東南東の風が吹き抜けていく 　風は、ここバレンシアの港も吹き抜けていく 　もちろん、バレンシアの街も 　そして、バレンシアのホテルの一室にも 　ぱたん 　さわやかな風とともに朝日が差し込む部屋 　アイリス：・・・・姫様、起きて下さい、朝ですよ 　レミット：うーん、あと五分 　アイリス：姫さま、もう朝食の準備もできております 　レミット：・・・・・まだほしくない・・・・・ 　アイリス：姫様、このホテルは朝食の時間が決まっているんです 　　　　　　さあ、早く食堂へ行きませんと 　レミット：・・・・部屋で食べる・・・・・ 　アイリス：姫様、ここには、ルームサービスはないんです 　レミット：・・・・・・・・ 　アイリス：お忍びでと申されたのは姫様ですよ 　こんこん 　　ＤＤＴ：御目覚めでしょうか？ 　アイリス：船長さん、今着替えの最中です 　　　　　　１０分経ったら食堂に向かいます 　　ＤＤＴ：でしたら、ここで待たせていただきます 　アイリス：（姫様、船長さんが外で待ってますよ 　　　　　　　１０分経ったら問答無用で入っていただきますよ 　　　　　　　寝起きでお会いになるおつもりですか？） 　レミット：ずるいわよ、アイリスぅ・・・・・・ 　着替え終わったのは、丁度１０分後のことであった 　　ＤＤＴ：・・・姫様、本日は・・・・ 　レミット：ほら、さっさと行くわよ 　アイリス：・・・お、お待ちをひめ・・ 　レミット：それじゃお忍びにならないじゃない！ 　アイリス：・・・も、申し訳ございません姫様 　レミット：・・・・・・ 　食堂に着く 　ごく普通のホテルの食堂 　どこと無く、ぼんやりとした顔つきの人達が 　順番に料理を受け取っていく 　なんと言うことはない、当たり前な風景 　ただ一つ、当たり前でないことには、ピアノのＢＧＭが流れている 　いや、ＢＧＭ自体は有ってもおかしくないのだが 　弾いている人物があからさまに怪しい 　普通、ピアニストが傍らにリュートなど置いているわけがない 　レミット：アイリス、これ、どうやって・・・ 　アイリス：姫様は船長さんとお待ち下さい 　　　　　　私が取ってまいります 　　ＤＤＴ：私が・・・ 　アイリス：船長さんは姫様の・・・ 　　ＤＤＴ：（黙ってうなずく） 　ピアニストがちらっと、こちらを見たような気がした 　ちょっとした微笑 　彼・・・いや、もしかしたら彼女かもしれないが・・・・ 　曲を変えた 　ちょっと朝の食堂には似合わない曲かもしれない 　響くのは、はねるようなピアノの音 　もし、多少音楽に素養が有る人が聞けば 　曲名が”子供の領分”だと分かったろう 　さて、船長さんが本来いなければいない場所に話を移そう 　彼の船・・・・ジュリオ・チェザーレに 　えすえす：なんだ、もう起きていたのか？ 　　カーフ：まだ起きていた、が正しい言い方ですよ 　えすえす：あまり、根を詰めることもないと思うけどなぁ 　　カーフ：時間は貴重です 　えすえす：だからといって、体をこわしては意味がなじゃないか 　　カーフ：ですから、これから仮眠を取ります 　えすえす：・・・仮眠ねぇ 　　カーフ：すべてが終わったら、ゆっくり眠れます 　　　　　　今は、・・・・・ゆっくりとは眠れない・・・・・ 　えすえす：そんなもんかねぇ、まあ、私は街に上陸して来るけど 　　カーフ：悪いんですが、１３：００には、戻ってきてもらえませんか 　　　　　　私が上陸したいんです 　えすえす：構わないけど・・・どうして私が戻っていないといけないんだ？ 　　カーフ：船長は、”姫様”と一緒でなければ戻らないでしょうから 　　　　　　責任者無しにするわけに行かないんですよ 　えすえす：（笑） 　　　　　　じゃあ、一時までには返ってくるわ 　えすえすはつづいて一室に向かう 　この船・・・ジュリオ・チェザーレの副長は空席になっている 　船長は、ＤＤＴなのだが、実質的な船長は本来は便乗者に過ぎないはずの 　姫様・・・レミット・マリエーナになっている 　彼女については・・・・ああ、えすえすが目的の部屋に着いた 　がちゃ 　えすえす：入るよ 　　ＲＡＩ：入ってから言うせりふか？それが 　えすえす：全く、めんどうなこと無しに上陸させてくれよ 　　ＲＡＩ：病気が蔓延してからでは遅い 　　　　　　１つの予防は・・・・ 　えすえす：それはもう１００回以上聞いたよ、ドクター 　　ＲＡＩ：だったら、何度も言わせないでくれ 　　　　　　・・・・さてと、ワクチンはこれとこれとこれを 　　　　　　混合すればいいな 　　　　　　さあ、袖をまくって 　えすえす：・・・・何で、こんな医者を乗せているのやら 　　ＲＡＩ：腕が一流だからだ 　えすえす：自分で言うかね・・・ 　　ＲＡＩ：まあ、私を越える医者は、この世界に５人とはいない 　　　　　　それも、一人は私の師匠で、残りは私の兄弟子だな 　えすえす：・・・まあ、私を助けたあの人がそのうちの一人には違いないだろうが 　　ＲＡＩ：赤いスカーフをくれた医者ねぇ・・・ 　えすえす：また逢う日のための目印だ！ 　　ＲＡＩ：まあ、せいぜい言っていろ 　　　　　　大体、素手で岩を叩き割る修行中に瀕死の重傷を負った 　　　　　　なんて言い出している時点であからさまに怪しい話だ 　えすえす：なんだと？ 　　ＲＡＩ：・・・・終わったよ 　えすえす：今に、萌える右手の威力を見せてやるよ 　　ＲＡＩ：まあ、楽しみにしているよ 　えすえす：邪魔したな 　　ＲＡＩ：ああ 　えすえすは、早足に医務室を出ていく 　　ＲＡＩ：・・・・赤いスカーフをくれた医者か・・・・ 　　　　　　話を聞く限りでは、彼女に違いないはずだが 　　　　　　だとすれば、・・・いや、そんなはずは・・・・ 　何度と無く、堂々巡りに陥った考えがまた頭をめぐり出す 　さて、時間を少し進めよう 　舞台も、ティンカーベルの甲板に移す 　　　楊雲：・・・・おはようございます・・・・・ 　　カレン：よくねむれました？船長 　　　楊雲：・・・十分に・・・ 　　アルザ：おーい、みんなぁ 　　　　　　でっかい街が見えるでぇ 　確かに、前方に港が見える 　素人目にも、賑やかな場所 　　　リラ：とりあえず、ここまでは無事に付いたわね キャラット：わーい、どんな街かなぁ 　　　リラ：あんたは留守番 キャラット：どうして？ 　　　リラ：あんたねぇ、船って、港に着いたからって 　　　　　　やることが無くなる訳じゃないの 　　　　　　壊れたところがないかどうかの確認 　　　　　　破損個所が有れば修理しないといけないし 　　　楊雲：・・・最初に上陸しても構いませんよ・・・・ 　　カレン：上陸順序はどうします、船長 　　　楊雲：・・・・まかせます・・・・ 　　カレン：だったら、３グループに分けて上陸するわね 　　　　　　最初に上陸するのが、私とウェンディちゃんととアルザちゃん 　　　　　　次が、リラちゃんにキャラットちゃんにメイヤーちゃん 　　　　　　最後が、船長と若葉ちゃんとティナちゃん 　フィリー：・・・・あの、私もいるんだけど 　　カレン：フィリーちゃんはずっと上陸してていいわよ 　　　　　　だけど、グループからははぐれないようにね 　　　楊雲：・・・・皆さん、それでよろしいですか？・・・・ 　　　リラ：それでいいわよ キャラット：はーい 　　アルザ：うちはかまへんで 　メイヤー：書籍を入手する時間は取れるようですね 　　ティナ：あの、皆さんのよろしいようにどうぞ 　　　若葉：それでよろしいのでは☆ 　　カレン：じゃ、みんな・・・・・あらっ？ 　そう、一人だけ、返事がなかった 　返事がなかった人・・・・ウェンディは一人艫にいて、海を見つめている ウェンディ：・・・・・・・・・・ 　　カレン：ウェンディちゃん、上陸したくないの？ ウェンディ：やっぱり、人が多いんでしょうね 　　カレン：人混みは嫌いなの？ ウェンディ：そうじゃありませんけど・・・、私がいちゃ迷惑じゃ・・・ 　　カレン：何言ってるのよ 　　　　　　一緒に来てくれないと困るじゃない 　　　　　　ウェンディちゃんの服を買わないといけないんだから ウェンディ：私の・・・・服？ 　　カレン：そうよ、ウェンディちゃん 　　　　　　あなた、着替えも持たずに乗り込んでたから 　そういえば、着のみ着のまま乗船させられたウェンディであった ウェンディ：でも、私お金持ってないし・・・ 　　カレン：そんな心配しなくてもいいわよ ウェンディ：でも、それじゃ迷惑じゃ・・・・ 　　カレン：いいからおねーさんにまかせなさい 　ティンカーベルはバレンシアに近づいていく