僕は、マストラダム学園に通う召喚学科の落ちこぼれ。
そして、５人の召喚少女のマスターでもある。
それに付け加えて、今、僕はとんでもない課題を背負わされてるんだ。

 

アスレイ：リーダーのあんたが、そこまで弱気でどうするのよ。
　レッジ：そうだぜ。もう、ここまで来たんだ。覚悟を決めろよ。
マスター：覚悟を決めろよって言われても…これ、どうやって壊せばいいんだよ…。

 

　今、ホートウィッシュは、魔族軍の総攻撃を受けている。
それを阻止するために、僕らは、魔族軍の補給集積所を破壊しなければならない。
僕ら、といっても、アスレイとレッジと僕と、５人の召喚少女だけでやらなければならないんだ。
本当は、シープクレストの英雄、ルシードとその相棒ティセの二人がいてくれるはずなのに
その二人は、三魔将の一人アレクサンドラを、僕らから引き離すために別行動をとっている。

 

　まどか：マスター。破壊するって簡単に言いますけど、こんな巨大なものをどうやって壊すんですか。
　　マキ：いくらヴァニシング・イクスプロージョンが強力だといっても、街全体は壊せませんよ。
アスレイ：それについてはちゃんと考えてあるわ。補給物資の輸送を数日阻止出来ればいいのよ。
　　　晶：そんな器用なことが出来るの？
アスレイ：ふふん。ヴァニシング・イクスプロージョンの特徴は広域破壊よ。
　　　結：それで？
アスレイ：対魔法障壁で守られてなければ、広範囲に破壊魔法を打ち込めるわ。
　　　　　内部に蓄えられている物資に火をつけるだけでも、かなりの効果があがるはずよ。
マスター：そううまく行くといいね。
　　卯月：火をつけるのならボクも得意だよ。
　レッジ：ま、そういうことは、アスレイに任せようぜ。それより、帰りをどうするかだ。
マスター：それについてはちゃんと考えてあるよ。破壊さえ出来れば大丈夫。
アスレイ：物資が蓄積されてる場所まで誘導してくれれば、あとはちゃんとやってあげるわ。
　まどか：この警備の中を突破していくなんて、不可能ですよね。
　　卯月：いくらボクでも、楽勝、なんて言えないよ。
　　マキ：最初にこの問題を考えておくべきでしたね。
　　　晶：どこか、裏手とかない？
　　　結：だめでしょうね。外周をきちんと、警備されてます。

 

　そう。たどり着いて魔法を打ち込みさえすれば終わりだと高をくくっていたら
現実には、魔族軍の方も、そういう事態を想定して、きちんと警備をしていたってわけだ。
正規軍の襲撃ならともかく、見習い魔導師が束になったって、こんなのは倒せない。
奇襲で魔法を打ち込んでどうにかなる相手じゃないのは、確実だ。

 

　まどか：ですけど、一旦中に入れば、ある程度自由がきくのではないでしょうか。
マスター：そりゃ、これだけ外周の警備が厳しければ、中は油断してると思うよ。
　　マキ：要は、最初の警備を突破する方法、ですね。
　　卯月：ねえ、魔法で相手を眠らせるとかないの？魔法の基本中の基本なんでしょ。
　　　晶：大抵のRPGだと、初歩で使えるわね。
　レッジ：そう簡単にいけば苦労しないぜ。
アスレイ：確かに初歩の魔法だけど、それだけに向こうも警戒してるでしょうね。
マスター：たぶん、無駄だと思うよ。精神系の魔法は、向こうも防護してるだろうからね。
　　　結：破壊系統の魔法は、防護の上から破るんですね、マスター。
マスター：ま、そういうこと。……空から奇襲ってのも無理そうだなあ。飛行兵おお…
　まどか：どうしたんですか？マスター。
マスター：O.K.鍵は全部揃った。さあ、やることをやりにいこう。
アスレイ：あんたね。考えなしにつっこんでどうするのよ。
マスター：考えはちゃんとあるよ。…マキ、鞭貸してくれる？
　　マキ：ええ、いいですよ、でも何に使うんですか？
マスター：うん、僕たち３人…僕と、アスレイと、レッジを後ろ手に鞭で結んで欲しいんだ。
アスレイ：あんたね。後ろ手に縛って何をするつもりなのよ。
　レッジ：なんで俺まで縛られるんだよ。
マスター：人間だから。
　レッジ：わけわからねーよ。
　　　結：まあまあ、すぐにわかりますから、じっとしていてくださいね。
　　　晶：マスターの考えは大体わかったわ。うまく行くといいわね。
　　マキ：晶は、人間っぽいから、縛られる側に回る？
　　卯月：マキもそんな意地悪いわなくてもいいよ。
　まどか：あまりにお約束で引っかかってくれるかどうか不安ですけど…がんばります。
マスター：失敗したら、そのときだよ。
　まどか：では、人間３人を生け捕りにした、飛行兵とその仲間って設定で、潜入しましょう。
アスレイ：！…
　レッジ：！…捕まったら、スパイ扱いで処刑されかねないぜ。どうするんだよ。
マスター：…そのときは、全員逆召喚で元の世界に送り返すよ。捕まるのは僕らだけだ。
アスレイ：ずいぶんと思い切った行動に出たわね。
マスター：これぐらいの危険は、覚悟しないとね…。

 

　そう、娯楽物の戦争映画だとよくある、捕虜護送と見せかけて
警戒線を突破する、っていうのを、ここで試してみようというんだ。
映画でなら、大抵成功するけど、あれは段ボールを被っていれば
敵に見つからない、ぐらいのご都合主義のおかげであって
常識で考えたら、合い言葉を知らなかったり、挙動が変だったりして
すぐに見破られるはずだ。

もし、希望があるとすれば、戦場から遠いってことで、油断してくれてるかもしれないってこと。

 

　まどか：お役目ご苦労様です。
　警備兵：なんだおまえは。
　まどか：臨時雇いのまどかです。人間がうろついていたので捕まえました。
　警備兵：そうか…最近は、どこも人手不足だからな。よし、通れ。

 

…あっさり成功してしまった。
こんな風でいいんだろうか？
こう簡単に成功すると、まるで罠にはめようとしてるんじゃないかって気がしてくる。

 

　まどか：マスター、疑い過ぎもよくないです。
マスター：…そうだね。…補給集積所までこのまま進もうか。
アスレイ：本当に、中に入ったら、誰も私たちには見向きもしないわね。無防備もいいところだわ。
　　卯月：マスターの予測が大当たりだね。
マスター：しーっ。まだ、ちゃんと護送って体裁を整えておいてよ。
　　マキ：ちゃんとわかってるわ。…どうやら、こっちみたいね。荷車がこっちから来てるわ。
マスター：よし、そっちへ向かおうか。

 

　５人の召喚獣と、召喚獣によって後ろ手に縛られてる３人の人間の一行は
だんだんと、魔族軍の集積所の中枢へと近づいていく。
だんだん緊張してくる。今はいいけど、アスレイが…

 

アスレイ：…ここがいいわ。物陰に隠れて…魔法を発動…
エイミィ：みんな、見つけた。
　　一同：！
エイミィ：よく、ここまで来た。エイミィ、びっくり。
マスター：だれだあんた？
エイミィ：三魔将の１人、エイミィ。ルテジアの友達。
　まどか：あら、ルテジアさんのお友達の方なんですか。初めまして。
　　マキ：そういう挨拶をしている場合ではないと思いますが。
　　卯月：でも、ルテジアさんのお友達なんでしょ、悪い人じゃないよきっと。
　　　晶：悪い人ではなくても、今は敵同士です。
　　　結：まあまあ、敵同士でも、話し合いは出来ますよ。
　レッジ：そんな悠長なこと言ってるばあいかよ。絶体絶命なんだぜ。
アスレイ：なんてことなの。せっかくここまで来たのに…
エイミィ：どんな手段を使ってくるか、エイミィも、わからなかった。
　　　　　でも、誰がやっても同じ。必ず、ここを通ること、エイミィ、知ってた。
アスレイ：つまり、ここが中枢ってわけね：。
エイミィ：自殺、よくない。
マスター：……マキ！鞭をほどいて！アスレイ、行動準備！
　　　　　マキ、結、防御結界発動！まどかは空からに備えて…
エイミィ：エイミィ、そういう冗談、嫌い。

 

エイミィが魔法を発動させる。

 

　レッジ：がっ！なんて魔力だ
マスター：アイススピアだ！防御結界交代だ。結はレッジの手当を。卯月、炎の防御結界を！
　　卯月：わかった。集え炎！
　　　結：レッジさん、下がってください。私が手当します。
　まどか：マスター、回りから兵隊さんが集まってきます。
アスレイ：…まとめてくるなら、まとめて吹き飛ばすまで！…集え暖かき光…
エイミィ：魔法なんて唱えさせ…
アスレイ：ヴァニシング・ノヴァ！
エイミィ：なに？
アスレイ：今よ！
　まどか：はい！まどか流槍術稲妻突き！
エイミィ：おいたがすぎる。
　まどか：受け太刀に回ってるのは、否定できませんよ、エイミィさん。

 

僕はアスレイの機転に舌を巻いた。
ヴァニシング・イクスプロージョンは、ヴァニシング・ノヴァを無数に発生させる魔法なんだ。
それを逆手にとって、ヴァニシング・イクスプロージョンを撃つとみせかけて
ヴァニシング・ノヴァを即効で発動させたってわけ。
不意を突かれたエイミィを、アスレイのヴァニシング・ノヴァが直撃した。
ひるんだすきにまどかが槍でエイミィを追い回す。

 

アスレイ：なにぼんやりしてるの。援護しなさい…こんどこそ、ヴァニシング・イクスプロージョンを行くわ。
マスター：そうだねアスレイ。レッジ！まどかの援護に回って。マキ、僕に合わせて。
　　マキ：はい、マスター。
マスター：行くぞ…アースクエイク！

 

前にも一度使ったことがある、マキと僕のコンビネーション魔法だ。
マキが地面を硬化させて振動の減衰を阻止した上で、僕がアースクエイクの魔法を使う。
通常のアースクエイクに比べて、威力も到達距離も段違いだ。

 

　　　晶：アイスブリザード！
　　　結：ウォータースクリーン。

 

よろけた兵士に追い打ちを掛けるべく、晶と結もコンビネーション魔法を発動する。
上から水を掛けた上で、凍結魔法を使うことで、敵兵の動きを制限したんだ。

 

エイミィ：General frost…
　　卯月：させないよ！ファイアーストーム！

 

エイミィの凍結魔法に卯月が炎の魔法でカウンターを当てる。
エイミィの魔法の方が強力だが、それでも致命的一撃を阻止するには十分だ。

 

　まどか：お覚悟
　警備兵：ぐあっ！
エイミィ：…兵隊ども、しばらく時間稼げ。…私も、大技、使う。
アスレイ：もう遅いわ。こちらの詠唱は完了したわよ。
　　　　　…究極破壊魔法発動。ヴァニシング・イクスプロージョン！
エイミィ：はったり、よくない。ヴァニシング・イクスプロージョンの光球、発生してない。
アスレイ：それはそうでしょうね。私の魔法の目標は、あなたたちじゃないもの。
エイミィ：！まさか…
アスレイ：そう、そのまさか。

 

そう、広域破壊魔法ヴァニシング・イクスプロージョンの本当の恐ろしさは
破壊力を及ぼす範囲を自由に設定できることにあるんだ。
ルシードが使って見せたときには、集中的に蜥蜴兵を吹き飛ばすのに使ったから
光球が無数に現れるのが見えたけど、今回のアスレイは、倉庫の中の荷物を焼くために
可能な限り広い範囲にばらまいたってわけ。
倉庫の中身は、食料に魔法の触媒が一杯。その中には燃えやすい物も含まれている。
ヴァニシング・ノヴァの爆発が、可燃物への着火を誘導する場合ももちろんある。
結果は？…すぐに現れた。

 

「火事だ！」

 

エイミィ：直ちに消火する。…おまえたち、絶対に許さない。生きては帰さない。
マスター：そうは行かないって。…卯月とマキはアスレイを抱えて、晶と結はレッジを。
　まどか：マスター。マスターは私が運びます。
マスター：ああ、頼むよまどか。
エイミィ：空を飛んでも、逃げられない。飛行兵、もう呼んだ。
マスター：空を飛ぼうってわけじゃないさ…すべての召喚少女よ、マスターが命ずる。
　　　　　汝が抱えし荷物と共に、時空を超えて元の世界へ！

 

　そう、これが、僕がここから逃げ出すために考えた切り札だ。
まどか達が僕らの世界に召喚出来るなら、僕らがまどか達の世界へ
逆に召喚されたっていいわけだ。

 

え？元の世界に帰れるのかって？
そりゃ、一応は考えてあるよ。
だけど、そんなことより、今はここから逃げ出すことの方が大切だ。
なにしろ、この補給基地中の魔族軍が、僕ら８人に襲いかかってきてるんだから。
この場にとどまるなんていうのは、間違いなくかえってこれないあの世への
片道切符を手に入れるのと同じだよ。

 

たとえ、ギャンブルでも、まどか達の世界へ行くこと、それだけが
僕らが生き延びる、唯一のチャンスなんだ。

 

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