ここはリスボンの海岸通り市場 　色とりどりの野菜に果物、魚に肉に生活雑貨に贅沢品 　おおよそ考えられる限りの商品と、考えられないような商品とが 　所狭しとならべられている 　その中を荷車を引いて買い付けに来ている一団があった 　それだけなら別段珍しくもないが 　一人が片手だけで２人を載せた荷車を引いており 　荷車に乗っている二人のうち、一人がうさぎの耳を頭に着けていて、 　もう一人が和服を着ていれば、はっきりと珍しいと言えるだろう 　それでも、別に道行く人が振り返るわけではない 　ここにはその程度のことで驚く人などいないのだ 　やがて、荷車を引いている人物は立ち止まる 　気に入った商品でもあったのだろうか？ 出店の親父：へい毎度、なんにいたしやしょっ 　　カレン：そうね、そこのハムを頂戴 出店の親父：や、お客さん見る目があるねっ 　　　　　　こいつはしっかり熟成させてあるから 　　　　　　味もいいし日持ちもする、船で使うには最高だよ 　　カレン：で、いくらなの？ 出店の親父：へい、１本３ｋ３０００Ｇ、お買い得だよっ 　　カレン：ふ〜ん、で、本当はいくらなの？ 　　　　　　きちんと勉強してくれないとおね〜さんも困っちゃうな 出店の親父：や、お客さん、まいったなぁ・・・・ 　親父はカレンの顔色を読む 出店の親父：そりゃあ、もちろん勉強いたしますよ 　　　　　　一本２０００Ｇ、これで決まりでしょう 　　カレン：そうかなぁ？でも無印は無印なんでしょ 出店の親父：無印は無印でもこいつを作った親父は一流職人っ 　　　　　　この俺が言うんだから間違いないっ 　　カレン：そうねぇ、じゃあ一切れ見本を見せてもらおうかな 出店の親父：そうこなくっちゃ 　親父は素早く腰に差したナイフでハムの側面をそぎ取ると 　カレンに渡す 出店の親父：どうでしょ、これぞ最高級、これが２０００なら大出血っ 　　カレン：そうねぇ・・・１０００Ｇなら大出血かな？ 出店の親父：おねえさんいじめないで下さいよ 　　　　　　それじゃ慈善事業になりまっせ キャラット：カレン？そんなに持ち合わせが少ないの？ 　　カレン：そうねぇ・・・他にも入り用なものはあるから 　　　　　　兼ね合いになるわね・・・ 出店の親父：なんだおねえさん、早く言って下さいよ 　　　　　　他にも色々みてって下さいな 　　カレン：でも・・・他にはめぼしいものはないわねぇ 出店の親父：そんなことはありませんよ 　　　　　　これなんかどうです？・・・・・・ 　カレンと親父の掛け合いはつづく 　だが・・・それを遠くから見つめる視線があることに 　まだ、カレンは気づいていない 　右手がフックになっている人物は、この街では珍しくはない 　海の上が物騒なのは今も昔も変わらない 　ただ・・左手よりも長いフックをつけている人物はざらにはいないだろう 　誰も他人のことにかまったりしないのがこの街の流儀なのであるが 　もし、彼女をしげしげと見つめた人物が板ならば、 　彼女が賞金首のリリトだと気づいたであろう 　　カレン：・・・そうね、じゃあ、そろそろ帰りましょ キャラット：うんっ（はあと） 　　　若葉：はいっ 　どうやら、カレン達の買い物は一通り済んだらしい 　カレンの引く荷車は港へと帰っていく 　もちろん、リリトも後を追う 　場面は変わる 　ここは、リスボンを統括する総督の公館 　執務室にいるのは公爵様 　遥か彼方に見える扉のそばに控えているのはバイトおやぢ 　　公爵様：・・・ふむ・・・ガーベル伯に伝えよ 　　　　　　臨検の許可を与えるとな 　　おやぢ：かしこまりました、 　　　　　　ありがとうございます公爵様 　さすがのバイトおやぢもここでは普通に話さざるを得ない 　バイトおやぢは退出する 　公爵はすぐに次の書類へととりかかる 　彼は忙しい身なのだ、小型船の一隻や二隻にかかわり合って 　おられるわけがない 　公爵がガーベルに与えた書状の表書きは次のようになっていた 　『海賊行為の疑いによるティンカーベル臨検許可』 　舞台を戻そう 　ここはリスボンの港 　カレン達はティンカーベルの停泊する埠頭のそばに帰ってきた 　　カレン：ちょっと、おね〜さんはよって行くところがあるから 　　　　　　先に荷車を押して帰っていてくれない？ 　　　若葉：はい、おまかせ下さい キャラット：ねえねえ、カレン・・どこへ行くの？ 　　カレン：ちょっと、知り合いが見えたから、ね キャラット：ふ〜ん 　　　若葉：さあ、キャラットさん行きましょう 　キャラットと若葉は荷車を引いてティンカーベルへと移動する 　さすがに船がすぐそこへ見えていれば道に迷う心配もあるまい 　第一、荷車には大して荷物は乗っていないのだ 　そう、キャラット一人でも引いていくことが出来るぐらいに・・・・ 　　カレン：・・・・・尾行は苦手みたいね 　　リリト：わざと見つかってやったんでね 　　カレン：おね〜さん、しつこい人は嫌いなんだけどな 　　リリト：ふん、なんとでも言え 　　カレン：で、どうするの？決着を付けたいわけ？ 　　リリト：そうだな・・・・どのみちこの怪我では長くはない 　そう、リリトはあの一戦に敗れたことで一気に株が下がっていた 　その割に賞金額はイベリア半島横断の武勇伝でつり上がっている 　結論は一つ、賞金稼ぎの餌に成り下がったという事だ 　　カレン：・・・・・仕方ないわね、言っても聞かないんでしょ 　　リリト：当然だ 　　　若葉：あの・・・・ここはどこなんでしょう？（ほにゃ☆） 　　リリト：ん？ここは小型船の埠頭だが・・どの船に乗るつもりだ・・・ 　　　　　　・・・・・なにぃ！ 　　　若葉：あの・・急に大声を上げられましたが・・どうしたのでしょう？ 　そう、リリトの背後に若葉が現れたのだ 　それでは、誰だってびっくりするだろう 　確かに荷車を押してティンカーベルに向かったはずの若葉なのに・・・ 　　カレン：・・・・・若葉ちゃん、どうしてここに・・・・ 　　　若葉：はい、キャラットさんが一人で荷車を引いていきましたら 　　　　　　途中で見失ってしまいました（ほにゃ☆） 　・・・・こういう航海士を雇っている船は不幸である 　そして、ティンカーベルは正にそう言う不幸な船であった 　　カレン：悪いけど、これはリリトとおね〜さんの話なの 　　リリト：そうだ、おまえには関係ない 　　　若葉：いえ、私にも関係ございます 　 　　　　　どうして無意味な戦いをなさる必要があるのでしょう？ 　　リリト：おまえにはわからん！ 　　　若葉：・・・・・わかります 　急に、若葉の声が凄みを帯びた 　　リリト：なに？ 　　　若葉：・・・・・・・・・わかりました 　 　　　　　では、カレンさんのかわりに私がお相手いたします 　　カレン：・・・・・・・・・・ 　カレンは、言葉を失っていた 　そこにいるのは、カレンの知っている若葉ではなかったから