僕は、マグストラム学園に通う、召還学科の特待生。
全然関係ないことだけど、なんでこの学校ってこう
舌を噛みそうな名前になってるんだろう。
もっとわかりやすく、ホートウィッシュ魔法学校でいいのに。

 

　召還学科の学生なのに召還が全く出来なくて落第寸前だったのも今は昔。
僕もこの”ケータイデンワ”のおかげで召還が出来るようになったんだ。
一応、水・地・火・風、四元素の精霊を召還できるようになったから
B級の免許状が交付されたんだ。

 

　そうそう、まず免許状の説明をしないといけない。
学生身分の僕らを含めて、すべて魔法を使う人は免許状を持ってないといけないんだ。
無免許での魔法使用は厳しく取り締まられている。魔法は強力な力を持っているから
どこかのせかいの、まりあみたいに無茶苦茶な使い方なんて出来ないからね。

 

　免許状の級の違いは、使える魔法の威力を表してるんだ。
C級よりB級、B級よりA級の方が、強力な魔法を使うことが許されるんだ。
ええと…読者のみんなには、バイクの免許の、小型限定、普通二輪、大型二輪の
違いみたいなものって言えばわかってもらえるかな？
　今まで僕はC級の免許しかないから、魔法を必要とする〜使うじゃないよ〜
アルバイトが出来なかったけど、B級の免許を手にしたことで、やっと魔法使いらしい
アルバイトが許されるようになったんだ。

 

　それで今、僕はトビー爺さんのところに来て、アルバイトの請負をしてるってわけ。
今まで僕じゃルテジアさんの手伝いしか出来なかったからね。

 

「来たか坊主…ルテジアから紹介状がきとったぞ。いつまでスカートの影に隠れてるつもりじゃ」
「す、すいません…」
「謝られても困る。それで、どんな仕事をするかね」
「出来ればあまり難しくなくて短時間で終わるのがいいです」
「そんな都合の良い仕事があるわけなかろう」
「それもそうですね」
「どんな仕事も、それなりの難しさがあるものじゃ」
「……」
「黙るな。それで、どんな仕事がいるのかね」
「おじさんこんにちは、いつもマスターがお世話になってます」
「どうせやるんだったら一攫千金だよマスター。ほら一番報酬の多いのを選んじゃえ」
「殺伐としないお仕事がいいですね」
「マスター。なんで私たちがバイト代をもらうために、私たちが働くんですか」
「仕方ないじゃないか。僕はギュンター君ちみたく金持ちじゃないんだからっ」

 

　説明を続けるよ。
今話に割って入ったのが、僕が召還できる４体、っていうか、４人の召還獣。
後から先生に講義してもらったんだけど、召還獣は大まかに分けて
知的精霊体と、家畜的精霊体があるんだって。
普通、召還獣といったら、家畜的精霊体限定で扱われていて
あまり知的精霊体を召還する人はいない。
　もちろん、好きこのんで知的精霊体を呼び出す人もいるけどごく少数だ。
なにしろ、この両者は扱いやすさが段違い。家畜的精霊体なら、自分が呼び出したいときに
呼び出して、自分の意志で使役して、必要が無くなれば送り返せばいい。
決して主人には逆らわない。

　知的精霊体となるとそうはいかない。意志もあれば感情もあるから
いつもいつもマスターの命令を聞いてくれるとは限らない。
おまけに契約だって、家畜的精霊体なら主人と家畜の契約なのに
知的精霊体との契約だと、雇い主と雇われ人の関係になってしまう。

 

　つまり、働いてもらったら相応の報酬を出さないとならないってことだ。
最初の内は僕のなけなしの貯金を取り崩し、ルテジアさんに回してもらった
簡単なアルバイトや、先生からの借金でなんとかしのいできたけれども
さすがにB級の免許状を持つようになるとそれでは済まなくなる。
　それで、僕は本格的なアルバイトをするために、トビー爺さん、つまり
この辺り一帯の鉱山を持ってる大金持ちで、学園の重要なスポンサーの人の
ところに来てるわけ。

 

　だけど、僕の力で大丈夫なんだろうか、何か危なそうな仕事ばっかり並んでるよ。

 

「当たり前じゃ。楽に稼げる仕事などひとつもない。
　今まで、ルテジアの奴に助けてもらっておったということじゃ」
「わかってます。…ルテジアさんのアルバイトでも死にかけました」
「なさけないのぉ」
「……」
「マスター。今は私たちがついているじゃありませんか。泥船にのった気持ちで」
「まどかまどか、泥船じゃなくて木の船」
「木の船より鋼鉄船のほうが頑丈かも、卯月」
「あんたら、本気でぼけるな！大船でしょ、お・お・ぶ・ね」
「おおぶねって・・・「おお」ってどんな素材なの晶」
「あーもう。マキ、あんたあたしに喧嘩売ってるの」
「いえ、素朴な疑問なだけです」
「何が素朴な疑問か」
「ま、まあ二人とも喧嘩は止めてよ」

（キッ）

「え、ぼ、僕が何か悪いことを言った？」
「マスター。請け負う仕事はこれよ。わかった？」
「これって……だめだよ晶、これは請け負えない」
「なんでよ。あたしがこれは絶対だって言ってるでしょ」
「僕には無理だって、…これは、水の精霊が召還できない限り無理な仕事なんだ」
「腐っても特待生じゃな。すぐにわかったか」
「ええ、確かこの鉱山って、水中でしたよね」
「そうじゃ。空気中に放置すると発火するでな」
「マスター。そんなすごい触媒なんですか？」
「いや、触媒じゃないよ。黄リンの結晶を採取する仕事なんだ」

 

そう、トビー爺さんが持ってる鉱山の中には、リン鉱山が含まれてる。
その鉱山のひとつは、黄リン鉱山なんだ。純粋な黄リン…いや
黄リン自体、白リンと赤リンの混合物なんだけど…とにかく
純粋なリンが取り出せる鉱山がある。
　その鉱山からリンを持って帰る、っていうのがトビー爺さんのアルバイト。
密閉できる水容器さえあれば出来る仕事だから簡単といえば簡単だ。
だけど、このバイト代でそろばんがあうのかな？

 

「よく読んでみぃ。これだけ出す理由がわかろう」
「……水生モンスターの妨害あり。道中原生生物の襲撃の可能性」
「ついでにモンスターも排除してくれればボーナスを出すぞ」
「・・・・もっと別な仕事をさがします・・」
「だめですマスター。絶対にこの仕事です」
「そうですよマスター。困難から逃げていては進歩しません」
「大丈夫。僕がついてる」
「みなさんがそうおっしゃるのでしたらやってみてはいかがでしょう」
「あの…トビー爺さん」
「なんじゃ？」
「失敗しても、違約金とか…とらないですよね」
「当たり前じゃ。期待しておらんからな」
「とほほ・・・まあ、仕方ないか。よしみんな、行こう」
「おう！」

 

どっちがマスターだかわかりゃしない。
とにかく、僕らはトビー爺さんにもらった地図に従って
山を登り谷を下りして、鉱山をめざした。

 

「ターゲット確認。今夜の晩ご飯です」
「あんなもの食べるんですか？」
「くわねえ生き物はころさねえ」
「それ、なんて海賊？」
「マスター！援護を！」
「……マキ、下がって背後を警戒。
　卯月、まどかの側面を援護して。
　晶はつっこまないで」
「悪くない判断ね」
「そりゃ、一応はマスターだし」
「まどか流槍術、槍千本！」

 

まどかが正面から来るモンスターを槍で食い止める。
まどかに回り込んで攻撃しようとするモンスターは卯月が
「うさぎぱんち！」

 

何か間違ってる気がする…とにかく卯月が叩いている。
だけど、どこか何かが隠れてる気がするな。
僕の魔法に掛からない…ええと…。

「マスター、上です」
「上！？」

 

上を見上げる、で、出た！…化けガラスか！

 

「相手にとって不足無し。秘剣！烏返し！」
「燕返しじゃないのか…」
「ツバメが相手なら燕返しです」
「なるほど…」
「マスター。わたしの出番は？」
「予備を投入するのはまだ早いよ。
　マキ、付いてきて」
「はい、マスター」
「あたしは？」
「烏退治は任せた！」
「わかったわ。……よーし、空飛ぶ生き物の大敵、見せてあげる。
　瞬間氷結！」

 

晶は急降下してくる烏の回りの空気を急激に冷やした。
カラス共の翼が凍り付く。
あとは晶が身をかわすだけで翼の凍てついた烏は
急に運動方向を変えるわけにも行かず地面に激突してしまう。

 

「残飯あさりども、正義の刃を喰らえ」
「なにか烏に恨みでもあるの？」
「晶さんは、出したゴミを烏に荒らされてますから」
「なるほど」

 

ここの化けガラスが荒らしてるわけじゃないのに…と
そろそろモンスターを殲滅するか。

 

「よし、挟み撃ちだ、一気に行くぞ」
「はい、マスター」
「まどか、卯月、とんで！」

 

アースソニック！

 

精霊魔法と物理魔法のコラボレーション。
マキに地面を硬化してもらった上で、アースクエイクの魔法を打ち込む。
地面が硬化されたことで震動がほとんど減衰せずまともにモンスターを打つ。

 

「よし、一気にたたみ込むぞ！」

 

足下がふらついたままのモンスターにまどか、卯月、マキが一体ずつ、３にんがかりで攻撃する。
どいつもこいつもほとんど瞬殺だ。生き残りも完全に浮き足立って逃げ出した。
完璧に近い勝利…だけど、完璧じゃないな。

 

「逃げた連中が、また襲ってこないとも限らないです」
「だけど深追いはよそうよ。僕らの仕事はリンの採取なんだから」
「そうですね、マスター」

 

というわけで、僕らはやっと湖に着いた。この中にリンが眠ってる。

 

「それで、どうやってリンを採取するの？」
「私の姉に頼めば大丈夫です」
「姉？」
「マスター」
「なに？」
「卯月？」
「はい、晶」
「まどか、手を出さないでね」
「マキ、なにが始まるんですか」
「まどか、あんた空気読め！卯月いけっ！」
「えいっ！」
「わーっ！」

 

どっぱーん。

お、お約束だ、お約束すぎだ。
お約束すぎて全然予測できなかった。
湖に卯月が僕を蹴り落とすなんて。

「あ、足が届かない。届かない助けて〜」
「姉上を召還してください。そうすれば助かります」
「姉上ってだれだよ。僕は召還したこと無い精霊を狙って
　召還するほど器用じゃないってば、助けて〜」
「召還なら、すでにされてます」
「誰？」

 

水中に何か影みたいなのがうつると、あっさり僕は何かに抱き抱えられていた。
あの、せっかくだから陸まで運んでくれるとありがたいんですが。

 

「あら、これが晶のマスターね」
「そうよ姉さん。マスター、紹介するわ。
　これがあたしの姉で水の精霊の結」
「いま紹介された、水の精霊が一人結です。マスター、契約を」
「わ、わかったから、とりあえず陸にあげてって」
「契約してくれなければいやです」
「あいかわらずね姉さん」
「どうなんですかマスター」
「わ、わかったよ。契約する。契約するから助けて〜」
「ふふふ、では」

 

ざぶん。

 

「げほっげほっ」
「むせなくていいですよ〜ウォーターブリーズの魔法を掛けてあります」
「水中呼吸ね。あたしらにもかけてよ姉さん」
「贅沢ねえ。これつかれるのよ」
「つべこべ言わずに掛けなさい。独り占めするものでもないでしょ」
「あら、ヤキモチ？」
「違うっ！」
「照れなくてもいいわよ〜はい、みんなこっちにきて、大丈夫よ。
　水生モンスターは全部わたしが作った幻影だから」
「はた迷惑なことしないでくださいよ」
「うふふおかげでバイト代が高くなってたでしょ」
「ま、はじめからそういうつもりでやってたのよ。
　あの爺さんだって、うすうす感づいてたとはおもうけど」
「ちょっと、それじゃもしかして今回は全然召還できてないってことなんじゃない？」
「一応は、召還ですよ。マスターが来そうだったんで、元の世界で待ってたから」
「・・・・だんだん訳がわからなくなってきた…」
「マスター。難しいことは後で考えて、アルバイトを終わらせましょう」
「そうだよ。さっさと終わらせてバイト代ちょうだい」
「一ヶ月分まとめたらね…」
「わーい」

 

　こうして、僕はトビー爺さんから請け負ったアルバイトを終わらせた。
ついでに、第５の精霊との契約をすることもできた。
これで、変則ではなく、四元素すべての召還獣と契約したことになる。

 

　だけど、全部が全部召喚嬢だよ。なにか間違ってる気がする。
これで本当に召喚術師として一人前になれるのかなあ…。

 

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