僕は、マグストラタム学園、召還学科の特待生。
特待生、っていうのは、魔法に関する潜在的な才能が
一定水準あればなれる。そして、教官の眼鏡にかなえば
好きな学科を専攻できる。

 

　僕が選んだのは、言うまでもなく召還学科。
召還魔法こそ魔法の中の魔法だ。
子供の頃に見た召喚術師に感動して魔法使いを目指した僕にとって
召喚学科以外で魔法を修めるなんて考えられない。

 

　にもかかわらず、意欲と才能は比例しないのが世の常で
僕はずっと落第の危機にさらされていた。
なにしろ、どんなに練習しても、一度も召還に成功しない。
テストで言えば赤点に次ぐ赤点っていうところだ。
これでは落第と言われても、確かに文句が言えない。
召還以外の魔法なら平均以上の得点を上げてるから
別の学科にうつれなんて言う人もいるけど、僕は、絶対に
何があろうと、召喚術師になる。

 

　その願いが通じたのか、ある日、ケータイデンワという
不思議な触媒のおかげで、僕はついに風の精霊の召還に成功した。
この精霊には若干…いや、かなり、召還獣と呼ぶには問題がある気がするが
とにかく、教官には、召還成功として認定してもらえた。
なんといっても、召還に再現性があるのが決め手になったんだ。

 

　だからといって、落第の危機が去った訳じゃない。
いままでの赤点が帳消しになるのではなく、追試の権利が得られただけ。
つまり、これから僕は試験、試験の試験三昧の日々をこなす必要がある、ってこと。

 

「誰に向かって話してるんですか？マスター」
「あ、まどかごめん。ちょっとした説明的な台詞ってやつだよ」
「やあ平民。召還に成功したんだって？それはよかったな」
「ありがとう…ええと…だれだっけ？」
「忘れるとは失礼な。余は高貴度２００を超える…」
「…ごめん、思い出したよ。確かトランプ伯爵の息子さんでしたっけ」
「誰がプレイングカードだ。余はトロップ伯ギュンターなるぞ」

 

　言われてはっきりと思い出した。
何かと生まれを鼻に掛けるので有名なギュンターくんだ。
だけど、生まれもすごいが才能もすごい。なにしろ
飛び級で僕とおなじクラスに通ってるんだ。
その上、特待生になるだけの能力があるのに
「高貴な者は卑しい者に奉仕するのが当然」といって
特待生枠を使わずに、あえて一般生として通ってる。

 

あれで気取り屋でもなく横柄でもなければ、いい人なんだけど。

 

「マスター。この横柄な人はだれなんですか？」
「今名乗ったではないか、トロップ伯ギュンターだ」

「トロッコ伯？」
「トロップ伯！」
「これだけ繰り返せば、読者の方にも覚えてもらえましたよね、マスター」
「あ、ああ…たぶん」
「いい加減読者の話題から離れろ。
　それはともかく、平民。
　君もメイドのいる身分だったのではないか。
　特待生でなければ通うお金がないと聞いていたから心配したのだ」
「いや、彼女は召還獣っていうか…召還嬢だから、メイドじゃないよ」
「いやいや、嘘は良くないな」
「嘘ではありませんギュンターさん。私は風の精霊が一人、まどかと申します」
「お嬢さん。嘘つきは泥棒の始まりといいます。メイドは恥ずかしい仕事ではありませんよ」
「いえ、本当に風の精霊なんです」
「見損なったぞ平民」
「え？何がです？」
「自分の家のメイドを精霊だと言いくるめて落第を逃れようとするとは」
「だから私は本当に風の精霊なんですってば」
「こんな肉感的な風の精霊がいてたまるか。
　風の精霊とは、もっと透き通っていて軽やかな存在なのだ。
　たとえば、こんな風に」

 

　そういうとギュンターくん。ポケットから召還札を取り出して
呪文を唱えると空中に投影する。
召還札が気化すると召還魔法陣が召還札から広がる。
すごい…ギュンターくんはもうこんなかっこいい召還が出来るんだ。

 

「みよ、これが風の精霊だ」
「あの、ギュンターくん。これ、精霊って言うより、妖怪だと思う」
「…この鱗に覆われた生き物の、どこが透き通ってるんですか」
「う、うるさい。ちょっとした間違いだ。だがこれぞ風の精霊がひとつ網切だぞ」
「みそこなったよギュンターくん。間違いは誰にだってあるじゃないか」
「平民、余に喧嘩を売るのか。よかろう、風の精霊だという証拠をみせてやる。
　いけ！」

 

　ええと、読者の人にちょっとだけ説明すると、ギュンターくんが
召還したのは、しっぽのないさそりみたいな風の妖怪網切なんだ。
見た感じ黒っぽい鱗に覆われていて、精霊っぽく見えない点では
まどかと同レベルだ。
だけど、…少なくとも・・・召還獣に見えるって意味じゃ、まどかに勝ってるね。
・・・って、ええっ！

 

「ちょ、ちょっとギュンターくん。カーテンをずたずたに切っちゃったよ、いいの？」
「気にするな平民。どうだ、かまいたちでカーテンを切り裂くこのすばらしい妖力。
　これでこそ風の精霊、風の召還獣だ」
「そんなことぐらい私にだって出来ます。
　まどか流槍術、真空・・・」
「まどか〜向きになるな〜」
「真空斬り連撃〜っ！」

 

がしゃがしゃがっしゃーん

 

まどかが槍を振るうと、次々と窓ガラスが粉砕されていった。

 

「どうですマスター。破壊力なら私の方が上ですよ」
「学校の備品を壊すな！」
「で、ですけど…」
「なんだ今の音は、何があったんだ？」
「３人とも怪我はないか」
「え、ええと…何から説明したらいいのか…」

 

　結局、この一件、召還獣の不始末はマスターの不始末ってことで
僕とギュンターくんが連帯して弁償することになった。

 

「平民、カーテンとガラスとどちらでも好きな方を弁償したまえ。
　余は平民が選ばなかった方を選ぼう」
「値段からいうと、どうかんがえてもカーテンの方が安いけど、いいの？」
「かまわん。余は両方弁償してもいいのだが、平民も負担したことにしなければ
　教官が納得すまい」
「じゃあ、カーテンがいいです。でも…」
「どうした平民」
「カーテンを買うお金もない…」
「では、部屋にあるカーテンでも持ってきてつければよかろう。
　足りない分は余が負担してやるぞ」
「え、えええ！な、なんとかお金を工面します」
「当てがあるのか平民？」
「な、ないけど…」
「すぐに必要になる者ではないか。部屋のカーテンを持ってきたまえ。
　そうでなければ、請求を折半にするぞ平民」
「え、ええ〜。持ってきますよ、とほほ…」
「マスター。なんでそんなに自分の部屋のカーテンを持ってくるのがいやなんです？
　親の形見かなにかなんですか？」
「い、いや、べつにそんないわれがあるわけじゃないけど・・・・」

 

　こうして、翌日から、この教室の窓のひとつには、ピンクのフリルが付いた
カーテンに変わることになった。
　ルテジアさんのお下がりなんてつけとくんじゃなかった、とほほ・・

 

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