キャラット：わーい（はあと） 　まるで、神様の約束でもあったように、都合の良い追い風が吹く 　ティンカーベルは一路西北西を目指す 　　　リラ：・・・・・５．３ノットってところね 　　　　　　この調子なら、明日の午前中にはバレンシアに着くわ ウェンディ：・・・・バレンシア？ 　　　　　　どこなんです 　　　リラ：あんた、バレンシアも知らないの 　　　　　　この地方じゃ一番の港町じゃない！ 　　　　　　あんた、一体どこから来たのよ ウェンディ：・・・・・・ 　・・・・・そもそも、ここがどこかもわからないのに・・・・ 　　　リラ：・・・・ああ、もううっとうしいわね！ 　　　　　　することがないんだったらあっちに行っててよ 　　　　　　私は忙しいの ウェンディ：・・・・・そうします 　とは言ったものの、別に行く当てがあるわけでもない 　どうせ、狭い船なのだ 　船縁からぼんやりと水平線を眺めるだけ ウェンディ：・・・・あ、イルカさん・・・・・・ 　イルカがティンカーベルと平行して泳いでいるのが見える 　ときどき、飛び跳ねている ウェンディ：・・・・・・・・楽しそう・・・・・・・・ 　じっとイルカを見つめるウェンディ 　ただ、ひたすらイルカを見つめて・・・・・・・・・・・ 　小一時間もたっただろうか 　タラップを上がってくる足音がする 　メイヤー：船長、せっかくですからあれを試してみましょう 　　　　　　まだ、試運転もしていませんし、あれを使えば 　　　　　　明日の朝までには目的地に着くはずです 　　　楊雲：・・・・・急ぐことはありませんが・・・・・・ 　　　　　　・・・・・いいでしょう、試運転だけはしましょう・・・・・ 　メイヤー：では、さっそく機関室へ 　（とたとたとた・・・・） 　　　リラ：ちょっと、あれってなんなの 　　　　　　それに、キカンシツって？ 　　　　　　あたしは聞いてないわよ 　　　楊雲：・・・・・帆を畳んでください・・・・ 　　　リラ：ちょ、ちょっと、一体何始める気なのよ 　　　楊雲：・・・・・今から説明します、帆を畳んでください・・・・ 　　　リラ：・・・分かったわよ、ほら、キャラット仕事よ 　　　　　　帆を畳むから、あっちのウインチを回して・・・・ 　　　　　　私はこっちのロープを巻きとるから・・・・・ 　　　　　　ちょっと、何やってんのよ！ 　　　　　　逆よ逆、右に回すの！！ キャラット：はーい 　ロープを巻き取っていくと自動的に帆が畳まれて行く 　なかなか、便利な機構になっているものである 　・・・・・・帆の操作って、もっと人手が掛かるんだと思ってた・・・・ 　　　リラ：船長、帆の収容、終了いたしました 　　　楊雲：・・・・・ごくろうさま・・・・・・ 　楊雲が手元にある何か縄のようなものでつながった四角い箱を 　取り上げると、箱に向かって話しかける 　　　楊雲：・・・・・メイヤーさん、機関室の状況は・・・・ 　メイヤー：出力平常状態、セルフチェックシステム異常無し 　　　　　　これから、各ブロックのセルフチェックを開始します 　　　　　　・・・・・エネルギープラント異常無し 　　　　　　・・・・・制御システム異常無し 　　　　　　・・・・・電力伝達部異常無し 　　　　　　・・・・・主動力部異常無し 　　　　　　・・・・・動力伝達部異常無し 　　　　　　・・・・・水中部異常無し 　　　　　　船長、システムオールグリーン！ 　　　楊雲：・・・・・動力推進開始、微速前進・・・・・・・ 　メイヤー：微速前進！よーそろ！ 　　　リラ：・・・・・え？ キャラット：わぁ、すっごーい 　驚くのも無理はないだろう 　楊雲の持っている箱がメイヤーの声でしゃべったのだから 　メイヤー：・・・微速前進中、速度３ノット 　　　楊雲：・・・・・速力、原速・・・・・・・ 　メイヤー：速力原速！よーそろ！ 　　　リラ：ちょっと船長、説明してくれるんじゃなかったの？ 　　　楊雲：・・・・・・・説明しましょう・・・・・・ 　　　リラ：え、ちょっと一体何をやったのよ！ 　　　　　　こんな事があるわけ無いじゃない！ キャラット：ねえ、リラ、どうしたの？ 　　　リラ：あーもう、何でいちいち説明しなきゃならないのよ 　　　　　　帆を畳んでいるのに船が進んでいるのよ 　　　　　　ほら、あそこのイルカを見て！ キャラット：あー、イルカさんが泳いでる 　　　リラ：・・・ほら、イルカがだんだん後ろに下がっているでしょ キャラット：・・・・うん、それがどうかしたの？ 　　　リラ：あんたなんにも考えていないんじゃないの 　　　　　　イルカが前に泳いでいて、だんだん後ろに見えて来るって事は 　　　　　　船が前に進んでいるって事じゃない！ 　　　　　　帆を張ってないのに何で船が前に進むのよ 　　　楊雲：・・・・・・・これが、古代の神秘、動力推進です・・・・ 　　　リラ：・・・ドウリョクスイシン？ 　　　楊雲：・・・・・・詳しい説明は、メイヤーさんから聞いてください・・・・・ 　　　リラ：あたしはパス、メイヤーなんかに聞いたら何時間かかるか 　　　　　　分かったもんじゃないわ 　　　　　　船長、手短に説明してよ 　　　楊雲：・・・・船底にある動力炉を使って、船を進める古代の 　　　　　　技術です・・・・・・・・・ 　　　リラ：・・・・・ふーん、要するに風の力を使わずに 　　　　　　船を進める技術ってわけね 　メイヤー：・・・・原速前進中、速度１２ノット 　　　楊雲：・・・・速力、第一戦速・・・・・・・ 　メイヤー：第一戦速！よーそろ！ 　イルカがだんだん視界から消え去っていく ウェンディ：・・・・・イルカさん・・・・・・・・ キャラット：・・ねえ、だんだん風が強くなってない？ 　　　リラ：確かに強くなっているわね 　メイヤー：・・・・第一戦速前進中、速度１６ノット 　　　楊雲：・・・・速力、第二戦速・・・・・・ 　メイヤー：第二戦速！よーそろ！ 　　　リラ：ちょっと、船長！ 　　　　　　こんな船で１６ノットって出るわけ無いじゃない 　　　　　　それじゃ、最速のクリッパーなみよ！ 　　　楊雲：・・・・・動力推進の実力はこんなものではありませんよ・・・・・ 　メイヤー：・・・第二戦速前進中、速度２０ノット 　　　楊雲：・・・速力、第三戦速・・・・ 　メイヤー：第三戦速！よーそろ！ キャラット：ねえねえ、どこまで速くなるの？ 　　　楊雲：・・・・予定では３４ノット・・・・・・ 　　　リラ：３４ノット！、ほらもたいがいに・・・・ 　メイヤー：・・・・第三戦速前進中、速度２４ノット 　　　楊雲：・・・・・速力、第四戦速・・・・・・ 　メイヤー：第四戦速！よーそろ！ 　　　楊雲：・・・・・信じられないのなら、自分で測ってみてはどうです・・・・ 　　　リラ：言われなくてもそうするわよ 　ボチャン 　　　リラ：・・・・え？そ、そんな・・・・・・・ 　見る間に縄が引き出されていく 　　　リラ：・・・くっ、ひ、引き戻せない！ 　　　楊雲：・・・捨てた方がいいですよ・・・・ 　リラは腰に差したナイフでロープを叩ききる 　あっと言う間に捨てたロープと板が後ろに消え去っていく・・・・ 　メイヤー：・・・・第四戦速前進中、速度２８ノット 　　　楊雲：・・・・・速力、最大戦速・・・・・ 　メイヤー：最大戦速！よーそろ！