僕は、マグストラタム学園、召還学科の特待生。
これだけ言えば優等生の様に聞こえるかもしれないけど
実態は落第寸前の落ちこぼれだ。

 

　マグストラタム学園は、魔法の名門学校だけど
一面、王国騎士団へ兵士を供給するための
いわば軍事教練学校という面もある。
　つまり、それなりに才能のある人間なら
どんどん特待生として無償で教育を受けさせて
ゆくゆくは王国軍へ招集しようっていう目的があるんだ。
だから、僕程度の才能でも十分特待生に選ばれるってわけ。

 

　だけど、やっぱり、それなりの才能は必要だから
まったく召還に成功しない召喚術師なんていうのはお呼びでない。
ずっと召還に失敗し続けていたから、教官から落第を言い渡されかけたけど
そこで僕はこれ〜ケータイデンワ〜を入手して、状況が変わった。
どう変わったかっていうと、この触媒で召還にやっと成功したって言うこと。
これで状況は、ある意味良くなった。

 

が、それはそれとして別な問題が発生したんだ。

 

「マスター。どうしたんですか？窓の外をぼんやりと眺めて」
「ああ、まどかか、僕は呼び出した覚えがないんだけど」
「前回呼び出された後帰ってないだけです」
「なんだそうか…ええ！前回呼び出したのって、3日前だよ。
　いままでなにをやってたの？ていうかどこにいたの？」
「卯月といっしょにメリッサさんのところへ遊びに行ってました」
「ああ、メリッサおばさんとこか。それならいいや」
「ええ、楽しい方ですね」

 

メリッサおばさんっていうのは、ピンクの髪が印象的な魔法少女なんかじゃなくて
すでに頭が真っ白になっている僕の通い付けの薬剤師のおばさんのこと。
面倒見がいいことで有名なんだ。僕も冒険用の薬草なんかではお世話になってる。

 

「それでマスター。次の試験の準備は大丈夫なんですか？」
「全然大丈夫じゃないよ。次は洞窟探検なんだ」
「マスター。洞窟ならボクの出番でしょ。炎の精霊の力で明かりはばっちり」
「明かりはいいんだけど」
「呼吸でしたらご安心を。風の精霊の私が空気の流れを作りますから」
「いや、こんどの洞窟は呼吸も大丈夫なんだけど」
「それなら何の心配もないでしょ」
「……その洞窟って言うのが、流砂の洞窟なんだよ」
「流砂の洞窟？なにそれ」
「まどかは知ってるかな、流砂の洞窟って」
「話には聞いたことがあります。砂漠の中にあってアリジゴクのように
　砂が流れている洞窟ですよね」
「そう、その流砂の洞窟の最深部にある宝玉をとって帰るのが今回の試験なんだ」
「流砂か・・・・まどかが空を飛んでいって拾えばいいんじゃない？」
「ええ、マスター、私にお任せあれ」
「無理だよ。天井から砂が崩れ落ちてくるからね。
　水気があれば凍気で砂を凍らせるっていう手もあるんだけど
　砂漠の流砂で今回は砂を凍らせるってわけにいかないんだ」
「それじゃマスター。完全にお手上げじゃないのかな」
「方法はあるよ。土の精霊さえ召還できればいいんだ」
「土の精霊を召還したら何が出来るんですか？」
「砂の動きを止める」
「……マスター、土の精霊なら誰でもいいんです？」
「誰でもっていうか、どんな初級精霊でも問題ないよ」
「それでしたら、私の友達と連絡をとってみましょう。
　この番号に掛けてもらえませんか」
「この番号って、前にも掛けたことがあるような気がするけど」
「迷惑電話撃退登録がしてあるから掛からなかったんです。
　一度帰ったときに連絡を取って、マスターのケータイの番号を
　許可リストに載せてもらいましたから今度はちゃんと掛かります」
「そうなの？じゃあやってみるよ」

 

ぽちぽちぽち・・・普段はまどかも卯月もワンタッチボタンで呼び出してるから
まだこの操作には慣れないや…。

 

あ、つながった。

 

「もしもし、僕は…」
「他人行儀な挨拶は無用です。話はまどかからすべて聞いてます」

 

あれ？こんどは男の精霊かな。声が太いや。

 

「え、そうなんですか？」
「いまからそちらに向かいますから召還魔法陣を発動させてください」
「召還魔法陣って…」
「すぐに、召還しなければならなくなります」
「え？」

 

確かに、召還せざるを得なくなった。
まどかが僕を抱えて窓から飛び出したんだ。

 

「わ、わわわわ」
「マスター、では落としますよ」
「だからそんな心臓に悪い召還はやめろ〜」

 

召還魔法陣が空中に浮かび上がる。
さすがに3回目ともなるとこの程度の危機感でも
十分発動させるだけの魔力をケータイデンワに供給できるみたいだ。
だからって、・・・た、高く上がりすぎだよまどかってば。

 

「マスター、大丈夫ですか？顔色が悪いですよ」
「誰のせいだと思ってるんだよ」
「風が気持ちいいでしょう」
「僕は自力で飛べないんだってば」
「私が抱えてるから大丈夫です」
「しょ、召還はもう終わったからおろしてよぉ」
「仕方ないですね。はい」
「頭から急降下すな〜っ！」

 

まどかは旋回しながらの急降下で再び僕を窓から部屋の中へ降ろした。

 

「到着です」
「し、し、し、死ぬかと思った・・・」
「結局、命に関わるような召還の仕方になったんですね」
「まどからしいですね」

 

そういって呼びかけたのは、犬耳をつけた女の子だった。
女の子といっても、僕よりは１つか２つ年上かもしれない。

 

「マスターのためならなんでもしますから」
「皮肉が通じないのも、まどからしいわね」
「そろそろ紹介したほうがいい？それとも自己紹介にする？」
「まどかの紹介ですから、まどかが紹介してくれたほうがいいわ」
「そうですね。ではマスター、紹介します。
　こちらが私の友達で土の精霊のマキ。
　実力の方は私が保証いたします」
「土の精霊が一人マキです。これからよろしく、マスター」
「あれ？ケータイデンワの声は男の人みたいだったけど…召還に失敗したの？」
「いいえ、あれも私です。いたずら電話対策に、ボイスチェンジャーを使ってます」
「ボイスチェンジャー？」
「ケータイデンワの特殊機能の一つです。女性だとわかると
　しつこく掛けてくる変な人がいますから」
「そうなんだ…。僕のにもそういう機能があるのかな」
「マスターは男性ですから、全然気にしなくて大丈夫です」
「そうなんだ」
「そもそも、マスターには掛かってきたことないもんね」
「掛かってくることがあるんですか？」
「ええ、ありますよ。まどかともケータイデンワで連絡をとりあう仲ですから」
「そうなんだ、知らなかったよ」
「ケータイデンワって、ケータイデンワどうしではなしをするものです。
　もしかして、マスターはそれもご存じなかったんですか」
「うん…」
「落ちこぼれるのもしかたありませんね」
「追い打ちを掛けないでよマキ。マスターだって努力してるんだから」
「努力してこれなら才能がないのかもしれません」
「・・・・」
「まあまあ、とにかく土の精霊が来れば大丈夫なんでしょ、さっそく砂の洞窟に出発！」
「卯月は元気だなぁ」
「マスター、老けるにはまだ早いですよ」
「はいはい」

 

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そういうわけで、僕らは砂の洞窟を目指して戦闘中だ。

 

「どうして道中こんなのが湧いて出るんだよ」
「愚痴を言ってもモンスターは減りません・・・まどか流槍術田楽刺しっ！」
「あのぉ。どうしてわたしは後方で見学なのですか」
「砂の洞窟でめいっぱい精霊力を使ってもらう予定だから消耗して欲しくないんだ。
　洞窟がどれくらい深いか全然見当がつかないからね」
「そうです。マキはマスターを守っていてください」
「まどかは熱血するのがすきですね」
「マキはおっとりしすぎかも」
「うさぎの高飛び歩の餌食ってことばがありますよ、気をつけて」
「桂の高飛びです、マキさん」
「冗談つうじないですねマスター」
「つ、つかれますマスター。なんでこんなに敵がおおいんですか」
「……どうやら、どこかにモンスターの巣があるようですね」
「・・・・・まどか、卯月、僕が魔法結界を作り上げるまでなんとか2人で戦ってて」
「マスター、どうするんですか？」
「……風よ、我が呼びかけに答え我が元へ集え…我に聞かせよ…
　我を襲わんとする怪物の声を…彼らがいずこより来たるかを……
　…Detect　Enemy！　Find pass!」

 

よし、見えた！…なんだ、ひねりも何にもない連中か！。

 

「まどか、卯月、モンスターが来る方向へ突進するぞ！
　そっちにモンスターどもの巣がある！」
「はい、わかりましたマスター、行きましょう」
「よーし、ゴールが見えたら全力疾走！」
「マスター、待ち伏せ、って心配もありますよ」
「そのために、マキに待っていてもらってるんだよ」
「マスターも、すこしは考えることがあるんですね」
「召喚術師って考えるのが仕事なんだけどな」

 

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一旦敵がどこにいるかわかれば戦いはたやすい。
僕らは群がるモンスターを蹴散らして（いや、結構苦戦はしたけど）
なんとかモンスターがわき出る巣へとたどり着いた。

 

「マスター、敵の巣を見つけました」
「まるでアリジゴクみたいな場所ですね」
「・・・つまり、モンスターの巣も洞窟も同じ場所だったってこと？」
「そうみたいです」
「教官も意地の悪いところへ宝玉を置くんだな」
「そうでなければ試験にはなりません」
「さて、と。マキ、頼むよ。砂の動きを止めて普通の地面みたいにやって」
「やっと私の出番ですね」

 

マキは地面に手を触れて何かつぶやく。
さらさらと流れていた砂が、ぴたりと動きを止めた。

 

「もう大丈夫です。ですが、20分以内に宝玉を手に入れられなければ、すぐに戻ってください。
　それが私の能力の限界になります」
「わかった。…じゃ、一緒に行こう。守るために誰かを残すってわけにいかないから」
「ええ、もちろんです」
「まどか、空気は頼むよ」
「まかせてください」
「卯月、戦闘は頼んだ」
「マスターは何をするんですか？」
「宝玉のありかを魔法で感知しながら進むよ。
　そうしないと、すぐ道に迷っちゃうからね」
「洞窟って一本道とはかぎらないんだ」
「そういうこと」
「そういう魔法がじゃんじゃん使えるのに、なんで落ちこぼれたりするんですか」
「卯月、無駄話していると時間がなくなりますよ」
「あ、そうだ。時間制限があるんだった、すぐに行かなきゃ！」
「あわてないあわてない…落とし穴とかあったら危ないって」
「心配しなくても、私がいれば落とし穴ぐらいわかります」
「落ちたら私が拾ってあげますね」
「下に竹槍が仕込んでなければね…」

 

でも、そういう事は全くの杞憂だったみたいだ。
洞窟内に分岐はあれこれあるけど、僕の魔法で
どの道を行けばいいかは簡単にわかる。
どんどん突き進んで宝玉がある場所へと到着。

 

宝玉を手に入れたら、すぐに帰還だ。

 

「今回は楽勝でしたねマスター」
「まどか、まだ脱出した訳じゃないよ。
　最後まで気を抜いたらダメ…・・・・」

 

？

 

「マスター、とんでもない奴が現れましたよ」
「とんでもない奴って・・・うわぁ！」

 

砂の壁をこじ開けようと何かがかじってる音がする。
もし、マキが砂を固定していなかったらとっくに
そのかじっる何かに食われてるだろうっていう大きさの範囲だ。
気配も何かものすごく危ないものを感じる。

 

「サンドワーム、かなりの大物です」
「よーし、じゃあボクがやっつけてやる」
「そ、そ、そんな相手じゃないって、すぐに逃げなきゃ、走れっ！」
「マスター、待ってください」
「卯月、のんびりしていてはいけませんよ」
「そんなにサンドワームって危ない相手なの？」
「百獣の王がライオンなら、サンドワームは砂漠の王です」
「わーっ！」

 

僕らは後ろも振り返らずにトンネルを走った。

 

さて、マキが離れた場所では砂が自由に流れるようになる。
ということは、サンドワームもトンネルの中に入れるってことだ。
その通り、サンドワームはトンネルの中に入ってきた。
そのまま僕らの気配を感じてトンネルの中を進んでくる。

 

「サンドワームが襲ってきてますね」
「とにかく洞窟の外へ逃げなきゃ。ここで戦うのは不利すぎるよ」

 

行きに10分と掛からなかったトンネルだ。
5分もかからないうちに脱出は出来た。
アリジゴクの壁もなんとか駆け上がる。
が、サンドワームもまたトンネルから飛び出して現れた。

「こうなったら私が空から…」
「い、いや、地上に出れたなら最終手段で乗り切ろう」
「どうするんですか？マスター」
「卯月！マキ！マスターが命ずる、元の世界へ！」

 

逆召還魔法陣をケータイデンワを使って発生させる。
卯月とマキは魔法陣に吸い込まれるように元の世界へと帰って行った。

 

「マスター。私はなにをするんですか？」
「まどか、僕を抱えて飛んで、すぐに！」
「は、はい！」

 

僕はまどかに抱えられて空中へと逃げた。
サンドワームは洞窟から飛び出して僕らに飛びつこうとするが
なんとか僕とまどかは空中に逃げて無事だった。
ワームは突然何も感じられなくなったかのように右往左往する。

 

「マスター、サンドワームさん、どうしちゃったんですか？」
「サンドワームは、地面の震動を感知して得物を探すんだ。
　空中に逃げてしまえば、地面の震動なんてなくなるからね」
「それで、完全に私たちを見失ったんですね」
「ああ、あとは砂のない所まで逃げれば大丈夫。
　流砂にしかサンドワームは住めないから」

 

こうして、僕は、なんとか今回の試験もクリアできた。
だけど、召還獣ならぬ、召還嬢が３人だよ。
せめて４元素を司る精霊のうち、最後の水の精霊ぐらいは
精霊らしい精霊が呼び出せるといいなあ…。

 

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