ウェンディ：な、なにをするんですか 　ガーベル：あなたには私とともに伝説を実現する以外に 　　　　　　選択肢がないことを教えて上げます 　ガーベルはウェンディを引きずるようにして屋敷の中心・・・ 　ガーベルの書斎へと向かっていた 　ガーベルの屋敷は知らない物にとっては迷路でも 　主ガーベルは無数に用意された隠し扉を抜けて一直線に 　屋敷の中心までたどり着くことが出来たのである 　ガーベル：しばらく、そこで黙ってみていてもらいましょう ウェンディ：（キッ！） 　ウェンディの視線にもガーベルはすでに反応しない 　いすにロープで縛り付け、猿ぐつわをかませると、 　ガーベルは、いずれ現れるであろうウェンディの仲間を待つ 　え？フィリー？ 　フィリーは机の上へ仲良く縛られて転がされていた 　もっとも、フィリーは気を失っているから騒ぎ立てることもない 　これだけの作業をガーベルが済ませてから、リラ達が現れるまで 　さほど、待つ必要はなかった 　扉が開くと、一瞬誰かが顔をのぞかせる 　ガーベル：ようこそ、我が屋敷へ 　　　　　　しかし、もう少し礼儀という物をわきまえて頂きたい物ですねぇ 　　　楊雲：・・・・・・・・・・・・・・・・ 　ガーベル：先ほどのお嬢さんにも来ていただきましょう 　　　　　　切り札は私の手にあるのですよ 　　　リラ：・・噂通り、虫酸の走るおっさんね 　ガーベル：なんとでも言えばよいでしょう・・・・ 　　　　　　しかし、無事に帰れるとは、思わないことです 　　　楊雲：・・・・・・・・・・・・・・・・ 　　　リラ：それはこっちのセリフよ、さっさとウェンディを渡しなさい 　ガーベル：おやおや、海賊風情に脅されるほど私は落ちぶれていないんですけどねぇ 　　　リラ：誰が海賊よ、あたしはちゃんとギルドに所属してるシーフなんですからね 　言い争いする二人、だが、実際にはお互い隙を見つけようとしていた 　リラの手には、愛用のダーツ 　ガーベルには魔族の力 　・・・・お互い、相手に隙が出来さえすれば放つことが出来る 　だが、もし、相手がそれをかわしたなら？ 　あるいは、相手がそれに耐え切れたなら？ 　お互いが相手に隙を作り出すために、言葉の弾丸をぶつけ合う 　ガーベル：では言い換えて上げましょう 　　　　　　盗賊風情がこのガーベルの屋敷に忍び込んで、なにを始めるつもりです？ 　　　リラ：だから、仲間を返してもらうわよ 　ガーベル：くっくっく、あなたはなにも分かってない 　　　　　　伝説も聞いたこと無いくせに・・・・ 　　　リラ：聞いたわよ 　ガーベル：ほう？どんな？ 　　　リラ：・・・・・魔族を救う青い導き手の伝説なんでしょ 　ガーベル：ほう・・・知っているなら話は早い 　　　　　　なら、私が彼女を手放す理由は何一つないことも理解できますね 　　　リラ：リリトはいってたわよ、単なる戯言だってね 　ガーベル：リリト？ああ、あの脱落者ですか 　　　　　　彼女の言葉こそ戯言、私の目の前にある好機を逃してたまる物ですか 　　　楊雲：・・・・・・・かわいそうに・・・・・ 　ここで、はじめて楊雲が口を開いた 　ガーベル：なんですと？ 　　　楊雲：・・・・・・・かわいそうに・・・・ 　　　　　　・・・・・真の伝説を知らず・・・・・ 　ガーベル：おや、あなたは話が分かるらしい 　　　楊雲：・・・・・・・・・・・・・・・・・ 　楊雲は、それには答えなかった 　だが、ガーベルの意識はこの瞬間、確かに、楊雲へ向いていた 　リラの手が一閃するとダーツがガーベルに向けて放たれる 　ガーベル：・・・・・・・・甘く見られた物ですね 　　　リラ：うそっ！ 　ダーツは確実にガーベルに当たっていた 　ガーベルの左腕に突き刺さっているのが、はっきりと見える 　普通なら・・・いや、普通じゃない状態でも 　確実にしとめられるはずなのだ、あのダーツに含まれる催眠薬の量から考えて 　ガーベル：選ばれた民にこのような薬が効くはずがないでしょう 　ガーベルが右手をかざすと、手の中に光が集約されていく・・・・ 　”ヴァニシング・レイ” 　リラと楊雲、双方を光が飲み込んだ 　ガーベル：・・・・さて、あなたのお仲間はごらんの通りです 　　　　　　あのような連中の代わりに、どうして私を選んでくれないのです？ 　　　　　　私には力があるのがお判りになりませんか？ 　ウェンディは黙って・・・いや、猿ぐつわをはめられているからしゃべれないのだが 　ただひたすらガーベルをにらみ据えていた 　ガーベル：おやおや・・・私は用済みになったからといって 　　　　　　協力者を処分するようなまねはしませんよ 　　　　　　約束の地で、私が王冠を手にするとき、・・・ 　　　　　　あなたの頭上にも、王冠を差し上げましょう 　　　楊雲：・・・・・・哀れな人です・・・・ 　ガーベル：！ 　　　楊雲：・・・・・真の伝説を知らずに夢を見ている・・・ 　ガーベル：まさか！確かにヴァニシング・レイの直撃を受けたはず 　　　楊雲：・・・・・・・・・・・・・ 　楊雲は、静かにガーベルのそばへ寄っていく 　ガーベルが再びヴァニシング・レイを放つ 　今度こそ、楊雲を光が包み込む 　ウェンディは、思わず目を閉じた 　ウェンディにとっては長い時間でも、 　客観的にいえば、一分も経ってなかっただろう 　・・・・・・・・動かないでください・・・・・・・ 　？？？ 　ウェンディは、自分を縛っている縄が切られるのが分かった 　それから、猿ぐつわが外される 　　　楊雲：・・・・・すべて終わりました・・・・・ ウェンディ：え？え？ 　　　リラ：なにぼやぼやしてるのよ 　　　　　　とっとと帰るわよ ウェンディ：帰るって、どこへ帰るんですか？ 　　　リラ：決まってるじゃない、あたし達の船へ 　ウェンディは、部屋の中を見回す 　ガーベルの書斎は完全に破壊されていた 　リラの服は所々破れている・・・ガーベルの魔法の影響だ 　ガーベル自身もまた、何か巨大な力でうち倒されたように 　ぼろくずになって床に横たわっていた 　　　楊雲：・・・・・・急ぎましょう・・・・ 　　　リラ：そうね、ここもすぐに騒がしくなるわね 　リラはウェンディの手を引いてガーベルの屋敷から抜け出す 　途中、二三度おやぢに遭遇するが、もちろんリラの敵ではない 　さて、楊雲達が館を抜け出したのを、物陰から見ている一団があった 　老マイム：さて、お主ら、時間は３０分だけじゃ 　　　　　　切り取り次第に稼いでくるのじゃぞ ギルド員達：Ｏ．Ｋ、おやっさん 　こうして、ガーベルの屋敷の資産は、めぼしい物もめぼしくない物も 　根こそぎ持ち去られてしまったのであった 　言うまでもなく、ガーベルの書斎にあった書状も 　ガーベルが研究していた古代の神秘の資料も丸ごと根こそぎに・・ 　こうして、古代の神秘の秘密は、今しばらく秘密であることが確定した 　ギルドの連中がその値打ちを理解するには当分掛かるだろう 　かくして、予め老マイムが手配しておいたとおりの時間に現れた騎士団が 　ガーベルの屋敷に突入したときには、屋敷にはなにもなかったのだった 　ただ、おやぢ連とガーベルとが横たわっているのみ 　・・・・その後のガーベルの運命について、少しだけ触れておこう 　公爵殿はガーベルにとっとと有罪判決を下した 　ギルドからの袖の下が物を言ったことは言うまでもない 　それに、海賊と連んで獲物を巻き上げている有力者の存在は 　公然の秘密となりつつあった 　その有力者当人としては、贖罪の羊を民衆に差し出す必要があったのである 　処刑前夜に魔法で脱獄したガーベルと、その後の彼の苦難の道は 　また別の物語である