さて、すこし時間を戻してみよう 　ここは、ガーベルの屋敷 　ウェンディとフィリーが徐々に薄暗くなる地下牢に 　閉じこめられている ウェンディ：・・・・・・それで、ついてきてどうしようっていうんですか 　フィリー：決まってるじゃない、帰るのよ ウェンディ：どうやって帰るんですか 　　　　　　出口もなにもないのに 　フィリー：そんなの、鉄格子をすり抜ければすぐでしょ ウェンディ：あなただけです、そんなことが出来るのは 　フィリー：人間って不便なのねぇ 　　　　　　あんたもちょろっと小さくなればいいのよ ウェンディ：むちゃくちゃ言わないでください・・・ 　フィリー：それはいいんだけどさ 　　　　　　ちゃんと夕飯はわけてよね 　ここで、ウェンディは現実に引き戻されたようだった ウェンディ：持ってくるわけないじゃないですか 　フィリー：え〜、そんなぁ、か弱い妖精になんて仕打ちをするのよっ ウェンディ：ついてくる方が悪いんですっ 　フィリー：なんですってぇ ウェンディ：なにか文句でもあるんですか 　延々と口げんかを続ける二人 　だが、それは決して悪いことではなかったのだろう 　ウェンディが一人きりでいたなら、ひとりぼっちなら 　たぶんネガティブな方向にしか思考が向かなかっただろうから・・ 　そして、その口論は全く違った意味でも有益だったようである 　あまりの騒がしさに見張りが近づいてきた 　　おやぢ：うるさいでございますよ、ムフッ 　フィリー：なによ、筋肉だるま、あんたには関係ないでしょ ウェンディ：その通りです・・・ほっといてください 　　おやぢ：そうはいきませんよ、ムフッ 　　　　　　そこのちびさんさっさと出て行きなさい 　フィリー：だれがちびさんよ、この変態 ウェンディ：そうですよ、ちびさんなんてかわいらしい生き物じゃないのに・・ 　フィリー：なんかいった、根暗の女王様 ウェンディ：何か聞こえましたか？おしゃべりの精 　フィリー：なによなによなによ、せっかく人が心配してついてきて上げたのに ウェンディ：自分が捕まっていたらなんの役にもたたないじゃないですか 　　おやぢ：いい加減にしないと怒りますよ、ムフッ 　フィリー：・・・怒ったらどうだっていうのよ 　　おやぢ：小うるさい連中ですね、ムフッ 　おやぢは牢の鍵を開けて中に入ってくる 　　おやぢ：おしおきですよ、ムフッ 　フィリー：鬼さんこっちらぁ 　へろへろと飛び回っておやぢから逃げ回るフィリー 　・・・・・・・このひと、本気で馬鹿なんじゃ・・・ 　ウェンディの感想ももっともである 　おやぢは鍵束を床に投げ捨ててフィリーを追い回しているのだから・・ 　・・・・・・・・い、いまのチャンスを逃したら・・・・・・ 　ウェンディの、心に、ほんの少しだけ、勇気が、生まれた 　がちゃん ウェンディ：フィリーさん、逃げましょ！ 　フィリー：あんたにしては上出来じゃない ウェンディ：・・・・・？？？ 　フィリー：はじめからそのつもりだったんだから 　　おやぢ：どういう意味ですかな、ムフッ ウェンディ：・・・・鍵、掛かってますよ 　　おやぢ：・・・・・・・・・・・・ ウェンディ：・・・・・・・・・・・・ 　フィリー：みごとな連係プレイよねぇ ウェンディ：・・・本当はまぐれなんでしょ 　フィリー：ああっ、黙っていれば読者には分からなかったのに ウェンディ：読者って誰なんですか？ 　フィリー：まあ、細かいことは気にしない 　　　　　　さ、逃げましょ ウェンディ：そうですね 　　　　　　・・・あ、でも・・・私が逃げたら船は・・・ 　フィリー：そんなことは帰ってから考えればいいのよ ウェンディ：・・・・・・・・ 　　おやぢ：・・・・私を出さないと、お仕置きですよ、ムフッ ウェンディ：・・・・・・・いやです 　フィリー：出すわけないでしょ、私をあんなひどい目にあわせといて ウェンディ：あなたは勝手についてきただけじゃないですか・・・ 　おまえら、いいかげんにせんと新手が来るぞ 　フィリー：それはまずいわね、本気で逃げるわよ ウェンディ：あ〜、ずるい、一人だけで・・・・ 　ぱたぱたぱたぱたぱたぱた・・・・・ 　こうして、ウェンディとフィリーは地下牢からはあっさりと脱出できたのであった 　だが・・・・ ウェンディ：・・・で、ここはどこなんです？ 　フィリー：私が知るわけないでしょ 　そう、ガーベルの屋敷は迷路になっていたのだ 　二人はあっさりと迷子になってしまった 　そこへ、二人をさらにパニックに追い込む叫びが屋敷にこだました 　『！！！！火事だぁ！！！！』 　さて、場面を変えよう 　ここはガーベルの屋敷の正門前 　あたりはすっかり夜に変わっている 　あたりに人影はまるでない 　そこへ訪れたのは、楊雲とリラの二人連れ 　　　リラ：さてと、船長はちょっとまってて 　リラは、手早く門を乗り越えると内側から鍵を開ける 　　　リラ：さ、入って 　　　楊雲：・・・・・無防備な屋敷ですね・・・・ 　　　リラ：たかが伯爵でしょ、防備なんてこんなものよ 　　　　　　単に盗むだけなら誰でも出来るもんよ 　リラの言葉には若干嘘がある 　５ｍもある鉄の門を乗り越えるなどという芸当は誰にでも出来るわけではない 　それも、門のてっぺんには盗賊よけが仕掛けてあるのだからなおさらである 　もっとも、それさえ出来れば誰にでも忍び込める屋敷ではあった 　普通は番犬が放たれているのだが、この屋敷はそういった 　防備はまるでなされていなかった 　　　リラ：さて、と・・・・・派手に行きますか 　そういうと、リラは持ってきた花火と発煙弾用意するや 　屋敷の窓から投げ込んだ 　『！！！！火事だぁ！！！！』 　古典的な手口である 　発煙弾を焚いてその隙に裏口から侵入するというわけだ 　だが、二人は若干ガーベルをなめてかかっていた 　・・・・ふつうは、屋敷の警備が手薄ならその主は脳天気な物である 　しかし、この屋敷は中に入ってからが大事だったのだ 　　リラ：なによ、こんな分かりづらい屋敷をよく建てたわね 　　楊雲：・・・・・・警備が手薄な理由なのでしょう・・・ 　そう、二人はやっぱり道に迷ってしまったのである 　ただ、リラがウェンディ達と違うのは、きちんと通った場所に 　目印を打ち込んでいるということであろうか 　リラ達は虱潰しに屋敷の中を捜索していたのだった 　さて、場面を再びウェンディ達に戻そう 　フィリー：か、か、か、火事ですって・・・ 　　　　　　私はまだ死にたくないわよっ！ ウェンディ：私だってごめんです 　フィリー：で、どうすんの？ ウェンディ：・・・・・逃げるしか無いじゃないですか 　フィリー：だから、どっちへ？ ウェンディ：とにかく、どこかに窓があったらそこから逃げるしかないでしょ 　フィリー：それは名案ね 　結局、あてど無く走り回る二人 　だが、それが最悪の結末を迎えるとは想像しなかったろう 　ガーベル：！どうやって地下牢を抜け出したのです？ 　　　　　　それにこの騒ぎ・・・・どうやら、私は 　　　　　　あなた方を甘く見すぎたようですね ウェンディ：やっぱり、私って不幸なんですね・・・・ 　そう、火事だという叫びで火元を見に出てきたガーベルと 　ウェンディ達とが鉢合わせしてしまったのである 　フィリー：ふふん、このフィリー様を甘く見るからこういうことになるのよ 　ガーベル：冗談としても、面白くありませんね 　フィリー：そりゃそうでしょ、本気だもの 　ガーベル：・・・・”エネジー・アロー” 　エネルギーの固まりがフィリーを直撃する 　フィリーはあっさりと打ち落とされた ウェンディ：フィリーさんっ！ 　墜落するフィリーを思わず抱き留めるウェンディ 　ガーベル：・・・・しかたがありませんね・・・・ 　　　　　　ここまでやるなら、私にも考えがありますよ・・ ウェンディ：今でも十分あくどいことやってるじゃないですか 　ガーベル：・・・・・（ぎりっ） 　そう、切り札は未だにウェンディの手の中にあるのだと、 　ガーベルは信じているのだ 　ウェンディには手が出せない、案内するのはウェンディであり 　場所を知っているのもまた、ウェンディだけなのだ 　力ずくで聞き出すとして、真実を告げるという保証はどこにもない 　だから、ガーベルはこの侮辱に耐えた 　ガーベルに残されたチャンスは、ウェンディの最後の希望・・・ 　助けに来たと思われる連中を撃破することだけだった 　それが、本当はなにを意味するのか、ガーベルが知る由はなかった