エターナルガール コーリング
（召還少女）
「いきなりタイトルからして間違ってますし」
「どうした、何かつっこむようなことでもあったの」
「いえ、べつに、ちょっとした空耳です」
「それならいいんだけど。…あ、ごめん、いらっしゃいませ」
「僕にならそういうのいいですよ、ルテジアさん」
「それで、どうしたの、鯖の味噌漬けみたいな目をして」
「どんな目ですかそれ」
「気にしなくていいわよ。アタシにもわかんないから」
「それなら言わないでください」
「ま、今までのは冗談として、ほんと鯖が死んだような目をしてるわよ。
何かあったんでしょ、お姉さんに言ってご覧なさい」
「はい、実は…」
ここら辺でそろそろ状況の説明をした方がいいかな。
僕は、 魔法学校の名門、マグストラタム学院の召還学科の特待生として
召喚術師を目指しているんだ。
だけど、物理魔法なんかの成績はそこそこあるのに
肝心要の召還魔法の成績は赤点続出。このままじゃ落第、そして
特待生待遇剥奪、なんて言われてる。
「特待生待遇を剥奪されちゃ、もう学院に通うゆとりないわよね」
「ええ…うちは金持ちじゃないですから」
そう、魔法の学習にはお金がかかる。
実験に使う触媒だって安くないし、一流の先生方を雇っているんだから
その謝礼だって少なくはないし、一流の設備の維持費だって馬鹿にならない。
その上に、授業料免除の特待生をかなり入学させているから一般の生徒は
お金持ちというか、それなりの階級の子弟に限られてる。
「ふーん。それで、また教官に脅されたってわけね」
「脅された訳じゃないですよ、ただ単にこのままじゃ単位が危ないって言われて…」
「危ないっていっても、多少は召還できたんでしょ」
「いえ、それが…全然なんです」
「全然！？全然って、つまり、０、nothing、まるきりダメってこと？」
「そんなくどく言わなくてもいいです」
「それじゃ落第させられても文句言えないわよ。
召還学科に通うのを止めて、物理魔法学科か神聖魔法学科にでも転科させてもらったら？
そっちの方の成績はそんなに悪くないでしょ」
「だけど、僕はどうしても召喚術師になりたいんです。
そりゃ、ドラゴンとかイフリートとかそういうのを呼び出すのは無理にしても…」
「そんなのが召還出来たら、教官になれるわね」
「召還できて、自分が生きていられればですけどね」
「ま、それもそうか。
ところで少年、うちの店にいくらか新商品があるから見て行きなさい」
「見るっていっても、お金ないですよ」
「お金なら心配しなくていいわよ」
「つけてくれるんですか」
「アルバイトを紹介してあげるわ」
「とほほ、そういう落ちなんですか」
「当然よ。うちは慈善事業じゃないですから」
「はいはい、わかりました、ルテジアさん」
「そんな顔するな。アタシが目利きした掘り出し物ばかりよ。
特に今回は召還用の触媒に気合いを入れて集めてきたんだから」
そういって胸を叩いたのは、この店のオーナーにして
僕の幼なじみのルテジアさん。
僕はこの人になんとなく頭が上がらない。
もし、小さい頃からお姉さんに面倒を見てもらってたなら
僕とルテジアさんみたいな関係になるのかもしれない。
つまり、ルテジアさんは、僕のおねえさんがわり、ということになる。
あれ？これ面白い。こんなのも魔法の触媒なのかな。なにか毛色が違うけど…。
「それ、気に入った？」
「いえ、ちょっと気になっただけですけど、これは一体？」
「へー。これに目をつけるなんてさすが特待生ね。
普通の人は毛色が違うからって敬遠しちゃうと思うんだけど。
これはケータイデンワよ。召還アイテムの一種」
「こんな召還アイテムもあるんですか」
「ええ、使い方がわからないっていうから格安で入荷できたわ」
「使い方がわからないんじゃ、使えないですね」
「お姉さんを甘く見ない。
これには、いくらかの精霊とのゲートがあらかじめ封じられてるのよ。
正しい順番で番号を押したら、ゲートが開いて召還できるはず」
「そこまでわかってるんですか。じゃ、たとえばどんな番号を押せばいいんです？」
「そこがわからないから格安なのよ」
「全然ダメじゃないですか！」
「だけど、正しい番号さえわかれば、召還できることは確実よ。どうする？」
「…正しい番号って、どうやったらわかるんでしょう？」
「さあね。学院の図書館には、何かヒントになるものでもないかしらね」
「そうですね。…学院の教官なら、あるいは何か知ってるかも」
「そうそうそういうこと。じゃ、まいどあり。
というわけで、アルバイトを頼むわね」
「とほほ、そういうことになりますか」
「最初にいったでしょ。だけど、そんな難しい仕事じゃないわよ。
はい、この手紙を森の向こうのおばさんの家まで持っていってちょうだい」
「それだけのことなんですか？それならいいですよ」
「ま、あの森、多少化け物が出るけど、たぶん大丈夫でしょ。
危なくなったら逃げてもいいわよ」
「脅かさないでください」
「脅してるんじゃなくて、心構えの話」
「確かに、熊とか虎とかサーベルタイガーとかが出たら逃げるしかないですけど」
「モンスターが出ることは想定しないのね」
「まあ…あの森じゃ、…何があっても驚かないですが」
「はい、これが森の地図。じゃいってらっしゃい」
「いってきます」
「オオカミさんに食べられないようにね〜」
「僕は赤ずきんちゃんじゃないですから」
「最近のオオカミさんは、その辺見境がないみたいだから気をつけてね」
「どういう意味ですかどういう」
なんとなく、はめられたような気がする。
ルテジアさんが自分で持って行く方が早いだろうし
こんなアルバイトで召還用の触媒が買えるほど触媒は安くない。
もしかして、ルテジアさん、他にもこれをもってて
僕に使い方を見つけ出させようとしてるのかな。
いやいや、それとももしかしたら・・・。
ぼんやりしてた。
「ぐあっ！」
奇襲だ！やられた。こいつはそんなに強くない相手だけど
一発背後から喰らってふらふらする。
うわ、うわ、このまま僕を襲うつもりだ。
これって、もしかして、一巻の終わり？
「誰か、誰でもいいからとにかく助けて、助けて〜っ！」
気持ちが動転して魔法の詠唱に必要な精神集中が出来ない。
呼吸も整わないし、魔法陣を描く時間もとれないし…あれ？
なんだこの音…何から？モンスターの奴、動きを止めた。
なんで？…あ、魔法陣が出来てる。これは…そうだ、講義で見たぞ。
召還魔法陣だ！やった！出来た、生まれて初めて自分の力で…！
（ﾟдﾟ)・・
(つд⊂)ｺﾞｼｺﾞｼ
(；ﾟдﾟ)・・・
(つд⊂)ｺﾞｼｺﾞｼｺﾞｼ
_, ._
(；ﾟ Дﾟ)・・・・女の子！？
「召喚獣っていうか、これ召喚嬢じゃん！」
「いにしえの盟約に基づき、風のエレメントが一人まどか参上！
マスターをいじめる奴は許しません！」
いじめるって…いぢめるって…
「まどか流槍術、回転突き！」
まどかと名乗った女の子は、槍を手にして、モンスターに背中を見せた。
背中を見せればモンスターはチャンスだと思って襲いかかってくる。
「危ない！逃げて！」
女の子は、全部はじめから計算済みみたいだった。
背面跳びの要領でジャンプすると。モンスターの脳天に槍を突き立て
突き立てた槍を軸にして体を縦に回転させ…って、言葉で説明するのは難しいな。
とにかく、縦方向に180度体を回転させて着地した。
槍はといえば、女の子の全体重＋モンスターの突進力でモンスターの頭に突き刺さっている。
これじゃモンスターはたまらない。完全にやられてしまった。ご愁傷様。
「マスター、おけがはありませんか？」
「マスターって…僕のこと？」
「ええ、私を召還した方が、私のマスターです。
すいません、自己紹介が遅れました。
私は風の精霊にして槍使いのまどか。
マスター、もし、私でよろしければ、私と契約を」
「契約って、召還獣の契約のこと？ていうか…君…」
「私の実力は、先ほどお見せした通りですが、何かご不満でも？」
「い、いや、そういうことはないよ。じゃあ、契約しよう」
「はい、では、これからよろしくお願いします。マスター」
マスター、か。マスターって…あれ？。
「マスター、このケータイデンワ、短縮ボタンがついてますよ」
「タンシュクボタン？！」
「ええ、どうやら、私の召還番号は、ワンタッチダイヤルに登録されてたみたいですね。
ええと…これですか」
「ワンタッチダイヤルって…つまり、全然僕の力と関係なかったのか…とほほ。
これじゃやっぱり落第かも」
「マスター、落第とは、どういうことなんですか？」
「どういうことって…何から説明しようかな…」
契約した召還獣、まどかに教えてもらって、ケータイデンワの使い方がなんとなくわかった。
このケータイデンワがあれば、なんとか、召喚術師としてやっていけそうな、そんな気がする。
だけど、これで、やっと召喚術師として、やっとスタートラインに立てただけだってことを
僕は召還の成功にうかれていて、気づくことが出来なかった。