リスボンの街が夕日で照らされている 　港の灯台に火が入る 　だが、黄昏時という雰囲気とはほど遠い 　夜は夜で活気のある街なのだ、リスボンという街は 　そのリスボンの裏通りを歩く二人の人物があった 　　リラ：船長、ここよ 　何の変哲もない扉 　裏通りにはよくある地下への入り口 　リラは迷うことなくその中の一つを選んで降りていく 　楊雲もそれについて降りる 　（ぎぃ） 　さびた蝶番がきしむ音とともに扉が開く 　扉の向こうは、酒とたばこのにおいで一杯の酒場だった 　バーテン：嬢ちゃん、くる場所を間違えてるぜ 　　　リラ：間違えてないわよ、やせっぽちのハンス 　身長１７０ｃｍ体重９８ｋｇの巨漢を相手にやせっぽちも無いと思うが 　バーテン：へえ、誰から俺の名を聞いたんだ 　　　リラ：物忘れが激しくなったわねハンス 　　　　　　あたしよ、親父は？ 　バーテン：親父の名前は？ 　　　リラ：・・・・・・ 　リラは、黙ってバーテンにコインを一枚握らせる 　バーテンはコインをポケットに落とす 　バーテン：これっぽっちか？ 　リラは、今度は紙幣をバーテンに握らせる 　バーテンは・・・・ 　バーテン：いてっ 　紙幣の陰に縁を研いだコインが入っていたのだ 　　　リラ：冗談はそれくらいにしてよ、ハンス 　　　　　　陽炎のマイムにラムを一杯おごってやって 　バーテン：・・・悪かったよリラ 　　　　　　ただ、よそ者をつれてくるのは感心しねえな 　　　リラ：どうしても、親父の手を借りる必要が出来ちゃってね 　？？？？：・・・おまえの仲間のことかの？ 　　　リラ：親父、いつのまに？ 　老マイム：まだまだ修行が足りんの、リラ 　　　　　　いい加減この老いぼれが引退できるようにしてくれんか 　　　リラ：あたしは一所に縛られる生き方は好きじゃないわ 　老マイム：そうじゃろうの、じゃが船乗りをめざすにせよ 　　　　　　まだまだ若いの 　　　リラ：今から老成してたまるもんですか 　　　　　　それより、親父、頼み事があるんだけど 　老マイム：わかっておる、そちらの娘からすでに話は聞いた 　　　リラ：うそっ 　信じられないのも無理はない 　どうして楊雲が、盗賊ギルドの長、陽炎のマイムと連絡が 　つくのであろうか？ 　　　楊雲：・・・・・・リリトさんほどの大物が捕まれば 　　　　　　嫌でもギルドへ情報が入ると思いますが・・・ 　　　リラ：だからって、どうやって・・・ 　老マイム：まだまだ若いという事よ 　　　　　　港湾事務所にも儂の手下ぐらいおるわ 　　　　　　それにしても、一目で見抜く眼力は大したものじゃが 　　　楊雲：・・・・全員息がかかっていれば見抜く必要もないと思いますが・・ 　老マイムは心から愉快そうに笑った 　老マイム：なるほどの、儂の名前を出せばすぐじゃな 　　　　　　さて、で、この老いぼれになにをしてほしいのかの 　　　楊雲：・・・・公爵殿にトマル伯の逮捕状を要請して欲しいのです・・ 　老マイム：また奇妙な頼みじゃの、そのようなことは儂ではなく 　　　　　　騎士団へ頼む物ではないか 　　　楊雲：・・・・ガーベルの資産をそのまま国家に献上してよいのでしたら 　　　　　　それでもかまわないのですが・・・ 　老マイム：どういう事じゃ？ 　　　楊雲：・・・・・私たちは仲間を助け出すのです・・・・ 　　　　　　・・・しかし・・・侵入するときに手ぶらで帰る訳にもいきません・・・ 　老マイム：ほう、それで 　楊雲は、黙って一枚の手紙を広げてみせる 　老マイム：なるほどのぉ・・・考えたの 　　　　　　確かにただでガーベルの首を差し出す必要もないの 　　　　　　しかし、おぬしら間違っておらぬか？ 　　　　　　儂がお主らのために火中の栗をひろうてやらねばならぬ 　　　　　　理由がどこにあるのじゃ？ 　　　楊雲：・・・・もし、今ティンカーベルが出航したなら・・・ 　　　　　　・・・その船に、リリトが乗っていることがはっきりしたとすれば・・ 　　　　　　・・・・その手引きをギルドの一員が為したとすれば・・・・ 　　　　　　・・・ガーベルにはちょうどよい口実となりましょう・・・・ 　老マイム：儂を脅すつもりかの？ 　　　楊雲：・・・・・事実を述べているだけです・・・・ 　老マイム：のう、一つ教えてくれんかの？ 　　　楊雲：・・・・・・・なんでしょうか・・・・・ 　老マイム：お主、どうやってリリトを仲間にした？ 　　　　　　これほどの危険なことをやらせられるぐらいに 　　　楊雲：・・・・私にも分かりません・・・・・ 　　　　　　・・・・・リラさんに聞いてみればよろしいかと・・・・ 　老マイムはリラの方を向く 　　　リラ：あたしにもよくわかんないわよ、リリトの心境までは 　　　　　　ただ、あたしらはリリトを敵だと思ったことはないわよ 　老マイム：ひよっこが一人前の口を利くようになったの 　老マイムの目が厳しく光る 　だが、すぐに老マイムは笑い出した 　老マイム：そうでなければ若者とはいわんわ 　　　　　　愉快じゃ、実に愉快じゃ 　　　　　　で、ガーベルの屋敷にはいつ出かけるんじゃ？ 　　　リラ：すぐに出かけるわ 　　　　　　屋敷の構造を調べてる暇がないもの 　老マイム：先に言うておくが、儂らはあくまでお主らの後から 　　　　　　落ち穂を拾うだけじゃ 　　　　　　どうやって入るか考えはあろうの？ 　　　リラ：外周りだけは調査してあるわ 　　　　　　それに、今夜は騎士団もガーベルの屋敷どころの 　　　　　　騒ぎじゃないかも 　　　　　　もしかしたら、ガーベル自身もね 　老マイム；なにをするつもりじゃ？ 　　リラは、懐中時計で時間を確認すると、こう答えた 　　　リラ：なにをするかじゃなくて、なにをしたかが問題よ 　場面は変わって、ここはリスボンの港、小型船埠頭 　いまや完全に日は落ち、港は閉鎖されている 　しばし休息の時が訪れている 　空には星が瞬く、月光が海面を照らす 　灯台の明かりが海と港をなめていく 　その中にあって、静かに埠頭を離れる一隻の船があった 　　リリト：さて、派手にいくか 　リリトの傍らには篝火が焚かれている 　足下にはたいまつが並ぶ 　停泊所を離れ、徐々に港口へ近づくティンカーベル 　さすがに港湾当局も異変に気づいた 　当然であろう、篝火を焚いて出航しようとしているのだから・・・ 　直ちに港口を閉鎖するべく鎖が張られる 　だが、ティンカーベルは速力を増すとそのまま 　鎖の上を突っ切った！ 　喫水は、確かに、この規模の船としては深い部類に属する 　だが、もともと港口の鎖は大型船を止めるためのものなのだ 　ましてや港湾当局の予測をはるかに超える早さで港外へと 　突き進むティンカーベルを止められるほどの早さで処置が執れる訳がない 　直ちに沿岸警備隊の快速船がティンカーベルの追跡に入る 　だが、ティンカーベルは一路北方へと遁走していく 　徐々に篝火が遠くなり・・・やがて、消えた 　かわいそうなのは港湾当局の当直であろう 　減俸処分で済めばよいのだが・・・・ 　とにかく、港湾当局の威信に懸けて追跡せねばならない 　かくして、手持ちの船舶の大半が北方へとかり出されていったのだ 　場面はさらに変わってティンカーベルの船上 　　リリト：・・・・・終わったぞ 　リリトが、インターホンで船内に教えてから 　すぐにみんな・・・いや、若葉とメイヤーの二人を除いて 　甲板上へと集合した 　　カレン：ご苦労様 　　リリト：まだ終わった訳ではないだろう 　　アルザ：まあ、それもそうや 　　　　　　せやけどつまらんなぁ、なしてうちは留守番なんや 　　カレン：そういう事をいうから留守番なのよ キャラット：ねえねえ、これからどうするの？ 　　カレン：そうね、今から大回りして帰るのよ 　　ティナ：大体２時間あれば戻れるみたいですね キャラット：ティナさん分かるの？ 　　ティナ：メイヤーさんの見積もりだとそうなるそうです 　　カレン：・・・メイヤーちゃん、万事予定通りなの？ 　すぐにインターホンで返事が返る 　メイヤー：もちろん予定通りです 　　　　　　いまからリスボンの南側へ全速で回り込みますよ 　波をけたててティンカーベルは疾走する 　彼女の目的地では、いまなにが起きているのだろうか・・・・