！
！
「アスレイ！大丈夫？」
「な、なんであなたがこんな所にいるんですの？」
「理由は後。っていうか、アスレイがピンチになるなんて珍しいね。
一体どんな化け物が現れたの？」
「ど、どんな化け物でもかまいませんわ。…ともかく、来てくださった事にはお礼を申し上げます」
悲鳴の主はアスレイだった。
回りを見回すと、死霊の浄化に使われたらしいお札が転がってる。
逆召喚っていうか、浄化法で死霊に対抗できるんだ、さすがアスレイだなあ。
「お礼っていうか、アスレイだったら僕が助けに来るほどの事もなかったような気がするよ。
それで、アスレイは何のためにここにいるの？」
「練習ですわ」
「練習？なにもこんな危険な場所で練習しなくたっていいんじゃない？」
「危険な場所だから、誰も近づかなくていいんですわ。
ここでなら、私が失敗しましても、誰もみてませんもの」
「べつに失敗を人に見られるぐらいいいんじゃないかなあ。
誰だって最初から上手くできる人なんていないもの」
「いつまでたっても上手く出来ない方もあるようですけどね。
せいぜい、学園の恥をさらさないようにがんばって欲しいものですわ」
「うっ」
やっぱりアスレイは苦手だ。
優等生なだけじゃない。アスレイの一族は全員大魔導師なんだ。
王都の魔法アカデミーでもグエイン一族はグエイン派といって
一大派閥を作ってる。その中でアスレイはグエイン家の後継者と目されてるんだ。
いくら僕の父さんがすごいっていっても、弟子は師匠だけだし
後継者はいないからね…。
「それで、あなたはどうしてここに来たんですの」
「師匠から、ここで召喚の練習をするように言われたんだよ。
むしろ精霊力の弱い場所で修行したほうが召喚が上手く行くんじゃないかって」
「それで、上手く行きましたの？」
「うん、召喚自体はね。…そこから制御に入るところで失敗しちゃったけど」
「！…ここで召喚自体に成功したっていうんですの？」
「そうだよ。アスレイなら簡単にできることでしょ」
「…ここがどこかわかっていってますの？ここは死霊の森。
古代遺跡の影響で、精霊を呼び出すことは出来ない場所ですわ。
…そういえば、あなたの召喚獣たちはどうしましたの？」
「ああ、召喚時間が切れたから今は元の世界に帰ってるんだよ。
携帯電話も圏外で呼び出せないから、早く呼び出せる場所に戻らないと」
「…ここでしたら、あの召喚獣が来ないんですのね」
「学園も圏外だけどね。対魔結界がある場所じゃ電波が届かないみたい」
「………あ、あの…」
「なに？アスレイ」
「………のんびりしていられないようですわね。死霊が現れましたわ」
「死霊？まさか、まだ日が落ちるには早いよ」
「日は落ちなくても、太陽が隠れました。
太陽の光で浄化されてなければ、ここはすぐに死霊が現れますの。
このもりは死霊の森。古代、ここでは死霊を呼び出す魔道実験が行われてましたの。
その遺跡は今場所はわかりませんが、まだ生きてることは確実ですわ。
日が落ちれば、遺跡の影響で死霊が呼び寄せられる。」
「そうなんだ…じゃ、はやく森を抜け出さなきゃ。
僕が援護するよ、アスレイ、攻撃魔法を使って」
「なんであなたが私に指図するんですの」
「わ、わるかったよ。ついまどか達と一緒の時のくせが出て。
…まだ圏外か、これじゃむりだよなぁ…アスレイ、どうするのがいいと思う？」
「…」
「アスレイ？」
「……」
「アスレイってば」
「あ、ああ…」
アスレイが棒立ちになってる。
瞬きもせず目を見開いて、呆然と死霊を見てる。
でも、あの程度の死霊なら、アスレイの魔法で簡単に退治できるはずだよ。
ま、いっか。僕に出来る範囲でやってみよう。
「アスレイ、目、つむって！」
だめだ、聞こえてない。しょうがない、非常事態だ。
僕はアスレイの後ろに回ってアスレイの目を左腕で覆う。
「来たれ雷！され死霊、これを見ろ、Arc Ligit！」
アスレイがお札を用意していたように、僕だって死霊に対する切り札はあるんだ。
「…アスレイ、もう大丈夫。死霊は去ったよ」
「あ、ああ…ああ・・・」
「ほら、よく見て。もう死霊はいなくなったって。大丈夫だから、ね」
「………い、一体…なにが起きましたの？」
「父さんが開発した対死霊用の秘密兵器を使ったんだよ。
細かい原理はわからないけど、雷の力を小さな隙間を持った二本の炭に流すことで
太陽と同じ光を作り出せるんだ。
太陽の光に弱い死霊だって聞いたから持ってきたんだよ。
ほら、今の内に逃げよう」
「……あ、あの…」
「話は後。今は無事な所まで逃げるのが大事、ね」
「え、ええ…」
あれ？アスレイの足音が聞こえない。
僕は振り返ってみる。
アスレイがまだ棒立ちになってる。
「どうしたの？足でも怪我した？」
「べ、べつにそんなことはありませんわ」
「だけど、足が動いてないよ」
「き、きのせいです。け、決して足がすくんでなんか、ありませんわ」
「…誰もそんなこと言ってないよ。足を怪我したんなら僕が肩を貸すよ。
ほら」
「よ、余計な…お世話ですわ」
「そう？…あ、携帯電話のアンテナが立った。これなら…」
「…で、でも、そ、そう、軽い捻挫をしてますから、か、肩を貸してくれた方が
…あ、歩きやすいです」
「そうなんだ、やっぱり。無理しなくていいって。
じゃあ、肩を貸すよ。歩ける？」
「たぶん…歩けますわ」
「そう、じゃあ歩こうか…」
ずる。ずる。ずる、ずる…。
「おぶっていくよ、アスレイ」
「あ、歩けます…」
「…歩けてないよ。無理しないで。
引きずっていくより、背負っていく方が僕も楽だから」
よっしょ。…思ったよりアスレイって軽いんだ。
これなら楽勝だな。
「意外とアスレイって軽いんだね」
「意外とだけ余計ですわ。…あなたこそ、わたしを背負って大丈夫ですの？」
「一応は男だからね…。同じように鍛えても筋力は違うよ。
携帯電話のアンテナが立ったら直ぐにまどか達を呼ぶから
まどか達に送ってもらおうか？」
「い、いえ、いいですわ。…出口までこのままで」
「いや、いくら僕でも街まで背負って行くのはむりだから
誰かに替わって欲しいっていうのもあるんだよ。ごめんねアスレイ」
「あなたが謝ることではありませんわ」
「…よかった」
「なにがですの？」
「いつものアスレイに戻ったみたいで」
「へ、変なことはいわないでほしいですわ」
「ごめんよ」
…ゲームじゃ、ここらでなにかモンスターが出たりして
盛り上げるんだろうけど、そんなの僕は願い下げだよ。
そんな祈りが通じたのか、森の外まで死霊に出会わず に僕達は脱出することが出来た。
「あ、あの…」
「なに？アスレイ」
「…お礼の言い方、わからなくて…」
「お礼なんていいよ。こんど召喚のやり方を教えてくれれば」
「え、ええ、それはいいですわ。あと…お願いしてよろしいかしら」
「何を？」
「ここであったことは、誰にも秘密にして欲しいんですの」
「ここであったことって？ああ、足を怪我したこと？
それはいいけど、リンクス先生には見てもらった方がいいんじゃないかな？」
「………本当にあなたは私が足を怪我したと思ってますのね」
「だって、足を怪我したんでしょ。全然足が動いてなかったよ。
今から誰か呼ぶよ。…あ、そうだ、マキさんに来てもらおう。
マキさんは回復魔法も得意だし、普通の怪我の手当も出来るんだよ」
「…その必要はありませんわ。足が動かなかったのは、足がすくんでただけですもの」
「足がすくんでた？」
「ええ、死霊が怖くて。…どうしようもない恐怖にとらわれて…」
「…でも、アスレイ、ちゃんとお札で退治してたじゃない。あれをまた使えばよかったんじゃ？」
「持ってきたお札はあそこにあるので全部ですわ。お札を使い果たしたとたんに
怖くて怖くて…」
「べつに、死霊もモンスターの一種なんだから、お札にこだわらなくてもいいのに…。
相手をやっつける方法ならいくらでもあるし、まして危機を乗り切る方法だったら
もっとたくさんいろいろあるよ。なにもお札にだけ頼ることもないって」
「…ええ、そうですわね…。ですけど、秘密にしておいてもらえません？」
「いいよ。言いふらすようなことでもないし。
じゃ、そろそろみんなを呼ばなきゃ。心配してるかもしれないし」
「召喚獣なんて元の世界に帰ったらただの他人ではありませんの？」
「彼女たちは違うよ！」
「そう…ですの。特別な召喚獣だというのは、本当のことですのね」
「うん。特殊すぎて、ちっとも召喚だとは認めてもらえないけどね」
「…」
どうしたんだろう？アスレイ。
まどか達みたいな召喚獣が呼べないのを気にしてるのかな。
あれは召喚っていうより、セールスマンが契約してる
召喚獣を呼んでるだけで、全然僕の力じゃないのになあ。
「あ、まどか、今大丈夫？」
『えと、今トレーニングの最中だから、出来れば他の誰かにして欲しいんだけど
そんなことより、連絡遅かったじゃない。ずっと圏外にいたの』
「ああ、途中でアスレイに出会ってね、召喚の方法なんか教えてもらってたんだよ。
今から帰るところ」
『アスレイ？もしかして、キミのガールフレンド？』
「全然違うよ！僕のクラスの主席のクラスメート！」
『ふーん。そんな気合いを入れて否定しなくてもいいのに
あは、じゃ、また今度呼んでね』
「うん。じゃあ、また今度ね。…そうだ、卯月とかの都合について何かしらない？」
『卯月だったら、今の時間は練習中じゃないかな。晶と結はお店をやってるはず。
マキはシフトが変則だからよくわからない』
「そうなんだ…じゃあ、とりあえずマキさんに電話してみるよ。ありがとう」
『どういたしまして』
「だって、アスレイ。
普通にやったらマキさんしか呼べないみたい」
「そうですの。…召喚獣を呼ばないと道も歩けないんですのね」
「だって、１人じゃあぶなっかしいって言われてるんだよ」
「私が一緒に帰ってあげますわ」
「え？いいの？」
「どうせホートウィッシュ以外に行く用事はありませんわ」
「それもそうか、じゃ、お願いするよ、アスレイ」
こうして、死霊の森での練習は終わった。
危ないって理由で、軍から当分立ち入り禁止の命令が出ちゃったんだ。
あーあ、せっかくいいところまで召喚が成功してたのになあ。残念。