私の名前は高町ヴィヴィオ、清祥小学校の４年生でお菓子職人見習いです。
　私の住む町、海鳴市にも梅雨がやってきました。

「だからって、別段日常が変わるわけでもないけどな」
「そうだね、冬美ちゃん」
「体育で校庭が使えなくなって、体育館での授業になるくらいかな」
「そうだな、ゲッコウ」
「梅雨が明ける頃には夏休みだね」
「えらく気が早いなヴィヴィオ」
「夏休みになったらお菓子作りのお勉強が一日中出来るようになるんだよ」
「ま、確かに川崎流の修行も捗るな」
「宿題さえ済ませればね」
「あはは、月光ちゃん、それは確かに」
「なんであんな一杯宿題を出すんだろうな」
「学校のことを忘れないようにって事だよ、多分」
「むしろ休みの日ぐらい忘れさせてくれてもいいのによ」
「完全に忘れて、新学期を思い出せないと困るからじゃないかな」
「そういうものなのかな」
「多分違うと思うよヴィヴィオちゃん……」
「そっかな、じゃあ、なんであんなに分量が多いんだろう」
「どうしてだろうな。先生は夏休み中でも仕事をしてるからかな」
「それじゃただの嫌がらせだよ」
「夏休みも学校のお勉強をする前提で学習量が決まってるのかも」
「そうかもな、ゲッコウ」
「気が重い話はこれくらいにしようよ」
「ヴィヴィオが夏休みの話を振ったんだろ」
「そうなんだけどね。だからって毎日雨が降る話をするのも楽しいのかなって」
「雨も適度に降りゃいいんだけどさ、なんか、降れば土砂降りなんだよな」
「豪雨災害って毎年どこかで起きてるよね」
「うん。昔は豪雨災害って無かったのかな」
「ないわけはないと思うけどな」
「冬美ちゃんの言う通りだね。昔からあることはあるんだろうね」
「それはいいから、もっと明るい話をしようよ」
「雨降りで楽しい話？」
「そ、雨が降って楽しい話をしようよ」
「梅雨に雨が降らないと、夏は大変だよな」
「そうだね」
「外で遊べないね」
「その分家で遊べばいいんだよ。遊ぶのは外って決まってないよ」
「道場での修行は別に外に限らないからな」
「そうだね、冬美ちゃん」
「よし、ヴィヴィオ、今からうちにこいよ、道場で手合わせ頼むぜ」
「えー、私はお菓子作りのお勉強があるのに〜」
「冬美ちゃんは道場の人と毎日練習してるんでしょ？　なんでヴィヴィオちゃんを呼ぶの？」
「実力で並んでる相手は体格差あるし、体格差変わんない練習生だと、こっちが教える形になるんだよな。
　体格がおんなじぐらいで、実力ある相手ってなると、どうしてもヴィヴィオになるんだよ」
「んじゃんじゃんじゃ、冬美ちゃんもお菓子作ろうよ、楽しいよ」
「いや、あたしはお菓子職人になるわけじゃないから」
「別にプロにならなくても、趣味でやればいいんじゃないかな」
「いや、ヴィヴィオはプロになる修行してるんだろ。そういうのはいいよ」
「でも、私は格闘家になるわけじゃないけど、冬美ちゃんと一緒に格闘の練習もしてるよ」
「つーか、なんでそうヴィヴィオは格闘家を嫌うんだ？　絶対才能あるのに」
「嫌ってるんじゃなくて、お菓子職人になりたいだけだよ」
「二足のわらじでもいいじゃないか、格闘家もやった方がいいぜ、絶対」
「魔法ありでなきゃ無理だよぉ」
「なくても良いところいくと思うんだけどな」
「また始まったね、冬美ちゃん、ヴィヴィオちゃん」
「そーかもな」
「というわけで、冬美ちゃんも何か趣味を持った方がいいよ絶対」
「そういうヴィヴィオの趣味ってなんだよ」
「趣味……なんだろ？　そういえばお菓子作りはプロになるための見習いだし、
　格闘は冬美ちゃんのつきあいだし、実益のない純粋な楽しみでやってることってないよね」
「音楽とか聞かないの？」
「あんまり興味無いかな」
「あたしもそうだな。格闘が楽しくてそれ以外意識がむかねえ」
「そうなんだ。二人とも趣味が仕事なんだね」
「そういう言い方すると、定年で燃え尽き症候群になるサラリーマンみたいだな」
「ごめん、そういう積もりじゃなかったんだけど」
「月光ちゃん、気にしない気にしない。趣味なんてこれから持てばいいんだし」
「これからって、なんか始めたいことあるのか？」
「ないよ」
「即答かよ」
「冬美ちゃんだってないでしょ」
「まあな」
「お菓子作りや格闘に夢中なんだね」
「そういうゲッコウは何か趣味でももってるのか？」
「えと……ピアノは習ってるし、テレビゲームもやってるかな」
「そっか、ピアノを習うのは楽しいか？」
「だんだん出来るようになっていくのは楽しいかな」
「そっか、それならあたしらの中で、一番多趣味なのがゲッコウなのかもな」
「別に自慢になることでもないと思うけどね」
「月光ちゃんもそんな卑下することないと思うよ。
　仕事とは別に趣味を持った方がいいっておじいちゃんも言ってたし」
「そういうものなのか」
「おじいちゃんは仕事で翠屋をやってるけど、サッカーのコーチは趣味みたいなものなんだって」
「そっか、サッカーかぁ」
「冬美ちゃんはやってみる気にならないの？」
「ん〜球技より格闘技かな、やっぱり」
「頭を使うお仕事の人が、暇つぶしにまた頭を使ってるのと同じなのかな」
「頭空っぽにして休まないのかな」
「そういうときは寝てるんじゃないかな」
「そうかもな」
「雨、止まないね」
「そうだね」
「さすが梅雨だね」
「そういや、ヴィヴィオの故郷じゃ梅雨ってあるのか？」
「どうかな、よくわかんない。小学２年生の頃はサンクト・ヒルデに通ってたけど、同じ２年のときにもうこっちに来たし」
「そっか、２年の途中でこっちに来たんだったな」
「そうそう、月光ちゃんや冬美ちゃんとも２年生のときに会ったよね」
「そうだったかな。もう一緒にいるのが当たり前になってよくわかんないや」
「あはは、私も」
「まあ、出会いはどうあれ、今友達やってるんだから、それはきっと運命だよ」
「偶然かもしれないけどな。けど、偶然を物にできるかどうかは、やっぱ意志だよな」
「冬美ちゃんって時々哲学者だね」
「そうかな。別にあたしは脳筋でかまわないんだけどさ」
「スバルお姉ちゃんは別に脳みそ筋肉なわけじゃないし」
「スバルさんか……そういえば、スバルさんはどうしてるかな」
「エミーちゃんとことは、回線がつながるようになって、ライチェントゥークスとクリスとで情報交換出来るようになったんだよ」
「そういえばそうだったな。ディスクでビデオレターなんてやらなくてよくなったよな」
「そうだね。エミーちゃんは元気にしてるかな」
「病気になったって言ってこないから、元気なんじゃないかな」
「聖王を目指して勉強中だよな。一番大変なことをやってるのは、エミーかもな」
「そうだね、司書の仕事もしなきゃいけないみたいだし」
「ヴィヴィオはいいのかよ。おまえも司書の資格を持ってるんだろ」
「ユーノパパがいないときは、時々行ってるよ」
「それで学校を休んでるのか？」
「ちゃんとその分の課題はやってるよぉ」
「ま、確かに」
「ヴィヴィオちゃんも言うほど気楽な生活はしてないと思うよ」
「そっかな、お菓子作りに学校のお勉強に司書のお仕事に冬美ちゃんとの格闘の練習のつきあいぐらいしかしてないよ」
「十分多いだろ」
「密度が問題なんだよ」
「密度も高いんじゃないかな」
「そんな気はしないんだけどなあ」
「ヴィヴィオは天才だからな。人と同じだけ努力しても成果がすごいからな」
「お菓子作りの天才に生まれたかったよぉ」
「格闘はちょっとやってすぐ身につくのにね」
「月光ちゃんまでそういうし……」
「ごめん、ヴィヴィオちゃん。でも、冬美ちゃんと互角なんでしょ、お菓子作りも習ってるのに」
「互角っていうか、……ごめん、魔法力も所々混ぜてます」
「そうでなきゃあたしの立場がないだろ。あたしは川崎流一本なんだぜ」
「でも、道場のチラシとか冬美ちゃんが作ってるんでしょ」
「まあな、アニキは道場に全く興味無いみたいだからさ。使ってるのはアニキのパソコンなのに」
「そこらが才能じゃないかなあ」
「川崎流の師範になって、さらにその上をめざしてるだけどさ、あたしは」
「目標があるのはいいことだよ」
「雨がだんだん強くなってきたね」
「そうだな」
「大丈夫？　帰れる？　おくっていこうか？」
「おくっていこうかって、徒歩に変わりは無いだろ」
「ま、そうなんだけど」
「大丈夫？　雨が強くなってきたけど、歩いて帰れる？」
「あ、なのはママ、今その話をしてた所なんだよ」
「そうなのヴィヴィオ。冬美ちゃん、月光ちゃん、もし良かったら車で送ろうか？」
「いえ、まだ明るいんで歩いて帰れますから」
「冬美ちゃんと一緒に帰るから大丈夫だと思います」
「でも、視界は悪いからね。やっぱりおくらせてほしいかな」
「なのはママの言う通りだよ、冬美ちゃん、月光ちゃん。私も一緒に行くから送ってもらおうよ」
「……では、お言葉に甘えさせてもらいます。冬美ちゃん、そこまで言ってくれてるんだから、むげにするとかえって悪いよ」
「そうかもな。では、お願いします、なのはおばさん」
「うん、じゃあ一緒に降りましょうか」
「はい」

雨は夜に向かってだんだん強くなってきています。
雨雨ふれふれ、という気分じゃないけど、ヴィヴィオは今日も元気です。

 

 

---

 

前へ　戻る　次へ