僕は、マストラダム学園の召還学科に通う特待生。
追試地獄のまっただ中だが、もう落ちこぼれなんて成績じゃなくなった。
いままで召還が出来なかった分を、ケータイデンワという触媒で召還できる
ようになった、召還獣を駆使して埋め合わせている最中だった。

 

だった、過去形だ。

 

「マスター。ゆっくり寝てないとだめですよ」
「わかってるよ。でも退屈で」
「退屈なら遊ぼうよ」
「卯月、あんたマスターの状況がわかってる？」
「わかってるよマキ。馬鹿じゃなかったってことなんでしょ」
「でも、馬鹿でもインフルエンザにはかかるそうですから」
「あー結、せっかくボクがフォローしたのに」
「まったく、まどかが悪いんでしょう。変なウィルスを持ち込むから」
「…人を大陸から来た野鳥みたいに言わないでください」
「………あの、さ。頼むから枕元で騒がないでくれる」
「あ、すいません」

 

　そう、オーバーワークが祟って病気になってしまった。
普通の風邪だと思っていたら、すぐに３８度を超える熱を出した。
風邪じゃなくて、インフルエンザだったんだ。

 

「マスター。ちゃんとマスクをしていてくださいね」
「そうそう。ボク達にうつさないでね」
「さらっとひどいことをいってますね」
「ったく、あんたらちゃんと看病してなさいよ。
　ほら妹、氷つくったから氷枕つくんなさいよ。
　はい、マスター。風邪もインフルエンザも基本は一緒。
　水分をたくさんとってください。新鮮な野菜ジュースをどうぞ」
「ありがとう晶。…あれ、これ…」
「熱があるときに冷たい飲み物は毒です。人肌よりやや暖かめに作ってあります。
　人肌よりすこし熱い程度の温度で適当になるよう味付けしてあります。
　どうぞ一気にぐっと飲んでください」
「あ、ありがと………」
「晶ボクにも」
「だからあんたらマスターの看病しろっていってるでしょ」
「姉さん、病人のそばで大声出さないでください」
「結、あんたね、マスターのそばでぼーっとしてて何を言うわけ」
「わたしは、回りがあまりに騒がしくなったときに、注意する係をしてるんです」
「・・・・・・・・」
「あはは、今のは結の技ありだね」
「…ま、いいわ。結、氷枕出来た？」
「はい、出来ました。どうぞマスター」
「あ、ありがとう」
「…うー。ボクのすることがない」
「することがなければ、することを作ればいいでしょう」
「することって」
「マスター。ここは百物語なんてどうでしょう」
「まどか、あんた何考えてるの」
「これは晶の言うとおりだよ」
「百物語は、夏にやるものでしょ。今やってどうするの」
「いや、何かずれてるし…」
「マスター。眠れないんですか」
「まあ…いままでずっと寝てたから」
「では、マスターが退屈しないように、しりとりでもしましょう。
　これならマスターが横になっていても出来ますよ」
「ああ、そうだね。布団の中にいてもできるね」
「テーマは何にする？」
「そうですね〜まずは定番の食べ物を」
「じゃにんじん！」
「・・・・・・・」
「卯月、お約束のぼけはいいから」
「あれ？なにか変なこと言った？」
「天然さんですね」
「マキには言われたくない…」
「では、わたくしからでよろしいですか」
「うん、まどかからでいいよ」
「では、わたあめ」
「め…めろん…ぱん…」
「………卯月は一番最後」
「えー、マキ、もう一回、もう一回だけチャンスをちょうだい」
「しかたないですね」
「じゃあ、次はそのマキからやってよ」
「ええ、ではかぼちゃ」
「ちゃ…これはちゃ、でやるんですか？それともやですか、マスター」
「どっちでもいいよ。でも”ちゃ”限定の方が面白いかも」
「でしたら、チャービル」
「いきなり高度なものを使いましたね」
「当然よ結、料理人だもの」
「では〜 ルイボスティーにしましょう」
「結もなかなかいい選択するね」
「給仕ですもの」
「次はマスターです」
「ティー…ティーバッグ」
「マスター、安直です」
「他に思いつかないんだよ。僕は料理人じゃないんだから…」
「では、私ですね。グ…グレープフルーツ」
「うん、綺麗に来たね。…じゃあ、…」
「こんどはだいじょうぶだよ。ツナか…」
「卯月、むりにぼけなくていいんですよ」
「ツナ…ツナサンドっ！」
「ああ、あぶなかった」
「ドーナッツ」
「ツルムラサキ」
「姉さんは食材ばかりですね。きつねそば」
「きつねとくればうどんです。そばはたぬきのほうが好みです」
「まどか…そんなに力説しなくても」
「きつねうどんだとそこで終わりですからさけたのでしょう」
「きつねはうどんなのに…」
「いや、そこまでこだわらなくても…」
「バンバンジー、でよろしいですか」
「やっぱり鳥にこだわりがあるんだ」
「そこでそのねたをふるんですね」
「えへへ…こんどこそ綺麗に決めちゃおう。ジー…ジー・・・」
「難しかったら、のばさずに”ジ”だけでいいよ」
「ジントニック」
「お酒ですか。未成年がお酒とは関心しませんよ」
「ええと。こっちの世界じゃ１２歳で大人だもん」
「あらあら、そんな背伸びしなくてもいいのに」
「背伸びじゃないもん」
「あの、みなさん」
「どうしたの？」
「マスターの顔が赤いです」
「野菜ジュースが効いてきたみたいね。マスター。汗をかいたら着替えてください。
　布団をやりかえておきますから」
「じゃ、悪いけど部屋から出てよ。先に着替えるから」
「べつに気にしませんよ」
「姉さん。野菜ジュースが効いてきたって、何かしこんだんですか」
「薬草をいろいろとね。汗をたくさんかいたらはやく治るわよ」
「いいから出てよ」
「ですから、わたくしたちはかまいませんからどうぞ。時間の節約にもなります」
「僕が気にするんだよ」
「仕方ないなあ。寒いけど我慢我慢」
「うれしそうですね」
「あれ？ばれた？」
「手早く着替えないとだめですよマスター。体が冷えますから」
「うん、わかったよ」

 

汗でべたべたになった服を急いで着替える。
寝間着を着替えるだけだからそんなに時間は掛からない。

 

「終わったよ」
「はい、ではすぐに布団を取り替えますね」
「取り替えるって、布団は一種類しかないよ」
「ルテジアさんからの差し入れがありますよ」
「え？ルテジアさんから？」
「ええ、ルテジアさんから、こんなこともあろうかとって」
「…かなわないな…」
「すぐにすみますからね」

 

なるほど、５人がかりで布団を取り替えるんだからすぐ終わった。

 

「さあ、どうぞマスター」
「どうぞって…」
「ぼんやり立ってると体が冷えるでしょ。せっかく薬膳で体を温めたのが台無しになるじゃない」
「それは…そうだけど…」
「かわいいじゃない。何が不満なのマスター」
「…かわいいっていうか…かわいすぎるっていうか…」
「ルテジアさんにちょうどよさそうですね」
「その通りだね。…それで…」
「いーからとっとと寝なさい！風邪なんて引く方が悪いんだから」
「はい、…」

 

そう言われると反論できない。不養生が招いたことだ。

 

僕は、どう見ても少女趣味丸出しのフリルだらけの布団に入って
目を閉じた。

 

 

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