私の名前は高町ヴィヴィオ、清祥小学校の４年生でお菓子職人見習いです。

「自己紹介は終わったかヴィヴィオ」
「誰にやってるの？」
「そこらはお約束だから」

　そういうわけで、明日はヴァレンタインデーです。桃子おばあちゃんのお手伝いをさっきまでしてたんです。

「クリスマスがきたと思ったらヴァレンタインデー、割と忙しいなヴィヴィオ」
「うん、色々とお手伝い出来るようになったんだよ」
「それはよかったの」
「ありがとう月光ちゃん」
「というわけで、疲れたからお茶にしよ」
「うん、ヴィヴィオちゃん、冬美ちゃん、お茶淹れるね」
「桃子おばあちゃんからもらったチョコレートをお茶菓子にしようよ」
「今日でいいのか？」
「じょぶじょぶ、そこらは前祝いだから」
「そういう問題でもないだろ」
「気にしない気にしない、おいしいチョコレートはいつ食べてもおいしいんだよ」
「それは認めるけどさ」
「はい、ヴィヴィオちゃん」
「ありがとう月光ちゃん」
「はい、冬美ちゃん」
「ありがとな、ゲッコウ」
「どういたしまして」
「で、ヴィヴィオは誰かチョコレートを渡す相手はいるのか？」
「あとはなのはママだけだよ」
「あとはって？」
「冬美ちゃんと月光ちゃんにはもう渡してるから問題なし」
「いや、これ桃子おばさんのだろ……」
「いや、まあ、そうなんだけど、冬美ちゃんは私の作ったのがいるの？」
「そういうんでもないけど、何か違う気がする」
「なのはママには、一応私の手作りを送るんだよ」
「他の家族にはどうするの？」
「んー、フェイトママとユーノパパは、忙しくてこっちにはこれないから、定期便でもう送ったよ」
「そうなんだ」
「期日指定で送ったから、明日届くはず。ユーノパパの所には」
「フェイトおばさんのところはどうなの？」
「フェイトママは、本局にいれば届くと思うけど、出張してたら戻ってくるまで受け取ってもらえないと思う」
「エミーは元気にしてるかな」
「エミーちゃんにも、もちろんビデオレターと一緒に送ったから、返事が来るかも」
「そうなんだ、ヴィヴィオも忘れてなかったんだな」
「うん。もちろんだよ」
「エミーちゃんは聖王になるためのお勉強は進んでるかな」
「エミーの奴も格闘とかも練習してるみたいだよな。聖王って格闘もいるのかな」
「体作りのたしなみだよ、多分」
「まあ、エミーは格闘家になるわけじゃないもんな」
「うん。それでも一流の格闘家になれる素質はあるってコーチに言われたって」
「そこらはヴィヴィオも一緒だろ」
「私は付け焼き刃だよ、それに、私は絶対にお菓子職人さんになるんだから」
「好きこそ物の上手なれ、っていうけど、ヴィヴィオは絶対格闘家の方が向いてると思うぜ」
「ヴィヴィオちゃんは格闘は嫌いなの？」
「嫌いじゃないし、体を動かすのは好きだけど、なりたいのはお菓子職人さんなんだよ」
「うん、目指す事があるっていいよね」
「あたしは師範代から師範を目指して修行中なんだけどさ」
「冬美ちゃんは格闘が好きなの？」
「当然。まあ、他に取り柄もないけどさ」
「全力を川崎流に注いでるもんね」
「まあな」
「二人とも好きなことがあって良いなあ」
「ゲッコウは習い事してるじゃないか、それは嫌いなのか」
「ピアノとか練習してるけど、別にピアニストを目指してる訳じゃないから」
「そっか、ま、小学生でもう未来へ向かってる方が珍しいからな」
「あはは、なんか私も冬美ちゃんも外れ者みたい」
「妙な言い方するなよヴィヴィオ。まあ、川崎流は家業みたいなもんだし」
「翠屋も家業だけど、なのはママは別に翠屋を継ぐ予定はないんだよ」
「でも、接客はしてるよな」
「うん、だけど、本業は管理局なんだよ」
「そういえばそうだったね」
「なんか忘れちゃうけどな」
「まあ、『鬼教官』は翠屋じゃ封印だから」
「そりゃそうだろ」
「でも、二足のわらじでちゃんと出来るってすごいよね」
「でしょ」
「別にヴィヴィオをほめたわけじゃないだろ」
「でも、なのはママはすごいんだよ」
「それは認めるけどさ。……ヴィヴィオも格闘家も目指したらどうだ？
　二足のわらじで悪い事悪いことないなら、両方出来るだろ」
「お菓子作りに全力を入れないと一流のお菓子作りが出来ないよ」
「……格闘はそうじゃないのにあたしと互角なんだよなあ」
「それはそれ、これはこれ、それに冬美ちゃんは魔法使いじゃないし」
「まあ、そうなんだけどさ……って、ゲッコウおまえなに笑ってるんだよ」
「冬美ちゃんって格闘のことになると熱くなるなって思ったの」
「そりゃ、あたしの人生そのものだからな」
「人生そのものって言える事があるっていいよね、やっぱり」
「ゲッコウはそういうのに憧れがあるのか？」
「冬美ちゃんやヴィヴィオちゃん見てるとそう思うよ」
「今から見つければいいんだよ。ゲッコウは格闘には向いてなさそうだけど」
「うん、それはわかってる」
「何か出会いがないとなかなかそういうのは見つからないと思うよ。
　私もなのはママと出会わなければなにになりたいかわからなかったかも」
「そういう出会いが大切なのかな」
「うん、そうだよ、きっと」
「出会いかあ」
「ぼんやりしてると出会いも逃しちゃうけどな。
　気づかなければ、出会ってないのと同じだろ」
「それもそうだね」
「ま、ゆっくりやっていこうよ」
「うん。でも、あと２年で中学生だね」
「そうだね。中学生になったら、また一年生〜」
「高校生になったらやっぱりまた一年生だな」
「そだね」
「このチョコレート、やっぱりおいしいね」
「でしょ。桃子おばあちゃんが作ってるからね」
「ヴィヴィオちゃんも、このレベルに追いつかないと」
「うん。それを目指して頑張ってるんだよ」
「頑張ることがあるっていいことだね」
「そうだよ」
「どうしたの、冬美ちゃん」
「いや、ゲッコウって、なんか肩に力が入ってるのかなって」
「え？　どうして？」
「もっと気楽に構えていいような気がするんだよな。
　ゲッコウって、何か一つのことを一生懸命やることだけ見てる気がしてさ」
「私はお菓子職員さんになる〜」
「いや、混ぜっ返すなよヴィヴィオ。そうじゃなくて、もっと気楽に考えればいいんじゃないかと思ってさ。
　色々やって、合ってるものを見つければそれでいいんじゃないかな。
　それに、スペシャリストだけが立派なんじゃなくて、ジェネラリストはジェネラリストで大事だと思うぜ」
「そっちの方が難しいかも」
「あはは、月光ちゃん、それが考えすぎなんだってば。モラトリアムは成人するまでずっとあるんだよ。
　それに、還暦過ぎてからやりたいことを見つける人もいるんだし、人それぞれだって」
「なんだか、ものすごく遠くな話をされた気がするよ」
「そうかも、だけど、考えすぎないのも大切だと思う」
「考えすぎなのかなあ」
「だから、あたしらが特別なんだよ。クラスメイトだって、そんな将来決めて頑張ってる奴なんてまずいないだろ」
「それはそうだよね」
「だから、いつかやりたいこと、好きなことを見つければいいんだよ。
　月光ちゃんにも、なのはママみたいな人が見つかるよ、きっと」
「うん。……そうしてみると、私の周りって、目標もって生きてる人が多いのかなあ。
　ヴィヴィオちゃんに、冬実ちゃんに、エミーちゃんもそうだよね」
「とはいえ、人生なにがあるかわからないからね。それでも、お菓子職人さんを目指すのは間違ってないと自分じゃ思ってるよ」
「夢に向かって頑張るのがすごいと思うよ」
「夢があれば誰だって頑張れるよ。っていうか、頑張れる目標だから夢なんじゃないかな」
「夢かあ……」
「まず夢を見て、その夢に向かって進んで行くんだよ」
「それが出来るのが、二人ともすごいと思っちゃうな」
「そうかなあ。エミーの奴もそうだと思うけど、あたしにとってはそれが普段通りだから、別に特別なことをしてる気はしないんだよな」
「そうなんだ、自然に頑張れるって、やっぱりすごいな」
「おじいちゃんが言ってたけど、一日二十四時間はみんなおんなじように使ってるんだよ。それを使わないでいることは出来ないんだよ。
　たとえ寝て過ごしても、それはそれで糧に出来る人は糧にしてるんだって」
「三年寝太郎だね」
「一発アイディアで当てたあと堅実に過ごしたっていうのがすごい人だよね」
「そうだよな。一発当てるだけならともかく、それをちゃんと生かせるってのはすごいな」
「でも、そういうのは私には無理だから、やっぱり地道にお勉強とかしていかなきゃ」
「月光ちゃんは冬休みの宿題でも計画的に済ませるよね」
「なんかずきっとくるんだよな」
「３人で一緒にやったじゃない」
「そうだけど、そういうのを提案するのは月光ちゃんだよね」
「そうだよな、ま、あたしの場合、ほっときゃやらないから感謝してる」
「やることはやらないと」
「まあな。格闘家は格闘家として、最低限の教養ぐらいはないとな」
「義務教育だもんね」
「だよね」
「そういえば、キラキラネームって禁止になるのかな」
「どうした月光」
「私の名前もちょっとキラキラネームっぽいから」
「大丈夫、既存の名前を変えろなんて言わないよ、多分。
　それに、ヴィヴィオよりは日本人の名前っぽいよ」
「ヴィヴィオってどういう基準で名前を付けたんだろう？」
「わかんない、変態顔芸……ってか、エミーちゃんのパパが付けたらしいけど、なんでヴィヴィオなのかは謎なんだって」
「そっか。まあ、冬に生まれたから冬美って安直なネーミングらしいんだけどな」
「でも、初見でちゃんと読んでもらえるのはいいよね」
「ゲッコウは初見じゃむりだろうからな」
「ふりがながあれば大丈夫だよ」
「ふりがながなくてもちゃんと読んでもらえるってのはいいよね」
「でも、読み方がたくさんある普通っぽい名前もあるよ」
「そうだよな」
「月光ちゃんは自分の名前が嫌いなの？」
「ううん、そうじゃないけど、まず間違いなく正しく読まれないから」
「知ってれば忘れられないからいいんじゃないかな」
「うん、そうかも」
「クリスマスはホワイトクリスマスとか言うけど、ホワイトヴァレンタインとは言わないよな」
「やっぱり、メインが日中だからじゃないかな」
「そういう問題かな」
「わかんない。それに、そもそもチョコレートをおくる日って決まってるわけじゃないし」
「その、サンタクロースが赤い服着てるのは商業主義の陰謀みたいな事を言わなくても」
「あはは、でも、伝統だって最初は目新しい何かなんだよ」
「そうだよね」
「さて、そろそろ帰ろうかな」
「どうしたの冬美ちゃん」
「もう日が暮れるからさ」
「そうだね、じゃあ、私も帰ろうかな」
「月光ちゃんもありがとうね」
「こちらこそ、ごちそうさまでした」
「ありがとな、ヴィヴィオ」
「じゃ、また明日」
「また明日〜」

月光ちゃんと冬美ちゃんを見送りに玄関まで行きます。
明日も学校、そしていつもと同じ、そして特別な一日が始まります。

 

 

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