僕は、マストラダム学園に通う特待生。
召喚学科の追試地獄の真っ最中を、最強召喚アイテム
ケータイデンワと、そのケータイデンワで呼び出せる
５人の召喚獣の手助けで乗り越えている最中だ。

 

「マスター。全然関係ない話なんですけど」
「なにまどか」
「やっぱり、台詞だけ並べる書き方だと、誰の言葉かわからないことがありませんか？」
「…なんでいきなりそういう事を？」
「いえ、誰も何も言いませんけど、混乱しないかなあ…って」
「僕の台詞は、わかってもらえるよ、きっと」
「マスターだけわかってもらってもしょうがないじゃないか」
「いや、たぶん、卯月のはわかるとおもう」
「卯月さんは、特徴的ですものね」
「それじゃマキが普通みたいじゃない」
「マスター。ものは試しです。ト書き方式でやってみましょう」
「僕に言われてもどうしようもないのに…」
「では。背後霊さんに、お願いしてみましょう」

 

…あれ、面倒なんだよなあ。みんなの台詞を書き留めていくだけで
精一杯で、誰の言葉っていうのを付属させるだけでも、リズムが狂うし。

 

「ちゃんと待ってしゃべってあげるよ」

 

正直、卯月が一番信用できない。

 

「あー。マスター。あんなこと言ってるよ。なんとかいってやって」
「なんとかって…」
「そっちがその気なら、こっちもこの気があるんだからね」
「この気って？」
「ストライキするよっ！」
「ちょ、ちょっとちょっとちょっと。そんなことになったら
　僕は間違いなく落第じゃないか」
「そんなこと、ボクの知った事じゃないもん」
「あらあら、卯月さん、拗ねちゃいましたね」
「これは背後霊が悪い！他の話じゃやってる時もあるんだから、ちゃんとやったげなさい！」

 

…はーい。仕方がない。主人公が落第してしまっては、ゲームオーバーではないか。

 

マスター：ふう…これでいいのかな、卯月。
　　卯月：うん、なんだ、ナレーターもやれば出来るんじゃない。
　まどか：そうですね。
　　マキ：誰が言ったかはっきりすると、かえって困る人もいるかもしれませんが
　　　晶：なんでこっちを見ていうのよマキ。
　　　結：まあまあ姉さん。他意はないですよ。きっと。
　　　晶：他意がないならなお悪いでしょうが。
マスター：結局僕の名前は呼んでもらえないんだ…。
　まどか：あ、これがたぶん一番の理由なんですね。
　　卯月：でもでも、”主人公”っていうよりは、マスターって表示されたほうがいいよ。
　　マキ：私たちにはですね。
マスター：それで、今日はなにかあったかな。
　まどか：べつに、今日何かあるわけではありません。ただ遊びに来たんです。
マスター：そうなんだ。じゃ、何をしようか。
　　卯月：じゃ、しりとりっ
　　　晶：不許可っ！
　　卯月：えー、なんでーっ
　　　晶：同じネタを二度も三度もやってられないでしょ。すこしは配慮しなさい。
　　卯月：同じねたじゃないもん。今度はうまくやるもん。
マスター：僕がその気にならないよ。他になにかないかな。
　　　結：そういえばマスター。マスターって、孤児だったんですか。
マスター：だった、っていうより、今現在身寄りがないよ。
　　　結：それでしたら、父の日もすることがありませんね。
マスター：父の日ってなんなの？
　まどか：私たちの世界には、そういう日があるんです。
　　卯月：そうそう。父の日には、お父さんにプレゼントするんだよ。
マスター：それでまた、一ヶ月後には三倍返しなの？
　　卯月：あれはバレンタインだけっ！
　　マキ：ムキになって否定しなくてもいいんですよ。
　　卯月：う゛ー。なんか根に持たれてる気がする。
　　　結：たぶん、気のせいではないでしょう。
　　　晶：結、あんたもおいうち掛けてるんじゃないわよ。
マスター：父の日かぁ。…そういえば、父さんの思い出って、あまりないな。
　まどか：マスター。マスターのお父さんって、何をしていた人なんですか。
マスター：軍人だよ。王国軍の将校だったんだって。
　　マキ：戦死されたんですか。
マスター：ううん。病気。母さんが亡くなってから、軍を退役たんだけど、すぐに体をこわしちゃった。
　　　晶：軍を辞めて体をこわすなんて、不思議なこともあるものね。
マスター：いままでずっと軍一筋だったから、生活のリズムが狂っちゃったみたい。
　　卯月：マスター。そのお父さんって、歌が上手くて子供を笛で呼びつけてたりしたの？
　まどか：卯月、それじゃトラップ一家物語です。
　　卯月：まどか〜。サウンド・オブ・ミュージックって言ってよぉ。
マスター：サウンド・オブ・ミュージックって、なんなの？
　　マキ：私たちの世界にある、古典的なミュージカル映画です。
　　　結：妻を亡くした軍人さんが、７人の子供の家庭教師を雇うお話です。
　　　晶：最後は、その家庭教師と再婚して、アメリカに亡命しますね。
マスター：…よくわかんない。
　　マキ：この世界には、映画がないんですか？
マスター：映画館はないよ。シープクレストあたりには、確かあったとおもうけど…
　　卯月：田舎なんだね。
マスター：まあ、そうかな。だけど、シープクレスト地方が特別開けてるんだよ。

 

ぴんぽーん。

 

　　卯月：はーい、誰かな？
　まどか：今見てきますね。
ルテジア：はーい、少年。元気してる？お姉さんが差し入れを持ってきてあげたわよ。
　　卯月：わーい。マスター。毒味毒味。
マスター：僕が毒味役なの？
　　卯月：だって、ボクらが味見しても、マスターって絶対信用しないんだもん。
ルテジア：あら〜。なんでもおいしく食べられるって、いいことよ。
　　卯月：そうでしょ。
マスター：卯月は特別だと思う…。
　　　晶：なんでもおいしく調理出来ることの方が、いいことです。
ルテジア：晶、いずれ、あなたとは、勝負する時がありそうね。
　　　晶：ええ、望むところですよ。なんなら、いますぐにでも。
ルテジア：それは遠慮しておくわ。ほら少年、開けてみなさい。
マスター：う、うん。ルテジアさん…あれ。なにこれ？
ルテジア：疲れがとれる薬よ。
マスター：ケシの花から生成したなんていわない？
ルテジア：あんたね…あたしをなんだと思ってるのよ。
マスター：ホートウィッシュ随一の薬剤師です。
ルテジア：大変よろしい。わかってるなら少年、とりあえず飲んでみなさい。しゃきっとするわよ。
マスター：じゃ、ちょっといただきます…あれ、これ甘くておいしい。
ルテジア：そうでしょそうでしょ。糖分は脳を活性化する栄養素なのよ。
　まどか：ふとったりしませんか？
ルテジア：うふふふふ〜。このルテジア姉さんが、そんなへまなもの作りませんて。
　　　晶：吸収速度をコントロールしてるのね。
ルテジア：ま、そういうこと。適量を適時送り込むことで血糖値の急激な上昇を抑えてるのよ。
　　マキ：そういう、小難しい理屈は、作る人がわかってればいいんですよ。
　　　結：そうですね。ルテジアさん。これはみんなでいただいてよろしいものですか。
ルテジア：いいわよ。全員分あるわ。
　　卯月：じゃ、マスター、遠慮なくもらうね。
マスター：ああ、いいよ。
　まどか：では、私はおさらをとってきます。

 

ぴぽぴぽぴぽーん。

 

　まどか：ごめんなさい、ちょっと玄関を見てきますね。
　　　結：では、私がお皿を持ってきましょう。８人分ほど。
マスター：結、なんで８人分なの？
　　　結：うふふ、きっと、お客さんですよ。
マスター：お客さんって…誰だろう？
ルテジア：キャラコンで人気の人じゃない
マスター：ルテジアさん、キャラコンって、何ですか…
ルテジア：気にしない気にしない。
　まどか：マスター。アスレイさんがお見えになりました。
アスレイ：こんにちは。ビルギエッタ先生から、課題について補足説明があるっていってたから
マスター：えー。課題がさらに難しくなるの〜。
アスレイ：泣き言を言わない。最初の課題なんて、課題とも言わない簡単なものでしょ。
マスター：そんなことが言えるのは、アスレイぐらいだよ。
アスレイ：あんたね。こないだの召喚理論の筆記試験で、一番とったくせによく言うわね。

　まどか：マスター、一番をとったんですか？
マスター：ま、まあ…理論だし、召喚学科は実践優先の科目だから、たいしたことじゃないよ。
アスレイ：私の、全科目完全制覇を、あんたが阻んだのよ。おちこぼれの、あんたが。
マスター：落ちこぼれを強調しなくてもいいのに…。
アスレイ：いい？今日から、あなたは、私の、ライバルになったの。ライバルが無様じゃ、私の名誉に関わるのよ。
マスター：そんな横暴な。
　　　晶：ふふん。召喚獣ごときの次は、落ちこぼれ風情っていいたいわけね。
マスター：晶、そんなけんか腰に言わなくたって。
　　卯月：マスター。そんな弱腰じゃダメダよ。やるべきときには、がつんとやらなきゃ。
　　マキ：そうですね。切るがごとく磋るがごとく琢くがごとく磨くがごとく、ということもあります。
　　　結：ライバルがいることは、いいことですよ、マスター。
ルテジア：落ちこぼれ回避なんてしけた事言うな少年。目指すは主席卒業！ぐらいの気概がなきゃね。
マスター：１００年に１人の天才相手に何を言い出すんだよ。僕はそこまですごくない。
アスレイ：１００年に１人の天才なんて、毎年現れてるのよ。知らないの。
　まどか：マスター。アスレイさんが、せっかく応援してくれるんです。答えてあげなきゃだめですよ。
マスター：ほとんどいじめだろ…。
アスレイ：そうやって、油断させようって言うのね。さすが、ルシード教官も認めた策士だわ。
マスター：あれは、単に、召喚じゅ・・・召喚少女を５人まとめてるってだけのことだと思うよ。
アスレイ：知的召喚獣しか呼び出せないっていうのは、おちこぼれもいいところだわ。

マスター：・・・・・
アスレイ：だけど、その知的召喚獣を五人も使いこなしてるのは、大した実力よ。
マスター：ほめられてる気がしない…
アスレイ：ほめてるのよ。素直に喜びなさい。
マスター：いや、使われてるのは僕の方だし…
アスレイ：ビルギエッタ先生も、あんたのこと、あんたのいない所じゃ、高く買ってるわよ。
マスター：・・・ほんとうに？
アスレイ：そうよ、だから、課題も一段難易度を上げたってわけ。ほら、今から説明するから良く聞きなさい。
マスター：結局難しくなるんじゃないか。
　　　結：まあまあ、難しい説明の前に、お茶とルテジアさんのお菓子でもどうぞ。
アスレイ：…これ、食べて大丈夫なの？
ルテジア：大丈夫よね少年。ちゃんと毒味したんだから。
マスター：うん、それは保証するよアスレイ。
アスレイ：そう。じゃあいただくわ。

 

父の日、のお話は、こうしてなんとなくうやむやになった。
だけど、そういえば、墓参りもしばらくしてなかったかな。
今度の日曜日にでも、ちょっと出かけてこようか。

 

 

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