ウェンディがティンカーベルに来てから２回目の朝を迎えた 　出航前の船は、いつでもあわただしいものだ 　もちろん、ティンカーベルも例外ではない 　　　リラ：キャラット！ 　　　　　　ちゃんと、備品の確認はした？ キャラット：ちゃんとやったよ（はあと） 　　　　　　モップが５本に、バケツが３つ、それから・・・ 　　　リラ：もう、掃除の道具は後で良いの 　　　　　　それより、ロープがちゃんと揃っているかどうか・・・ 　　　　　　いや、これはあたしがやるわ 　　　　　　そうね、下に行って食料庫の内容を記録してきて頂戴 キャラット：はーい 　　アルザ：帆布に破れはなかったで 　　　リラ：はい、ありがと 　　　　　　えっと、これでここは良しっと 　　　　　　あと、確認してないところは・・・・ 　　カレン：ねえ、出航はいつにするの？ 　　　リラ：風次第って所ね 　　　　　　北風が吹くと良いんだけど 　　　楊雲：・・・・昼までには吹くでしょう・・・・ 　　カレン：どのみち、ジュリアが来るまでは出航しないでよ 　　　リラ：服は後から配達にしたのね 　　カレン：そういうことよ 　　　リラ：そうそう、航海士はどこにいるの？ 　　カレン：海図室に行って、航路を引いてくるって言ってたけど 　　　リラ：・・・・どうも、当てにならないのよね 　　　　　　ここまでの航路図を見たけど、結構でたらめなのよ 　　　　　　ほんとに免許があるのかしら 　　カレン：免許は確認したんだけどなぁ 　だから、方向音痴の航海士なんて雇うなって 　たどり着いたのが不思議なぐらいなんだから 　もっとも、免許を持った航海士がいなければ、出港許可が出ない 　これは、船員ギルドの都合というものである 　もっとも、航海士が航路設定をしなければならないと言う義務まではないが・・・・ 　　　楊雲：・・・・出港許可を取ってきましょう・・・・ 　　カレン：一緒に行くわ、船長 　　　　　　昨日のようなことがあった直後だから 　　　楊雲：・・・・・大丈夫だとは思いますが・・・・ 　　カレン：昨日も、大丈夫だと思ったわよ 　荷馬車がこちらに近づいてくる 　荷馬車が止まる 　大荷物を抱えたジュリアがティンカーベルのタラップを上がってくる 　ジュリア：おはようございます、みなさん 　　カレン：おはよう、ジュリア 　　　　　　注文の品はちゃんと揃ってる？ 　ジュリア：揃ってるわよ 　　　　　　後、餞別もね 　　カレン：いくら？ 　ジュリア：５０００Ｇね 　　カレン：まあ、しょうがないわね 　カレンはポケットから小切手帳を取り出すと金額とサインを書き込む 　ジュリア：はい、領収書 　　　　　　それから、これが餞別 　　カレン：ありがとう、ジュリア 　ジュリア：どういたしまして 　　　　　　平穏なる航海を 　　カレン：幸運と商売繁盛を 　ジュリアはタラップを降りていく 　それから、ちょっと振り返って、何か言いかけて、・・・ 　荷馬車に乗って帰っていった 　　カレン：・・・・ありがとう、ジュリア 　　　　　　大した餞別だわ 　なにを受け取ったのかって？ 　それは、後のお楽しみ 　　　楊雲：・・・・出かけましょう・・・・・ 　　カレン：そうね 　　　　　　リラ、後お願い 　　　リラ：良いわよ 　　　　　　行ってらっしゃい 　二人は港湾事務所へと出かけていく 　さて、港に停泊しているもう一つの舞台へと話を移そう 　いま、乗員が血眼になってリラ達を探している船、ジュリオ・チェザーレに 　　カーフ：・・・・・・・・ 　えすえす：なんだ、まだ寝ていないのか 　　カーフ：入手してきた資料に一通り目を通しておかないと 　おいおい、その資料とやらは山積みになっているじゃないか 　一通り目を通すのにどれだけの時間がかかると思っているんだ？ 　　カーフ：ところで、他の乗員の姿が見えませんが 　えすえす：今頃気がついたのか？ 　　　　　　なんでも、お姫さまに喧嘩を売ってきた奴がいるんだそうな 　　　　　　それで、乗員総出でそいつをみつけてとっちめるんだって 　　カーフ：そうですか 　　　　　　どうして船長は黙って見過ごしたんです 　　　　　　その場で決着を付ければ良かったでしょうに 　えすえす：なんでも、はぐれたところを絡まれたんだそうだ 　　カーフ：あの船長が見失うとは珍しいこともあるものですね 　　　　　　それで、喧嘩を売ってきた相手は誰なんですか 　えすえす：名前は分からないらしいが、一人は口の悪いおねーさん 　　　　　　ひとりは、礼儀しらずのうさみみで、あとひとり 　　　　　　大荷物を抱えて眼鏡を掛けたおねーさんがいたらしい 　　カーフ：なまえは？ 　えすえす：一人は、たしか、キャラットとか・・・・ 　　カーフ：なんだ、それなら探さなくても良かったんです 　　　　　　多分、ティンカーベルの乗員ですよ 　　　　　　キャラット・シールズっていう甲板員がいたはずです 　　　　　　うさみみのでしょ、キャラットって言うのは 　えすえす：確かに、キャラットって言うのがうさみみの名前だけど 　　　　　　話が出来すぎているような気がするが 　　カーフ：世の中、そんなものですよ 　まあ、うさみみはさすがに多くはない 　フォーウッドは普通人混みを避けて暮らすものではある 　とはいえ、バレンシアぐらいの大都会になると、さすがにうさみみだって 　一人とは限らない 　夜通し捜索している乗員が見つけられないのはそのあたりに原因がある 　第一、うさみみがフォーウッドとは限らない 　つけ耳という可能性だってあるわけである 　　カーフ：それで、もう見つけたんでしょうか？ 　えすえす：さあな 　　　　　　俺は、途中で切り上げて帰ってきたが 　　　　　　他の連中は、まだだろう 　　　　　　大体、夜通し探せっていったところで 　　　　　　途中酒場に入ってどんちゃん騒ぎ 　　　　　　それから目を覚まして”見つかりませんでした”って報告を 　　　　　　するのが関の山、大体昼過ぎにならないと全員が揃うわけがない 　　カーフ：私も同意しますよ 　そう、大体そんなところだろう 　それがどう言った結果を招くかは、さすがのカーフにも分からなかったようだが 　当然と言えば当然だ 　まだ、ペンダントがメイヤーの手に渡ったことまでは聞かされていないのだから 　さて、港湾事務局では、ティンカーベルの出港許可が事務的に下りた 　その間に、リラはティンカーベルの出航準備を終わらせている 　かくして、ティンカーベルはリスボンへの航海に出発する 　　カレン：ふう、さすがに海の上に出ると一安心ね 　　　リラ：しばらくリリトは仕掛けてこないでしょうけど 　　　　　　安心してばかりもいられないんじゃないの？ 　　　　　　ジュリオ・チェザーレって、軍艦じゃない 　　　　　　ティンカーベルじゃ、始めから勝負にならないわよ 　メイヤー：しかし、３０ノットで追いかけてくるとは思えませんが 　　　　　　そもそも、この船の基本性能は・・・・ 　　　リラ：確かに、ドウリョクスイシンとやらの威力は見たわよ 　　　　　　でも、長時間に渡って使えるわけ？ 　メイヤー：ずっと使い続けることが出来ますよ 　　　　　　そもそも、ティンカーベルの動力として使用されている・・・ 　　　リラ：だから、結論だけ言うように言ってるでしょ 　メイヤー：しかし、基本から説明いたしませんと・・・ 　　　リラ：聞きたく無いって何回言わせるわけ！ 　メイヤー：でも、質問したのはリラさんでしたが 　　　リラ：ああ、もういいわよ 　　　　　　必要なときには、船長が使うように言うでしょうからね 　メイヤー：では、研究室で遺跡の特定のための研究を行いましょう 　　　　　　時間の節約になるでしょうから 　　　リラ：そうして頂戴 　　カレン：それで、どう言った航路を取るの 　　　リラ：とりあえず、南南東に進路を取って、ナオ岬を回ったら 　　　　　　一気にジブラルタルを目指すことにしましょ 　　　　　　リスボンまで、寄港する必要が無いだけの補給は積み込んであるし 　カレンは、再びジュリアからの餞別に目を通す 　　海賊が後を追ってきているそうよ 　　船長の名前は、カイル・イシュバーン 　　海賊としては二流だけど、用心にこしたことはないわ 　　それから、リリトが何者かにやられた見たいね 　　きっと、カレン・レカキスって名前の人にだと思うの 　　だけど、まだティンカーベルのことはあきらめていないようよ 　　気を付けて、手負いの獣だから 　　あと、ジュリオ・チェザーレの乗員が総出であなたの仲間を捜してるわ 　　いままでは、カーフの秘密行動だったかもしれないけど 　　これからは、おおっぴらにやって来るんじゃないかしら 　　カレン：相変わらず心配性なんだから、ジュリアは 　そう言いながらも、カレンは”餞別”を楊雲に手渡しに行く 　空は快晴、風は北西、ティンカーベルにとっては良いこと尽くめのはず 　それでも、前途には、まだまだ障害が立ちふさがっていた