私の名前は高町ヴィヴィオ、ヴィヴィオ＝スクライア＝高町＝テスタロッサ・ハラオウン、清祥小学校の4年生。
今夜はクリスマス・イヴ。ということで、昼間は桃子おばあちゃんのお手伝いで忙しかったけど、日が暮れてからはヴィヴィオはお休みです。
喫茶翠屋のお仕事はあるけど、なのはママ達がお店をやってくれて、私達は自室でクリスマスパーティです。

「自己紹介は終わったか、ヴィヴィオ」
「うん、終わったよ冬美ちゃん」
「誰に、って言わなかったね、冬美ちゃん」
「ゲッコウ、あまり同じネタを繰り返してもな」
「月光ちゃんはアカリちゃんだよ。……って、このネタも定番だよね」
「だな、それはともかく、店を手伝わなくてもいいのか？　ヴィヴィオ」
「昼間たくさん働いたから、夜はみんなとパーティしていいって」
「よかったね、ヴィヴィオちゃん」
「ありがと、月光ちゃん」

　3人で囲むテーブルの真ん中にはホールケーキとシュトーレン。
飲み物はお約束のシャンメリーです。

「ホールケーキとシュトーレンは桃子おばあちゃんの手作りなんだよ」
「へー、さすがヴィヴィオのお師匠さんだな。おいしそうだ」
「おいしそうなんじゃなくて、おいしいんだよ、冬美ちゃん」
「まだあたしは食べてないからな」
「じゃ、さっそく食べようか、クリスマスソングっていっても、誕生日みたいな定番はないし」
「そうだね、ヴィヴィオちゃん」
「じゃ、ヴィヴィオが切り分けるね」
「ありがとう、ヴィヴィオちゃん」
「うん、じゃあ頼む」

　ケーキを3等分です。そんなに大きくないケーキだし、中心にはサンタさんの砂糖菓子が置いてあるので、中心を見分けるのは簡単です。

「これが出来ない高校生もいるらしいけどな」
「んー、中学生ならわかるけど、高校生は理解出来ないんだよ」
「なんで？」
「え？　高校に入るには入学試験があるんでしょ、これくらいは出来ないと入学できないんじゃないの」
「あたしに言われてもな。いるらしいって話を聞いたことがあるだけだからな」
「パティシエさんやるなら基本〜」
「みんながみんなパティシエになるわけじゃいだろ」
「パティシエールさんになる人もいるんだよ」
「そりゃそうだろ、つーか、ヴィヴィオもパティシエールになる方だろ」
「うん、そうだよ」

　そんな話をしてるうちに切り分けも終わりです。

「シャンメリーの栓はあたしがあけるよ」
「お願い、冬美ちゃん」
「まかせとけって」

　冬美ちゃんは片手でシャンメリーの瓶を持って、それから包装を解きます。

「ありゃ、これはねじるタイプか」
「そうみたいだね、シャンパンみたいに、栓が飛んでいくことはなさそう」
「そっか、ちょっと期待したんだけどな」
「危ないからかな」
「そうかもな」

　冬美ちゃんは、ちょっと残念そうに栓を開けます。

「はい、まずはヴィヴィオに」
「ありがとう冬美ちゃん」
「で、ゲッコウにも」
「ありがとう、冬美ちゃん」
「んじゃんじゃんじゃ、冬美ちゃんには私がつぐ〜」
「じゃ頼む、ヴィヴィオ」
「うん、じゃなみなみと……」
「そんな一杯に注ぐなよ、飲むときにこぼれたらまずいだろ」
「それもそうか、じゃあ適当に」
「そうだな」
「さて、全員のコップに注がれたし、ケーキも取り皿に乗ったし、……」

　グラスをみんな片手に持ちます。

「乾杯しようよ、みんな」
「そうだね、月光ちゃん」
「そうだな」
「じゃあ、せーのーで」
「メリークリスマス！」

　グラスをあげてかけ声を掛けて、前振りは終わりです。

「じゃ、早速桃子おばあちゃんの手作りケーキを食べようよ」
「そうだな、頂きます」
「頂きます」
「いただきまーす」

　ぱく。

「やっぱり桃子おばあちゃんのケーキは世界一なんだよ」
「そうだな、プロが作ったみたいだ」
「桃子さんはプロなんじゃないかな」
「まあ、そうなんだけどさ」
「プロの中のプロなんだよ」
「そうかもな」
「かもじゃなくて、そうなんだよ」
「わかったよ」

　桃子おばあちゃんは、私のお菓子作りのお師匠様です。
私もいつか桃子おばあちゃんのようなお菓子職人になれるように毎日練習してます。

「甘すぎず、甘さが控えめにもなりすぎず、スポンジはなめらかでやわらか」
「フォークがすっと通るよな、でも崩れない」
「そうなんだよ、ヴィヴィオはまだその域じゃないから、ケーキ作りは桃子おばあちゃんのお仕事〜」
「まあ、しょうがないよな」
「ヴィヴィオちゃんも、頑張ってお菓子作りがもっと上手になるようにね」
「うん、毎日練習してるよ」
「格闘は別に毎日やってるわけじゃないよな」
「お菓子作りの合間に冬実ちゃんに付き合ってるだけだよ」
「それでこの実力だろ、絶対ヴィヴィオは格闘の方が向いてると思うんだけどな」
「好きこそ物の上手なれ、だよ」
「そうなんだけどさ、ヴィヴィオは格闘が嫌いか？」
「嫌いじゃないよ、だけど、お菓子作りほど好きなわけでもないよ」
「それなんだよな、あたしは格闘が好きだし、毎日練習してる。
　でも、なんかヴィヴィオにはかなわないんだよな」
「練習じゃ冬実ちゃんから教わるばかりだよ」
「それで組み手は互角だろ、絶対ヴィヴィオは才能があると思うんだよな」
「またこの話だね」
「格闘はあたしの人生だからさ、だから、あたしもヴィヴィオのような才能があったらって思うんだよ」
「ヴィヴィオちゃんは勉強も出来るし、体育も優秀だし、なんか完璧超人っぽいよね」
「私なんか全然だよ、お菓子職人さんになれれば、勉強も体育も関係ないって。
　お菓子作りには体力も必要だから、体作りもしないといけないけど」
「そうだね。二人ともすごいよね、将来を見据えて進んでる」
「ゲッコウはまだなりたいものが見つからないんだよな」
「うん」
「じゃ、月光ちゃｎはいろんな事をやって、自分のなりたいものを見つけなきゃね」
「そうだね、ヴィヴィオちゃん」
「そういや、エミーの奴はなにやってるかな」
「なにって、向こうじゃ聖王生誕祭をやってるんじゃないかな」
「聖王生誕祭って、聖王が生まれたことを祝う日なのか？」
「うん、そうだよ、歴代聖王の誕生を纏めて祝うんだよ。
　聖王教会と、サンクト・ヒルデの大切な行事でもあるんだよ」
「そりゃ、本来クリスマスもキリスト教の行事だし、聖王教会なら聖王の誕生を祝う日があるのもわかるな」
「クリスマスって、日本じゃもうキリスト教が関係ない何かのお祭りだよね」
「ハロウィンなんかもな。どう見ても、仮装してお菓子をもらう祭りって理解だし」
「楽しければOKなんだよ」
「いや、ヴィヴィオがそれ言うか」
「えー、どうして冬実ちゃん」
「いや、一応とはいえ、ヴィヴィオは聖王の血族だろ、聖王生誕祭とか無関係って言えないんじゃないか」
「別に聖王らしいことをしてるわけじゃないし、ヴィヴィオと聖王は関係ないんだよ。
　聖王のお仕事は、エミーちゃんがやるんだよ」
「エミーちゃんは真の聖王になるべく修行中だよね」
「うん、そうだね」

　そういう話をしてるうちに、ケーキを食べ終わりました。

「ごちそうさま、本当においしいケーキだったな」
「そうだね、冬実ちゃん」
「ありがとう、桃子おばあちゃんに伝えておくね」
「頼む、ヴィヴィオ」
「まだシュトーレンが残ってるよ、これもヴィヴィオが切るね」
「ありがとう、ヴィヴィオちゃん」

　シュトーレンは薄く切ります。

「頂きます」
「いただきまーす」

　桃子おばあちゃんの作るシュトーレンも絶品です。

「ほんとうにおいしいな」
「そうだね、冬実ちゃん」
「ホワイトクリスマスだし、おいしいお菓子もあるし、言うことないよね」
「まあな、うちの道場じゃ正月の方が忙しいから、こっちにこれたんだけど」
「寒稽古とかは新年早々やるんだよね」
「そうだなゲッコウ。寒さに負けてるようじゃ立派な格闘家にはなれないもんな」
「クリスマスが終わったら、新年の準備だね」
「そうだな、クリスマスが終わったら餅つきもしないといけないし」
「冬実ちゃんちじゃ今でも臼と杵でもちをつくの？」
「当然そうだろ、これも体を鍛える一環だからさ」
「冬実ちゃんは？」
「あたしはまだもちをちぎって丸めるかかり。それでも大きさをそろえるのは苦手なんだよな」
「私もそれで桃子おばあちゃんに指摘されるんだよ、クリームを絞る大きさが不揃いだと
　ケーキなんかも見苦しいよね」
「年末は色々と大変だよね、冬休みの宿題もあるし」
「あ」
「う」
「お……って、二人とも宿題は計画的にやってるんでしょ」
「なのはママにも、桃子おばあちゃんにも言われてるからさぼってはないけど、出来れば忘れてたい……」
「ていうか、忘れてた」
「宿題も計画的にやってかないと、休み明けが大変だよ」
「わかってるけど、年の瀬はばたばたしてなかなか手が付けられないんだよな」
「ダメだよ冬実ちゃん、ちゃんと宿題もやらないと」
「わーってるって」
「じゃ、明日から3人でお勉強会しようか」
「え」
「い」
「『え』でも『い』でもないって、計画的に済ませて、お正月はしっかり遊ぼうよ」
「寒稽古があるから遊んでられないんだよな」
「だったらなおさらだよ」
「そうだね、月光ちゃん、というわけで、冬実ちゃんもやろうよ」
「……そうだな、自分一人じゃ絶対やらないもんな」
「決まりだね」
「……しゃーないな」

　なんだか、やな事が決まった気がします。
だけど、やらないといけないことは、やらないといけないとも思います。

「だいぶ夜も更けてきたな」
「そうだね」
「じゃあそろそろ帰ろうか」
「うん、じゃあ……」
『我が主、外は大雪です、歩いて帰るのは危ないかもしれませんよ』
「そんなに降ってるの、ライチェントゥークス」
『窓を開けて外を見てみてください』
「うん……って、うわあ、すごい雪、これは車も走れないかも」
「え、そんな大雪なのか、ホワイトクリスマスとか浮かれてる場合じゃなかったな」
「うん、ちょっと迎えに来てもらうのも大変そう」

　そんな話をしてると、階段を上がってなのはママがやってきました。

「二人とも、今日は雪が大変ね」
「そうですね、なのはおばさん」
「空いてる部屋があるから、今日はおうちに連絡して、二人とも泊まって帰るといいよ。
　遭難するかもしれない大雪になってるから」
「ありがとうございます、なのはさん」
「どういたしまして。じゃあ、連絡だけはちゃんとしてね」
「はい」
「なのはママ、お店はいいの？」
「この雪だから、もうお店は閉めてるね。後片付けも終わったから、なのはママもこれからお休み」
「んじゃ、なのはママ、キャラメルミルク〜」
「はいはい、ヴィヴィオは本当にキャラメルミルクが大好きだね」
「大好きなんだよ」
「じゃ、今作ってくるね、3人分」
「ありがとうございます、なのはさん」
「ありがとう、なのはおばさん」
「じゃ、待っててね」

　冬実ちゃんと月光ちゃんは、家に電話してます。

『こんな大雪が海鳴市に降るのも珍しいですね』
「そうかもしれないね、ライチェントゥークス」

　今日はクリスマス・イヴ、みんながいつもよりちょっとだけでも優しくなれる日。
一年いい子にしてると、枕元にサンタクロースがプレゼントを置いていってくれる日。
だけど、ヴィヴィオはプレゼントは楽しみですが、みんなと一緒の時間はもっと大切です。
みんなが一緒だから、ヴィヴィオは今日も元気です。

 

 

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