「みんなそろった？」
「みんなって、僕とレッジだけだよアスレイ」
「それでもちゃんと確認しなきゃだめでしょ」
「そうだぞ。なんたって、今度は正規の軍人が来るんだからな」
「それも違うわ。来るのはシープクレストの英雄よ」

 

　僕は、学園の特待生。召還学科所属だ。
今、僕らは野外実習のために集合してる所だ。
野外実習、といっても、ピクニックなんかとは違う。
学園は元々王国軍のために兵士、あるいは将校級の人材を
供給するための学校だ。実習といえば当然のように戦闘訓練ということになる。

 

　普通は、学園に所属する先生が引率するんだけど、今回は特別に
外部講師が招かれることになったんだ。
それが、シープクレストの英雄、ルシード・アトレー。
何をした人なのか詳しくは知らないけど、とにかくすごい魔法使いらしいんだ。
召喚術は使えないけど、物理魔法に関して言えば…。

 

「なに独り言を言っているのよ。さあ、全員そろっているかどうか確認するわよ」
「見たらわかると思うんだけど…」
「いいから、ちゃんと整列しなさい、…番号１」
「２」
「３」
「４」
「５」
「６」
「７」
「８」

 

・・・・・・・・・・・・・

 

「なによあんたたち」
「マスターを守るのが私の仕事です」
「ずるいよ、一人だけ遊びにいくなんて」
「マスター…これも試験ですよね」
「あんた達だけじゃ不安だから、ついていってあげるわよ」
「旅は道連れですよ」
「あの…さ、必要なときに呼ぶからって言ったのに」
「予めいても同じ事ですマスター」
「まどか…せっかく部外者が来るんだから、召喚するところを見せたかったんだよ」

「格好をつけようとすると失敗しちゃうよ。自然体が一番」
「そうですよ。マスター」
「卯月、マキ、格好をつけるとかそういうつもりはないんだけど」
「バイト代をけちりたいのね」
「違うって晶」
「失敗したらみっともないですものね」
「違うって結・・・」
「あーあ、泣かしちゃった」
「泣いてないです」
「日頃の努力が足りないからよ。大体なんでまともな精霊ひとつ呼び出せないのよ」
「異常生物あつかいするなっ！」

 

見事に、５人の召還少女がハモった。
だけど、実際、僕の召還が偏ってる事は否定できないよ。
知的精霊体、それも女の子ばっかり召還なんて、召喚術師としたら
レベルが低すぎて泣けてくる。…幸い、５人とも、召還獣としての
能力は人並み以上だから、召喚術師としてはなんとかやっていけてるけど。

 

「まったく、こんな所を外部講師に見られたらどう思うかしら」
「噂をすれば、ほら、来たぜ」
「あんたたち、整列なさい。・・・始めまして、ルシード先生」
「はじめましてですぅ…」

 

現れたのは、白髪で長身のフラットな女の人と
とんがり耳でピンクの髪の女の子だった。
たぶん、背の高い女の人の方が、ルシード先生、ってことになるんだろう。

 

「初めまして、みんな。それから、あたしのことはこれからルシード、って呼ぶように」
「はうぅ・・・ご主人様ぁ、ティセもご主人様って呼んだらいけないんですかぁ？」

 

この、ティセって名乗ったのが、ピンクの髪の女の子だ。
ルシード先生の身の回りの世話をするんだろうか。

 

「あーもう、ティセは呼びたいように呼べばいいわよ呼びたいように。
　あたしが言ったのは生徒３人に対してよ」
「はい〜それを聞いて安心しましたぁ」
「あ、そ。…一応３人の成績表は見たけど、改めて自己紹介してちょうだい」
「はい、私がこの班の臨時班長を務めるアスレイです。よろしくお願いしますルシード」
「こちらこそ。で、そっちは」
「俺はレッジ。魔法剣専攻だ。よろしくルシード」
「こちらこそ。で、そっちは・・・えらく大所帯ね」
「はい、私は風の精霊が一人まどかです」
「ボクが火の精霊の卯月だよ」
「私が土の精霊のマキです。よろしく」
「あたしが氷の料理人晶、こっちが妹の結」
「前作で姉扱いされているのは忘れてくださいね」

 

読者にしかわからない話題を今振らなくてもいいのに。

 

「ええと…ルシード。僕が…」
「あんたのことはいいわ。大体わかったから」

 

とほほ・・・ここでも落ちこぼれ扱いか。

 

「さて、と。これから何をするかはわかってるわね。
　今日は護衛の実習をやるわよ。
　表門を出て、魔物が潜んでるかもしれない森を一周して、日没までに
　再び表門に帰ってくる。いいわね」
「はい、ルシード」
「よし、じゃあアスレイ、布陣を考えてくれよ」
「………二人とも、盛り上がってるところ悪いけど、この場の教官はあたしなの。
　理解できなくても、納得いかなくても、あたしの命令には絶対服従。
　いいわね？」
「・・・・わかりました、ルシード」
「なあルシード。なんで、呼びかけは”ルシード”って言わせるのに
　ことさら命令なんて言い方をするんだ？」
「いい質問ね」
「ご主人様、今のがいい質問なんですかぁ」
「いい質問よ。あたしは堅苦しいのは嫌いだけど、チームがバラバラになるのはもっと嫌いなのよ。
　誰でも相手を呼びたいように呼べばいいわ、ただし、言われる方が不快にならなければね。
　あたしは、ルシードって呼ばれたいから、そう言ってるだけよ。
　すぐにそう呼んでる所を見ると、あなたたちもいやじゃないみたいね。
　命令する理由は、今から説明するわ・・・・そこのあんた」

 

え？

 

「ぼ、僕ですか？」
「そう、あんたよ。…あなたが今この瞬間から全体の指揮を執りなさい」
「ルシード。お言葉ですが納得できません」
「そうでしょうね。だからあなたにはリーダーをやらせないの。わかる？」
「わからないです」
「そうでしょうね。だから最初に釘を打ったのよ。
　理解できなくても、納得いかなくても、あたしの命令には絶対服従って。
　これは命令よ。わかったわね」
「・・・・・・わかりました」
「ご主人さまぁ。学園の先生もアスレイさんがチームリーダーって説明でしたぁ」
「知ってるわ、だけど、あたしは無事に生きて帰りたいの。
　英雄になるなんてまっぴらごめんだわ。
　さ、地図は持ってるわね」

 

…地図は持ってることは持っている。
だけど、アスレイについていけばいいだけだと思ってたから
正直なところ、何をどうするべきか何にも考えてない。
どうしよう…これも、失敗したら落第だっていうのに。
主席のアスレイの班だから、僕は何もしなくても大丈夫だと思ってたのに
なんでこういうことになるんだろう。

 

「マスター。今こそマスターの実力を見せるときです」
「マスター、地図ならここにあるよ、ちゃんとルートも書いてあるじゃない」
「そうそう、悩まなくても…」
「ごめんみんな。…そうだね、マキと結の二人が先頭がいいな。
　アスレイとレッジは先生…じゃなかった、ルシードの近接護衛を頼む。
　んーと、卯月はティセの近接護衛をやって。
　僕は後備をつとめるから、晶とまどかは僕の援護に回ってよ。
　…マキ、道にトラップがないかどうか十分気を配ってね。
　マキ自身の援護は結に任せるから、責任重大だよ。
　アスレイとレッジには特に言うことはないか。いつもの護衛だよ。
　僕なんかより、よっぽどくわしいよね。
　卯月、ティセは頼む。道中話が合うんじゃないかな。
　まどかは上空偵察を時々頼む事になると思うからよろしく。
　晶、後ろを振り返りながら行ってね。
　僕は…」
「わかってるわよ。あんたが一番信用出来ないってのは」
「はいはい、そういうことです。
　じゃあ、マーチングオーダーに入って。出発！」
「ごーごー」
「はい、ピクニックですぅ」

 

こうして、僕たちは魔物、どころか、たまに魔族の遊撃隊が潜んでいることもある
魔の森へと足を踏み入れた。
一歩間違えれば、無事には帰れない危険な実習だ。気合いを入れていかないと。

 

「あんた、そんながちがちに緊張していたら一日持たないわよ。リラックスしなさい」
「…そんな急に言われても困ります」
「マスター。わたしがついてます」
「わたしたち、でしょまどか。自分だけ抜け駆けしない」
「そうですね」
「綺麗なちょうちょさんですぅ」
「あれは蝶じゃなくて、ホートアカマダラガよ。毒をもってるわ」
「食べたら死ぬんですかぁ」
「食うなっ！さわったらかぶれるだけよ」
「良くしってるなぁ」
「あんたね。それぐらい常識でしょ。
　一体なんの授業を受けてると思ってるの」
「……みなさん、ちょっと足を止めてください」
「全体止まれっ！・・・どうしたのマキ？」
「落とし穴があります」
「普通の落とし穴？…ええと、誰か石か何か持ってない？
　落とし穴をきちんと出現させておこうよ」
「落とし穴があるって本当か？なんにも見えないぜ」
「見えるような下手な隠し方するわけないでしょ」
「………ファインドトラップ！・・あ、やっぱり、そういうことだと思った」
「え？マスター、何がです？」
「落とし穴が警報装置につながってるんだよ、マキ、この穴って浅いでしょ」

「は、はい…そうですけど…」
「・・・・まどか、空中偵察を頼むよ。警報が鳴ったとして、何が来るか知っておきたい」
「わかりましたマスター。しばしお待ちを」
「・・・あんたね。トラップがあるんだから、解除して進めばいいでしょ。
　一体何を考えてるのよ。あたしたちの任務は、護衛なの。
　安全に先へ進めばいいの。わかる？」
「わかってるよ。わかってるけど、なにかやな予感がするんだよ」
「やな予感ってなんだよ」
「わからないからいままどかに調べてもらってるんだってば」
「ご主人さまぁ。無事に帰れるんですかあ？」
「たぶん、無事に帰れるわ。安心しなさい、みんなついてるから」
「はうぅ・・・不安ですぅ」

 

なんだか僕の不安がみんなに伝染してるのかな、だけど・・・
この実習は、冗談抜きで危険なんだ。
出来れば途中アクシデントがあって中断って事になって欲しいってのはあるよ。
一歩間違えたら、魔族の遊撃隊と正面衝突なんだ。
そうなったら、生徒程度の能力じゃ、死んじゃうかもしれないんだよ。

 

「マスター。近くに魔族の駐屯地がありました。
　なんとか見つからずに逃げ帰れたと思うんですけど・・・」
「あんた、魔族の駐屯地って、なんでわかったのよ」
「魔族の方がモンスターさんと一緒にいるのをみつけました」
「・・・・あんた、空飛ぶのは、精霊力使ってるわよね」
「はい、もちろんです」
「・・・・・魔族の駐屯地があるのが本当だったなら、とっくに見つけられてるわよ」
「そうでしょうか？」
「そうでしょうか、じゃないでしょ」
「なら、道を変えて移動しようぜ」
「・・・・・・・・先手必勝だ。
　マーチングオーダーを変えるよ。
　アスレイ、晶、ルシードとティセを護衛して最後尾へ。
　卯月と結が真ん中で僕と一緒に。
　まどか、レッジを魔族の駐屯地へ案内してくれ。
　マキ、落とし穴とかトラップとか、全部気をつけて見つけて。
　みんなに言っておく。これは実戦だから、命がけでね」
「あ、あんたね。なにさらっと恐ろしいことを言ってるのよ。
　あんた正気なの？」
「・・・もっと安全な策があったらそうするよ。だけど、他に手がない。
　これが一番安全なんだ、行くよ」
「ああ、俺はいつでも準備出来てるぜ」
「レッジさん、こっちです」
「…アスレイ、エレメンタル・スピリットの召還を。
　物音を立てないようにしたいんだ。エレメントを使って音を遮断してよ」
「またえらく高度な精霊体を召還させるわね」
「出来るんでしょ？」
「そりゃ、あんたとは違うから出来るわよ。だけど…」
「だけど？」
「それを維持してたら、他のことは一切出来ないわよ。わかってる？」
「ああ、それでいいよ。さあ、行くよみんな」
「はいっ！」
「アスレイ、あなたの負け。結界を展開してちょうだい」
「わかったわよ」

 

アスレイがエレメンタル・スピリットを召還する。
ちなみに、エレメンタル・スピリットっていうのは
精神的精霊体…つまり、ごく一般に言われる精霊のことなんだ。
召還獣と違って、ほぼ純粋なエレメントだから、それを呼び出して
制御するのはかなり高度な精神統一と魔力が必要とされる。

 

そんなすごいことが出来る生徒なんて、アスレイぐらいだよ。

 

「おだててもなにもでないわよ。
　ていうか、あんた、そんなにいい格好したいわけ？」
「そんなことないよ。僕だって無事に帰りたいよ」
「……無事に帰りたければ、逃げたらどうなの？」
「逃げれたら、ね」
「・・・どういう意味よ」
「まどかが見つけられていたとして、アスレイが魔族だったらどうする？」
「そりゃ、後をつけて場所を特定するわ」
「特定してからどうする？」
「そりゃ、先手必勝・・・」
「うん、普通は守りを固めたりしないでしょ。
　向こうの方が強いんだからさ。
　だから、その裏をかく。一撃を加えて動揺させてから、予定のルートに戻るよ」
「帰らないのっ！」
「ああ。・・・これが、任務だからね」
「あんた、いかれてるわよ」
「そうかも・・・」
「みなさん・・・つきました」

 

そういって、まどかが、林の切れ目で立ち止まった。
道はもう少し先に続いているが、どうやら林の切れ目の中に
回りの木を切って小屋を造っているらしい。
その小屋が、魔族の駐屯地、ってわけだ。

 

小屋を造るために木を切ったから、小屋の回りは林が切れてるってわけ。
それで開けた場所が作られてるんだから、合理的なやりかたではあるね。

 

さて、と。…敵の様子をさぐらなきゃ。

 

「みんな声を立てずに・・・マキ、地面の震動から敵の数を調べて」
「は、はいマスター・・・１，２，３・・・１５体程度」
「二倍ね…」
「………キツツキ戦術を使おう。
　レッジ、晶、卯月、そして僕が囮役になる。
　一旦襲撃をかけたあとすぐに逃げ出すから、アスレイは
　マキと結を率いて僕らを追いかけてくる敵を背後から襲撃して。
　まどかはルシードとティセの護衛を。
　二人とも、物陰に隠れていて。
　トラップを作るゆとりはないけど………アスレイとレッジなら、大丈夫だよ」
「マスター。マスターはいいんですか？」
「僕には、みんながいるから、…大丈夫」
「マスター・・・」
「さあ、行くよ」
「おう！」
「・・・・・・・よーし、派手に行くぞ〜喰らえ、クリムゾン・ナパーム！」

 

僕は小屋の外で警戒しているモンスターに魔法をたたき込んだ。
その後でレッジを先頭に晶と卯月が突撃していく。
モンスターどもはこの襲撃を予測していなかったらしい。
奇声を上げて仲間を呼び出した。
ここですぐ引き下がったら囮の意味がない。

 

「アスレイ、みんなを道から外れた場所に隠して」
「……もうやってるわよ……」
「よし、じゃあもっといくぞぉ・・・いけぇ！ヴァニシング・ノヴァ！」

 

小屋の扉から飛び出してきたモンスターに、僕が使える最強魔法をたたき込む。
不意打ちを食らったモンスターがひるむ。
態勢が整っていないのに攻撃を受けて、完全にモンスターどもは浮き足だった。
これでは一流の魔法剣士レッジの突撃は持ちこたえられないだろう。
一体、二体、三体と討ち取られていく。

 

が、本物の魔族が現れると状況が変わってしまった。

 

３匹のモンスターをレッジ達に突撃させ、その３匹がやられてる隙に
残りの７体のモンスターの態勢を整えさせて逆に僕らを包囲しようとしてきたんだ。

 

「レッジ、晶、卯月、逃げろ、逃げろ逃げろ逃げろ！」
「なんだよ、こいつら俺たちが片付けて・・・」
「そんな場合じゃない、援護するから下がれっ！」

 

もう一発、クリムゾンナパームをモンスターに打ち込む。
卯月は僕の声を聞いて全速力で林に通じる道へ駆け込んでいった。
卯月の退却で晶も逃げ始める。こうなればレッジ一人ではがんばれない。
レッジも嫌々ながらモンスターに後ろを見せて逃げ始めた。

 

「逃げろ逃げろ〜うわー助けてぇ」

 

林の縁ぎりぎりのところで僕はしょぼくれた魔法を撃って退却を援護してやる。
あれ？僕の魔法で一体またモンスターが倒れちゃった。
いいのかなぁ・・・だけど、生き残りの方は仇討ちとばかり全力で追ってくる。
魔族の奴、いけすかない事に、回復魔法なんか唱えてるよ。
ちぇっ。…まあいいか。３人とも道に逃げてきたし。

 

「逃げろぉ…」
「いいからマスターも逃げてください」

 

卯月に突き飛ばされるようにして僕も道に押し出される。
必死に必死に道を走る。
モンスターも全速力で追いかけてくる。
い、いくら僕が考えた作戦だからって、さすがにあれだけ魔法を撃ちまくったらつかれるよ。
い、息が切れる、やばい・・・アスレイは一体どこに隠れたんだろう…かなり奥なのかな…

 

「木の精霊、森の守り神エントよ…我が呼びかけに答え、これなる檜に宿りて
　我が前に姿を現せ……盟約に基づき我が意に従いてその力を見せよ」

 

ええええええええええ、そ、それって…あの伝説のっ！

 

「いけえ！」

 

アスレイが叫ぶと同時に、僕らとモンスターの間に一本の木が立ちふさがった。
文字通り、木が歩いて、道の真ん中で立ちふさがったんだ。
あまりにあり得ない光景にモンスターが思わず立ちすくむ。

 

「ライトニング・ドラゴン！」

 

アスレイの手から電光がほとばしると、道に立ちすくんでいる
モンスターを何重にも貫いていく。

 

「おら、とどめだ喰らえぇ！」
「ここから先は私がお相手します〜」
「わたくしだって」
「いままで良くも追いかけてくれたな、仕返しだよ」
「今日の晩ご飯になっていただきます」

 

晶、もしかして、これ、本気で食べさせるつもりなの？

 

「ほっぺたが落ちそうな料理に仕上げてごらんにいれますマスター」
「別な意味でほっぺたが落ちそうな…」
「どちらかというと、あごが外れるんじゃないかしらね」
「あとで食べさせてあげるわよ。そのときには、今の言葉、後悔するんだから」
「ふーんだ」

 

アスレイも晶も張り合わないでよぉ！

 

なんてことを言うだけのゆとりがあった。
アスレイが召還したエントに、反転攻撃を加えるレッジ達。
モンスターの逃げ道は結とマキが待ちかまえて封じている。

 

あっという間にモンスター６体が片づいた。
パーフェクトビクトリーだ。想像以上だ。

 

「さあ、あとはあの魔族をやっつけるだけね」
「いや、あとはさっさとおさらばだよ」
「え？なんでよ」
「あの小屋の連中には、僕らがすでにやられてるんだ、って思っていて欲しいんだ。
　そうすればいまさら警戒しようとはしないだろうからね。
　さあ、目標のルートをたどって帰ろう。無駄な時間を使っちゃったよ」
「あんたね…」
「深追いしない方がいい。…あの小屋の中に魔族が一人だけ、とは限らないんだから」
「１５体だと思うんですけど…」
「僕らを追って遊撃隊が出動してなければね……そいつらに見つかりたくないから」
「そうね。いい判断だわ。…さあ、行きましょう」

 

ルシードの鶴の一声で決まりだった。
僕らは、地図にある通りの道をまた元のマーチングオーダーで歩いていった。

 

「ねえマスター」
「なに？」
「ルシードって、何をした人なんですか？」
「僕もよく知らないんだって。シープクレストがどこにあるかもしらないし」
「あーもう。あんたそんなんだから落ちこぼれなのよ。
　シープクレストって言えば、王国連合の中じゃちっぽけな港町でしょ。
　ま、技術水準はホートウィッシュより優れてるらしいけど」
「それでは何をした人かわかりません」
「確か、シープクレストで暴動を鎮圧したんだよな」
「逆よ逆、亜人類弾圧をやる当局に反乱を起こして打倒したのよ」
「ご主人様ぁ。いつ反乱を起こしたんですかぁ」
「あたしが反乱を起こした訳じゃないわ。気がついたら反乱のレッテルを貼られただけよ」
「また、どうして反乱なんて起こしたりしたんです？」
「反乱したわけじゃないって言ってるでしょ。
　あたしは、あたしの仕事を果たしていただけよ。
　ただ、あたし以外の…っていうか、ブルーフェザー以外の保安局が
　仕事を忘れて自己保身に走ってたってだけよ。
　あたしは、ただ、自己保身の波に取り残されてたってだけ。
　保安局は市民の安全を守るのが仕事よ、それが人間だろうと人間じゃなかろうとね。
　ただそれだけのことをしただけよ」
「だけど、当局相手に戦闘したんでしょう？市を二分する大暴動が起きたと聞きました」
「そうなのか？体長１０ｍの召還獣を退治したって聞いたぜ」
「話って、つくづく尾ひれがついて広がるものなのね。
　あたしはそんなことしてないわよ。
　ちょっとした混乱はあったけど、市を二分する暴動なんてものじゃないわ。
　更紗…ああ、更紗って言ってもわからないわね。ライシアンの女の子よ。
　その更紗に濡れ衣が着せられたから、更紗を知ってる人が抗議しただけよ。
　体長１０ｍの召還獣ってのは、その更紗を守ってる守護獣よ。
　そりゃ、ちょっと、サシで勝負したけど、退治なんてしてないわ。
　当局相手にやりあったのも事実だけど、その召還獣を退治しないようにお願いしただけ。
　それがあんな大騒動なっちゃうなんてね」
「大騒動になったんですか？」
「ま、ちょっとね。……召還獣が町中を走り回るもんだから
　当局の連中が鉄砲を持ち出して退治するなんて力こぶを入れちゃったのよ。
　それを更紗を落ち着かせて更紗のいる方へ誘導しなきゃならなくなるし
　更紗ごとやっつけようとする人間同盟の連中が旧市街に来ないように
　橋を爆破しなきゃならなくなるわ、その橋を爆破したことで
　当局が反乱認定して攻撃してくる騒ぎになるわ、それに対抗して
　旧市街の人がバリケードを作るわ、終いに戦艦が出てくるぐらいの騒ぎになるわ…
　なんで、万引きからこんな話になるのか、全然訳がわからないわ」
「……一体、何が起きたんです？」
「簡単に言うと、人間以外の生き物を街から追い出そうって連中がのさばるようになったのよ。
　そいつらが金持ちだから、保安局を牛耳っちゃったってわけ。
　だけど、あたしら、保安局の外れ者だったから、その流れから外れていられたのよ。
　で、その外れ者と、迎合者とが、一人のライシアンを巡ってぶつかり合ったってわけ。
　最後の最後に、王国連合軍の介入があって、騒動に無理やりけりがついたってわけ。
　それでなんであたしが英雄扱いされるのか全然わからないわ。
　王国連合軍を呼んだのはゼファーにぃだし、更紗の冤罪をはらすために活動したのは
　ブルーフェザーのみんなに、おかみさんや街のみんなよ。
　あたしは、ただその中にいただけ、何もしてないわ。
　ただ、保安局員として当たり前の事をしてただけ…せいぜい橋を魔法で爆破しただけよ」
「保安局員として当たり前の事を…ですか」
「そうよ」
「ルシード、全然わからないわ。保安局員として当たり前のことは
　上司の命令に従う事じゃないんですか」
「非合法な命令は、命令じゃないわ。
　保安局の仕事は、善良な市民を守ることなのよ。
　人類じゃないからといって、得手勝手に権利を侵害することじゃないの。
　あたしは、ただ保安局員の仕事に忠実であっただけよ。
　…おまけに、あたしは一人じゃなかったわ。
　みんながよってたかってあたしに仕事をさせてくれたのよ。
　………あ、そうだ。アスレイ、なんであなたにリーダーをやらせなかったか
　今の話を聞いたら理解できたんじゃない？」
「ルシード、どういう事なんですか」
「あなたは、優秀すぎる、ってこと。
　さっきでも、あなたなら、きっとみんなが必死にがんばればいいって思ったでしょ」
「今でも思ってるわ」
「…それは、兵隊のがんばりよ。リーダーのがんばりじゃないわ。
　リーダーはそれぞれみんなの、出来ることと出来ないことを冷静に分析し、判断し
　決断するのが仕事なの。
　それはまだ、あなたには欠けてるわ。…レッジ、あなたにもね」
「マスターには出来てるんですか？」
「あなたたち、５人のマスターがつとまってるのなら、出来てるって事よ」
「・・・・どっちがマスターか、わからないですよ」
「あたしと一緒よ。室長もマスターも、奉仕するのが仕事よ。
　奉仕されるのは旦那様だわ」
「ご主人さまは、どっちになるんですかぁ？」
「ティセはどっちだと思うの？」
「ティセは奉仕してますぅ。帰ったらお弁当を作りますぅ」
「あんたね、帰って弁当を作ってどうするのよ、晩ご飯を作りなさい、晩ご飯を」
「はうぅ・・・・」
「あはは、そういう関係なのね」
「ま、ね」

 

僕らはあれからなんとか無事にホートウィッシュに帰ってこれた。
魔族達が、僕らをやっつける為に送り出したモンスターが帰ってこないことに
おかしさを感じる頃には、僕らは魔族の哨戒圏から脱出出来てたらしい。

 

ルシード先生の評価もずいぶんと良かった、って、ビルギエッタ先生にほめてもらえた。
だけど、落第すれすれの評価は変えてくれなかったよ。あーあ。
そりゃ、今回、召喚術師としては全然見るべき所がなかったから仕方ないか。とほほ・・・。
　

 

 

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